あふりかくじらノート
あふりかくじら



 くじらのハーブ風。

ハーバリストにかかりました。
なんか草とか花とか種とか、植物をあれこれやっちゃう
ひとのクリニックです。
もちろん、はじめて。

わたしは、生活態度があまりよくなく酒癖も悪いくせに、
肌にも内臓にもたいした問題はなく、健康なんです。
不健康生活者なんですが。

でも、あまり気持ちのいい話ではないんですが、
簡単に話すとですね。わたしの問題はこんな感じです。

去年の夏、アジア学院という西那須野にあるNGOで、
農業などのボランティアワークキャンプをしたわけです。
通算4回目の参加で、すっかり気を抜いていたのですが、
夜、サンダルで外に出たときにやられてしまったんです。
ブヨ。ブヨ。ブヨ。
十匹くらいの子バエみたいなちびブヨが、わたくしの
うつくしい足首にくっついている図のショッキングな
ことといったら…!
で、計20箇所から30箇所ほど吸血されてしまったわけです。

当初は、さされた個所が少し腫れあがって熱くなるだけでしたが、
ずいぶんあとからでした、ひどくなったの。
それどころか、数ヶ月たっているというのに、さされていない腕や
足の膝下のあたりまで同じ症状が出てきてしまったのです。

で、最初は日本の皮膚科にかかった。
皮膚科の医者は、「それは痒針(ようしん)なんちゃらだ。」とか
いうんですね。アレルギーかなんかで、さされていない場所でも
症状が出てくるんだと。これくらい強い薬じゃなきゃだめだ、って
なにやら強力げな塗り薬をくれるわけです。

しかし、症状はひどく、そんなものはすぐ使いきってしまいました。
でも、英国から同じ医者に同じ薬を請求すると、保険がどうたらとか
言われて…まあ、ようするにもらえなかったわけです。

そして、行ってみたのが大学のクリニック。
これが、はっきり言ってだめでした。医者が、皮膚科の専門でも
何でもなく、てきとうに「一応この薬を塗ってみて」とか言って
あまり症状を見もせずに怪しげな薬をくれるわけです。
…そんなものは、ききません。

Centre of AfricanStudiesで、セクレタリーをやっておられる方が
非常に面倒見のよい方で、わたしたちはいつもお世話になって
いるのですが、彼女がそのハーバリストを紹介してくれた
というわけです。

で、けっこう保守的なわたしはちょっとどきどきしながら
そのドアをあけて、ハーバリストにかかった。

途上国の保健衛生を考えるとき、よく、対処療法ではなく
予防療法で、っていいますよね。病気になってから薬を飲む
とかではなく、保健衛生の知識などを得て、たとえば病気に
ならないように汚い水は飲まない、などで病気を予防する。
まあ、効率の面でもコストの面でも、なにより健康な人間として
生きるために、このほうがいいわけです。
で、いわゆる西欧医療は対処療法、つまり病気があって、そして
それに対処する薬がある、といった考え方をする傾向にある。
わたしがかかったふたりの医者もそうでした。

ところが、ハーバリスト。
彼らは、人間というわたしの健康全体について先に考えるわけです。
食事は何を食べているかとか、いままで病気をしたことはあるかとか、
消化器系の問題はないかとか、エトセトラ…。
で、全体的な概念としての健康と、それがそこなわれる根本的な
理由をつきつめるわけです。

ハーバリストの考えたわたしの症状の理由は、リンパ腺にある、とか。
よくみると、確かにそうなんですね、症状の個所が。
彼女によると、わたしのリンパ腺はブヨの毒に対処しきれず、
血液がきれいになりきれないから、こうなってしまうんだと。
(むずかしいことは、どうもわかりませんけど…)

で、彼女がくれたのは、あれこれよくわからない植物を混ぜて
つくった、血液をきれいにする飲み薬と、かゆみなどをふせぐ
もちろんハーブのクリームでした。

これがほんとうに正しいのかどうかわからないけれど、
なんだかききそうな気がしてきました。匂いもわるくないし。
第一、その考え方自体がたまらなく魅力的に感じられたし、
これの効果が大きかったら、研究はアフリカの医療人類学に
転向するかもしれません。
ハーブって、いままであんまり好きじゃなかったんですが、
ちょっとはまりそうな気がする一日でした。

で、いまわたしは植物くさいんです。



2001年02月07日(水)



 それも胃袋の魅惑。

胃袋が胃袋に入るとき、微かな気分の悪さを感じるのです。
ハギス。ハギス。スコットランド名物。

きょうは、いつもうるさいバグパイパーの小父さんが、
道の端っこで、譜面台に楽譜を広げて遠慮がちな音で
知らない曲を練習していたので、なんだか
寝不足な朝起こされた瞬間の怒りが遠のき、また
微笑んでしまいました。

そんなわけで、日本からのゲストがエディンバラの
わたしのところへ到着した今日この頃です。

ちなみに、「あふりかくじら4号」は
書き忘れたことがいっぱいあって、何だか悔しいです。



2001年02月14日(水)



 ホーンテッド・エディンバラ

なんで、骸骨なんだろう。

それは、観光客に有名な街中の教会で
最初に建築されたのはたしか13世紀とか
そんなもので、そして壁にはめこまれた
雨風にさらされてすこし消えかかっている
石版の彫刻が、どくろ。
とてもこわいどくろだった。

よくみると、そこにもここにも、
お墓にも、どくろ。骸骨。天使とその手のひらの
頭蓋骨。

なんでだろう。



2001年02月20日(火)



 腰巻写真、獲物を狙う。

非ネット生活を終え、南アのエスニック問題からちょっと離れる。

最近印象的だった写真。

メルマガにも書いたとおり、ボツワナでいわゆる「ブッシュマン」の
開発の研究をされている方の講義を最近受けた。
彼が見せてくれた、少し前にある雑誌に出ていた写真。

ボツワナのブッシュ、左手には伝統的な皮の腰巻を身にまとい、
弓矢と槍を手にした狩猟スタイルのふたりの「ブッシュマン」。
そして、右手にはフランスのテレビ局からの撮影隊が三人。
むろん三人とも白人で、テレビカメラとマイクを手にして
「ブッシュマン」に指示を与えている。

彼の話によると、この「ブッシュマン」のふたりは普段
その写真のフランス人と変わらないシャツやパンツを着て、
銃を持って狩猟に出たりするのだという。
つまり、やらせだ。

それは、「ブッシュマン」のイメージ作り。
「ブッシュマンらしさ」の幻想。
たしかに普通に洋服をきた彼らをみるより、皮の腰巻の方が「らしく」はある。
ただ、そこにはあきらかに彼らに対する先入観がある。

メディアは話題性がないと問題だ。
だから、そうする。
だから、ますます先入観・誤解・偏見が広がる。

おそろしいことだ。おそろしいことだ。

新聞、さかさまにして読んでみよう。

2001年03月06日(火)



 くじら・浮遊。

地球の北のすみっこスコットランドにて
東のすみっこからきたわたしは、
おっきな大陸のことを考えている。

ざとうくじらは、夏の間アラスカにいてニシンを食べ
冬の間、小笠原あたりで子育てをする。

まるい地球について考えるきっかけとなったアラスカでの中学時代。
わたしの人生のある起点となる、小笠原。
そして、故郷もないまま浮遊する。
アフリカという、ふれてもふれてもまだ足りない大陸。

友人が、春の休暇のしばしの帰郷。
タンザニアにゆくことが、まるで初めて行くみたいだと、
記憶の中の故郷に胸を躍らせていた。

また、故郷ってなんだろうと考えた。

陽が暮れる。

2001年03月20日(火)



 遠い夜明け。

スティーブ・ビコのことばを脳に響かせながら
わたしのエッセイの意義を考える。

南アフリカは遠い国で
アパルトヘイトの緊張感とその傷跡は計り知れず…

でも
そんな人生を想像するとき
わたしの中に
ベッシー・ヘッドの精神的苦痛と南アでの人生を
感じることができる。

2001年の4月になって、
スコットランドはこんなに明るい。
なんて、暖かいんだろう。

なんでわたしは
日本で生まれ育ったのだろう。

なんで彼女には
会えなかったのだろう。

今日からコートを脱いで
春に溶けこめば
何かがわかるんだろうか。

2001年04月01日(日)



 仁侠くじらの盃

すべては、死のために。
劇的なる生の軌跡は、仁義とか義兄弟だとか
そういうものにまみれ渦巻いたまま、死に至るのみ。

午後8時のエディンバラ、雲の多い夕暮れの空に
血しぶきの中、何度でも撃たれ弾かれる身体を
フラッシュバックさせる。

北野 武 『BROTHER』
夕べの映画の記憶から。

たとえば彼は、そうやって生きていくしかなかったわけで、
あまりに孤独な魂が生きるには、もう誰かを殺していくより
ほかに術がなかったのだ。
彼の淋しい人生は、人を殺し続けることで彩られていたし、
それはあまりにも遠くうつくしい孤独。
そうして、自らの死の瞬間に収縮されていく、ただそれだけの
すべての営み。
ぷつりと切られるエンディングは、そのことばの重みと
死と愛と、永遠に続くしかないそういう人生を示唆している。

哀しい人生。

死の感触を知っている人間。
それはこういう哀しすぎる作品を描かせるし、哀しい人生を
創造させる。

「仁」とは、思いやりでありいつくしみである。

仁義とか義兄弟の盃とか、堅く古典的なことば。
その哀しさを、繰り返し執拗に描き出す誰か。

わたしの祖父は、その一文字をわたしに遺した。

誰かが撃ち殺されるシーンをみておかしく笑うことは、
わたしにはとてもできない。


2001年04月10日(火)
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