Reality
ユリ



 置いてきた男

あの頃のあたし達っていったら、

バカらしいほどに純粋で

バカらしいほどにワガママだった。


毎日くだらないことがすごく楽しくて、嬉しくて

そんな毎日がずっと続いていくんだと思っていた。


笑った顔も隣から聞こえる寝息も

その全てがずっとなくならないものなんだと信じていた。



懐かしいのに

それはたいして時間の経っていない出来事で

それでもその思い出は

あたしの中で強くしっかりとキラキラ輝いていて



異様な明るさで輝く月と

少ししか見えない星空の下

ピンクのカーテンの隙間から

今、あたしは毎日それを見上げている。


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case1.置いてきた男


夏の夜空にフラッシュをたいたように流れたあの星に

願ったことは何一つ覚えていないけど

あの時寝転がっていた芝生のチリチリした感触や

セブンスターの香りだけは今でも鮮やかに蘇る。


何もかもを置いて新幹線に乗ったあの日まで

何度も会いに来てくれたのに

引きとめようとは一度もしなかったね。


16歳の夏はあっという間に過ぎて

無邪気に強欲だったあたしは

何でも出来ると思っていたから

未来に不安なんてなかったよ。


あたしを見つめるその瞳の先をすり抜けて

ここへ戻ってきてしまった。



人のいないプールに忍び込んだのは

あの時が最初で最後だよ。


いつか故郷の古い学校の屋根の上で

たくさんの星を見せてあげたいと言ってくれたこと、

今でもちゃんと覚えてる。


あたしみたいな奴が初めてで良かったんだろーかと

時々苦笑いしたくなるけれど

それだけは出来れば早く忘れて欲しいかな。




人間は半径5kmの圏内で恋愛をする生き物らしい。



その法則どおり

あたしは385kmの距離と

終着点に見つけた日常に勝てなかった。


後悔は、なかった。

初めて自分で選んだことだから。

あたしの人生は、それで良かった。



たった一度だけ、その胸へ戻りたいと思ったのは

「帰さなければよかった」と

君が初めて泣いたあの電話の夜にだけ



キラキラした目の輝きを

たまに思い出すよ。

きっとどこかで元気にしてるんだろうって。


385km離れたこの場所で


あの夜に見た大きな流れ星と一緒に。



2005年12月19日(月)
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