あふりかくじらノート
あふりかくじら



 青いくじら。

足の先から頭のてっぺんまで
その青に浸っていく。

だって
生と死はいつでも隣り合わせで
生と死はいつでも表裏で
そして
生はいつでも死を含むから。

日常の山積になった知識の断片を
ひとつひとつ
片付けた。

エッセイが嵐のように終わったから。
たくさんのことが、こころを疲れさせたから。

宿命的なにせものの月明かりを感じて
島にいこうとおもいます。

これからわたしは、ますますくじらになる。

お願い。
詩ではないの。詩的ではないの。

これはただの、たましいの欠片たち。
そしてわたしは、強くなれたから。

2001年06月06日(水)



 刹那。くじら。音。

懐かしさがいつもわたしのこころを苦しめたけれど、
いつのころからか、消えゆく哀しみとか
そういうものを知ったとき、現在の瞬間を
こころから幸福に思えるようになった。

音楽がきこえる。
街の空気を感じる。
空と海。

それらをうつくしいと思うようになった。
なくなることばかり、心配していないで。

そうしたら、生きるのが哀しくなったし、
幸福にもなった。

スカイ島という場所は、静かなところ。
荒荒しい景色と、やわらかい空気。
雨が降って、陽が射して、そして海が広がる。
山と丘を羊にみつめられながら自転車で走る。

ここの海にも、くじらは来るという。

わたしはただ、そうして生き延びているだけだけれど。

2001年06月17日(日)



 雨あがり。ホワイトチョコレート。

だって、雨が降って
それがあんなに大粒でやわらかかったら、
どうしてそれをかさで砕けるというのだろう。

なんでこのまちは、きらきらと重たく輝くのだろう。
雨。
雨あがり。

太陽が石の街に降り注ぎ、
もう何百年もそうしてきたように輝き、
そして風の湿度と感触が、あまりにあたりまえのように
自分の頬をなでるのだとしたら、どうしてわたしは
そのホワイトチョコレート色のかさを手にできるのか。

何故わたしはこの街につながっているのだろう。

青い海の底に、雨は降るのだろうか。

知っていた?
六月ももう終わろうとしている。


2001年06月30日(土)



 都会くじら、心地よい音。

エディンバラのとなり街、グラスゴーを舞台にした映画だった。
Late Night Shopping
色・音・都会暮らし・夜中の喧騒・通りの紙くずを踏む足音。
すこし暗い色調に、若者たちが今夜も動く。深夜の仕事。

都会って淋しいんだな、と思う。
でもだからこそ、やわらかい雨がとてつもなくやさしいんだと思う。

いきているというかんじ。

青い海のくじらもそうだけど
砂漠の上に暮らすわたしもそうだけど
でも
都会のあの若者の顔も、そうだった。

そういえば、わたしはどうやって生きてきたんだっけ。

2001年07月11日(水)



 静かに生きること。

ずっとずっとひとりでパソコンに向かって
朝焼けがきれいだったとき。

夏なのに、とてもひんやりとした空気が
あんなふうに慌ただしく暮らしていた冬を
思い出させたとき。

たくさんの観光客の笑い声が、
城でやる、スコットランドに似合わない野外ライブが、
わたしの静かな部屋に響いたとき。

なんで、淋しいのに淋しくないんだろう。


2001年07月21日(土)



 発酵させるのだ。

旅をして
たくさんのイメージが心のなかにどっとおしよせて
それで、かえってものをかけない自分がいる。

だから、発酵させる。

どんどん心の中に沈んで、しみこんでいったイメージ。
そのフラッシュバック。

ひとつひとつ、するすると紐解く。

アフリカにいってからもう三年がたつみたい。
でもわたしは、次の旅のことばかり考えているけれど。

2001年07月22日(日)



 磨けば愛がうまれるのです。

鍋を焦がした。

炊飯器などという文明は所持しておらず
鍋炊き飯生活なのだが、当初気を配っていた
飯の炊き加減もいまとなっては適当。

油断した。
電話がかかってきたので、話しこんだ。
なんと初歩的なミス。

テフロン加工の鍋が焦げつくのは相当である。
さすが。すごい。
自画自賛。
しかもフラットメイトの鍋だし。

お焦げをエンジョイしたあと
一時間かけて鍋をこすった。
これでもか、というくらいこすった。
熱湯をやさしく入れ、それからブラシでがしがしやった。
深夜になった。

きれいになったとき、何だか鍋への愛着を感じた。
ひとの鍋なんだが。

2001年07月28日(土)
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