チフネの日記
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2008年04月08日(火) それでも君が好きなんだ(君がいない明日よりも、の続き。設定:不二が大学に入った頃)

「ねえねえ、不二君」
「何?」

話し掛けて来たのは同じサークルの女子だ。
名前は忘れているので、不二は曖昧に笑って返す。
が、その子の質問に表情が凍ってしまう。

「最近、携帯を全然チェックしていないみたいだけど。
ひょっとして彼女と別れたりした?」
「……え?」
「え、って惚けちゃって。知っているんだから。不二君って、入部して来た時から携帯をよく見てたよね。あれは彼女からだって、皆言ってたよ。
でもここ一ヶ月位、全然気にもしていないからいよいよ別れたのかなって」

何も考えていないのか、人に対してずけずけ言えるその子に驚きつつも、
不二は首を振った。

「残念ながら、違うよ」
「えー、でもぉ」
「悪いけど、君の好奇心を満たすような回答は出来ないから」

ハッキリ言うと、なんだ、と不満げな顔をしてやっと引き下がってくれた。
そして別の女子達のグループの所へ行き、なにやらこっちを見て会話している。
きっと今のことを報告しているんだろうなと、不二はうんざりして立ち上がった。
これ以上、ここにいたくない。

「今日はもう帰っていいですか?」
一応先輩に声を掛けると、「なんだ、用事でもあるのか?」と言われる。
「ちょっと…練習出来ないのなら、早めに上がりたいんで」
「これから皆でどこか行こうかって話しになっているんだけど、用事あるなら仕方ないか。
お前が来ないってなると、また女子が騒ぐんだろうなあ」
あーあ、と頭を掻く先輩に、ぺこっと頭を下げて不二は部室から出て行った。

降り続く雨の中、傘を差して歩いて行く。
テニスが出来ないのなら、あそこにいたって意味が無い。
好奇心丸出しの目で見られるのは、やはり愉快とは言えない。

(気付かれてたのか…そっか、結構頻繁に見ていたからな)

リョーマが海外へ行ってしまう時、連絡を取りやすくする為に海外からでもメールのやり取りが出来る携帯に変えた。勿論リョーマの携帯も同じ仕様になっている。
メールと電話。それだけが、二人を繋ぐ糸だった。

あれからリョーマとは一度も顔を合わせていない。
お互い忙しいのと、それになんといっても会いに行くだけの費用は馬鹿にならない。
でも不二は大学に入ったらバイトを一生懸命して、稼いだお金でリョーマに会いに行こう、と密かに決めていた。
そう。連絡が途絶えるまでは。

最後にリョーマからのメールが来たのは、二ヶ月前だ。
どんなに忙しくても、週に1度は連絡をくれてたのにそれがぷっつりと途絶えた。
ひょっとして病気でもしたのか、それとも怪我?
しかしテレビの中のリョーマは相変らず元気に活躍していて、今度もある大会に出場する為調整中と、そんな情報から安否を知らされた。

遠い、と不二は改めて二人の距離を実感した。
中学を卒業しても不二はテニスを続けている。高等部でも全国で良い成績を収めた。
でもプロになることは考えていない。
本当にそこへ行けるのがどんな才能の持ち主か、よく知っているからだ。
でも辞めてしまったら、リョーマとの絆が切れてしまうんじゃないか。そんな風に考えて、大学でもテニスのサークルに入った。

コートの中にいれば、あっちにいるリョーマの近くにいる。
そんな気持ちでいたのに。


(そう、だよね。わかっていたじゃないか…)

リョーマからのメールを期待しなくなってから、メールのチェックを無意識にしなくなっていた。
さっき言われるまで、気付かなかった位だった。

そうやって気持ちは離れて行く。
寄り添っていた日々が、夢だったみたいに。

でも。

(それでも、まだ君が好きだって言ったら…笑うかな?)

境の見えない雨雲の先を見詰めて、不二は呟く。

リョーマが今見ている天気は何だろう。
それすらも、わからない。







******


一度置いた携帯を手にして、じっと画面を見詰める。

そこには彼からのメールが映し出されている。

‘元気?
忙しいのなら、返信はいつになっても構わない。
僕はいつだって、君のことを応援している。
例え離れていても、聞こえなくてもそこから大きな声で声援するから。
頑張って。

周助‘


三年間離れていても、彼はきちんとメールを定期的にくれた。
こちらが遅れても、気にすることは無く一言でも届けてたのに。
なんで返せなかったんだろう、とリョーマは俯く。
大会前の調整で忙しかった。帰ってきたらすぐに眠って、それどころじゃなかったというのは言い訳だってわかっている。
たった一言でも、伝えることは出来たのに。

そこから連絡を取り辛くなってしまった。
きっと彼は不審に思っているいるだろう。大会に出て、テニスは出来る余裕はあっても、メールは出来ないのかと。
ずるずると悩んでいる間に、不二からのメールは一つも無い。

そして、リョーマは気付いた。

(本当は、ずっと重荷だったんじゃないの?)

この三年、ろくに会えなくて。
メールと電話だけで不二を縛り付けていたんじゃないか。
そう思ったら、急に怖くなってきた。
自分が連絡を取らなかったら、今頃不二は日本で別の誰かと付き合ったりして、恋愛を楽しむことが出来るはずだ。
こんな会えないのに、恋人だなんて胸を張って言えるのだろうか。

またメールを送ったら、彼の心を苦しめてしまう。

「ごめんなさい…」

メールの文に唇を押し当てて、リョーマはぽろっと涙を零した。

離れていても大丈夫だなんて、軽く思っていた自分が恥ずかしい。
不二に負担を強いることをまるで考えていなかった。

だから、ここで開放してあげるよ。


大好きだったあの笑顔を思い浮かべ、また涙が溢れて来た。


チフネ