チフネの日記
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2009年06月14日(日) 全ては愛の為   不二リョ

後ろ手でリョーマが鍵を閉める音を聞いて、不二は違和感に振り返った。
いつもリョーマの部屋へ訪れた時には鍵なんて掛けない。
南次郎が在宅することの多い越前家で、やましい行為は出来ないから。
鍵を掛けても物音や漏れる声でばれる。南次郎は色々鋭い。
ここではそういう意味でリョーマに触れない、と不二は決めていた。
なのに、リョーマは鍵を掛けた。
内緒の話でもするのかと、首を傾げる。

「ねえ、先輩。ちょっといい?」
リョーマの表情はいつもより興奮しているように見える。
これから話すことに関係しているのだろうか。
ここは先輩らしく、そして恋人としてきちんと聞くべきだ。
そう決めた不二はいつものようにベッドに腰掛け、真剣にリョーマの話を聞く体勢に入った。
「うん、いいよ。なんでも言ってみて」
「さすが、先輩」
リョーマが感心したように頷く。
「話があるってわかったんだ」
「そりゃ、まあ」
「じゃあ、俺が何を言いたいかもわかる?」
「そこまでは、わからないよ」
「そっか、覚悟を決めてここに来たかと思ったのに」

覚悟?
何のことだろうと、不二は瞬きした。
その間にリョーマは覆い被さるようにして抱き付いて来る。
自然と不二はベッドに押し倒される形になった。

「越前?」
「先輩がいけないんだよ」
リョーマは言った。
「格好良くて、それい綺麗だし、皆にも優しいよね。
だから、こんなことになるんだよ」
「褒められているのか、何なんかわからないんだけど……」
リョーマの言いたいことがわからない。
どうしたものかと思案していると、両手首をぎゅっとそれぞれ掴まれる。
傍から見たら、リョーマに押し倒されている構図だ。
大胆だな、と不二は呑気に思った。

「先輩はものすごくもてるよね。うちのクラスでも、先輩と付き合いたいって話してる女子がいる。
いずれ告白しに来るかも」
「へえー。でも断るしかないなあ。僕には越前がいるからね」
耳元で囁くと、リョーマは一瞬とろんとした目をした。
が、すぐにハッと我に返る。
「とにかく俺は先輩がもてることが気にいらないの。だから行動に出るって決めたんだ」
「具体的にどうするつもりかな」
リョーマが何を決めたのか、気になる。
楽しそうに不二は続きを尋ねた。
「先輩には、今日からここで住んでもらいます」
真顔でリョーマは言った。
「ここで?越前の部屋で?」
「そうっす」
「ご飯はどうするの」
「今日からこの部屋に自分の分として食事を運ぶんで、それを分けて、なんとかなるんじゃない。
足りなかったら、俺は自分で調達するし」
「トイレは?」
「申し訳ないけど、それもこの部屋で……その時は外に出るから」
「お風呂は?」
「濡らしたタオル持ってくるっす」
「そんなんじゃ、洗髪出来ないよ」
「先輩の髪が痛むのは、俺としても困るかも。隙を見てバケツにお湯運んで来るっす」
「ふーん」

ここまで聞いても、不二は冷静だった。
リョーマが本気でここに閉じ込めようと考えているのはわかったが、無理が有り過ぎる。
こんな穴だらけの計画はすぐにバレてしまう。
大体、今だって一応体勢的には押さえ込まれているが、
不二が少し力を込めれば逆転することは出来る。
所詮、腕力では不二の方が上だ。
それでもリョーマの話をもっとちゃんと聞こうとして、じっとしていることにした。
何か理由があるはずだ。
不二は優しく問い掛けてみた。

「ねえ、越前。僕がここに住むとして、君はどうするの?」
「どうするって?」
「一人で学校へ行くつもり?僕を一人ぼっちにするつもりなんだ……」
それを聞いてリョーマは動揺したように、肩を震わせる。
「そんなつもりじゃ……、だったら俺もここに残る」
「そうしたらお父さんは絶対部屋に入って来るよ。いつまで寝ているんだって、その時僕がここにいるのをどう言い訳するつもり?」
「それは……」
「僕の家族だって、きっと心配する。もし大事になったら、僕らは引き離されるかもしれない。
そんなことになったら嫌だよ」
「……」
不二の話を聞きながら、リョーマは俯いてしまう。
しばらく沈黙が続く。
それからリョーマは不二の手首を開放した。

「やっぱり無理みたいっすね」
「当たり前だよ。上手く行くと思っていた?」
リョーマは首を横に振った。
「でも、先輩を誰の目が届かないところに隠してしまおうと思ったのは、
本気だった」
溜息交じりで言うリョーマを、不二はそっと抱きしめた。
「心配しなくても、僕には君だけだよ。これからも。
誰に好意を寄せられても、心が動くことは無い。
僕を熱くさせるのは、君だけなんだ。
それに、僕だってずっと一緒にいたいと思っているんだよ。
でも、ここじゃ駄目なんだ」
「なんで?」
不二はすっと右手を動かし、リョーマのシャツの中へ滑り込ませた。

「ここじゃ、こんなこと出来ないでしょ?」
「ちょっと、先輩?」
驚いている間にもっと奥へと入り、平らな胸をなぞっていく。
「先輩、待ってよ……」
軽く触れただけでも、リョーマの息が上がっていく。
可愛いなと笑いながら、もう少し進めてみようかと不二が考えた瞬間、
「おい、ガキども!人の家で盛ってるんじゃねえぞ!」と、ドアを叩く音が聞こえた。
南次郎の声だ。
意外と来るのが早かった。もしかしたら、最初から見張られていたのかもしれない。
「親父っ!?」
慌ててリョーマは不二から離れて、外へ向かって叫ぶ。
「ドアが壊れるだろ、叩くの止めろよ!」
「だったらおかしな真似してねえで、さっさとここを開けやばれ!」
リョーマはぶつぶつ言いながらも、鍵を開けた。
不二もすぐに起き上がって、さっきまで座っていた振りをする。
放っておけば、南次郎は蹴破っても入って来る。
この場は開けた方が良さそうだ。

「よーし」
顔を出した南次郎は、リョーマと不二を見て口を開く。
「この家で妙なことをするのは許さないからな。やったら即叩き出す。覚えておけ」
「くそ親父!」
「なんと言われようとも、禁止は禁止。下に戻るけど、ずっと様子を伺っているのを忘れんなよ」
南次郎は笑いながら、退出して行った。
本気で怒っている訳では無さそうだ。勿論、続けていたらどうなっていたかは、わからないけれど。

「ね?越前」
南次郎に対して怒りを抑えきれない様子のリョーマに、
不二は静かに話し掛けた。
「これでわかったでしょ。この部屋で暮らすのは不可能なんだよ」
「よく、わかったっす」
肩を落とすリョーマに不二は立ち上がって、近付いた。
そして、手を握る。

「じゃあ、今の続きは僕の部屋に行ってからにしようか」
「え?」
「まさか、このままお預けにするつもりは無いよね」
「え……っと」
「じゃあ、行こうか」

有無を言わさず、不二はリョーマを部屋の外へと引っ張って行く。
不二の家でなら、南次郎もさすがに手出し出来ない。
ここから早く立ち去ろうと、急ぐ。

「なんだったら、越前が僕の家に住まない?
ずっと一緒にいられるよ。部屋も余っているし、母さんも姉さんも君だったら、大歓迎」
「それは、ちょっと」
さっきの勢いはどこへやら。
急に尻込みするリョーマに不二はにこっと笑ってみせた。

「冗談。でも、いつでも泊まりに来ていいからね」
「はあ」


少し本気だったんだけどな、と不二は呟いた。

リョーマが閉じ込めたいと言ってくれたこと、本当は嬉しかった。
二人でこのまま誰もいない所に行けたなら、どんなに幸せか。
でも今は二人共まだ子供で、そんな生活を送るなんて不可能に決まっている。

だから、可能な年齢になった時には……。
リョーマの望みを叶えてやろう。
降りるなんて、勿論言わせない。
誰の目にも届かない所へ、そう言い出したのはリョーマが先なのだから。


「本当に……僕には君さえいれば、いいんだ」

振り返りながらそんなことを口にする不二に、
リョーマは少し頬を赤らめた。


終わり


チフネ