確かにアラームが鳴ったはずなのに寝過ごしてしまった朝。
もうすっかり夜が明けていて大急ぎで朝食の準備をする。
いつも夜明け前に書いている短歌も詩も書けなかった。
たまにはいいかと思う。どうせろくなものなど書けやしない。
ひとやすみ。一呼吸でもしかしたら新鮮になれるかもしれないのだ。
それは明日になってみないとわからないこと。少しでも希望を持とう。

6月18日。少女時代の出来事を今でも忘れられずにいる。
私は中学生になって間もなく父の転勤で海辺の町へ移り住んだ。
同じ高知県でも西部と東部とでは方言がずいぶんと違っていて
そのせいもありまだクラスメイトに馴染めずにいた頃
隣のクラスからまるで使者であるかのように男の子がやって来た。
みんなからNちゃんと呼ばれているらしい男の子からの伝言で
お昼休みに校舎の裏庭に来るようにとほぼ命令のように告げられる。
いったい何だろう。転校生の私が気に入らないのかもしれないと
はらはらどきどき緊張と不安でいっぱいだったことを憶えている。
Nちゃんと呼ばれていた男の子のことはよく知らなかった。
クラスも違うしもちろん話したこともない。
ただ一年生の中ではリーダー格らしく常に子分たちを連れていた。
廊下ですれ違った時にちらっとその顔を見たことがあった。
Nちゃんはおくびれた様子も見せずとても堂々とした態度で
「俺はおまえのことが好きながやけどおまえは俺が好きか?」と
好きも嫌いもなかった。「わからない」と応えすぐにその場から逃げた。
どうやら私は「好き」と応えなければいけなかったらしい。
Nちゃんはふられたことになってしまって学校中の噂になってしまった。
恋をするにもきっかけが必要。一目惚れもあるけれどそうではなかった。
はっきり言ってうっとうしいと思うくらいNちゃんはしつこかった。
ふられたというのに諦めない。休み時間になるたびに私の顔を見に来る。
英語の授業に付いていけない私に「俺がおしえてやろうか」とも言う。
よけいなお世話。私がむっとした顔をするとなぜか嬉しそうな顔をする。
けれどもいつしか私とNちゃんはとても仲良しの友達になっていた。
それは中学を卒業して高校生になってもNちゃんが大学生になっても。
それぞれに恋をし傷つくことがあってもいつも繋がっていたように思う。
よほど縁の深い人なのだろう。腐れ縁だなとNちゃんは笑うけれど
その腐れ縁がとても愛しいかけがえのない存在なのだった。
友達は少なからずいるけれどいちばんの親友はNちゃんだった。
私がこころを許せる友は他にいない。まるで自分の分身であるかのように
Nちゃんはいつもいつまでも私の最愛の友であった。
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