曇り日ではあったけれど気温が高くなりずいぶんと暖かだった。
ご近所に河津桜だろうか早咲きの桜が満開になっており
それは目を瞠るほどの美しさで心惹かれるばかり。
写真を撮りたいけれど敷地内に勝手に踏み込む訳にもいかず
憧れの眼差しでただただ愛でるばかりであった。
早朝7時前に母の施設の看護師さんから電話があり
突然の不整脈の発作で血圧が異常に下がっているとのこと。
危険な状態なので県立病院へ救急搬送する旨の連絡があった。
義父にも連絡をして救急車の後を追うように病院へ向かった。
本音を言えば今度こそ駄目かもしれないと思う。
冷静に母の死を受けとめている自分が不思議にも思えた。
それだけ覚悟が出来ている証拠でもあるのだろう。
お通夜の事、お葬式の事と考えながら仕事の事も頭から離れない。
救急外来の待合室で一時間程待機していただろうか。
処置室から微かに母の声が聞こえ幸い意識はあるようだった。
その後二時間ほどしてやっと医師からの説明を受ける。
点滴中に歌をうたっていたらしく医師も苦笑いをしていた。
発作はすぐに治まり血圧もほぼ正常に戻ったと聞く。
もう帰っても良いですよと言うので狐につままれたようだった。
助手席に母を乗せて施設のある病院へ向かった。
空腹を訴える母。腹痛はすでに治まっており食欲のある証拠である。
腰痛はまだ治まらず数年前の骨折の後遺症ではないかとの診断だった。
季節の変わり目のことで古傷が悪さをしているのだろう。
母は今日が日曜日だと知らずにいたらしく
しきりに仕事の心配をしていた。私のお弁当の心配もしてくれる。
日曜日だと伝えると「ああ、良かった」と安心したようだった。
施設の介護士さんが出迎えてくれて母を軽々と車椅子に乗せてくれる。
母はまた思い出したように昼食の心配をしていたけれど
介護士さんの笑顔に救われたようににっこりと笑顔を見せていた。
「しなちゃん、ほんと人騒がせなよ」私も頷きながら笑っていた。
今日のことは狐の悪戯だと思うことにしよう。
発作はまたいつ突然に起こるのかわからないけれど
母の生命力は私が思っている以上に強く逞しいのだと思った出来事だった。
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