チフネの日記
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| 2005年12月23日(金) |
王子誕生日話 跡リョ編 |
テーブルに運ばれたコーヒーに手を付ける気にもならない。 しかし自分だけ何も頼まないという訳にもいかないだろう。 せめてコーヒーくらいと思ったのだが。
(こんな物、口に合うか・・・!) 何の豆を使っているか知らないが、コーヒーとはこんなものじゃない。 跡部は内心で不満を叫ぶ。
「景吾、コーヒーだけでいいの?お腹空くよ」 「いや・・・食欲が無いからいいんだ」 「食欲が無い?風邪でも引いてんの?」 「そういう訳じゃ無い・・・」
目の前で遠慮なく食事しているリョーマを見て、跡部は溜息をついた。
今日はリョーマの誕生日であり、クリスマスイヴでもある。 この時の為に、跡部は前々からレストランに予約を入れてた。 しかも貸切でだ。
大事な大事な恋人の誕生日を祝うのに、他の人間は邪魔だ。 たったそれだけの理由で。
そこで二人きりのお祝いをしよう。
しかし本日リョーマを迎えに行った時、 「俺、レストランとか堅苦しい所苦手だからね」 と言われてしまった。
突然の予定変更に、流石の跡部も狼狽する。
「・・・なら、どこが良いんだ」
リョーマの望む所なら、文句も無いだろう。 情け無いが、今は意見を聞くことが先だ。
「うーん、それなら」 ついて来て、とリョーマに引っ張られる形で連行される。
(おいおい、どこに行くか言わないと貸切することが出来ないじゃねえか!)
跡部の動揺にも気付かず、リョーマは先へと進む。 そして。
「おい、ここか?」 「うん」
着いた先は都内のどこにでもある、某ファミレス。 あまりのことに、跡部は固まってしまう。
(冗談だよな?俺様が用意したレストランを蹴って、ここを選ぶなんてタチの悪い冗談に決まってる!)
「ちょっと寒いんだから、突っ立ってないで入ろうよ」
跡部の期待を裏切り、リョーマは店内へと移動している。
「ま、待てよ!」
慌てて後を追い、跡部も中へと入る。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」 そうです、と頷くリョーマに、もう諦めるしか無いと悟った。
クリスマスだというのに、リョーマが注文したのはマグロ丼定食だった。 マグロ丼にとろろ蕎麦、味噌汁、漬物とドリンクもついて1480円。
(絶対、怪しいぞそのマグロ。俺様が今まで食べてきたものにそんなのは無い。 それでいいのか、リョーマ!?)
美味しそうに食しているリョーマにそんなことを言えず、 跡部は黙って食べ終わるのを待った。
「景吾。デザートも頼んでいい?」 「ああ・・・・いいぜ」
嬉しそうにメニューを見てリョーマが決めたのは、 期間限定だというデザートだった。
店員が運んで来た皿を見て、跡部は絶句する。
舌が痺れるんじゃないかと思うくらいに、ふんだんに乗せられた生クリームの海。 それだけで胸焼けしそうになる。
「気分悪そうだけど、本当に大丈夫?」
デザートを食べながら、リョーマは首を傾げる。
「問題ない。それより・・・美味いのか、それ?」 「うん」
リョーマは生クリームの海から三色のアイスを口に運んでいる。 チョコと苺と抹茶らしいが、あまりにも鮮やかな色に眩暈が置きそうだ。 着色料にしても、鮮やか過ぎる。 アイスにも飽きたようで、今度はクリームの海の下からスポンジをすくい出している。 申し訳程度に苺はクリームの上に苺が飾られているとはいえ、ケーキとは言いがたい物体だ。
(メニュー名は混沌か?)
それらを美味しそうに食べているリョーマがわからない。
凝視しているとまずいことを言ってしまいそうで、ふと視線を外す。 そして店内を見て、驚愕する。
他にも‘混沌’を口にしている客がいる・・・!
(嘘だろ)
脱力した跡部は、椅子から落ちそうになる。
(俺様が知らないだけで、庶民はこれを当たり前のように注文するのか?)
「どうかした?」 冷や汗を掻く跡部に、リョーマが目を瞬かせる。
「いや、何でもねえ」 「何でも無いって顔していないよ」
カタン、とクリームを掬っていたスピーンが机に置かれた。
「ねえ。やっぱり怒ってる?」 「何をだ」 「景吾が用意してくれたレストランを断って、ここに引っ張って来たこと」 「・・・・・・・・・・・」
悪気無くリョーマは、「景吾にこういう店似合わないよね」と笑った。
「でも、俺達まだ中学生でしょ。 景吾が誘うようなレストランとかにはまだ早いと思うんだ」
そうは思わないという言葉を、辛うじて跡部は飲み込む。
「そんな大袈裟にしなくても、いいじゃん。 今はここでちょうど良いんだよ」 「・・・そうか」
にこっと笑うリョーマに、仕方なく頷く。 ちょうど良いと言われても、’混沌’を前にして心から肯定するのは難しいものだ。
「なあ、食べ終わった後はどうする。 お前が言うちょうど良い場所はどこだ」 「勿論、行き先は景吾の家」 「は?」 「どうせ混んでるだろうに、そういう所に行くの面倒だよ。 だから景吾の家に行って、二人きりでゆっくり過ごそうよ」
面倒という言葉は引っ掛かるが、二人きりで過ごすのには賛成だ。
「じゃあ、すぐに出るか!」
急に生き生きとし始めた跡部に対し、リョーマは首を振る。
「まだ食べ終わってない」 「そんなのほっとけ。ウチでいくらでもケーキを食わせてやるから」 「ヤダ。勿体無い。そんなに早く行きたいんだったら」
スプーンで、‘混沌’を山盛りに掬って。
「景吾も手伝ってよ」
いわゆる「あーん」状態。 それは歓迎だ。 歓迎だけれど・・・・。
乗せられてるものに、問題があり過ぎる・・・!
「いや、ちょっと待てリョーマ」 「ねえ、早く。景吾」
笑顔と共に迫ってくるリョーマに、 やっぱりこの店だけには入るべきでは無かったと、今になって後悔した。
チフネ

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