チフネの日記
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2006年01月01日(日) vanilla 1 不二リョ

ポケットが、カサカサと音を立てる。
さっき入れた、手紙の所為。

(どうしよう)

先程リョーマは見知らぬ女子生徒二人組みに捉まり、この手紙を押し付けられた。
『お願い。越前君から、渡してもらえないかな?』
上履きのカラーから二年生だとわかった。
一人は俯いて手紙を差し出し、もう一人がリョーマが断らないようにと『いいでしょ、ね!』と声を上げていた。

一応リョーマも、抵抗してみた。
こういう面倒には関わりたくなかったからだ。

『こういうのは本人の手から渡した方がいいと思う・・・』

勿論リョーマの言い分を聞くような人達じゃない。

『でも・・・顔を見たら、きっと声も掛けられない』
手紙を差し出している方の女子が、ぽろっと涙を零す。

ギョッと目を瞠るリョーマに、もう一人の女子が後押ししてきた。

『越前。渡すだけでいいから。それ以外面倒掛けないって約束する』

これだけでも十分面倒だよと思いながらも、
泣き続けられてしまうのも困る。

『渡すだけっすよ』
『本当?ありがとう』
『よろしくね』

手紙をリョーマに押し付け、彼女達はさっさと言ってしまった。


残されたリョーマは封筒の宛名を確認する。
意気込みあった割には、誰かと聞いてない。とんだ人達だ。
二年生だったから、桃城か海堂かくらいに考える。

『え・・・・』

封筒には不二周助と書かれていた。

(ちょっと、困るんだけど!)

慌てて周りを見渡すが、もう彼女達の姿は無い。
仕方なく、リョーマは上着のポケットに手紙を仕舞う。

(いつ会えるかわかんない人への手紙を預かっても・・・どうしよう)



三年生が引退してもう二ヶ月経過した。
残された一・二年達は先代の功績に恥じないようにと、
皆一丸となって前以上に厳しくなった練習に取り組んでいる。
キツクなったメニューに、誰も文句を言わない。
それくらいしないと、先輩達に追い付けるとはとても思えないからだ。

そして三年生は引退してから自由に練習参加出来る身分にありながら、
誰もコートにはやって来ない。
今のチームが安定するまで、口出しせず見守っていようと判断したらしい。

だからもう、部活動で不二と顔を合わせる機会は無い。
一年と三年は校舎も離れている為、偶然でもすれ違うことも無い。

(引退前ならまだしも・・・何考えているんだろ)

不二のクラスまで届けに行けと言うのか。
大体どのクラスなのか、知らない。

(あ、そうだ。桃先輩に託すのはどうかな?)

桃城なら、不二がどこのクラスにいるか知っているだろう。
それに三年の教室でも平気で訪ねて行けそうだ。

それがいい、とリョーマは勝手に結論を出す。

(・・・・不二先輩、か)

思い出すのは、あの雨の日の試合。
いつでも出来るなんて言ってて、
結局再戦しないまま不二は引退してしまった。

『また、今度ね』

いつだったか不二と休憩時間がたまたま一緒だった時に、
試合したいとお願いしたら、そう言って流されたけど。

ひょっとしたら不二から試合しようよと言ってくれるんじゃないかって、
心のどこかで期待してた。

結局叶わなかったけど。

不二ともう一度テニスしたかったな、と考えながら靴を履き替えて外に出る。
日直の仕事の為、少し遅れてしまった。
それとあの二人に話し掛けられた分と。
早く行こうと一歩踏み出そうとしたが、後ろから呼ばれた声に足を止める。

「越前・・・?」

まさかね、と思う。
あまりにもタイミング良過ぎる。
今、考えてた人が現れるなんて。

「不二先輩!」

振り向いて確認するが、やはり不二だった。
引退する前と変わらないにこにこした笑顔を浮かべて立っている。

「今から部活?遅い、よね。遅刻?」
「いえ、日直の仕事でちょっと」

部にも遅れると連絡してある。
理由を話すと、不二は「そう」と頷く。

「そう。単なる遅刻だったら大変だったね。
相変わらず罰としてグラウンド走ることは続いているんでしょ」
「まあね」

不二の手元には、鞄が握られてる。
ちょうど今帰る所なんだと、リョーマは思った。

(あ、そうだ)

あれを今渡してしまおうと辺りを見渡す。
人影が無く良い感じだ。

「あの、不二先輩」
「何?」というように不二はリョーマを見る。

ポケットからリョーマは例の手紙を差し出した。

「それは・・・?」
不二は抵抗することなく、受け取る。
これでなんとかなったと、リョーマはほっと息を吐く。


だが次の瞬間に、リョーマは体を強張らせた。

「ひょっとして、君から?」
「は?」

とんでもない不二の言葉に、思考が停止してしまう。

「ち、違うっす!」
やや遅れて、否定する。

「そんな訳ないでしょ。預かったの。知らない人から!」
「なんだ。君からじゃなかったのか」

リョーマの剣幕に、不二はようやく納得したようだ。

そして今度は、
「残念だな。少し期待しちゃった」
と再び乱するようなことを言い出す。


「え・・・?」

きっとたちの悪い冗談だ。そうに決まってる。
リョーマは自分に言い聞かせようとするが、
不二は一向に「信じた?嘘だよ」と言ってくれない。

「君からだったら、嬉しかったんだけど」
更にそんなことを言って、不二は封筒を残念そうに眺めた後、
ポケットに仕舞う。

「なんで、俺からだと・・・嬉しいんすか?」

ようやっとリョーマが口を開くと、
不二は照れたような笑みを浮かべて答える。

「そんなの決まってる。好きな子から、ラブレター貰って喜ばない人はいないよ?」
「す、好きな人って・・・」
「君のこと」

わかった?と耳元で囁く声に、リョーマの顔がさっと赤くなる。

「冗談だよね?」
「まさか。こんなこと冗談なんかじゃ言えない」
「だってそんな、ええっと」
「好きだよ、越前」

好きという単語に、リョーマの混乱は最高潮を迎える。

まさか、こんな展開になるなんて。
誰が思っただろうか。

不二が自分を?

冗談だと否定したいが、目の前の不二は嘘を言ってるように見えない。

どうしようどうしようとあたふたするリョーマに、
不二が助け舟を出す。

「返事は後でもいいよ」
「・・・・・・・・・」
「びっくりさせちゃったみたいだね。突然こんな事言って、ごめん。
迷惑なら、忘れてもいいよ」

安心させるように、不二はリョーマの頭をゆっくり撫でた。

優しい手つきに、リョーマは混乱からハッと我に返る。


忘れていいよ、と言われても。
忘れられる訳無い。

(迷惑だと、思えないし・・・)

不二のことはよく知らない。
知ってるのは、テニスしてる時の姿だけで。
特に接点も無かった。

綺麗なテニスをする人、だとは思っていた。

その人が、自分を好きだと言う。


「越前?」

じーっと顔を眺めるリョーマに、
不二はどうかしたのかと瞬きする。



「・・・付き合う」
「え?」
「先輩と付き合うって言ったの!」


でまかせな告白をしたのなら、OK出したら困るに違いない。
さあ、どう出るとリョーマが反応を窺っていると、
不二は驚いた後、「ありがとう」とうれしそうに笑った。

「嬉しいよ。まさかこんなすぐに良い返事が貰えるなんて・・・」

あー、どうしようと不二は緩む頬を押さえている。

それを見て、リョーマは恥ずかしくて居た堪れない気持ちになった。


(なんてわかりやすい、反応)

プレイスタイルみたいに、もっと底の見えない人だと思っていた。
でもそれは違ってたようだ。

こんな素直に、リョーマがOK出したことを喜んでる。

(あれ、なんか俺も・・・)

不二の喜ぶ顔を見て、嬉しいと思ってしまう。
さっきの告白の返事は勢いで言ったものだけど、
断らなくて良かった・・・とほっとしてる。

「あ、でも」
不意にさっき渡した手紙を思い出し、表情を暗くする。
いいんだろうか、こんな展開になってしまって。

難しい顔をするリョーマに気付き、不二が声を掛ける。

「どうかしたの?」
「あの、さっきの手紙・・・」
それだけで言いたいことが伝わったようだ。

「ああ。これは僕からこの人にちゃんと話しておく。君は心配しなくてもいいからね」
「でも、俺が手紙預かったのに」

このまま付き合って良いかとリョーマの迷いを見抜いて、
不二はさっと手を掴む。

「君が手紙を預かったのは偶然。どの道、返事は決まっていたんだから」
「・・・・・・」
「それとも、越前は僕がこの子と付き合っても平気なのかな?」

意地悪な質問だが、不二も必死だった。
折角、付き合うって言ってくれたのに、やっぱりダメなんて言われたら。
かなり堪える。

「・・・ヤダ」

不二の言葉に、リョーマは顔を上げた。

他の人と、不二が誰かと付き合う。
ハッキリと、それは嫌だと思ってしまったら、止められない。


「越前、僕と付き合ってくれますか?」
「ハイ」

もう一度聞かれた問いに、今度はちゃんと返事する。

良かったと胸を撫で下ろす不二の表情に、
心が温かくなるのがわかる。

「好きだよ、越前」
「も、もう聞いたそれ」
「でも言いたかったから」

にこっと悪気無く笑う不二に、心臓に悪いと胸を押さえる。

「そうだ!お、俺もう部活行かなくっちゃ!」

急に思い出したというように、声を上げる。

「ここで悪いけど、失礼します!それじゃ!」
「あ・・・」

これ以上一緒にいたら、きっと倒れてしまう。

逃げるように走り去るリョーマに、不二は一瞬言葉を失ったが、
すぐに声を上げる。

「またね、越前!」

せめて応える為にと、リョーマは前を向いたまま手を振る。



(予想もつかない事になったけど。
この先どうなるんだろ?)


突然の恋の始まりに、リョーマの頭の中は混乱と少しの期待でいっぱいだった。


チフネ