曇り日。陽射しがなく日中も肌寒く感じる。
冬枯れた景色のなか銀杏の裸木が物悲しく見えた。
羽根を休める鳥もいない。ただ風だけが吹く抜けていく。
支払いに来てくれたお客さんが手土産にと和菓子を持って来てくれた。
蓋をあけて思わず歓声をあげる。なんと可愛らしい和菓子だこと。
兎の姿をしたものや虎の姿をした物もあり笑みがこぼれる。
老舗の和菓子ならではの職人技なのだろう。
一目見ただけでそれが心を込めて作られたことが感じられた。
ダイエット中で甘い物は控えているけれど一個だけならと許し
豆大福を頂いた。中は白餡でとても優しい甘さが美味であった。
高校時代に友達とよく行っていた和菓子屋さんを思い出す。
安芸市の「和食屋」というお店できっと今もあると思う。
私も弟もその店の桜餅が大好きだった。
弟が二十歳くらいの時だったろうか。私はすでに嫁いでいたけれど
久しぶりに弟に会うのに手土産にとその桜餅を持参したことがある。
けれども弟は意に反してあまり喜んではくれなかったのだ。
「大好きだったのに」と私が言えば「いつの話だよ」と苦笑いする。
今思えば二十歳の男の子に桜餅は不似合いだったのだろう。
おとなになれば好みも変わるそれが当然のことに思われる。
「こんなにどっさり買うてきて」と弟は呆れ顔をしていた。
それでもなんとか一個だけは食べてくれて
「後は姉ちゃんが持って帰りなよ」とまた私の手元に戻って来た。
ちょっとどころかけっこう寂しかった。そうして苦い思い出となる。
けれどもこうして40年以上の歳月が流れてしまえば
苦い思い出も愉快な思い出となってくれるものなのだ。
私はあれ以来桜餅を殆ど口にしたことがない。
弟もおそらく同じだろうと思う。
安芸市に足を運ぶこともなくなり「和食屋」の桜餅がとても懐かしい。
春になり桜の季節になればまたきっと思い出すことだろう。
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