チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2008年04月06日(日) 君がいない明日よりも

閉じかかってはまた目を開けて、こくっとした所で再び体を起こし。
そんな風に頑張って起きていたリョーマも、とうとう眠ってしまった。
聞こえてきた寝息に、不二はそっとリョーマの体に布団を掛ける。

今夜は眠らない。朝まで起きている。
そう主張したリョーマに、不二は「そうだね」と笑って返した。
結局眠ってしまうのはわかっていたけれど、気持ちの上では彼に同意しておきたかったからだ。

「もうすぐ、12時か」

リョーマにしてはかなりの夜更かしだ。
いつも不二の家に泊まりに来ても11時には寝てしまう。
そんなリョーマが無理にでも起きていたのは、明日になってしまえば飛行機に乗って離れ離れになる、だからせめて今夜は不二が寝るまで一緒に起きている、と最後の時間を惜しんでいたからだった。
やはり睡魔には勝てなかったが、不二はリョーマの気持ちが嬉しかった。
一緒に過ごすこの時間を大事にしてくれている。それだけでもう十分だ。

(最後かあ…)

いやな響きだ、とベッドに散らばった写真を集めながら呟く。
さっきまでリョーマと二人で眺めていた写真達だ。

不二は写真を撮るのが趣味でリョーマと出会う前からよく休日にカメラを持って外に出ていた。
被写体を探して、いいなと思ったら迷わず写す。それは風景だったり人物だったり様々だ。
けれどここ半年より前からはリョーマとの思い出を撮ることだけに専念している。付き合い始めてから、ずっとだ。

『こんなに沢山撮って、どうすんの』

呆れた顔で言うリョーマに、不二は答えた。
『どうもしないよ。ただ君と一緒にいた、その証を形にして残して置きたいだけだ』
『そんなの必要かなあ?俺とその時のことを話せば済むじゃん』
そう言ったリョーマに、不二は曖昧に笑ってみせた。

いつか、その思い出を語る距離にいられなくなる。
リョーマはそれに気付いていない。

付き合い始める前から、不二はなんとなく思っていた。
この類まれなる才能を持つこの子は、いつか日本なんて狭い所から飛び出して行くだろう。
だから自分でも無意識に、思い出を形あるもので残そうと…写真を撮り続けていたのかもしれない。


(写真だけが残っても、仕方無いんだけどね)

二人で仲良く笑っている写真を見つけて、手が止まる。
まだ付き合い始めた頃のものだ。
幸せそうに笑っている自分の姿に、胸が痛くなって行く。

絶対に遅刻しないことを約束をして、こうして不二の家に泊まりに来てくれたけど。
明日になれば、リョーマはアメリカへと発っていく。
もう届かない場所へ、行ってしまう。

別れの言葉をリョーマは口にしない。
このまま続けていけると、信じているからだ。約束も何も無い。
実にリョーマらしい。

(でもわかっているのかな。僕ら、まだ15歳と13歳なんだよ…?)

そんな二人が恋をこの先も続けていくのがどんなに難しいか、リョーマにはわかっていない。
不二だけが理解している。

お互いに好きで、気持ちは変わらないと信じていても。そうありたいと願っていても。
15歳と13歳とじゃ超えられない現実がある。
好きな気持ちに偽りは無いけど、距離が離れてしまうのはそういうことだ。

(いっそ、このまま時間が止まってしまえばいいのに)

幸せそうに笑っている写真を握り締めて、不二は眠っているリョーマの頬にキスをする。

明日からはリョーマがいない。
不二はここに思い出の残骸と残される。

いつかは来ると覚悟していた別れなのに(覚悟してた時よりもずっと早かったが)、
いざ後数時間という事実は、不二の心を重くして行く。



「やっぱり、一緒に居たいよ…」

小さく不二は声を上げる。

明日なんて、来なければいいのに。
君が側にいない、そんな日なんていらない。

いらないって願っているのに。

正面に置かれた目覚まし時計の針がカチッと動いて、12時を指した。



チフネ