11月を目前にしての夏日。おひさまはとても朗らか。
たっぷりの陽射しを浴びると不思議と元気になるものだ。
特に体調が悪いわけでもないのだけれど気が沈みがちのこの頃。
ちょっとしたことで落ち込む。欝々と考え込んでしまうのだった。
そのくせちょっとしたことが嬉しい。ぱあっと目の前が明るくなる。
お昼休みが終わる前に母に電話。なんとなく声が聴きたくて。
ずっと行方不明になってしまったぬいぐるみの話をしていた。
ケアマネさんが用意してくれたぬいぐるみも可愛いけれど
やはり突然いなくなってしまった子が恋しいようだった。
「あの子は可愛かったから盗まれた」と何度も繰り返すばかり。
「T病院にいるらしいからタクシーで迎えに行く」と言ったり。
それはさすがに出来ないことを母も承知しているのがわかる。
認知症なのかもしれないけれどそうだと認めたくはなかった。
母はただ可愛がっていた子がいなくなり寂しくてたまらないのだと。
夕方、娘と孫たちにその話をすると「ワンワンあげる」と。
それはあやちゃんもめいちゃんも抱っこしていた犬のぬいぐるみ。
ふたりの涎が相当付いているよと苦笑いする娘だった。
洗濯すれば大丈夫と話は決まり週末に母に届けることになった。
ひ孫達が可愛がっていたワンワンだもの母もきっと喜ぶことだろう。
母が施設のお世話になるようになってもうすぐ一年が経つ。
もう帰る家がないことを知っている母は決して
「帰りたい」とは言わなくなった。
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