心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2009年08月31日(月) 死の数字

日本の年間死者数は110万人ほど。昭和40年代には70万人ぐらいでしたが、高齢化によって今後160万人ぐらいまで増える推計です。

さて、全死者数のうちアルコールが原因で死ぬ人の割合はどれぐらいか。これは簡単にわかりません。死因として「アルコール」とは書かれず、肝硬変とか心不全となるからです。日本ではこの種の研究が見あたりませんが、アメリカでは国の調査により約3%という数字が出ています。

日本とアメリカでそれほど事情が違わないとすると、日本では毎年3万人ぐらいの人が酒が原因で死んでいることになります。

厚生労働省の調査では、日本のアルコール依存症者数は82万人だそうです。毎年何人が新たに病気になってこの人数に入り、何人が死んでこの人数から出て行くのかは分かりませんが、年齢分布からみて年間3万人という数字は現実に近いでしょう。
9割以上が50代までに死んでしまうという話もありました。

日本の自殺者数は年間3万程度で推移しています。その中でアルコール乱用がある人の割合は研究により幅があり、少ない数字では4%、多いと30%。ざっくり毎年数千人の依存症者が飲みながら自殺していると見られます。

数字の話を続けるついでに、自助グループの効果の話をしましょう。
これもアメリカの話で、何のケアもせず(医者も自助会もなく)飲まずに一生を終えるアル中の比率は3%ほど。現実には(アメリカでは)30%の人が飲まずに一生を終えます。
つまり何かのケアによって、3%→30%になっているわけです。

では何が効いているのか。AAが行う定期調査では、メンバーの2/3は断酒後にもAA以外で何か(心理、精神、スピリチュアル)のケアを受けています。初期の断酒維持に、これらのケアが有効に働いていることは疑いがありません。

アメリカでは公的な健康保険が事実上なく、民間の保険会社がまかなっています。そして保険会社が慢性疾患の継続ケアに金を払いたがらないのは、どの国でも共通です。なのでカウンセリングなど職業家が提供するケアを一生受け続けられるのは、一部の裕福な人に限られます。自助グループは無料ではないのですが、はるかに安いコストで継続できます。

何年という短期ではなく、一生というレベルで見た場合、3%を30%に押し上げている主役はさまざまな自助グループです。日本でも今後自助グループが発達すれば3割という数字を期待してもいいと思います。


2009年08月30日(日) 病気でない≠健康

北海道の中川君は断酒したにもかかわらず落選してしまいました。もうすこし得票できていれば、比例区復活できたのかもしれませんが(次点だった)。
いずれにせよ彼は、「大事なときに限って飲んでしまう」という特徴を全国レベルで示してくれました。

さて、話は変わって「サイコパス」という概念があります。日本語では精神病質。
連続殺人犯の多くはサイコパスだとされ、FBI心理捜査官がブームになったときに世間に広く知られました。サイコパスは前頭葉に障害があり、良心が欠如しており(知識としては「良心」が何かは知っている)、人への共感や思いやりを欠き、責任を感じません。

病気か病気でないかといえば、サイコパスは病気ではなく、多くが社会で普通に暮らしています。だから精神が健康だというわけではありません(ここは重要)。

アメリカの心理学者が作ったとされるサイコパス診断用10の質問というのがあります(ニコ動にあったので興味のある人が探してください)。その中の有名な質問をひとつ。

「あなたは妹と一緒に、おばあさんの葬式に行った。
 そこで黒の髪に黒の洋服を着て黒の靴を履いた男に魅力を感じた。
 その男はあなたとあなたの妹さんの理想のタイプだ。
 そしてその翌日、あなたは妹を殺した。
 どうしてそうしたと思うか。」

・・・

妹に彼を取られたくなかったから・・・というのが、通常の人の考える最悪のパターンでしょうか。少なくともそこには「私が幸せになるため」という了解可能な動機があります。

ではサイコパスの場合には、(ネタバレだよ)

・・・

妹を殺せば、またその人と葬式で会えると思ったから。

病気でないということは健康を意味しません。精神科のやっかいになっていないから心が健康だというのが幻想です。


2009年08月29日(土) 自助グループ

アルコール依存症の本を読むと、自助グループの項目に「断酒会」が載っています。最近の本だとAAも載っています。

断酒会はアメリカのAAを参考にして作られたと書いてあります。AAは、株のブローカーと外科医の二人のアル中が出会ったのが始まりとあります。これだけ読んで、まるでAAが世界で初めての自助グループであるかのように誤解している人も多そうな気がします。実際僕もそうでした。

いま、こちらの本を読んでいます。
http://www.yo.rim.or.jp/~kyo-darc/book/book_007.html

AA以前にもたくさんのグループがあったことがわかります。現在アメリカ国内のAAメンバー数は100万人あまりですが、19世紀に存在したグループの中には、その何倍ものメンバーを集めたものもありました。しかし、それがことごとく弱体化し、ほとんどが消えてしまったのです。

理由はいろいろあったようです。
典型的なのが政治活動に巻き込まれ、グループの中が論争ばかりになって脱会者が相次ぐ。個人的なスターによって広まったものが、その人の再飲酒ですっかり信用を落とす。金銭的、あるいは主導権争いでの崩壊。骨となる治療プログラムがないために長続きしない。面倒な入会者を拒んだために、徐々に衰退。そして目立つのが、優秀な指導者によって拡大したものが、その人の引退や死によって霧散してしまうもの。

こう考えると、AAの12の伝統というものは、過去に消え去った団体の経験を集めたものと言えそうです。伝統を書いたビルは、過去の団体のことを相当研究していたのでしょう。


2009年08月28日(金) アル中の死因

二郎さんの掲示板で、アル中の死因についての話があったので、資料を取り出してきました。
浜松医科大の鈴木康夫という先生が、患者1,021名の追跡調査をしたところ、257名の死亡が確認されました。以下はその死因内訳です。

病死および自然死(合計189)
・肝硬変 67 (35.4%)
・心不全 47 (24.9%)
・癌   22 (11.6%)
・糖尿病 16 (8.5%)
・脳血管障害 11 (5.8%)
・肺炎  3 (1.7%)
・肺結核・腎不全・十二指腸潰瘍 各1

・振戦せん妄   2
・飲酒による衰弱 5
・ウェルニッケ脳炎 2

・老衰 3 (1.7%)
・不明 8 (4.2%)

災害死(合計27)
・交通事故 14
・水死 4
・焼死 2
・凍死 2
・入浴中 1
・不明(変死) 4

自殺(合計14)
・縊死 4
・鉄道 2
・ガス 2
・農薬 2
・飛び下り 1
・排気ガス 1
・リストカット 1
・不明 1

他殺(合計5)

転帰不明の人の中には既に死亡している人も多いと見られ、実際の死亡率は3割を超えると予想される。

病死者でも「ほとんどの患者が飲酒しているような状態」で、断酒中は「何名か」。
災害死・自殺・他殺は全員飲酒中。自殺者の婚姻状況は、離婚もしくは単身。

死亡平均年齢は48.4才。

太陽出版『テキストブック アルコール依存症』榎本稔・安田美弥子 より


2009年08月27日(木) いそん、いぞん?

広辞苑をちょっと調べてみました。

そんで載っていて、ぞんもありだと書いてあるもの。

 いそん【依存】(イゾンとも)
 げんそん【現存】(ゲンゾンとも)
 きょうそん【共存】(キョウゾンとも)
 ざんそん【残存】(ザンゾンとも)
 へいそん【併存・並存】(ヘイゾンとも)
 けいそん【恵存】(ケイゾンとも)

ぞんで載っていて、そんもありだと書いてあるもの。

 せいぞん【生存】(セイソンとも)

そん、のみ

 きそん【既存】
 いそん【遺存】
 かんそん【完存】
 げんそん【厳存】
 じそん【自存】
 しゅくそん【宿存】

ぞん、のみ

 いちぞん【一存】
 おんぞん【温存】
 ぐぞん【愚存】
 しょぞん【所存】
 ないぞん【内存】
 ほぞん【保存】

NHKでの読みは、こんな記事がありました。
Excite Bitコネタ 「アルコールいぞんしょう? いそんしょう?」


2009年08月26日(水) ぶしゅ

月に一回の本社勤務日。
経費の精算、業務報告、それから関係者が集まって会議。
それから、顔の見えない電話や、記録に残ってしまうメールではできないうわさ話がいろいろ。

帰りに八王子駅のホームで駅そばを食べました。支払いはsuica。
コンビニや高速道路の売店で買い物することが多かった頃はedyを使っていたのですが、最近は鉄道利用が多いのでsuicaを使うことにしました。僕の携帯はFelicaの機能がないので、プラスチックカードが何枚も財布に入っているのです。

八王子駅のコンコースにはケーキなどを売っているお店が入っているのですが、これがマンスリー・スイーツという名前で、月替わりでお店が替わる仕組みになっています。

どこの店でもおみやげ用にケーキなどを買うと、保冷剤を一緒に入れてくれます。保冷剤の量を決めるため帰宅までの時間を聞かれます。ここで正直に「自宅まで3時間」などと答えてはいけないのです。どうやら保冷剤はせいぜい2時間しか持たないようで、店によっては1時間というところもあります。決められた時間を超えていると、店員さんも困ってしまいます。
そこでこちらは、「1時間か2時間かなぁ。あ、ちょっと多めに入れといてくださいね」などとごまかす作戦に出ます。

ただ一度大きく失敗したことがあります。あれは「雪うさぎ」という名前だったか。
僕はその大福の中身はホイップクリームだと思ったのですが、実はアイスクリームだったのです。いくら保冷剤が入っていても、3時間後には中身が融けて「たぷんたぷん」という感触の物体になってしまい、かじりつくと、まるでスライムに剣を突き立てたように「ぶしゅ」っと溶けたアイスが流れ出てくるのでした。


2009年08月25日(火) アンコントローラブル

今度の日曜日はAAの集まりがあるので、選挙の期日前投票をすませておきました。場所はターミナル駅のコンコースで、結構たくさんの人が来ていました。投票してしまうと選挙報道が気にならなくなるから不思議です。手から離れたと言いましょうか、もはやアンコトローラブルというか、無力というか。いずれにせよ、心穏やかになれるものです。

なんかニュースを見ていると、薬物中毒の芸能人を裁判にかけて、実刑判決になったら刑務所にぶち込めばそれで一件落着、という雰囲気を感じます。その後どうやって病気をよくしていくか、ということは考えられていないような気がします。

アルコールの専門でない一般の精神病院では、依存症の人と他の精神病の人が混在しています。どちらも精神病には違いないのですが、アル中さんたちは「本物の精神病の連中とは一緒にしないでくれ」と言い、他の病気の人は「身から出た錆(自業自得)で精神病院に入ってくる連中と、なりたくないのに病気になった俺たちは違う」と言います。

同じ依存症の中でも、アルコールの人は薬物の人を見下す傾向があります。やはり覚醒剤や麻薬は違法で犯罪行為になってしまうからでしょうか。そんな気持ちも何年かすれば薄れていきますが、最初の2〜3年は「俺は違法なものをやってたわけじゃない」という虚勢とも言えるプライドが強い気がします。(そしてそういうプライドを早期に打ち砕くのは良い結果につながらない)。

アルコール依存症になったのは、たまたま酒が「合法ドラッグ」で、他が非合法だったからにすぎないわけです。もしアルコールが禁止薬物で、MDMAが合法だったら、どうだったでしょう?

冷戦時代、旧ソ連政府はアル中をシベリア送りにし、極寒地で強制労働させたそうです。酒は手に入らないし、逃げ出せないし。断酒率は極めて高かったとか。それでソ連という国からアル中がなくなったわけではありません。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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