チフネの日記
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2012年10月31日(水) 跡リョ 何年後かの、二人の話(誕生日の話の数年後設定

頬に何かが触れた感触に、リョーマは目を開けた。

「……帰ってたの?」
「ああ。今戻ったところだ」
リョーマの頬から手を離して言った跡部に「ごめん、俺寝ちゃってた」と体を起こす。
「寝ててもいいぜ。今日も疲れただろ」
「別に。今日はトレーニングだけだったから。
途中までは起きていたんだけどな……」

大きく伸びをしながら言う。
跡部は苦笑して「無理して起きていることないだろ」と言った。
「たかが誕生日じゃねーか。祝ってもらえねえからって、不貞腐れる程子供じゃないぞ」
「ふーん。昔のあんたなら5分でも一緒に過ごしたいって拗ねてたのに」
「昔のことだろ……」
眉間に皺を寄せる跡部に、リョーマは小さく笑った。

あの頃は、自分達の気持ちだけではどうにもならないことが沢山あって、
我慢することもいくつかあった。
今だって全然思い通りになっているかといえば、そうでもない。
それでも二人が一緒にいられるという幸せは続いている。

「5分どころか、ほとんど毎日顔を合わせているじゃねえか。
不満なんて無いからな」
ちゅっと額にキスしてきた跡部に、でも、と返す。
「今日、俺が試合に出る日だったら、朝も顔を合わせられなかったと思う。
そういうのが続いたりしたらどうすんの。それでも一緒に暮らしているって言える?」
「言えるだろ」
「なんで?」
「俺のところに帰って来るのなら、それでいい。
他には、そうだな。お前が笑顔でいてくれたら、もう十分だ」

跡部は変わったと、思う。
以前なら数分でも会いたいと我侭言ったくせに、今は困らせるようなことは言わない。
いつからなのかは、気付いている。
家を出ると決めて独り立ちした時から、自分本位な発言をすることが無くなった。
それが時々、怖くなる。
跡部に我慢ばかりさせて、いいのだろうか。
リョーマは今もテニスを続けていて、好きな道を歩んでいるというのに、
跡部は後悔すること無いのだろうか。
これで本当に良かったのかと考える時がある。
あるけれど……。

「そう。だったら、いい」
跡部にそんなことは絶対に言わない。
口に出せば悲しむのはわかっている。
一緒に居られることだけを考えてくれている彼に、我慢しなくてもいいなんて言うのは失礼で、傲慢な考え方だ。

「俺も、帰る場所があるってわかっているのは安心する」
ぎゅうっと跡部の腕に抱きつくと、「そうだろ」俺はわかっていたぜ」と言って頭を撫でてくれた。


「そうだ。冷蔵庫にケーキ入っているんだった」
「おい。今から食べるつもりかよ」
「食べなくてもいいから。せめてロウソクは点けようよ。
願い事、今日中にしないと」
リョーマの言葉に瞬きをした後、
跡部は「そんなの、一つしかないけどな」と笑って言った。

「まあ、いい。ケーキ出せよ。折角だから歌でも歌ってもらうか」
「えー?」
「祝ってくれるんだろ?」

仕方無いなあという振りをしながら、リョーマは冷蔵庫のドアを開けた。

今日必要なのは後ろ向きな言葉じゃない。
この人が生まれたことを祝い、そして感謝をしたい。
一緒にいられる。それだけで幸せだと、自分も同じくらいそう思っているのだから。

終わり


チフネ