心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2015年01月27日(火) 翻訳企画:AAの回復率(その4)

次のセクションでは、年月の経過とともに、AAメンバーの平均断酒期間が延びてきていること、それはつまり長く酒をやめている人の比率が増えていることを示します。


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c) 長期断酒者の増加

AAメンバーの断酒期間はどれほどだろうか?

その質問に答えるにはこの3年おきのメンバー調査が役に立つだろう。毎回の調査はその時点でのスナップショットを得る断面調査(cross-sectional study)であり、毎回無作為に選ばれたAAグループのミーティングに出席しているAAメンバーを一斉に調べたものである。

一連の調査を比較することで、AA共同体の構成の変化が明らかにできる。「長期的な」研究を行うために、個人を追跡調査する必要はない。毎回の調査はできるだけ同じ人数を対象にしているので、比較は十分な意味を持つ。

毎回の調査のパンフレットは、メンバーの断酒期間を0~1年、1~5年、5年以上に分けている。この表現を分かりやすくするために、グラフ2および表2では、0~1年、1年以上、5年以上に変えてある。これはグラフを読み取りやすく、理解しやすくするための処置である。

毎回の調査のパンフレットは、標本となったメンバーの平均断酒期間を報告している。ただしパンフレットに「4年以上」とあっても、グラフに書くにはもっと詳しい数字が必要だ。

断酒期間の長さの増加傾向は、グラフ2「長期断酒者の比率の増加」および、表2「長期断酒者の比率」のデータから読み取れる。

その次のグラフ3「長期断酒者の平均断酒期間の増加」の曲線と、表3「長期断酒者の平均断酒期間」は、統計の結果を「より的確」に表現するようにしている。

2004年の調査は、2001年の調査より断酒期間の長さが伸びていることを示している。これは1983年以降の調査において一貫した傾向である。

2004年の調査において、長期断酒として広く認められるであろうとしてそれまで使われてきた「5年以上」という分類が、「5~10年=14%」と「10年以上=36%」のふたつに分割された(合計で5年以上が50%)。

断酒期間の長さが漸進的に増加している様子がAAメンバー調査に反映されている:

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図2:長期断酒者の比率の増加
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注記:
・ 出版されたパンフレットに記載されたデータを使用しているが、いくつかのパンフレットからは数値の範囲しか得られなかった。
・ 範囲しか得られなかった場合には、曲線がなめらかになる数値を採用した。
・ 1977〜1983年の数値は、1977〜1989年の調査を分析した1990年の内部報告書から得た。
・ 1968年と1971年のパンフレットは、40%が1年未満で60%が1年以上としか述べていない。

Table

追加のデータとして、下のグラフ3および表3により、調査対象となった人たちの平均断酒期間の推移を示す。表のデータはミーティングに出席し続けている人たちだけを対象にしている。AAで酒をやめたものの、現在は他の手段で酒をやめており、AAミーティングに来ない人たちは調査に現れない、また断酒したまま亡くなった人も同様である。AAは個々のケースを追跡した記録を取らない。

AAミーティングへの数回の出席が、その人が断酒に関心を持ったことを意味するわけではない。この現実を心にとめておくことはたいへん重要である。同様に、AAミーティングに出席しないことが、再飲酒を意味するわけでもない。

グラフ3:長期断酒者の平均断酒期間の増加

注記:
・1977~1989年のデータは、1977~1989年の調査を分析した1990年の内部報告書による。
・1992~2007年は出版されたパンフレットのデータを利用している。
・パンフレットに「○年以上」と示されたデータはグラフの曲線をなめらかにする値に調整した。

表3:平均断酒期間の長期推移

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(続きます)


2015年01月26日(月) 翻訳企画:AAの回復率(その3)

次のセクションでは「AAに参加した人の1年後の回復率は5%である」という誤解の中身に切り込んでいきます。

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b) 最初の1年の保持率

1990年に発行された、1977〜89年のAAメンバー調査の概要報告書にある図C-1

1990年に発行された、1977〜89年のAAメンバー調査の概要報告書にある図C-1


一部の論者たちが示す現在のAAへの悲観的な見方は、上に掲げた図の誤った解釈に基づいている。この図は1990年に作成された、それまでのメンバー調査についてのGSOの内部報告文書から引用したものである。この報告書の誤った解釈がこれまで広く拡散されてきた。このグラフには「AAにやってきて最初の1年の人たちが各ヶ月後に何%残っているか」という不適切なタイトルがつけられている。この図は、1990年のGSO内部レポートの12ページにある図C-1である。

この手書きのグラフは、現在のAAが5%の成功率しか達成していないという誤った主張の中核となっている。一番下に書かれたパーセンテージの数列では、その右端のX軸の12ヶ月目のところに5%と書かれている。この5%という数字が、新参者がAAに1年間居続けることができるパーセンテージであると誤って解釈されているが、そうした解釈は5%という数字が実際に示す意味としてはまったく正しくない。ここでは、このグラフの元となったデータとグラフの成り立ちを考慮した上で、(最も重要な)このグラフがどのように解釈されるべきかを論じていく。

図C-1にプロットされたデータは、それまでに行われたすべてのメンバー調査中のある部分集合の人数を示している。その部分集合は、AAに初めてやってきてから1年以内の人たちである。X軸はAAに初めてやってきた時から12ヶ月目までの時間の経過を示している。プロットされている点は、5回のメンバー調査それぞれについて、(初めてAAに参加してから)経過期間ごとの人数がこの部分集合中に占める比率を示している。

下記はこのGSOの内部報告書におけるグラフの説明の引用である。

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付録C:最初の1年

回答された調査票から、月単位でその月数まで(AAに)「留まっていた」メンバーの数を集計することができる。これは調査票の中の、AAに初めてやってきたのは何年何月か、を尋ねる質問から得られる。
過去5回の調査それぞれについて、最初の1年の12ヶ月について集計したものを、図C-1にプロットした。この結果は、メンバーがAA共同体内にその月数とどまっている確率を示していると解釈して良いだろう。

より明確にすると:AA共同体に加わって1ヶ月未満のメンバーが、1ヶ月後も全員とどまり続けたとすれば、1ヶ月と2ヶ月のメンバーの数は等しくなるはずであるが、1ヶ月後には減少していることが分かる。もちろん月ごとの変動は季節効果の影響を受けて波が生じ得るし、その後の月についても同様である。

ではあるものの、グラフからははっきりとした傾斜が読み取れる(季節変動の影響があったとしても)。
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「この結果は、一定の月数が経過した後にメンバーがAA共同体に留まっている確率を示していると解釈できる」と述べられている。それがいかなる可能性なのかは、図C-1の表現の中には示されていない。

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付録C続き: 図C-1はこれまでに行われた5回の調査について、その結果に注目すべき類似があることを示している。5回の調査はそれぞれの規模の違いを考慮に入れて同じスケールで表示している。5回の調査の平均値を表にしてあるが、この表の数値はAAに来た者のおよそ半数が3ヶ月以内に去ることを強く示唆している。あいにくなことに、そのような脱落がなぜ起こるのかという理由をこの表から読み取る方法はない。
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1997年の調査について、初めてAAに参加して最初の1年間のそれぞれの月数の回答者数を、最初の1年の回答者数の合計で割った数を点破線(−・−・)で示している。1980年の調査について、同じデータを++線で示している。1983年の調査は点線(・・・・)で、1986年の調査は破線(− − )線で、そして最後に1989年の調査は実線で示してある。縦軸は5回の調査について各月に分配されたパーセンテージである。

図C-1 5回の調査の平均

グラフの下には「5回の調査の平均」の表が置かれている(上に再掲した)。これによると、最初の1年目の回答者のうち19%が1ヶ月目である。3ヶ月目、4ヶ月目の数字はそのおよそ半分になっており、これを元に報告書の著者は「AAにやってきた人のおよそ半分は3ヶ月以内に去る」と解釈している。

本論の後に掲げる図1には「1977〜89年の調査における最初の1年の保持力」という題をつけてある。その図ではこれと同じ情報を、保持率(もしくは脱落率)の曲線として描くことで、より分かりやすく示している。

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付録C続き: このような整然とした結果を説明できるメカニズムがあるとすれば、「新しく来た人たちが最初の1年のあいだに徐々に脱落する」こと以外にないだろう。わずかに慰めを得られることがあるとすれば、去った人たちの多くはまた戻ってきて、この表の中の数字にすでに含まれていることである。
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最初に少々ミーティングに参加してから来なくなった人たちの多くは、後になってAAに戻ってきて断酒を成功させている。自動車のディーラー(あるいはその他の販売業者でも)は、売った車の数に注目する。ショーウィンドーを覗き込んだだけで何も買っていかない人たちの多さを嘆くことはしない。

AAの共同創始者ビル・Wは1939年の手紙の中でこう書いている。「ここニューヨークでも事情は同じだった。私は6ヶ月にわたってたくさんの人に話しかけたが、永続的な結果は何も得られなかった。この時点の私は、自分が世界中の酔っ払いを救う役割を神によって与えられた、という妄想に取り憑かれて励んでいたのである」4

4. “Pass It On” p.226(AAWS)

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付録C続き: 2年目以降も同様の脱落傾向が続いているが、より緩やかになっている。数年を経るうちに、断酒を続ける多くの人がAA内での活動を減少させていくので、このような標本では彼らの存在を適切に表すことができなくなる。
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本論のb) 節の題名は「最初の1年の保持率」だが、c) 節の題名は「長期断酒者の増加」となっており、長い期間の断酒とAAへの継続的な参加について、これまでの調査から何が分かるかを扱っている。

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付録C続き: この調査の目的は、こうした脱落傾向の原因を明らかにすることでもないし、本人の意に反して(AAに)送られてくる人たち、自分がアルコホリズムであることが納得できない人たち、AAプログラムのさまざまな特色を受け入れらない人たちについて、何らかの提案ができるわけでもない。しかしながらここに示された結果およびそれがAAに投げかける課題は、AA共同体に広く理解されているだろう。
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アルコホーリクス・アノニマスでは、一切アルコールを口にしないことが断酒を続ける容易な方法であると教えている。このことは、AAが飲酒をコントロールする方法を教えてくれるところだと期待してやってきた人たちが失望して去る大きな理由のひとつになっている。アルコホーリクがAAに来る理由が、AAに行かない理由を上回ったときに、その人に回復のチャンスが訪れる。

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付録C続き: この結果は、昔から言われている「半数がすぐに飲酒がやめられて、25%も最終的には酒がやめられる」という言葉を否定するものとして拒絶する人も多いだろう。しかしその言葉は初期の(AAを)観察したものだ。その時代から現在までに社会にもAAの中にも変化が起きて、状況が変わってしまったことを疑う理由はない。調査から得られた他の結果と同様に、このことも「変えられるものを変えていく」という課題をAAメンバーに投げかけるのである。
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本論のd) 節は題名を「AAの50%+25%の成功率の起源と引用の時系列」で、この50%+25%の成功率についての歴史と、それを解釈するための正しい背景条件を明らかにしている。

昔から言われている「50%+25%の成功率」は、ビッグブック第2版の「再版にあたって」に「AAに加わって真剣に努力して取り組んだ人の半数は、すぐに飲酒がやめられて、飲まない生活を続けることができた。何度か再飲酒をしたがやめられた人は二十五パーセント」とある 5。調査による最初の1年間の保持率のデータは、この「50%+25%の成功率」を否定するものではない。

5. ビッグブック p.xxv(25)

最初の数週間か数ヶ月の間に、新しい人たちは二つの質問に自ら答えを出すことになる。(1)自分はアルコホーリクか? (2)私は真剣に努力して取り組んでいるか? 多くの人たちは自分がアルコホーリクなのかどうか確かめるためにAAにやってくる。ある人たちにとってその答えは明確であり、難しいものではない。しかし一方で、しばらく思い悩む人たちもいる。

AAメンバーの中には、「あなたがアルコホーリクでなければここに来ているはずはない」というレトリックを使って新しい人に印象を与えようとする人もいる。とは言うものの、AAでは一人ひとりが自分で診断を下すことになる。新しい人たちが「アルコホーリクであること」の意味を理解し、情報にもとづいた決断が下せるように、彼らが十分長くAAに留まることが望ましい。

ミーティングへの参加はAAで回復するための絶対条件ではないが、ミーティングは確実に回復の助けになるものだ。隔絶された場所に住むメンバーたちは、ビッグブックその他の書籍だけを頼りにやっていくしかない。近くにAAミーティングのない人たちは、他のアルコホーリクと一対一で関わることになる。しかし、そうしたケースはまれであり、調査のデータを理解する上では、最初の数ヶ月のうちにミーティングにくるのをやめた人たちは「真剣に努力して取り組んで」はいないと推定される。

1990年のGSO内部レポートの図C-1にメモ書きされた「5回の調査の平均」を下の表1に示す。各列は「月」と「分配%」である。グラフ1に描くに当たって、保持率(もしくは消耗率)のカーブを分かりやすくするために正規化を行っている。

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グラフ1:1977〜89年調査に見る最初の1年の保持率

“Distribution”(分配)は最初の1年の新しいメンバーのうち該当経過月の人の%数
その他の曲線は、月ごとの保持率を示す。
例:3ヶ月目のメンバーの50%は1年経過時にも残っている。
グラフ1:1977〜89年調査に見る最初の1年の保持率
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表1:最初の1年の保持率

注記:
・「分配%」は、オリジナルの「図C-1」グラフのもの。
・四捨五入されない「分配%」の合計は(103%ではなく)100%になる。
・「分配%」の数を開始月に従って「正規化」してある。
・得られた曲線は「特定の月」以降の保持率を示す。

元のグラフC-1のデータは、しばしば誤解され間違って伝えられているが、保持率のパーセンテージではない。その理由は

・3年ごとの調査はその時点でのスナップショットを得る断面調査(cross-sectional study)である。毎月同じ人数の新しい人が最初のミーティングに参加してくることを前提にしている。それは調査の時点で最初の1ヶ月を過ごしている人が何人いるかである。

・調査の時点での2ヶ月目の人数と1ヶ月目の人数の比率を計算すると、それが1ヶ月目と2ヶ月目の間の保持率となる。同じ手法で、任意の二つの月の間の保持率を計算できる。もし12ヶ月にわたって誰もかけることなく完全無欠に維持されれば(100%)、最初の1年の人々は12ヶ月それぞれに8.3%ずつ分配されるはずだ。もちろん現実にそんなことはありえないが、これは保持率の計算がどのように行われるか示してくれる。

実際のデータが示すのは:
1ヶ月目の19%は、一部の人が主張するように「81%(すなわち100%-19%)が最初の1ヶ月で脱落する」ことを意味するのではない
3ヶ月目の10%は、「90%(すなわち100%-10%)が最初の3ヶ月で脱落する」ことを意味するのではない
12ヶ月目の5%は、「95%(すなわち100%-5%)が最初の1年のうちにミーティングへの積極的な参加をやめてしまう」ことを意味するのではない

そうではなく、このデータが示すのは、調査の時点で最初のAAミーティング出席から1年未満の人が100人いたとして:
19% の人が、1ヶ月目である。
13% の人が、2ヶ月目である。
9% の人が、4ヶ月目である。
7% の人が、6ヶ月目である。
6% の人が、8ヶ月目である・・・などなどである。

すべての数字に正規化係数(この場合は5.25)をかけることで100%から開始することができ、保持率について合理的な推測を得ることができる。表1の「1ヶ月目開始」の列はニューカマーの最初からの保持率を示すために正規化されている。「4ヶ月目開始」の列は推奨される90日間の導入期間を経過した以降の保持率を示すために正規化されている。

・表1が実際に示すところによれば、3ヶ月を越えてAAに留まった人の56%は1年間経ってもAAの中で依然として活動的である。その他の回の調査では1年後の保持率はこれよりやや良い数字が出ている。

・データを解釈する上でもうひとつ考慮すべきことは、AAミーティングに出席するのはアルコホーリクに限らないことだ。

ある人たちは、家族、職場、司法制度、治療施設、友人、もしくはAAメンバーから後押しされてミーティングに何回かやってくる。その中には、助けが必要だと信じるにはまだ「十分にアルコホーリク」になっていない人たちもいる。それに加えて、現在のAAには飲酒経験のない薬物依存症者が来ることも珍しくない。そうした人たちも、調査の時にミーティングに出席していれば数に数えられる。その中にアルコホーリクス・アノニマスに一度接触しただけで留まらない人がいるのは当然である。

初期のAAメンバー調査における無作為性の特徴として、サンプル抽出の手法の問題が挙げられる。当時は地域評議員が地域内で調査するグループを決定していた。そのグループ選択によっては、調査結果に偏りが生じた可能性がある。しかしながら、アメリカ・カナダには十分な数の地域があるため、最終結果に大きな影響を及ぼすことはなかったと考えられる。

後に、調査するグループはAAWS/GSOに登録されたグループのリストから無作為に抽出されるようになった。この手法でも、もし登録をしないグループに出席する人たちに一定の傾向があるとすれば、サンプルの意図しない偏りを生む可能性はある。アメリカ・カナダでは非常に多くのグループが登録をしていない。

以下のグラフと表は1968年から2007年のメンバー調査の結果を反映している。それらについての分析と解説では、調査データの推定についてより正確で適切な解釈を提供する。

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(続きます)


2015年01月25日(日) 翻訳企画:AAの回復率(その2)

さて、まず最初のセクションでは「AAに参加した人の1年後の回復率は5%である」という誤解が生じる原因となった、AAのメンバー調査(メンバーシップサーヴェイ)についての基礎情報からです。

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a) 3年おきのAAメンバー調査

1968年、アルコホーリクス・アノニマスはメンバー調査という棚卸しを行った。AA共同体についてより詳しく知る必要性が認められたため、地方選出常任理事によりいくつかのAAグループに対して小規模で試験的な調査が行われた。その目的は、メンバーが自由意志で無記名式調査票にどう返答するか見極めるためだった。

その結果が良好だったので、委員会を設置して、アメリカ・カナダ国内で登録されたグループの5%を対象とした調査を行うことになった。後のパンフレット『アルコホーリクス・アノニマス・サーヴェイ』(過去にP-38という番号が振られていた)は以下のように説明している。

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最初にAAとそのメンバーについてより正確な情報の必要性を指摘したのは、当時のAA常任理事会議長でノン・アルコホーリクのジョン・L・ノリス博士だった。
ノリス博士はアルコホリズムを研究・治療する医学的・科学的コミュニティに対して、AAの効果を示す多数の実例を紹介することができたが、しかし正確な情報を提示することはできなかった。
彼は常任理事会の方針委員会の席上でこの問題について述べ、AA共同体がより正確な情報を提供するための方法を検討するよう依頼した。
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ノリス博士は「調査を企画したのには、二つの大きな理由がある」と述べている。
1.AA共同体とその有効性について、より正確なデータを、現在増加しつつあるアルコホリズムの分野で働く医師、精神科医、ソーシャルワーカー、法律家などに提供できるようになる。
2.AA自身についてより多くの情報を提供することにより、AAメンバーが、この世界でまだ苦しんでいる何百万人ものアルコホーリクをより有効に手助けできるようになる。

1968年に行われた最初の調査では、アメリカ・カナダ国内の11,355人のAAメンバーが抽出された。この調査が好評かつ有用であったため、アルコホーリクス・アノニマスのゼネラル・サービス評議会はこれを定期的に行うこととした。AAによるこの「3年次調査」は1968年の最初の調査以来3年ごとに続けられている。1996年の調査はゼネラル・サービス評議会が調査の内容について議論したため1年遅くなった。P-48と番号がつけられたAAのパンフレットが調査のおおむね翌年に発行され、その結果を報告している。

これまでに出版されたAAメンバー調査のパンフレット(P-48)
 1971年AAミーティングの統計データ
 1974年AAミーティングの統計データ
 1977年AAメンバー
 1980年AAメンバー
 1983年AAメンバー
 1986年AAメンバー
 アルコホーリクス・アノニマス1989年メンバー調査
 アルコホーリクス・アノニマス1992年メンバー調査
 アルコホーリクス・アノニマス1996年メンバー調査
 アルコホーリクス・アノニマス1998年メンバー調査
 アルコホーリクス・アノニマス2001年メンバー調査
 アルコホーリクス・アノニマス2004年メンバー調査
 アルコホーリクス・アノニマス2007年メンバー調査

2004年のメンバー調査は2004年8月1〜14日に行われた。あらかじめ700のAAグループがランダムに選ばれた。その前年に、選ばれたグループのゼネラル・サービス代議員(GSR)あるいは連絡員に調査票が配られた。

直近の調査は2007年の夏に行われた。その結果は2008年に出版され、本論の「更新版」に反映されている。調査は定期的に開かれているAAミーティングで行われた。選ばれたグループは、メンバー調査を行うために特別なミーティングを開催しないように求められた。

定期的に開かれているミーティングに参加したすべてのメンバーは、調査票を手渡され、全項目に記入するように求められた(すでに他のミーティングで調査に応じている場合を除く)。調査票は無記名式で秘密が保持されるようになっており、記入済みの調査票はゼネラル・サービス・オフィス(GSO)の広報担当者宛に返送された。

成功を計る基準としてソブラエティの長さを用いる
回復の「成功率」を比較するにあたっては、「成功」という言葉の意味が多くの研究者や評論家の間でまったく定まっていないことを理解しておかなければならない。

あるAAメンバーが5年間アルコールを口にしていなければ、ほとんどの評者はそれを成功と判定することに異論はないだろう。その場合、ソブラエティ(断酒)が最初にミーティングに参加した日に始まったのか、それともそれより相当後になってからであるかは問われない。5年間しらふでいることが重要なのである。

現在ではどこでもAAを見つけることができる。そのため多くの人たちが、アルコホリズムの下り螺旋の底に達するよりずっと早くAAにやってくる。彼らが最終的にAAを必要としAAを求めるようになる頃には、AAが何であるかすでに知ることとなっている。そのことは、1970年に出版されたパンフレット「AAサーヴェイ(The Alcoholics Anonymous Survey)」にも記されている。これは1968年に行われた最初の調査について報告している。(注:引用中にある表3および表4は本論に含まれていない)。

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ソブラエティ(断酒)期間の長さ
表3:最後の飲酒から経過した期間
ほとんどの人は、AAにやってきてから後のある時点から酒をやめている。それは最初のAAミーティングへの参加より後になる。酒をやめるのは、最初のミーティングの一週間後かもしれないし、一ヶ月後、一年後ということもありえる。しかしいったん断酒が達成されると、その大多数は飲酒に戻らないことが経験上示されている(強調は引用者による)。

AAは、しらふになった後に、飲酒することなく正常な生活に戻り、一杯の酒も飲まずに一生を終えたアルコホーリクの統計を取ってはいないが、私たちはこれがAAプログラムを受け入れた人の標準的なパターンであると推定してよい。

AAはこのように継続したソブラエティ(断酒)を成功と見なしている。ソブラエティとはアルコホーリクが飲酒することなく普通の生活を送ることである。しかしながら、医学・科学のコミュニティにおいては、成功の判断にあまり多くを求めない基準がしばしば用いられる。頻繁に用いられるのは、完全断酒1年という基準である。

この標準を用いれば、アメリカおよびカナダ国内のAAミーティング会場ではどこでも多くの断酒成功例に出会えるだろう。

AAミーティングで調査票を記入した11,355人のメンバーのうち60%が、1年以上アルコールを飲んでいないと回答している(強調は引用者による)。次に示すデータによれば、残りの40%の多数はニューカマーであって、すでに酒をやめているか、最初のミーティングからそう長くない後に酒をやめると想定される。

...

AAが効果を示すまでの期間
表4:最初にAAを訪れてから酒をやめるまでの期間の長さ
AAの機能を示すもうひとつの指標は、調査回答者の41%が最初のミーティングの直後に酒をやめ、また23%が1年以内に酒をやめている(合わせて64%)という事実によって示される(強調は引用者による)。

女性の調査回答者の68%が最初のミーティングから1年以内に酒をやめたとしているのに対し、男性は63%である。また30才未満の回答者の74%が最初のミーティングから1年以内に酒をやめたとしているのに対し、30才以上では63%となっている。

調査対象者の中にはまだ断酒に成功していない人もかなりいるが、彼らの回復を絶望的だと見なすAAメンバーはまずいないことも述べておかなければならない。ほぼ、あるいはまったく酒がやめられないまま何年間もAAに出席を続け、最終的には断酒を達成した、という人をAAメンバーの多くは少なくとも一人は知っている。(酒がやめられないアルコホーリクがいても)その人がまだ生きているうちは、まだAAが効果を現していないだけだと、AAメンバーの大多数は考えるだろう。
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(続きます)


2015年01月24日(土) 翻訳企画:AAの回復率(その1)

AAでの回復率や断酒率は、いったいどれぐらいでしょうか・・・。つまり、AAに行く人の何割が酒をやめられるのでしょうか。

これについては、様々なことが言われています。高い数字を挙げる人もあれば、低い数字を言う人もいます。どの話もだいたい根拠が怪しいものです。単なるヨタ話で済ませておけばいいものを、それをネットに掲げられたり、出版物に掲載されたりすると、なんとなく信憑性を帯びて広がることもあります。

怪しげな数字として挙げられる第一のものは、「AAにおける回復率は数%だ」というものです。代表的な例は5%です。例えば、

Why People Drop Out of AA
https://rational.org/index.php?id=56

上のサイトでは、AAの新人の5割は30日未満でドロップアウトしてしまい、1年後に残っている率は5%に過ぎない・・と主張しています。仮にその5%が全員酒をやめていたとして、ようやく回復率5%ってことになりますね。

まあ、このサイトは「ラショナル・リカバリー(理性的回復)」という、非AAの断酒団体のものですから、AAに対する自分たちの優位性を示そうと、こういった数字を出しているのでしょう。(ただ、後述しますが、この5%という数字の解釈には恥ずかしいほど大きな誤りがあります)。

反対に、こうした数パーセントの回復率という数字を鵜呑みにした上で、数十年前のAAは7割とか8割の回復率を誇っていた、という主張をする人たちもいます。こちらの数字はウソではないのですが(ビッグブックにそう書いてあるしね)、回復率というのは分数で表されますから、分母と分子に何を置くかで数字はいくらでも変化します。そのあたりの事情を酌まないとなりません。

ともあれ、「(少なくとも今の)AAは断酒に有効ではない」という、何を根拠にそう主張しているのか怪しい話に対して、それなりの反証が必要ですね。

そのあたりをじっくり書こうと思っても、ちゃんとしたことを書こうとすれば調べ物に時間がかかりすぎます(それこそ「研究」になっちゃいます)。なにか雑記の良いネタはないか・・と探しているうちに見つけたのが、この論文です。

Alcoholics Anonymous (AA) Recovery Outcome Rates
Contemporary Myth and Misinterpretation
http://hindsfoot.org/recout01.pdf

2〜3年前にここで紹介しようと翻訳を進めていたのですが、忙しくて他のことをしているうちに、どんどん先に伸びてしまいました。特に引っ越し前後からは手がついていなかったのですが、それなりの形になったので、掲載することにしました。

著者はアメリカ在住の3人のAAメンバー。丹念な調査をもとに、5%の回復率の誤解を明らかにし、7割・8割の回復率の謎を解き、今の(アメリカ・カナダの)AAが持っているデータを元にAAの有効性についてどのような主張が可能なのかを検証しています。彼らの主張にまったく偏りがないとは言えませんが、AAの回復率についてこれ以上しっかりした調査は他には見あたりません。

長いので何回かに分けての連載になります。では、お読みいただきたい。

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アルコホーリクス・アノニマス(AA)の回復率
 〜現代における神話と誤解〜

2008年1月1日

(2008年10月11日――2007年のメンバー調査の結果を反映)

はじめに

この論文はAAメンバーのために書かれたもので、AAの歴史的な記録を調査した結果を内外に伝達することを目的としている。AAにおける回復率について広がっている誤解や誤った評価についての情報を、AAメンバーや学術的研究を行う人々に提供する。

アルコホーリクス・アノニマスの共同体は、外部の議論への参加や公の議論を避けるという原則を長年にわたって確立し実践してきた。筆者たちはAAを代弁していないことを強調しておかなければならない。私たちはAAの歴史に関心を持ち、その歴史の解釈の誤りや(根拠のない)神話の蔓延を正す必要性を確信するものである。

アーサー・S、テキサス州アーリントン
トム・E、ニューヨーク州ラッピンガー
グレン・C、インディアナ州サウスベンド

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この論文の出版は、アルコホーリクス・アノニマスおよびその世界的なサービス機構のいずれかが、この内容について提携したり、承認したり、支持していることを意味しない。この論文に示された見解は、すべて筆者らのみによるものである。
AA、Alcoholics Anonymous、The Big Book、Box 4-5-9、The Grapevine、GV、Box 1980およびLa Vinaはすべてアルコホーリクス・アノニマス・ワールド・サービス社(AAWS)およびAAグレープバイン社の登録商標である。
AAWSおよびAAグレープバイン社の出版物からのこの論文への引用は、合衆国著作権法の批判・批評・学識および研究のためのグッドフェイス・アンド・フェアユース条項によるものである。
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前書き

「ひどい思い出ではなく、良い日々の思い出が(トラブルの)原因であるものさ」
  〜フランクリン・アダムス(1881-1960)

この論文は、現在のAAが経験している5%(あるいはそれ以下)の「成功率」と、それとは対照的に1940年代・1950年代にAAが享受したとされている50%、70%、75%、80%あるいは93%(どうぞお好きなのを選んで)の「成功率」についての誤った神話に焦点を当てる。ここで「神話」という言葉を用いるのは、(現在の)低いとされる成功率は想像やねつ造によるもので、事実に基づいた調査によるものではなく、無関心の産物にすぎないことを強調するためである。

一方、注目すべきは(過去の)神話的なパーセントの数字の由来である。それには系統だった調査や、他者による追試や、引用出典の確認という確立した手法の欠如が見られる。こうした神話を広めようとしている者の中には自らを「AA歴史愛好家」を名乗るAAメンバーが少なくない。彼らがフィクションを真実として、また風聞を歴史的事実だと主張しているのは、実に残念なことである。

AA共同体には口伝(述べ伝え)の伝統が強くある。多くの情報は口から語られた言葉として手渡されていく。これには良い面と悪い面がある。神話と真実をどう見分けたら良いのか? AAメンバーは心から何かを真実だと信じていると表明することはできるが、それが正確であるとは限らない。これが神話と真実の違いである。であるがゆえに、本論では確実性を期すため、内容が信頼できる独立した文書の情報源によって確認するという多大な努力が払われた。情報源については脚注および本文中に示してある。

インターネットにおいても、また出版物やAAメンバー個人の話、あるいはテレビにおいても、初期から中期のAAを描写する際に、その典型的な回復率を50~75%としている。こうした高い数字は、しばしば続いて現在のAAにおける回復率が10%、5%あるいはそれ以下であるという描写を伴っている。この(高率と低率の)二つの数字の組み合わせは、牧歌的な過去のAAと、現在の荒涼たるAAとを対比させるために使われる。

・現在のAAにおける回復率が10%、5%あるいはそれ以下であるという主張は誤りである。それは、AAのゼネラル・サービス・オフィス 1 が「AAメンバー調査」について1989〜1990年に作成した内部報告書を間違って解釈した結果であり、それが誤ったまま広められたものである。

1. アメリカ・カナダのゼネラル・サービス・オフィス(GSO)はニューヨーク市にある。本論ではしばしばAAWS/GSOと表記する。

・AAの(初期における)50~70%の回復率という主張はAAのさまざまな書籍やその他の出版物を出典としているが、たったひとつの例外を除いてその根拠を示していない。その根拠はビッグブック 2 初版に収められたAAメンバーたちの個人的な経験談に帰せられる。

2. 「ビッグブック」という言葉はAAの基本テキストである『アルコホーリクス・アノニマス』という本のタイトルの代わりに使われている(どちらもAAWSの登録商標である)。

50~70%の回復率という数字は、1941年に最初に出版物に登場してから現在に至るまで、変更されることも妥当性を検討されることもなく、引用され続けている。

1989~1990年のゼネラルサービスオフィス(GSO)の内部報告書は、過去5回のAAメンバー調査を分析したものだが、これに含まれた手書きのグラフが、AAの「回復率」が5%あるいはそれ以下(もしくはAAの失敗率が95%以上)であるという誤った解釈をしつこく作り出している。 3

3. “AA’s Triennial Surveys”(AAの3年ごとの調査について)というタイトルで、1977~1989年の5回の調査についてのものである。

AAについてのこれほど重大なしかも否定的な推定が、不用意に流通され、それが「確実」であると主張され、しかも、どこで、いつその「確実性」が確立されたのかが示されることがないのは驚くべきことである。過去の文献からの引用があっても、それは注意を欠いたおざなりなものにすぎず、多くの場合、誤りのある他の出版物を(無批判に)信用して参照・引用しているのみである。誤りを含んだ引用が、他の誤りを含んだ引用を補強するために使われている。

さらに不幸なことは、そうした執筆者(あるいははAAの歴史愛好家たち)の中に、引用元の統計的な信頼性や正確性について、引用元のオリジナルデータを、批判的にかつバイアスを持たずに調査した者は明らかにいない。メンバー調査に示された基礎的なデータから「失敗率」と見なされている数字を単に複製しているに過ぎないのである。その基礎的データとデータの示す意味は、この節の後半に示す。

近年、インターネットを使うことで、誰でも参加できる国際的な討論の場を設けることが容易になった。「回復」、「AAの歴史」、「AAアーカイブ」などと呼ばれるウェブサイトの数も激増した。それらは個人的な不平や長話で溢れかえっているが、AAの歴史やAAの回復のプログラムについても極めて幅広く(修正主義者のものも)扱われている。学術的・医学的な興味を満たすサイトも同様に大量に登場している。

(それらにより)現在のAAにおける回復率が10%、5%、あるいはそれ以下という誤った神話は、その正確性について疑問を投げかけられることも、また根拠を調査されることもないまま、広く伝搬することとなった。AAの回復率あるいは失敗率という話題は、逸話的な誤伝、誤った解釈、主観による大きな影響を受けているのである。

AAにおける回復率についての議論、調査、分析を、この論文では二つのカテゴリに分けた調査として報告する。

最初のカテゴリは、現在のAAが5%あるいはそれ以下の回復率しか成し遂げていないという(極めて誤りの多い)主張についてである。このがっかりする成功率の主張は間違いなのであるが、AAメンバーの中にはこれを躊躇なく信じるばかりでなく、個人的な意見を補強する材料として使おうとする一派がある。彼らはAAの歴史の修正主義者であり、初期のAAプログラムの優越性を誇大に主張して宣伝している。

二番目のカテゴリは、50%の人がAAですぐに成功し、「スリップ」した者の半分(25%)が戻ってきて成功することで、全体として75%の回復率を示したという、広く信じられかつ繰り返し表明される見解についてである。これは1930年代後半にAAが始まって以来、「最善の推定値」として流布している。
この論文では、これを「50%+25%の成功率(トータルで75%の成功率)」と表現する。

現在までの研究成果によれば、この「50%+25%の成功率」はAAの(初期から現在までを通して)さまざまに見積もられた成功率の中でも最善の値であろうと考えられる。

・この「50%+25%の成功率」という数字には、「真剣にAAに取り組んで努力した対象者について」というただひとつの条件が付けられているが、この条件は極めて重要であるにも関わらず無視されることが多い。(つまりはAAに十分時間や労力を割いた上でなおAAを出ていくかどうか、ということ)。これには、この治療方法に努力して取り組んだ対象でないと、「成功」したのか「失敗」したのかを判定することはできない、という単純かつ明白な前提がある。

重要なことは、過去であれ、現在であれ、この(真剣に取り組んだ人という)カテゴリに当てはまる対象者は、対象者全体の20%あるいは40%(5人に1人か2人)と見積もられることである。

本論のこれ以降では、AAの成功率あるいは失敗率の由来となった情報源を特定し、また除外、ねつ造、誤解を受けた関連情報にも光を当てる。最初に関心と分析の対象となるのは、大きな誤解を受けてきた、GSOによる1989~1990年のメンバー調査の報告書である。

(続く)

−−−−−−−−

というわけで、今回は序論だけ。続きは次回になります。


2014年12月31日(水) それでもなお・・・

人は不合理、非論理、利己的です
 それでもなお、人を愛しなさい

あなたが善を行うと、
利己的な目的でそれをしたと言われるでしょう
 それでもなお、善を行いなさい

目的を達しようとするとき、
不実な友だちと本物の敵に出会うでしょう
 それでもなお、やり遂げなさい

善い行いをしても、
おそらく次の日には忘れられるでしょう
 それでもなお、し続けなさい

あなたの正直さと誠実さとが、あなたへの攻撃を招くでしょう
 それでもなお、正直で誠実であり続けなさい

何年もかけて作り上げたものが、一晩で壊されるでしょう
 それでもなお、作り続けなさい

本当に助けを必要とする人たちも、
助けたあなたに恩知らずの仕打ちをするでしょう
 それでもなお、助け続けなさい

あなたの中の最良のものを、この世界に与えなさい
たとえそれが十分でなくても
 それでもなお、最良のものをこの世界に与え続けなさい

最後に振り返ると、あなたにもわかるはず
結局は、全てあなたと内なる神との間のことなのです
 あなたと他の人の間のことであったことは一度もなかったのです

−−−−

マザー・テレサによるとされる詩ですが、調べていくとアメリカの元官僚ケント・M・キースによる「逆説の10ヵ条」が元になっていることが分かりました。なぜそれがマザー・テレサのものとされたのか調べ、それをネタに久しぶりに「心の家路」の更新をしました。こちらです。

それでもなお - ANYWAY
http://www.ieji.org/archive/anyway.html

マザー・テレサのものは「人を助けることについて」、キースのものは「リーダーシップについて」と、この二つはかなり趣が異なりますが、相通じるものだと再認識しました。

詳しいことは省きますが、今年ほど「人を助けることについて」また「リーダーシップとは何か」について考えた一年は過去になかったように思います。

今年は仏教の本を読みましたが、「人間の本質は自己中心である」だと説くのは仏教も他の宗教も変わりありません。ならば一人で生きていければ楽なのでしょうが、(数少ない例外を除けば)人間は一人では生きていけず、群れて社会を作って生きていくしかありません。自己中心的な存在が群れて生きていかざるを得ないところに難しさがあるのでしょう(ヤマアラシのジレンマ)。

12ステップの3番目で、私たちは「意志と生き方」をゆだねます。「生き方」とは人生そのものです。つまり、ステップ3を伝えるためには、伝える側が「人生とは何か」を知っていなければなりません。

そんなことも含めて、年の最後に、すべての援助者の人と、すべてのリーダーのために、「それでもなお(ANYWAY)」を紹介させていただきました。

今年も1年ありがとうございました。

今年一年の統計データ(Webalizer出力データ)
送出バイト数 227.0Gbytes
訪問者数 106万7千
リクエストページ数 1191万
リクエストファイル数 1283万
リクエスト数 1347万
一日あたりの訪問者数 2923人/日
(FC2ブログはカウンターを設置していないので不明)。

滅多に更新しなくなったせいで、アクセスもやや減りました。更新のために久しぶりにHTMLエディタを開いたら、使い方を忘れていて戸惑いました。最近は wikiのほうばかりいじっています。来年以降は完全にwikiに移行するかもしれません。

紅白にサザンが出ていましたね。ではではまた来年。


2014年12月11日(木) 人に属する

関東に越してきて、こちらのAAミーティングに多少なりとも顔を出しています。いろいろ忙しくてたくさんのミーティングには出席できていないのが残念です。それでもいくつかの会場を覗いてみて、数年前とは雰囲気やミーティングの進め方が変わっているところが多いことに気づかされました。

変化が起きたグループは、数年前とはメンバーががらりと入れ替わったか、古いメンバーが残っていたとしてもグループの運営が(ソーバーの長さが)若いメンバーに任されています。グループの雰囲気やミーティングの指向性は、運営を主に担っているメンバーの意向が反映されるものです。個人のリーダーシップに任せずいろいろなことを皆で話し合って決めていくのがAAですが、現場で運営に当たっている人間次第の要素もあります。

考えてみれば、僕も長野で3つAAグループを立ち上げましたが、どれも僕がグループを離れると、僕がいた頃とは違った考え方、やり方を取るようになりました。それについて、僕は干渉して元に戻そうとは思いませんでした。その理由は、アルコホーリックは人から干渉を受けることを好まない、ってこともありますが、むしろ、責任を負っていない人間の勝手な発言は現場に迷惑だというのがメインです。AAグループを存続させていく責任は、そのグループのメンバー以外には背負えないからです。

僕はあくまで僕自身のために一日一日、より素面になろうと生きてきたに過ぎません。何らかのパワー(例えば人への影響力とか)を身につける事を目的にしてきたわけではありません。しかし、どこの団体でもそうでしょうが、一つの団体の中で10年、20年と過ごしていくと、経験の長さがその人の言葉に何らかの重みを与えるようになります。それはAAとて例外ではなく、無責任なことは言えなくなってくるものです。(そのことに無自覚な人もいるし、自分の言葉に影響力がないのを恨む人もいるけどね)。

同じグループに長く留まりながら、新しい人たちにグループの運営を任せ、やり方が変わって行くのを口出しせず、静かに見守っていられる人はたいしたものだと思います。それができないのなら、別のグループに移るべきだとも思うんですけどね。

ともあれ、現実面でのやり方や方向性は、運営している人間次第ということです。そういったものは「人に属している」というわけだ。だから、人が入れ替われば、どんどん変化していって当然です。

AAは変化することが良いのでしょう。人が入れ替わっても、変化させずにとどめようとすれば、自然な変化を押しとどめるための強制力が必要になる。その強制力を「規則」を作ることによってもたらそうとすれば、AAは妙なことになってしまうでしょう。

だからといって、どんな変化が起きていっても良いわけではなく、AAがAAであるために必要な原理は受け継がれていかなければなりません。人から人へと手渡していく、述べ伝えていく、というやり方はうまく働きません。伝言ゲームと同じことが起きるだけです。だから、AAはビッグブックのようなテキストを用意し、一人ひとりがそのテキストから学ぶことで、原理が変わらずに受け継いでいけるようにしているわけです。

どんなにAAを愛する人であっても、いつかはAAを離れねばなりません。自分がAAを離れた後も、自分の考え方ややり方を受け継いでいって欲しい、と思うのは単なる利己主義でしょう。であるものの、AAがAAであるための原理は受け継がれていって欲しいものです。人は必ず滅ぶし、人の集まりであるAAグループもまたしかり。でも、AAという共同体は未来へと続いていって欲しいと願っているのです。共同体にも、テキスト本にも同じ「AA」という名前を付けたのは、そんな意図が込められているのかもしれませんね。


2014年10月11日(土) 一人ひとりの自由な解釈

最近は「心の家路」を更新する時間もあまり取れず、更新したとしてもwikiの方ばっかりでした。おかげで、この「日々雑記」は何ヶ月も更新されないままになっていました。ほったらかしにするのも良くないのでは、というご意見もいただきましたので、これからは月に何回かの更新を心がけたいと思います。

さて、AAプログラムをどのように解釈しようと、その人の自由である、とビル・Wは述べています。ここで、AAプログラムとは、たいていは「12のステップ」のことを指しているわけですが、当然同じことは12の伝統や、12の概念にも当てはまります(ただしその話は後回しにしましょう)。

ステップ4・5の棚卸しのやり方を取り上げてみても、たくさんの種類のやり方があります。どのやり方が正しく、どのやり方が間違っている・・と言うことはできません。

あえて言えば、人間は、自分に役に立ったやり方が「良いやり方だ」と評価する傾向があります。先日、AAのラウンドアップに参加しましたが、招かれた医師がこんな話をしていました。

「アルコール依存症の人で、私の病院を良い病院だと言ってくれる人がいる。それは、その人がこの病院に入院したことが、酒をやめるきっかけになったから、そう評価してくれるわけで、きっかけにならなかった人たちは違った評価をするだろう」

自分に利があるものを良しとする・・人は実にシンプルな評価基準を持っています。同じことは12ステップについても言えるでしょう。12ステップにいろいろな解釈があるなかで、自分を回復させてくれたやり方が「良いやり方」だと人は評価するでしょう。

試したやり方が一つだけの人は、そのやり方がベストだと言うでしょう。いくつか違ったやり方を試した人は、その中からどれかをベストに選ぶでしょう。人によってベストが違っている。だから、ステップをどのように解釈しても良いという自由がAAにはあるのでしょう。

僕はビッグブックをベースにしたやり方を自分で試し、人に勧めてもいるわけですが、それは僕がそれがベストだと信じているがゆえです。しかし、その気持ちが行き過ぎて、「このやり方が、他のどんなやり方よりも優れている」などと言いだしたとしたら、それは傲慢の極みでしょう。別の解釈があり得るということも認めなければなりませんし、時には積極的に今まで自分が試していなかった考えを取り入れ、いままでの自分の考えを否定していくことをしないと進歩がありません。

AAのプログラムは自由に解釈して良い・・同時に、自分の選んだ解釈が自分に回復をもたらすかどうか、それも自分の責任です。自分の選んだ解釈で回復できなかったとしても、それはその人の責任に帰されることになるでしょう。

では、12の伝統はどうか? こちらも12のステップと同じように、一人ひとりが自由に解釈することになります。12の伝統についても、ある一つの解釈を人に押しつけ、他の考え方を否定するようなことをすれば、それは傲慢の極みです。

しかし、12の伝統は、一人のAAメンバーはもちろんのこと、集団に対して使われるものでもありますから、人によって解釈が異なって良い、とばかり言っていられません。人によって解釈が違っていては困る場合も出てくるでしょう。皆で共有できる解釈を作らねばなりません。そこでメンバーが集まって民主的に話し合い、決める必要があります。あるグループが決めたことと、別のグループが決めたことが違っている場合もあるでしょう。それで当然ですし、違っていても差し支えなければ、そのままにしておけばよいし、なにかの関係で共有する必要があれば、議論していけばよいでしょう。

AAでは、どんな集団でも、そのメンバーが時間の経過とともに入れ替わっていきます。また、集団を構成するメンバー一人ひとりの考え方も時間とともに変化していきます。だから、伝統の解釈にも変化が生じます。

例えば、僕がAAにつながったころは「AAがコマーシャルを流す」なんてことは考えられませんでした。そのような宣伝行為はAAにはふさわしくない、と多くの人が考えていました。しかし、インターネットを通じて諸外国の事情が触れられる時代になると、海外のAAのなかには広告を出したり、CMを作って流しているところが結構たくさんあることが分かってきました。そんなことも影響したのでしょう、やがて日本のAAもCMを作って流すようになったわけです。

これは12の伝統を変えてしまったのではありません。以前の解釈が間違っていて、それが正された・・・というわけでもありません。同じ「CM」という一つの事柄に対して、違った判断が示されうる、ということです。それはAAのプログラムの性質を考えれば当然のことで、何か一つの絶対的な基準があり得る、と考えるべきではないのです。

(よく言われるように、12の伝統は基準ではなく、一人ひとりが考えるための判断材料です)。

このように、12の伝統についても、自分で自由に解釈して良いものです。しかし、集団として共有できる解釈を議論しているときには、自分の考えが否定されることもあるでしょうが、それはそれで良いのではないでしょうか。

ところで、12の伝統を「人を非難する道具」に使う人もいるのが残念なことです。AAのプログラムは人を非難したり攻撃したりするためのものではないのですが、人はその誘惑に負けることがあります(僕にも当然その経験があります)。人間は誰しも完璧ではあり得ないのですから、そのような不完全さを受け入れ、理解するように努めていかなければなりません。


もくじ過去へ未来へ

by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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