一橋的雑記所

目次&月別まとめ読み過去未来


2006年01月31日(火) 無事当確!!(泣笑)※ホントは070415.

ええと。
舞-HiMEオンリーinO阪のスペース。
無事に取れてしまっていた模様(模様て)。

準備がてらに、前に書き書きしていた。
徒然な連作をメモ帳にてちまちまと纏め書き始めてみたり。


何考えて。
こんなん書き始めたんだらう己(ヲイ)。
つーか。
どうオチを着けるつもりだったんだらう己(ヲイコラ)。


何かこう。
色々と。
自分の中抉ったりひっくり返したりして。
書き始めた頃の事を、そう前でもないのに思い出しつつ。
もちょっと距離を置いて書き直せないもんかと、右往左往中。

てーか。
こんな事してて間に合うのか、己(え)。

まあ。
当日製本とかそげな恐ろしい事にならない事だけは。
祈りたい今日この頃です。
直前の祝日は全部出勤が決定しているだけに、ええ(えー)。




ええと。


当日。
折っただけのペラい小話ペーパーが何種類も転がっていたら。
笑ってやって下さいませね……(ヲイコラマテ)。




そんな笑えねえ己的諸事情は兎も角。





取敢えず。
密かに憧れていた素敵絵師さまが。
委託ですが参加される予定な事が分かって。
ものっそい嬉しい今日この頃です……♪

こっそりお邪魔しているBlogサイトさまは直参らしいですし。
サークルではないですが、ご来場予定の方も既に。
多数いらっさるやうですし。

何だかもう、自分の小話そっちのけで。
今からドキワクが止まらんのですが ど う す れ ば (知らんがな)。




そりにしても。
何着て行ったらえーんやろ、当日(だから知らんて)。


2006年01月30日(月) 今更、オフライン復帰ー!※ホントは070408.

何年振りでせうねえ……自分でイベント申し込みしたのは。


多分一発突発なんで。
でもって、ジャンルは『舞-HiME』なんで。
以前のサークル名は流石に使えませんので。
現在のサイト名に「。」付けたサークル名にして置きました(何)。

なんですか、帝都のオンリーに一般参加した勢いで。
その場で申し込みしちゃったもんですから。
なーんも考えてませんでした(何々)。

「予定領布物:小説本」
「メインとなるキャラは?:静留、なつき」

静留さんの漢字を二回書き間違えて誤魔化したのは此処だけのないしょです(マテ)。



つーか。
出るんかホンマに、そんな本(ヲイコラ)。








あ。
勿論、コピー本ですよ?

多分。
ゲスト様ありですよ?(多分?!)






ゲスト様よりも己のページ数のが少なくなりそうなのは。
十二国記の頃からのデフォですが何k(蹴倒







つか。
作る暇あるのかなあ、己……(えー)。



2006年01月29日(日)







無事、お別れを済ませて参りましたです。



随分久し振りの友だちとも逢えたり。
さり気なく気遣って貰ったり。
情けないなあと思いつつも、有難かったり。


ちゃんと、お顔も拝見して。
ちゃんと、最後のお別れが出来たと思いますです。




有難う。
楽しかった。
逢えて嬉しかった。




哀しいけれども。
寂しいけれども。
有難う。



いつかまた。
何処かで。




さようなら。
お休みなさい。




2006年01月28日(土)

ちょっと。
衝撃が大きくて。
吐き出さなくては居られなくて。



すみません。
泣き言です。



































人前で。
しかも電車の中で。
ぼろぼろになってしまいました。


後二駅我慢すれば……と思っていたのに。
堪えようが無くて俯いたまま、鞄のハンカチを探していたら。
見知らぬスーツ姿の人が、そっと。
ポケットティッシュを差し出してくれました。
お礼の言葉も無く受け取って。
溢れ出るものを拭い、鼻を啜り。
二駅過ぎて、降りる間際。
その人は、ぽん、と肩を叩いてくれました。


見知らぬ人の優しさに、久し振りに触れた事に。
驚く事も出来ないまま。
降りたその場所にあった、時刻表の裏に寄り掛かって。
声を殺して、泣き崩れそうになるのを堪えました。


報せをくれた人と、連絡が付かなくて。
どうしたら良いのか分からないまま。
気が付いたら着替えも出来ないまま、ベッドの上で寝落ちてました。
3時間ほど転寝をしてしまったらしくて。
目が覚めたのが、今から一時間ちょっと前。









もう、十年以上、逢っていなかったし。
最後に交わした言葉すら思い出せないし。
多分この先も、逢う事のない人だと分かっていたのに。


本当に、二度と逢えなくなるなんて。
思いもしていなかった自分に酷く驚いて。
悲しいよりも何処か、悔しいやうな気持ちが膨れ上がって。











多分。
あの頃。
一番好きだった人でした。



他の誰よりも、大切にしたいと思っていてでも。
それがどうしても出来なくてもどかしくて。
冗談に紛れさせるやうにして、でも。
いつも何処かでこわごわ触れていたやうな。
そんな人でした。











そんな人と。
どんな風に最後のお別れをすれば良いのか。
今の己には、本当に、分かりません。








分かりません、本当に。








2006年01月27日(金) やっぱり向いていないと思った訳で。※ホントは070317.


Q.誰が何に?

A.ええと。
  己が、年齢制限付きな小話に?(其処?!)










ホンマにな……………(伏し目)。



2006年01月26日(木) 辿り着いたその場所がゴールだとは限らない(胡乱)。※ホントは070317.

※すっごい下書き状態です。

※つーか、ぶっちゃけ思いついたことをメモしている状態に等しいです。

※もしかしたら、年齢制限付きっぽく見えるかもです。

※でもちっとも甘くないですし、ヌルイです……色んな意味で(何)。

※てーか、相変らず己のへタレさ加減が酷いです(其処?!)。

※ごめん、静留さんごめん、いつかちゃんと書き直すから……(平伏土下座)。

※毎度の事ながらお話の体裁を為してません(何々)。

※そーいふ不完全なモノを読みたくない方は、華麗にスルーの方向で一つお願いします。

※つーか、此処は下書き場なので毎度そんな感じである事は、既にご存知の方が多いかと思いつつ(ヲイコラ)。

※ある意味、相変らず胡麻粒大な己的脳味噌のキャパがそもそも悪い……(逸らし目)。

※ええとちゃんと推敲終えたらそれと差し替えるか、終えられなかったらさくっと消しますので(え)。

※うっかり読んでしまった方は、幻を見たと思って今しばらく、忘れた振りを何卒よろしくお願い致しますです(えー)。


















この身体の下に組み敷かれ。
汗ばんだ額に黒髪を張り付けたあの子の顔。
苦しげに顰められた眉。
決して視線を合わせようとはせず。
膨れ上がった滴を今にも零れ落とそうとしている瞳。
苦痛そのものを滲ませているようなその顔を見て。
それでもこの胸を浸す興奮と欲望を抑え切れない。
我が身の浅ましさに気が狂いそうだった。









「なあ……」

額に張り付いた黒髪を指先で掻き上げてみる。
その感触にすら敏感にあの子の頬が震え上がる。
いつまで立っても快楽に慣れようとはしないその表情に。
痛むと同時に一層熱を籠もらせる胸が疎ましい。

「辛いん……?」
「な……」

なにが、と掠れた声が紅く濡れる唇から漏れる。

「ちぃとも、良さそうに見えへんから、なつきの顔」
「な……!」

今度は、羞恥にかその頬が紅く染まる。
からかわれたとでも思ったのか、ぼんやりと潤むばかりだった眼差しにあの子の、いつもの強い光が瞬いた。

「ああ、堪忍……からこうたんと違うんよ……」

本心からの言葉を紡ぎながらも自分の唇が酷く歪な微笑を浮かべたのが、あの子の澄んだ瞳に映った影で知れて、更に口元が歪む。

「なあ……やっぱりうち、なつきに酷いこと、してるん?」
「なんで……そんなこと……」

切れ切れに返る声の合間を縫って、震える頬に唇を、触れるか触れないかの距離を保って触れさせてゆく。

「おまえこそ……」

触れ合った場所にあの子の深い声が響いて、思わず顔を上げる。

「おまえこそ、何……?」
「……いや……」

ふい、と背けられた顔、僅かに尖った唇が気になって、伸ばした掌で頬を包み込み此方を向かせる。

「うちが、なんやの? 言いかけてやめられたら気になるやない」

やんわりと責めるように言いながら、もう一度、あの子の瞳の中に映る己を見据える。

――責められるのは、うちの方やろ……?

そう嘯くかのように、酷く冷たい笑みを浮かべた己の表情が寧ろ滑稽で、泣き出しそうな気持ちに、笑いたくなる。
この子を、どんなに強く抱き締めても、触れ合っても、貫いても。
こうして過ごす時間は何処までも自分自身の欲望を満たすものでしかなくて。
この子にとっては、苦痛でしかないのかもしれないと。
分かっていても手放せない。
受け入れられること、許されることで己を安心させたいだけなのに。
この子が望むものは、多分、こんな行為では得られないと分かっているのに。

「……静留」

少し強い声が耳元を打つ。
それよりもずっとずっと力強い腕が、首元に巻きついて、我に返る間もなく引き寄せられる。

「また、何か勝手に考えていただろ……」

呆れたような、寂しいような声と共に、頭の後ろをぎこちない掌が降りてゆく。

「……そないなこと、」
「ない、とか言うなよ」

拗ねたような声音がまた強い響きを帯びる。

「おまえ、私には余計な事、考えるなとか言っておいて、いっつもそうだな」

どくん、と、その音が触れ合った場所から伝わってしまうのではと思うほどに、胸が鳴る。

「……なつき、何言うてはるん? うちにはよう……」
「侮るな」

ぐい、と両肩を押し上げるように体を離されて、思わず無防備な顔で見下ろしてしまう。

「そんな、泣きそうな顔して笑われても、私には通用しない」
「な……」
「いいから、好きにしろ」

次々と言い放つと返事を待たずに、この身体を抱きすくめるようにして引き付ける。

「おまえが望むものが何なのか、私には正直今でも分からない。けど、少なくとも、いつか分かるようになるまで、おまえは、好きにして良いんだ……その、私のことを」
「なつき……」

――あんた、自分で言うてることの意味、分かってはるん?

いつか、この子が「それ」を許すと告げた時。
思わず口にした言葉が脳裏に甦る。
あの時、この子は、顔を真赤にしながら、「分かってる」と断言した。

――おまえの好きにさせること、それが私が今望むことだ。

だから、余計な事は言うな考えるなと。
この身体を今のように、強く強く抱き締めながら、言い放った。
けれど。
あの日のあの子の頬が、それでも僅かに強張り震えていたことをも、この掌は覚えている。

「――なつき……」

この子をこの手に抱き締める時。
その声を上げさせ、涙に濡れさせる時。
どうしようもなく胸に溢れる痛みと熱は。
それでもこの上もなく甘くて。
自分の中で鬩ぎ合う、ありとあらゆる想いさえ。
目の前にある愛しい人の存在すら塗り潰す激しい欲望に姿を変えてしまう。
そのどうしようもなさを。
どうすれば。
どうすれば、この子に。

――あかん。

「……なつきはほんまに、優しいなあ……」

溢れ出しそうな感情を飲み下して。
剥がれ落ちかけた優しさの仮面を掛け直して。
そっと囁いた言葉は、掛け値無しの本心からのもので。

「ば……! 何を言ってる……!」

だからこそだろう、あの子は、頬を染め、乱暴に顔を背けた。

この心を、狂気に陥れるものこの子なら。
正気に引き戻すのも、この子なのだ。

「なあ、なつき……」

触れ合わせた汗ばむ肌の上を、掌でそうっとなぞる。
びくりと震えたあの子の身体は、それでも、逃げずにその場に留まる。

「あんまし、うちを甘やかしたらあきませんえ……?」
「それは……私の台詞だ……」

顔は背けたままあの子の唇が、段々と上がり始めた息の合間にじりじりと言葉を紡ぐ。

「いつまでも……遠慮してたら……私には分からないままだからな……」
「分からへんまんまって……何の事どすか?」
「……き、聞くな……っ!」

快楽よりは羞恥が、そして苦痛めいた戸惑いがあの子の身体と心を強く支配しているのが、その動作や声音からどうしようもなく伝わって、ほんのりと苦いものを覚える。
この先、どれだけ夜を重ねても、身体を重ねても。
二人は全てを分かち合うことは、出来ないかもしれない。
それでも。

「いつか……分からしてみせたいて……まだ、思うててもええのん……?」

相変らず何かに抗うような表情を湛えたままの顔に、何かを堪えるように揺れる黒髪に、指先を触れさせ躍らせながら、囁いてみる。
その言葉が届いたのかどうか、あの子の腕は力強くこの身体を引き寄せ、抱き締めた。

そうして。
許されることの痛みと、哀しみと、熱の中に。
あの子もろとも堕ちてゆく夢を求める夜は、続いてゆくのだろう。
この心の中に燻る狂気と欲望が。
あの子の心の中にも満ちる時が、訪れるまで。



2006年01月25日(水) 色々、つらいんですがー。※ホントは070316.

一つ事にしか集中できない己。
今週一杯は、年に一度あるかないかな。
御仕事集中的シーズン、みたいな?(みたいな?てヲイ)



纏まって休みが取れない状態が。
多分、3月一杯は続きますですし。
(あ、帝都の舞-HiMEオンリー用休暇は確保済みです/何)
4月も、上旬〜中旬は間違い無く。
あれやこれやに忙殺される事、必至なのですが。



出たいなあ……O阪のオンリー(ぽつり)。



つか。
あれとかこれとかそれとかを。
ちゃんと書き直して纏めたいだけなんですがー(え)。



御仕事モードが終わって。
ぷっつりと緊張の糸が切れた辺りで。
ぼんやりと妄想にふける時間が取れるかどうかが、鍵。




つか。
眠るのにも体力が要るって。
ホントやねえ……(何)。



今日は。
朝の7時半から夜の10時まで殆どノンストップやったっちゅーに。
午前2時を過ぎてもまだ眠れんのですが……(伏し目)。



2006年01月24日(火) どうでもいい独り言など(ヲイ)。※ホントは070301.

どうしたもんだか今現在。
己の脳内はややスキンシップ過多な方向へ傾いているやうです。


や。
書いてる小話のお話ですよ?


勿論リアルでも。
可愛いおはごはんとのスキンシップは大好きですがそりはいつもの事ですし(マテ)。



げふがふそりは兎も角。


某オンリーイベントにサークル参加してみたい!と言ふ野望も。
やや真実味を帯びて参りましたです。
こそりと某ミクシな日記では参戦宣言っぽい事を。
(寝ぼけ眼で/え)書いてしまいましたし。


サークル参加を希望するからには。
本を出さないとですし。
サークルカットも描かないとなんですが。
ええ、当落は兎も角(逸らし目)。


どうかな。
書けるかな。
描けるかな。


小話に関しては。
準備運動めいた断片ばかり書いているのでそろそろ。
「決着、つけなあかんよね」な気分なのですが。
その為にはまとまってかっつりどっぷりはまり込む時間が。
もうちょっと必要なんですが。


今、どっぷりかっつり嵌ると。
何だか色んな事でドツボ踏みそうな気がしないでもなかったり(何)。





ただ。
まあ。
ある意味。
人目を気にしないで(笑)。
吐き出すようにして書く、と言ふ原点に。
立ち返りたいなあ……と。
何処かでがつんがつん、思っている部分が己の中にはあって。

本当にサークル復帰するかどうかは己ながら半信半疑なのですけれども。
書く事に対する己自身の気持ちを切り替える。
ちょっとした切っ掛けにはなるかなあと。



何とも、不純っつーか胡乱な動機ですなあ……(他人事かい)。




取敢えず。
縦書きにして読み易い文体に戻すリハビリもそろそろ。
行わないとなあとか思っておりますですはい(其処?!)。


2006年01月23日(月) 浅い眠りにさすらいながらどうやってオチをつけたもんだかかなり迷ってます(何ソレ)。※ホントは20070301.

時間軸:祭り後。
060122付けの「as close as...」とは。
別物だと思って頂けると有難いです(何)。




堕ちて行く。
何もかもが。
光を空気を温度を失って。
いっそ安らかなまでの闇の中へと沈み行く。
ただ、そればかりな筈だった。







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- Ver. N -







深い水の底から浮き上がる。
取り戻した意識が激しい目眩と息苦しさに晒されて。
もがいて足掻いて苦しんで。
それから、再び落下する。
全てが拠り処をを失い予測の付かない力に引きずり回されていく。
酷く、目が回る――。
もういい。
沢山だ、もうこんな――。

「……なつきっ!」

はっ、と目を瞠る。
薄闇に覆われた視界の中。
酷くくっきりと浮かび上がるのは、血の色にも似た、真紅。
それは、この身体の上に圧し掛かるようにしてこちらを覗き込んでいる彼女の瞳。
からからに乾いた唇を開き、その名を呼ぼうとする。
けれども声は、掠れて形を成さなかった。

「どないしたん……えらいうなされて」

静かな、けれども切迫するものを湛えた彼女の声が耳朶を打つ。

「……なんでも……」

何故だろう。
泣き出しそうだと思った。
自分では無く、彼女が。

「何でもない……夢を、」

そう。
夢を見ていた。
暗く冷たく苦しい、夢。
けれども何処から説明したものか少しも分からなくて、ただ大きく息を吐くと、頬に冷やりと触れるものがあった。
彼女の、細い、指。
優しい、けれども、少し震える冷えた指。
暗闇に慣れ始めた目にようやく、彼女の不安定な表情か映った。

違う。そうじゃない。
おまえとの記憶が見せた夢じゃない。

そう言い掛けた言葉を、どうしてだか躊躇いと共に飲み込んで。
遠慮がちに頬に添えられたその指に、自らの掌を重ね、頬を寄せてみる。

「……なつき……」

戸惑うように、彼女の声が揺れる。
そこに色濃く滲む不安の色を、どうにか消してやりたい。
でも、どうすれば良いのか分からない。
じりじりと炙られるような胸の痛みに押され、彼女の首筋に腕を差し伸べる。途端にびくりと震えたその身体を、ゆっくりと引き寄せる。

「夢を……見た……いつもの、昔の、夢だ」

まだかすかに震える彼女の身体を抱きかかえるように回した両腕に、力を籠める。

「暗かった、冷たかった。沈んでゆく時は、本当に苦しかった……それなのに、そこから引き上げられる時はもっと、苦しかった」
「なつ……」
「今でも思い出せる位だ。息が出来るようになった瞬間が一番、苦しかった」

もの問いたげな彼女の声を遮って一息に続けると、その髪に頬を押し付ける。

「だから時々、夢に見る。私にとって恐らく、一番辛い記憶だからだ……ただそれだけだ」
「……堪忍」
「……なんで、あやまる?」

搾り出すような声音を漏らした彼女がそっと、シーツの上に両腕を突いて身体を引き剥がす。逸らされた顔は柔らかな髪に覆われ、そこにある表情を伺わせてはくれない。

「辛いこと、言わしてしもた……」
「まて、私にとって辛い記憶なのは確かだ。でも、」

背けられたその頬を捉えて、こちらを向かせる。
案の定、目をあわそうともしない彼女の横顔に、思わず溜息を零す。

「これはもう、私の一部だ。言葉にしようがしまいが、消える事はない」
「………」
「こうして夢を見たり、思い出したりする事は止められない。でも、おまえが……そんな風に、私にあやまったりする必要は、ないんだ」

言い募りながら、自分でも。
何を話しているのか、何を話したいのか、分からなくなっている事に気付く。
今説明するべきことと本当に話したいことの境目が、咽喉元を今もなお圧するがごとき記憶に引き摺られ、曖昧になってゆく。
そのもどかしさの中で目にするのはただ、切なげな彼女の、横顔。

「静留」

呼べども応えない、その引き結ばれた唇の色が。
逸らされたままの、瞳の色が。
伝えたい全てを拒むかのように、何処までも遠く見える。
だから。

「…………っ」

気がつけば。
強引に、ぶつけるように。
彼女の唇に自分のそれを重ねていた。

「な……」

その声が、自分の名を呼ぶその響きが好きだった。
けれども今は。
何かに怯えるように自分を拒もうとするその声が。

「……つ、き……」

小さく呻くようなその声が胸の奥深く突き刺さるように切なくて、その唇ごと、塞ぎ止める。
伝わる熱が、少しずつ、頭の中に染みてゆくようだった。
痺れるような感覚の中、一方の掌で彼女の頭の輪郭を捉え、もう一方の腕全体で、彼女の腰の曲線を捉える。

どんなに拒まれても。
分からせたい。
伝えたい。
言葉にさえならない想い全てを、分かち合う事など絶対に不可能だと分かっていて、それでも。
行き場を失う前に、こみ上げる気持ちをその衝動のままに身体ごと、彼女に押し付ける。

「………っ」

声にならない彼女の声が、唇伝いに頭の中に直に響く。
初めてあった頃は、分からない、分かりたくないとまで、思っていたのに。
だのに、この心は、身体はこんなにも、彼女に近づきたくて。
触れたくて、分からせたくて。

ああ。
そうか。
これが。

うっすらと熱を帯びた脳裏に何かが過ぎった、その瞬間だった。
ぐい、と強い力が肩を押し、身体を引き剥がされた。
乱れた息、そして。
少し遅れて、彼女の柔らかな髪と指先が、頬に落ちてきた。

「なつき……」

泣き出しそうだった。
苦しそうだった。
溺れ苦しむ夢をみた自分なんかよりも、余程。

「なんで……なんでこないなこと……」

悲しげにすら聞こえるその声音が耳に触れた瞬間。
沸騰するほどの熱を帯びた胸が、瞬時に冷える。

「……駄目か?」

そう。
かつて、拒絶したのは、自分の方だった。
彼女の温もりを否定したのも、自分だった。
それもまた、消せない事実で。
だけど、でも。

「私の方から触れるのは、許せないか?」
「……! そないなこと……!」

驚いたように叫ぶ彼女に、こめかみの血流が凍りつくのを感じる。
一度口にした叫びは、取り返しがつかない。
彼女の差し伸べた手を振り払った、あの時の痛みが、どうしたって消え去らずこの掌の何処かに残されているように。
彼女の心に刻み付けられただろう痛みも、無かった事には出来はしない。
分かっている。
それでも。

「静留……」

囁いて。
静かに、もう一度。
腕に力を込め、引き寄せる。
この心をいつも、身体ごと受け止めてくれた彼女を。
抱き締めたくて、引き寄せる。
逃げないでくれ、と、心から願う。
悲しいほどの想いに、今更気付く。

「おまえが……居てくれて良かった」

悪夢から目覚めた瞬間。
目にした真紅。
どれほど激しい痛みや悲しみが胸に刻み付けられていても、どうしても泣けないでいる自分の心を映し出したように。
泣き出しそうだった、彼女の瞳が。
そこにある事が。
怖い位に、嬉しかったのだ。
それは決して、彼女が抱く想いとは違うとしても。
分かって欲しい。
分からせたい。

同じだ。
おまえと、同じ強さで、私も。

遠い過去。
冷たい水の底に置き去りにしてきた何かが浮かび上がる。
彼女の、悲しい程に一方通行だった心が、それと重なる。
触れ合う頬につめたい滴が伝い、互いの体温で温められて流れ落ちて行く。

「私は、おまえが、好きだ。静留……」

空気を光を温度を失って。
沈むばかりだった自分を。
再び、地上へと引き戻した何か……それは。
空気を光を温度を取り戻した瞬間に覚えた。
生きる事への目眩と苦痛の先に。
こんなにも切ない温もりがもたらされることを。
知っていたのだろうか。

「なつき……」
「だから、泣くな……」

呟く頬に流れ続けるものが。
彼女のものなのか自分のものなのかも分からないまま。
ただ、ひたすらに求めていた。
彼女と共に迎える明日が続くことを。
彼女と共に重ねる、新しい思い出を。


たとえ二人の想いが決して。
同じ形を描くことがなくとも。
いつまでも求め合う、そんな日が続くことを、何処かで。








― 了 ―







相変らず、リハビリ継続中(何々)。


2006年01月22日(日) 明けない夜はないけれども眠らないと後が辛いですよ(胡乱)。※ホントは20070226.

祭り後、で。
ほんのりラヴいのは。
こりがはじめてかも知れませんですはい(何)。







触れて。
その髪に。
頬に。
肌に。



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明け方まで掛かって書き終えたレポートを、机代わりの炬燵の上にきちんと揃え置く。角を挟んで直角の位置、こてんと横たわっているのは、待ち草臥れて数時間前に寝落ちた愛しいあの子。

「書き終えましたえ……言うても、聞こえへんかしら」

溜息混じりに独りごちて、左右の肩を軽く上下させる。
カーテンの向こうが僅かに白んで来るのが、裾から漏れる光で分かる。先程、ドアの方から聞こえてきたのは、新聞配達の音だった。
今日は土曜日。
高校は休みだか、自分は急遽作成を頼まれたレポートを提出する為に、午前の中には大学へ行かなくてはならない。

「……なつき」

もう一度、そうっと声を掛けその肩を揺らしたが、眠りの深い彼女はちょっとやそっとでは目を覚ましはしない。分かっていて、ほんの少し、悪戯心が動いた。

「起きひんのやったら、どないなってもしらんえ……」

呟きながら炬燵を出て、右を下にして寝転がった彼女の傍らに座りなおす。身体の上にくたりと伸ばされていた左腕をそっと持ち上げ、そろそろと動かし、きちんと仰向けに寝かせ直すと、癖のない真っ直ぐな髪が、その幼い寝顔の上にさらさらと掛かったので、ついっと伸ばした指先で掻き上げる。

「なあ、なつき……」

あどけなく無防備な頬は、薄っすらと色づいている。小さな唇から漏れるのは静かで規則正しい寝息。吸い寄せられるようにその場所へと自らのそれを近づけ、後もう少しで触れ合う、という所で、ふと動きを止める。

「……かなんなあ」

触れて。
確かめた。
その息の穏かさと熱を。
そうして、目覚めない彼女に安堵と堪えようの無い恋情を覚え。
その狭間で揺れ続けたあの頃の。
どうしようも無かったあの頃の想い出が。
気持ちの通じ合った今でもこの身を酷く竦ませるから。

苦い笑いを零し、触れることを諦めて、そっと身を引いた。
その時だった。

「……何が……」

くぐもった声を漏らしながら、彼女が眉をしかめ、身じろいだ。

「かなん……だ……」
「……なつき……?」

どきりと波打つ胸を抑え、更に身を引くと、瞠った目の前で、けれども彼女は意味を為さない言葉を口の中で呟きながらごろりと寝返りを打ち、あっけなくこちらに背を向けた。

「……寝ぼけはったんやね」

ほう、と息をついて、我知らず入れていた背中の力を解放する。

今なら。
その髪に、頬に、唇に、頬に、触れたなら。
目覚めている時ならば、酷く照れながらも彼女は。
応えてくれる。
そしてきっと。
眠りの中であっても、彼女は恐らく、許してくれるだろう。
けれども、でも。

「あかんなあ……」

溜息一つを更に零して立ち上がろうと、カーペットに着けた右の手首を。

「だから……」

不意に引かれて、視界が転倒する。
ぐらりバランスを失った上半身が、暖かな彼女の体の上に投げ出される。

「なにが、あかんのだ……?」
「な……っ」

その名を口にする前にぎゅっと、頭ごと強く抱き留められて、声がかき消される。

「何だ……レポート終らなかった……のか……」

未だ半ば眠りの中にあるような茫洋とした声が、彼女の胸から直に耳に響いてくる。

「でももう、遅いし……諦めて、寝ろ……」

うつらうつらと続ける彼女の言葉と腕が温かくて。
少しの逡巡の後、勘違いを訂正しようとした言葉を、飲み込んだ。

「おおきに。ほな、うちももう寝るし、なつきも、お布団行こ、な?」
「も、いい……このままで……」
「あきません、こんなとこで寝てたら風邪引くし」

なおもぐずぐずと何かを呟き続ける彼女の腕から抜け出すと、その手を引いて身体を引き起こす。

「ほら、先、お布団行って。うちもここ片付けたら行きますから」
「う……」

寝ぼけ眼を軽く手の甲でこすって、彼女がぶるりと身体を震わせる。

「寒いな……静留も早く来い……」

欠伸混じりに言って、ふらふらと立ち上がり、覚束ない足取りで隣室へと向かおうとするその背を見やって。
切ないような、寂しいような気持ちに襲われる。

「……なつき」
「んー?」
「おおきに。お陰さんで、レポート無事、終わりました」
「そっか……ああでも礼なんか……私は何もして……」

ぼんやりと振り返りもごもごと口籠もる彼女に微笑み掛けながら、炬燵の電源を切って立ち上がる。

「何も、なんかやあらへん。なつきが傍に居ててくれてたお陰なんよ」
「あー……」

いまひとつ要領を得ない顔で立ち尽くす彼女に追いついて、その背にそっと掌を添える。

「せやから、安心して眠れます……おおきに」
「だから、私は……まあ……」

どうでもいいか、とぽつり呟いて歩き出した彼女に寄り添うように、自分も歩き出す。

触れて。
確かめて。
その温もりを。
許される距離を。

「……静留」

不意に、彼女が足を止めた。
そのままゆっくりと、振り返る。
驚く暇も無かった。
無造作に伸ばされた腕が、するりと首と肩に回されて。
二人の距離がゼロになる。
不器用な動きで、髪と背中を上下する掌。

「……お疲れ様」

ぶっきらぼうな声が耳元を掠めた瞬間。
泣きたくなるような切なさが、自らの頬を染めて行くのを覚える。

「……ほんまに……あんたって子ぉは……」
「わたしが、何だ」

怒ったような声の中に籠もる、恥ずかしげな色に、見えない彼女の頬もきっと酷く赤いに違いないと確信する。

触れる。
確かめる。
その温もりを。
許される、想いを。
抱き締められ、抱き締め返す。

気の遠くなるような幸せに、思わず小さく笑い声を立てた時、照れくさいのか顔を逸らしたまま、彼女は身を引き剥がすと背を向ける。その肩に改めて両手を伸ばし、抱きとめた。
竦んだように緊張する彼女の背中。
それでも、今はもう、怖くは無いから。

「……なんや、うち、眠気飛んでしもたわぁ……」
「なっ、だ、駄目だぞっ、私は寝るからなっ」
「駄目て。一体何が、駄目ですのん……?」
「………っ!」

耳まで赤く染めた彼女が思わず振り向いた、その頬に、唇で触れる。

「静留……っ!」
「冗談どす。堪忍な?」

顰められた眉間に走る皺に指先を滑らせ、微笑みながら、額を合わせる。
稚い照れ隠しからの激しい拒絶の素振りに今も、胸が痛まないといえば嘘になる、でも。

「さ、早よお布団入りましょな。風邪引いてしまいますわ」
「……ったく……」

ぶつぶつと呟く彼女の腕に腕を絡ませ。
静かな眠りへと向かうべく、歩を進める。
この心は、幸せで、穏やかだった。



触れる。
その髪に。
頬に。
肌に。
その温もりを確かめあう。
許される、想いを。
抱き締められ、抱き締め返す。
そうして、明け始めた夜の片隅。
寄り添いながら、眠りに落ちる。


もっと近くに、と、求める心を抑えるひと時さえ。
幸せだと感じながら。



― 了 ―




ええと。
リハビリです(何の)。

頑張ってもあんまし艶っぽいお話になりませんでした……(何が)。



2006年01月21日(土) 個人的な、メモ(何)。※ホントは070218.

究極の静留さんソングの歌詞全文へのリンク(何)。



http://www.uta-net.com/user/phplib/Link.php?ID=98



おろかに生きてました でもしあわせでした
恋は生きいそぐもの ……と記せば。
何を今更……と思われる方多数でせうねえ……(笑)。





んでもってついでながら。
同じ歌い手さんによる、己的究極のなつきちさんソングも(何々)。


http://www.uta-net.com/user/phplib/Link.php?ID=25262



会いたくて どうして忘れたくて
目を閉じて思いふさぐ
小さな指先 そっとからませ
悲しみに染まる頬



切ないなあ……(ヲイ)。


2006年01月20日(金) ヴァレンタインなんて。

だっ、大好きなんだからね!(何故ツンデレ仕様)


だって。
滅多に手に入らないチョコ沢山買えるし(大人って素敵)。


そんな感じで。
今年は派手ではないけれども良質なチョコが。
どっさりと店頭に並んでおりましたですねー。
眺め回るだけで幸せ気分満喫で御座いましたですよ〜。
勿論、試食もかっつりとしましたですが(ヲイ)。


そんなこんなで此れ書いている今は。
07年のヴァレンタイン・ディだったりする訳ですが。
んでもって。
060119付けの日記に反転仕様で書き書きしたのも。
07年のヴァレンタイン・ディだったりする訳なのですが。
でもって更に。
Web拍手の方に若干加筆訂正してUP済みだったりするのですが。


ええと。


ホンマに静留さん幸せにする気あんのか?!>己(其処?!)。


や、どうにもあれです。
まだ己、掴めてないんですよね、静留さんの事もなつきちさんの事も。
悔しいけれども、マリみて小話を書いている時ほどには。
書いていて抵抗感じない域に達しきれないっつーか。

多分。
マリみて並にメインキャラが数多くてしかもそれぞれに。
強烈に立っている物語が原作なのだから。
もうちょっと、群像的な視点からあの二人を眺められたら……と。
思いつつも、気付けば静留さんとなつきちさんしか。
見ていない己が一番、問題なのぢゃないかと。


嗚呼、恋って盲目(違)。



2006年01月19日(木) ヤヴァい所を目指したけれども無理でした(何が)。※ホントは070214.

ヴァレンタインに全く以って。
相応しくない断片一つ(ヲイ)。

「桜の花、咲くころ」に寄せて。




気が狂いそうだった。




――うちが倒れたら、あの子も消える。

照る月。
禍々しい赤い星。
足元に落ちる深い影の中に潜む、己の思いの深さ暗さに。
絶望的な目眩を覚えた。
この辺りを跋扈する異形のモノたちを屠る為だけにしては。
身に余るほどの力が溢れ返るこの身を自ら抱き締めて。
鎌首を擡げる「我が子」を見上げて。
何度と無く感じていた違和感の正体が。
己の足元から伸びる黒々とした影の中に見え隠れする。

他愛の無い冗談の延長線上にある触れ合いにすら。
頬を耳元を首筋を、これ以上ない位赤く染めて。
抗う術を見せるあの子の仕草の中に。
不器用な幼さを見出して微笑ましく思う反面。
酷いもどかしさを覚え始めたのはいつの事だったろう。

丈成す黒髪。
真っ直ぐに伸びた背中と張り詰めた肩の線。
険しく顰められながら時折、幼い曲線を描いて緩む眉。
長い睫の影から挑戦的な光を放つ、深い碧の瞳。
吐き出せない言葉をどれ程飲み込んで来たのかすら定かではない。
強く引き結ばれた、淡い桜色の唇。
その全てに目を、心を奪われた。

欲しいと。
生まれてこの方口にした事のない言葉が零れ落ちそうになるのを。
危うい所で、押し留めるしか無かった。
触れれば分かる、ひやりとした孤独で鋭敏な彼女は。
決して誰かの掌の上で踊る事を良しとはしない。
誰かの腕に縛められて得る安らぎを、必要とはしない……今は、まだ。
でもいつかは、もしかしたら……。

――いつか、なんてもう、来ない。

ぞくりと、背筋を這い登ってくる冷ややかな痛み。
青白い月の光が重みを伴うかのように肩を押し。
思わずその場に崩れ落ちる。

――最後の一人を決するまで、戦い合うのがHiMEの宿命ならば。

あの子は。
生き残れるだろうか。
稚い、儚い強さを支える想いが。
余りにも純粋で、余りにも幼い、あの子は。

溢れ出す。
あの子の、声が、笑顔が、孤独が。
冴え冴えと、この胸を抉るように突き通す。

「……なつき……」

愛しさに切り裂かれた胸の痛みを吐き出すように。
あの子の名を呟いた声はまるで、血に塗れたかのような熱を帯びていた。

「うちは……」

あの子が、欲しい。
他には、なんも要らん。

此れまで。
自分自身をも欺いて表出させる事の無かった想いが。
血の色をした言葉を纏った瞬間。
月の光に照らし出された異形のわが子が。
地を揺るがせるような激しい雄叫びを上げた。

あの子は。
うちがまもってみせます。

全ての運命を操る禍つ星が迫る月の夜を見上げる。
あの星を砕き落としてでも。

うちは。
あの子を。
手に入れる。




― 了 ―


2006年01月18日(水) 出しました。※ホントは070125.

分かり難いのはデフォなのでご勘弁を……(ヲイ)。


アレですね。
こう、自分が書きたいものは多分。
物語では無いのですよと、分かり切った事を改めて。

断片だったり、感情だったり。
空気だったり、風景だったり。



だって。
己は、決して。
物語を生きていないもんですから。


経験していないことについては。
想像でしか書けないんですが。
物語を「作る」には。
相当な想像力が不可欠な訳で。


己には其処までの想像力はないっつーか。
創造力がないっつーか(誰が上手い事を言へと)。




とか言いながら。
しずなつに関してはかなり想像力を駆使しておりますです。
……とか言ってみたり。



や。
その。
そうしないとね。
色々と差し障りがね(何)。



そーいへば。
本日、図書館で雑誌『コバルト』のバックナンバーを。
読み漁って来たのですが。

OVA版のアニみてのEDの作曲家さんと。
今野先生の対談がとても興味深かったです。

過去にあった出来事を。
こうだったら良かったのになと言ふ形で。
昇華している面が、ある、みたいな意味の言葉を見て。
嗚呼……と思ったのですよね。

もしかしたら。
だから、マリみては己にとって。
特別な物語なのかもしれないと。
手前勝手に、合点してみたり。




ついでに。

自分の心が。
何処かで救われる部分が無いと己も。
多分、何も書いたりはしないなあと。
そんな事も思ってみたり。


2006年01月16日(月) タイトルがあれなのは偶然ですよきっと(何)。※ホントは070117.

1月18日、ちょこっと加筆修正。
もう、これていいかなあと(何が)。







この場所を離れるまでの、僅かな日々の中。
私は何度、あの日の事を、思い出すだろう。
この場所を離れた後、何度。

そうして、いつ、あの日の事を。
思い出せなく、なれるのだろう。





ポテトチップ×チョコレート





受験報告を兼ねて訪れた、と言うのは口実だったのだとは。
長年馴染んだその部屋の扉を開いた時に気付いた事だった。

「あら、ごきげんよう」

薔薇さまと呼ばれる歳月を共に過ごした彼女は、仄かに微笑んで手にしたポットをテーブルの上にことんと落ち着けた所だった。

「ご無沙汰してたわね、その後どう?」

さり気なく流しへ移動して、新しいお茶の用意をしてくれる。見慣れた所作は、何処か懐かしくこの目に映った。

「後は結果を待つのみ、かしら。あなたは?」
「んー……国立がまだ、残っているのよね」

さらりと答えながら、テーブルの上にカップ&ソーサーをセッティング。薔薇さまになってこの方後輩たちが概ねその役を担ってくれていたから、懐かしいのだと、改めて思い至る。

「早々に推薦決めて羽根伸ばしまくってる彼女が羨ましいわね……」

この場には居ない、もう一人の友人の事を思い出すと自然、頬が綻ぶ。何事においてもマイペースで、受験すら早々に片付けてしまった彼女。今頃何処で何をしているのやら。

「今日は静かね。あの子たち、何してるのかしら」
「実力テストか何かじゃなかったかしら、この時期は」

綺麗に整えられたテーブルに差し向かいで、温かなお茶を頂く。今の自分たちにはこの場所で、何の役割も残されて居ないのだなんて事をふと思った時、彼女が小さく笑った。

「なあに?」
「ううん、こんな風に静かに過ごすのも何だか不思議な気がして」

同じ瞬間に似たような事を考えていたらしい彼女は、そっと窓辺に目をやった。

「ほら、色々あったじゃない? あなたも、そして私も」
「色々、ね……」

カップから立ち上る湯気に苦笑いを隠して、綺麗な水色の紅茶を啜る。
温もりにさらされる口元や頬は暖かくなったけれども、こうしてじっとしていると、冷たく寒い空気が足元から迫り来るのが分かる。
冬はまだ終らない。
去年のクリスマス、町を薄っすらと覆った雪はもう何処にもない。
けれども、冬はまだ完全に終ってはいないのだ。

「まだまだ、そんな風には振り返られそうもないかな……私は」
「あら」

意外、と目を丸くした彼女に、今度は苦笑を隠さず見せる。

「でも、これ以上、私に出来る事はないから」
「そうね……。っていうか」

かたん、と小さく音を立て自分の分のカップとお皿を手に取ると、彼女は立ち上がった。

「もう、十分だと思うわ、私は」

静かに呟いて流しに向かう彼女の背を、思わず目で追った。

「十分……かしら」
「ええ」

流しに洗物を置いた彼女は、片付けに入るのかと思いきや、上の戸棚をそっと開く。

「あなたにしては、十分以上の事をあなたはあの子にしてあげた。私はそう思っている」

淡々と、いつものように淡々と。
落ち着いた深い声音が殆ど独り言のようにこの背に届いて。
肩越しに見遣った彼女が戸棚から何かを取り出し戻ってくるのを殆ど呆然として見つめる。

「だからね、これは私からのご褒美」
「…………はい?」

にこりと笑って目の前に差し出されたのは、ちょっと地味な色合いの箱。

「あら、来週の月曜日が何の日かも知らないで今日此処へ来たの?」
「え? 来週……?」
「そういう、変に真面目なリアクションも久々ね」

知らなかった訳では無かったけれども、彼女にしてはちょっと突飛な言動に頭が付いていかなかっただけで。
けれども彼女は素知らぬ素振りで小さく笑うと、次の瞬間、わざとらしく心配そうな顔を作った。

「ホント、あなたたちって似たもの姉妹だったわね。今だから言うけど、私、気が気じゃなかったのよ?」
「……良く言うわ」

小箱から目を離して、顰め面を返してみせる。

「こちらが頼みもしないお節介を色々としてくれた事、私、忘れていなくてよ?」

そうやって暫し睨み合ってから。
小箱を挟んで二人、声を立てて笑いあう。
去年のクリスマス前、最愛の妹がこの学園を離れようとして果たせなかったあの日、あの子が崩れ落ちる前に間に合うことが出来たのは、彼女と、彼女の妹のお陰だと今でも思う。

「……私一人ではどうにもならなかったと思う。感謝してるわ、本当に」
「そうかしら? あなたがさっき言った通り、ただのお節介だったかなあと思う事もあるのよ私は、今でも」

開けるわね、と小さく断ってから、彼女は小箱を開き、中から袋を取り出して手に取った。

「あの日は、あなた一人に任せるべきだったかなあって」
「そんな事……」

彼女の綺麗な指が、器用に袋を開いてテーブルの上に戻す。中から覗くのは、濃い茶色のチョコレートがコートする少々分厚い目のポテトチップス。
去年のクリスマス会の折、彼女が北海道からのお土産として持ち込んだものだけれども、可愛い妹たちには何故か不評で丸々余ってしまった一箱が、これだった。

あの日。
いつまで経ってもこの場所に姿を現さなかった、あの子に。
何が起ころうとしているのか知りながら、動けなかった。
この場所を離れて飛び立つのがあの子の本当の望みならば。
たとえば、待ち望む少女の姿が現れなかったとしても、あの子は。
もう二度と、この手を必要とはしないかもしれない。
あの子が失うだろうものを、この手は。
決して、取り戻せはしないし、補えはしない。
そんな迷いを見透かしたように、あの日。
この背中を押してくれたのは、彼女であり、彼女の妹だった。
その事を感謝こそすれ、お節介などと思った事は一度も無い。

「あなたにとって、だけではなくて、私にとってもね」
「え?」
「余計なお節介っていうよりも……」

ぼんやりと物思いに引き摺られそうになっていた心が、すとん、と今度は向かいではなく隣の席に腰を落ち着けた彼女の吐息と言葉に引き戻される。

「ただでさえ厄介事を背負い込むたちのうちの子に、更に厄介事を負わせる事になっちゃったのが、未だに不憫で不憫で……」
「……人んちの妹捕まえて、随分な言い草だこと」
「あら、ごめんなさい」

大仰に肩を落とす様を睨みつけたけれども、彼女は悪びれる事無く微笑で応え、ポテトチップ・チョコレートを一枚、そっと食んだ。

「……複雑な味」
「そうね。でも私は結構、好きよ」
「なら、残りはやっぱり、全部あなたにあげる」

ずい、と袋を空き箱ごと押しやりつつ、彼女は立ち上がった。

「お返し、楽しみにしておくわね」
「ちょっと。残り物でバレンタイン済ませるなんて」
「残り物にこそ、福があるのよ」

すっと目を細めて見下ろしてくる彼女の笑顔は、とても綺麗で。
ほんの一瞬、見惚れそうになる。

「……って、そんなのに誤魔化されないわよ、私は」
「あら、残念」
「どうせなら、ちゃんとしたのが良いわ」

言い放って、甘辛いチップスには手を付けず、そのまま袋を小箱に戻す。

「受験が残っているところ悪いけれども、今から付き合ってくれる?」
「いいわよ、気分転換したくて此処へきたんだもの」
「じゃ、決まりね」

立ち上がりながら手にしたカップ&ソーサーを、彼女はさらりと奪って流しへと運び込む。

「別なの用意するけれども、それもちゃあんと持ち帰ってよ」
「勿論、遠慮なく頂いておくわ」

去年のクリスマス、此処で口にしたあの味を、涙にも似たあの味をそっと思い出しながら、彼女と並んで後片付けをする。
片付け終えて、さて、と振り返ったこの部屋の窓辺に、舞い踊る風花を見た気がしたけれども、どうやら幻のようだった。

「さてと……それじゃ、行きましょうか」
「……ええ」

そうして、私は、扉を閉める。

後何回、此処を訪れることが出来るのか。
後何回、あの日の事を思い出すことになるのか。
あの子の肩を抱き締めたあの日の寒さを。
泣き出しそうな顔であの子を出迎えた彼女の妹を。
躊躇う私の背中を文字通りそっと押し出した彼女を。
後何回思い出したら、全てを忘れることが出来るのだろうか。

心の片隅で、そんな事を考えながら。






― 了 ―







SRGとSRCだと多分、SRCのが絶対人が悪いと思いました(ヲイ)。
そんな妄想がふと浮かんだせいです。
だから、本当に、ちょっとした気の迷いなんです(何)。
それひっくるめて、諸々の迷いが吹っ切れたら出しますです(何々)。

あ、CVはドラマCD通りでお願いしまs(蹴倒


2006年01月15日(日)

続くかもしんない(何)。


とか思いましたですが。
多分、続かない(何々)。





史上最凶最悪のHiMEと名高い生徒会長さんの為に。
頑張ってみたつもりだったのですが…が…(逸らし目)。









期末テストも終わって。
日頃の挽回分に全てを注ぎ込んだ半月も終わって。
残すは、テスト休みを利用した、補習授業のみ。
出席不足を補う為だ、致し方が無い。

「なつき」

試験から解放された連中でごったがえす渡り廊下を、下足場に向かって足早に歩いていた背中に、ふわりと声が掛かる。反射的に振り返った視線の先、中庭の一角で、いつも以上に大勢の取巻きに囲まれてにこにこしているあいつの姿があった。

「もう、帰るん?」
「……ああ」

ぶっきらぼうに返して、じゃあ、と背中を向けたというのに。

「ほな、うちもご一緒しますわ」

さらりと零された言葉に、あいつに群がる連中から不満とも落胆ともつかないざわめきが上がる。堪忍な、なんて軽く応えてあいつは後からついてくる。

「……来なくて良い」
「別になつきの為ばっかりやあらしませんえ? うちも御用があるんどす」

何が楽しいのか笑いを含んだ声音が隣から聴こえる。何となくそれを振り切りたいような心地になって、更に歩く速度を上げてゆく。

「ならそっちをさっさと片付けたら良いだろう?」
「ええ、そうさせて貰います。ほな、出たとこで待っといておくれやす」
「……なに?」

思わず足を止めた所がちょうど中等部の下足場で、あいつはひらひらと手を振って、私を追い越して行った。



道すがら、あいつはいつものお構い無しな調子で、訊いてもいない「御用」の内容とやらを話し出した。

「明日、生徒会の皆さん方との集まりがあるんよ。一足早い、クリスマス・パーティみたいなもんで……なつきも来る?」
「行かない」

そう言わんと、とかなんとか笑う横顔はいつもどおり、何もかもお見通しといった感じで、うっかり目の端に入ってきてしまったから、これまたいつもどおり、腹立たしいようなむずがゆいような落ち着きの無い気分に陥る。

「そやねえ……ほな折角やし、これから二人っきりでしましょか?」
「する……って、何を?」

意味不明な呟きに、これまたうっかり足を止め、振り返る。

「クリスマス・パーティ」
「はあ?」
「それとも、この後、何ぞ用事、あります?」
「ちょ……っ」

ちょっと待て。

「用事があるのは、おまえの方だろうが?!」
「ええ、でもそれはちょっとしたお買い物やから、直ぐに済みますし」
「……って、おいっ!」

何かご馳走、作りましょか、なんて勝手に盛り上がり始めた勢いを止めるべく少し声を張り上げたけれども、そんなもの、通用するあいつでは無く。

「なつきのお家、お借りしても構しません?」

通りかかる連中が何人も思わず足を止める程、あいつの笑顔には有無を言わせないような、何かしらの迫力みたいなものがあって。

「……勝手にしろっ!!」

声を荒げて叫ぶくらいしか、私には出来なかった。


支度をしてくるから、と無邪気に笑って寮へと向かうあいつの後姿を見送ってふと、すっぽかして帰るという選択を思い浮かべてみた……が、どうしてだか、そんな事をしても無駄だという声が脳裏を過ぎった。気付けば一年を越える付き合いの中、始めの頃は何かとまとわりついてくるあいつが心底うっとおしくて、一方的な約束や待ち合わせをことごとく破り続けたというのに、あいつが怒ったり責めたりしてくる事は、一度たりともなかったのだ。

「……変なやつだ」

いつの間にか口癖のように繰り返すようになった言葉だけれども、自分でも分かっていた。苛立ちとか腹立たしさとかではない、不思議な感情が、どうしてもそこにこもってしまうことに。

バカバカしい。

大きく首を振る。

「何がクリスマスだ……」

一週間近く後に控えたその日めがけて、街中は酷く浮ついた空気に満ちているけれども、情報を求めて夜な夜な彷徨い歩くだけの自分には、何の意味もない。

「ずっと昔に死んだ、偉そうな奴の誕生日なんか祝って、何が嬉しい……」

バカバカしい、ともう一度呟いたところで、何かがちりっと胸の中を引っ掻いた。
クリスマス、お祝い、プレゼント。
ぐらり、と視界が傾ぎそうになって、慌てて足を踏ん張った。
胸の奥から、何かしらが固まりになって押寄せてきそうな、不安な気持ち。
懐かしさといとわしさがない交ぜになってゆく、不安定な感情。

忘れろ。

きつく歯を食いしばり、大きく息を飲む。
敢えて目を背けてきた何かに釣られて、身体の奥で何かが熱を帯びる。
思わずうずくまりそうになるのを、舗道沿いに聳え立つ大きな樹に手を着く事で踏み止まる。

やっぱり。
駄目だ。

気付いたときには、踵を返して駆け出していた。
何もかもを、振り切るように。


真っ直ぐに帰ったりしたら、簡単に捕まってしまいそうな気がして、当ても無くぶらぶらと街中を歩き回る。
まだ時間も早いから、怪しげな情報屋の出入りするいつもの店のドアは硬く閉ざされひと気もなく、他に時間を潰せそうな場所を探すともなく探し続けた挙句、通りの外れの公園の脇、最近潰れたらしいクレープだかソフトクリームだかの店にくっついたベンチに気付いて、其処へ落ち着く事にする。
近隣に知らないものとていない名門校それも中等部の制服とスクールコートは、ともすれば酷く人目に付いたから、出来るだけ表通りから顔を背けて立てた片膝を抱きかかえるように、うずくまる。
傍らに放り出した鞄の中にある、電源を切ったままの携帯電話の事を時折思い出しはしたが、そのままにしておいた。

いくらあいつでも流石に今日は、諦めるだろう。

そう思い込むことで何処かで安心しては、何処かで不安になった。
それは、あいつと居る時にいつも感じる心の揺れそのもの。
あいつの、無邪気で無防備な笑顔や優しさは、忘れてはいけない事と表裏一体な、忘れてしまいたい全てを思い出させる時があって。
奥底に仕舞い込み、置き去りにした筈の何かをあっけなく拾い上げて目の前に差し出されたような、懐かしさと狂おしさに胸を掴まれる事がある。
そんな時は、こみ上げてくる感情が知らず、咽喉を鳴らす事さえあった、だから。

駄目だ。
こんなことでは。

深く念じて、必死で振り払おうとする。
誰も信じない、誰とも馴れ合わない。
そうでもしないと、生きて居られなかった。
冷たい海の中から引き上げられ、長い長い月日、断続的に訪れる見知らぬ人々の無機質な表情や意味の分からない言葉の羅列に晒され。
気の遠くなるようなリハビリを終える頃には、唯一残った肉親は新しい家族と共に、遠い異国の空の下で。
頼りになるものといえば、ぼろぼろの状態だったにも関わらず奇跡的な回復を見せてくれた、自分の身一つ。後は、月々自分名義の口座に貯め込まれていく、仕送りと呼ぶには余りに大きな額の振込み。
その二つをただ、ありのままの事実として冷たく受け止めて。
悲しみを、寂しさを感じ取る部分は切り捨ててきた。
切り捨てた場所から芽生えたのは、激しい怒りに裏打ちされた闘争心と、憎しみに等しい、復讐心。
まだ脆いその萌芽を守る為に。
全ての逃げ場所を更に切り捨て去りながら、生きていくつもりだった。
だのに。

――そないなこと、したら、あきませんえ。

どくん、と胸を叩く痛みを伴う声音が耳元に甦った瞬間。
握り締めた拳を無意識に、冷えたベンチの上へと振り下ろして、痛みを上書きする。

やめろ。
思い出すなな。
何もかもを見透かし、暴くような、その顔を、優しさを。
私に、見せ付けるな……!

震える拳をもう一方の掌で包み込み、立てた膝を改めて強く胸に引きつけた時、伏せた視線の向こうに、じゃり、と地道を踏みしめる者の気配を感じて目を見開く。
まさか、と思った。
もしや、と思った。
けれどもそれは、似ても似つかない人のもので。
心の奥底、何故か感じた軽い落胆に、泣きたくなりそうな気持ちのまま、口元を歪め、面を上げた。



まずいな、と冷静に考える部分と、体中を巡った血の気からくる興奮にみなぎる部分とを頭蓋骨の中、半々に感じながら、足元に転がる男たちの姿を無感動に見下ろす。
いつもなら、こんな連中に侮られたり気安く扱われそうに為る事はないのにと思うと、悔しいような可笑しいような気分だった。
数を頼んで自分を取り囲んだ奴らを全て昏倒させるのにそう時間を掛けたつもりは無かったけれども、愚図愚図していては人目を引きそうだったのでさっさとその場を後にする。適度な緊張と運動が、硬直状態に陥っていた心と身体を随分とほぐしてくれていることに気付いて、更に苦笑いを深める。
暴力沙汰に耽溺するようになって、学園を叩き出されるような事になればいっそ、清々するのだろうか。そんな詮の無いことまで考える。
そうなっても、何処からとも無く手を回されて元の場所に押し込まれる事は、予想出来た。自分が泳ぐのを許されている世界を取り囲む檻は、思いの他堅牢なのだ。
男たちの内誰かが振り回した拳が掠めた頬が、ひりりと痛い。傷になったろうかと思いながら利き手の甲を当てた時だった。

「……なつき……!」

乱した息の合間から搾り出されるような声に、驚く暇も無かった。
肩をぐいっとひかれて、先ほどの乱闘で激しい動きを強いられ疲労していた上半身の筋肉が軋みを上げたのに釣られて、思わず呻き声を漏らす。

「……っ!」
「心配してたんよ、急に居らんようになって……どうしたん、その怪我……!」

常の、おっとりした口調も態度もかなぐり捨てたように畳み掛けてくる勢いに圧倒され、言葉も出せないで居る間にも、あいつの手が、乱闘の名残を残した制服のヨゴレを払おうと、体中を這い回る。

「なんでもない」
「なんでもない、て格好やあらへんやないっ」
「ないんだっ!」

何故か覚えた後ろめたさを凌駕する苛立ちが勢いになって、その手を強く振り払った。

「放っておいてくれ」
「なつき……」
「良いから……!」

そのまま駆け出そうとした手が、けれども次の瞬間、冷たい掌に強く握りこまれた。

「……嫌や」

初めて耳にするような冷やりとした声音を間近に聴いて、思わず振り返る。
怖いような心地で目にしたあいつの顔に浮かんでいたのは、けれども、怒りでも苛立ちでも無かった。

「クリスマス・パーティ、する言いましたやろ……?」

ふわりと、いつも以上に穏かに、あいつは微笑んでいた。
その癖、この手を繋ぎ止める冷えた掌に込められた力は、何処か切実なものを感じさせるに十分な程強く。

「……何で……」

振り払えなかった。
あいつの穏やかな笑顔も真剣な眼差しも、切羽詰った冷えた掌も。
この胸に押し寄せる、痛みにも似た懐かしさも。
息苦しい程に、自分を包み込む、それなのに、振り払えない。

「うちとなつきは、友だちやろ?」

真っ直ぐに背を伸ばし、逸らせない視線と揺るぎの無い姿を見せ付けながら、さらりとあいつは、いつもの言葉を口にした。

「クリスマスに一緒に買い物して、美味しいもの作って食べて、何があかんのん?」

これまで聞いた事もない程、酷く優しい、声だった。

「何が……って」

まずい、と思った。
視界がじんわりと滲む。
噛み締めた唇が震えているのが自分でも分かる。
あいつが、握り拳を包んでいたその手を離す。
その指がそのまま、頬に伸びてくる。

「綺麗な顔してはるのに……こんな傷こさえてしもて」
「……そんなこと……」
「痕残ったりしたら大変やないの」

抗う声の弱弱しさにも気付かぬ素振りで囁きながら、取り出したハンカチで傷に滲んだ血を拭うと、そのまま、瞼の上をそっと押さえてくる。

「後でちゃんと消毒しましょな。こういう傷は結構滲みますやろけど、自業自得やさかい、我慢しぃよし?」

笑い含みで続けると、さあ、と空いた方の手で再び私の拳を取る。

「今から買い物して……やと、ちょっと時間掛かりそうやねえ。うちの手料理、ご馳走したいのんは山々やけど、今日の所はなつきの好きなもん買うて帰る、でええやろか?」
「……好きにしろ」

目元を覆うハンカチとあいつの手を振り払って、そっぽを向く。
あふれ出した感情さえも、相変わらず好きな事を喋っているあいつの手の中に吸い出されたみたいだった。呆気ない程清々とした気分になりつつある自分が酷く滑稽で、目を合わせる気にもなれない。

「あ、そうや、ケーキも買いましょな。なつき、ケーキはどんなんが好き?」
「何でもいい」

いつものおっとりとした、けれども相変わらずお構いなしな調子で切れ目無く話し出したあいつに手を引かれ、どうにでもなれと半ば自棄気味に歩き出す。

「何でもて、愛想なしやなあ」
「私は本当に何でもいいんだ、だから、おまえが好きなのを買えばいいだろ」

気恥ずかしさも手伝って、乱暴に投げ落とすように言葉を口にした時、あいつの足がふと、止まった。

「なつき」

何だ、と振り返った先、ふわりと笑うあいつの顔に、ほんの一瞬、泣き出しそうな色が差した気がした。
けれども、本当にそれは、ほんの一瞬の事で。

「うちは、ケーキ、なつきに選んで貰いたいんやけど?」

そして、何が嬉しいのか、小さく声さえ立てて、笑った。
いつもの、何かをたくらんでいるような、そうでもないような。
綺麗だけれども、掴み所の無い、笑顔だった。

「……なら、好きにする」
「ええ、お願いします」

振りほどいても振りほどいても、着いてくるに違いない、笑顔。
振り払っても振り払っても、完全には忘れ去る事の出来ない、思い出。
泣きたくなる程の懐かしさと厭わしさが絶え間なく押し寄せる胸にはでも。
独り彷徨っていた時ほどの痛みはもう無くて。
冷え切っていたあいつの掌に少しずつ、握りこまれた拳の温もりが移ってゆくのを、私はただ。
どこか他人事のように、遠くぼんやりと、感じ続けていた。


それは。
二人過ごした、初めての。
あいつの、誕生日の出来事。




―― 了 ――











あなたに巡り逢えた幸せに、心から感謝を。
……とか抜かしておきながら。
あんまりハッピーとは言い難い内容になってしまって。
何だかもうアレですね……はい……(逸らし目)。



割とぽちぽちと書き直し手直し続行中。
いつかちゃんと適度な状態に辿り着けますやうに……(祈)。


2006年01月14日(土)




まずいなあと思った。
目を覚ました時、こめかみに感じた鈍痛。
午後のアルバイトが始まるのが16時ごろ、終わるのが19時。
待ち合わせが19時半、後はどうなるのか、分からない。




holy night




群がる子どもたちを適当にあしらって、出口へ急ぐ。

「せんせー、デート」
「うん、デート。急いでるの」

無感動に応えると、隣のカトーさんが、また……ってな顔して額を抑えた。

「嘘は言ってない」
「思春期真っ只中の子どもたち相手だってこと、忘れてない?」

かみ合わないなりに痛快な言葉を返してくれるから、カトーさんは良い。

「思春期ねえ……あ、カトーさんってどんな中学生だったの?」
「覚えてない」

そんな事より、と駅に向かう道すがら何かの小袋のようなものを押し付けられる。

「何?」
「要らないんなら返して」
「滅相も」

歩きながら早速紙袋を開ける。中から出てきたのは、厚手のハンカチ。

「何これ」
「一応、友だちだから」
「いやそっちじゃなくて」

ぱっと見可愛いけれどもありふれたタオル地のハンカチだけれども、良く見ると、生地からはみ出すようにしてひょっこりと頭が出ている。

「猫?」
「猫、嫌い?」
「や、寧ろ好き」

思わず吹き出した。何よ、とカトーさんが斜めに此方を睨んでくる。
真っ黒い生地で縫い取られた小さな猫の頭を指先でひと弾きすると、袋の中に収め直して鞄に仕舞う。

「ありがと、で、カトーさんって何月生まれだっけ?」
「それについてはまた今度」

時計を見ながらひらひらと掌を振ると、カトーさんは交差点の手前で右へと折れる。

「それじゃごきげんよう……だっけ? 彼女によろしく」
「何をよろしくしろって?」
「言葉のあやよ」

にこりともしないであっさりと向けられた背中に苦笑する。

「はいはい、ごきげんよう。良いお年を」
「それにはまだ、早いんじゃない」

振り返りもしないで返すと、カトーさんは動き出した人の波に紛れて行く。見送るとも無く見送ると、変わり掛けた信号に急かされて横断歩道へと駆け出してみる。待ち合わせの時間までにはまだ後5分ほど余裕があったけれども、多分彼女はもうその場所には着いている筈。急いで駆けつけた事をアピールしておいても損はしないだろう。そう思った。






続きは、実家のPCから無事サルベージできてから(えー)。


2006年01月13日(金) 回り道。※ホントは061215.

何になるのかまだ分からないので。
どうか、軽くスルーの方向で一つ(平伏)。


本サイトWeb拍手に軽く加筆訂正などして移動済みです。
レッツ、間違い探s(蹴倒





夕暮れ時、帰路についた子猫たちを見送って。
そのまま帰るつもりだった足取りの。
その向かう先をふと変えたのは。
多分、この心はまだ全てを。
切り捨てる事が、出来ていなかったから。





回り道






耳元を通り過ぎる風が、冷たく小さな音を立てている。
何かの音楽を連想させるそれを打ち消すように、出鱈目な鼻歌を響かせてみる。それがどうしてもマリアさまの心になってしまうのは、ご愛嬌というものだろう。

暮れなずむ中、校舎をぐるりと迂回してまでこの心が向かおうとしている場所は何処だろう。

ある意味無責任なまでに他人事めいた連想が、そのまま頭の中をぐるぐると回り始める。けれどもやっぱり、それらに痛む想いはこの胸の中には見当たらない。
脳裏を行過ぎるのは、古い温室、図書館、木立を抜けた先にある、小さな陽だまり。
忘れてはいけない面影を、少しずつ失い始めたそれらを次々と思い浮かべる内に、棚卸、なんて、今の気分に似つかわしいような、そうでも無いような言葉が不意に浮かんできて、思わず苦笑したその時。

「随分と楽しそうね」

木立を抜けるレンガ敷きの小道の途中、綺麗な立ち姿の彼女が佇んでいるのにやっと、気付く。

「そう見える?」
「ええ」

瞬時に走った動揺が何処まで面に現れたか分らないまま言葉を返すと、彼女はにこりともせずに頷いたから、殊更に軽薄な笑みを浮かべて見せる。

「可愛い子猫ちゃんたちと楽しいひと時を過ごさせて頂きましたから。そりゃご機嫌にもなろうというもので」
「祥子が聞いたら激怒しそうな発言ね」

彼女は、小揺るぎもしない端麗な無表情で応えてくれる。
随分と変わった、と思う。
二人、どうしようもない程距離を掴みかね、感情的なやりとりばかりを繰り返していた。あの頃から季節はやっと、一回り目を迎えたばかりだというのに。穏かに向き合う彼女の首に巻かれたマフラーさえ、あの日と同じ色をしているというのに。
吹きすさぶ寒風が二人の間をさらりと吹き抜けた、ほんの一瞬。
寒空の下、寒さに頬を赤くしてあの場所に佇んでいた彼女の、今にも泣きそうな顔をそこに幻視して。
思わず竦めた肩の先。
不意に。

「……何?」

驚いたのは、自分だけでは無かった。
きょとん、と擬音を当てはめたくなる位、見事に目を見開いた彼女の顔が、酷く間近にあった。

「……何でもないわ」

肩先に触れた後、速やかに引き下がっていった指先は。
制服越しだというのに、分るほど。
そして、あの日と同じに、確かに、冷たかった。

――……大丈夫、なんて言っても聞きやしないんだろうな。

口中小さく零した声は、再三吹き抜けた寒風にすら触れさせないまま飲み下す。

「何でもって……白髪でも見つけた?」

殊更におどけた声で風に逆らうと、彼女の形の良い眉が軽く引き絞られる。

「随分寒そうなのに、マフラーもしていないんだから。ちょっと、呆れただけよ」

言って、首に巻いたそれを解き、するり、とこちらの首筋に巻きつける。
きびきびとした、でも、優しい動きを見せるその手が指が、酷く気になって目が離せない。
お陰で、俯き加減の彼女の頬に浮んだ表情には、最後まで気付けなかった。

「……雪でも降るのかな」
「何でよ」
「蓉子が優しい」
「……失礼ね」

面を上げ、きっぱりと言い放つと彼女は、いつもと同じ真っ直ぐな背中を此方に向ける。

「私はいつでも優しいわよ?」

仄かに笑みを含んだ声に、はいはい、と惚けた声を投げ返す。肩越し、彼女の零す柔らかなため息が聞こえた気がした。

「遠回りして帰るには今日は寒いわ。せいぜい、風邪を引かないよう気をつける事ね、白薔薇さま」
「有難いお言葉、肝に銘じましてよ、紅薔薇さま」

いつからか視線をあわせない時にしか、優しい顔を見せなくなった。そんな彼女の背中を見送りながら、咽喉元を暖める柔らかい毛糸の中に、顎を埋める。さっきまでこの胸を、心を駆り立てていた何かが、そこに残る微かな温もりや香りに勢いを削がれ、ゆっくりと動きを止める。

こんなものか、と、自らを笑いながら。

いつの間にか辺りを覆い始めた夕暮れ色の中、随分と遠くなった彼女の背中を追うように、私は、歩き出した。


―― 了 ――




そろそろ、マフラー無いと寒いですよね、と言ふ事で一つ(何)。


2006年01月12日(木) 海を見に行く。番外編(何)。※ホントは、061120.


海を見に行こうと言い出したのは。
多分、私では無かった筈。



泳ぐには日暮れ時の風が随分と硬質に感じられる程に。
夏は盛りを過ぎてしまっていたから。
浜辺にも人はまばらで、だから。


「……遅くなったら、心配されない?」


風の中、そっと掛けた声は届かなかったのか。
彼女は、長い髪をその背中に躍らせながら歩く足を緩めない。

寧ろ、日が暮れきれば、心配をされるのは自分の方だと思い至り。
苦笑を通り越して乾ききった笑みが口元に浮ぶのを自覚する。

制服姿の彼女は、いつの間にやら靴も靴下もその手に持って。
ただひたすら、砂に沈むその感触を愛惜しむような眼差しを。
足元へと向けて、黙々と歩いている。
その面には、いつもと同じ、穏かな、無表情。


「夏には、海に行ったわ」


風に紛れるようなか細い声が、それでも確かに耳に届いた。


「父と母が、砂浜で私を待っていてくれた」


振り返らないその眼差しが、静かに、細められる。


「幸せだった」


でも。
その口元にも頬にも、笑顔らしいものは無くて。
でも。
その眼差しが湛える光は、とても、幸せそうな色を帯びていて。

どうすれば。
そんな風に全てを受け入れて。
あるがままに受け止めて。
密やかに、存在できるのだろうかと。


「………聖?」


思うよりも早く、言葉も無く。
伸ばした右手の中に、彼女の左手を納める。


「……遅くなるから」


零した声が余りにも言い訳がましい響きを帯びていた事に。
どうしようもない嫌悪を覚える心に、更に嫌悪を覚えて。
噴出しそうな感情から目を逸らす為に、彼女の手を強く引いた。


「そうね、帰りましょう」


やっと振り返った、彼女の瞳に口元に頬に。
浮んだ笑顔を目にした瞬間、この胸に満ちるのは。
安堵でも平穏でもなく、罪悪感じみた重苦しさ。


「有難う、つれてきてくれて」


ああ、そうだ。
海を見たいと言ったのは。
彼女の方だった。



―  了  ―



イラストブックの、あの一枚を思い浮かべつつ。


2006年01月11日(水) 参った……。※ホントは061008.

ホンマに、年々回復力が衰えてるっつーか。
季節の変わり目に体調を崩し易いのは昔からなのですが。
ちょっと拗らせると長引く長引く……(汗)。


37℃前後をうろうろし続ける体温計を眺めてはうんざりし。
薬が切れ掛けては痛みに苛まれる内臓にげんなりし。
置き場の無いがたつく身体を抱えてベッドの上で転げまわってますです。



そんな中参加させて頂いた某所チャット。
ええと……大方の予想通り。
なんつーか、ストッパー無し状態にて暴走モード@己(伏し目)。
嗚呼、もう、何かと気が回らないと言ふか。
余裕無いっつーか。
後からログ拝見して顔から火が出る思いであります……(汗)。



まあ。
書いちゃったもんは仕方ないのですが(ヲイ)。



だもんで。
こうして、残されたもの=チャットログを眺めるに。
はて、こりで、あの場で初めてお逢いした方々。
そう、普段の己のサイトやらBlogやらご存知ない方々が。
己に対してどんな印象を持たれたのかを。
ちょっとお伺いしてみたいかなあ……等と。
思ってしまう辺り。
相変らず、テケトーだったり(ヲイコラ)。


でもまあ。
所謂、作品論、的なものはやっぱり己、苦手みたいです(苦笑)。
そう言いながらよーけ語っとったやん!とか突っ込まれそうですが。
己が多分、昨日のあの場で言いたかったのはただ。
物語を楽しみたい、だから。
描かれた全てを受け入れられる自分である限りは。
己は、あの作品を無心で追いかけたい、って事だけだったのかなあとか。


あれだけ長い事続いている作品ですから。
当初の期待と違う方向へ物語が進んでしまったと。
感じる読者の方も多分に増えつつあるのだらうなあとは思うのですが。
でもだからって、それは「作者が悪い」でもなければ。
「読者の読み方が悪い」でも無いのですよね。



面白ければ、読み続ける。
面白くなくなったら、もう読まない。




読書には、この二つしか存在しないのだと言ふ事。
それに、良いも悪いもないのだと言ふ事。
それをちょっと、己自身、見失いつつあったかなあと。
だから、ちょっと、いろんな意味で、ムキになった面は。
あったのかなあと。


まあ、熱があってちょっと暴走気味だったのもあるでせうが(マテコラ)。


てか。
読まなくなった人や、読まなくなりそうな人にまで。
何某かを語らせるだけの力が、あの作品にはあるのだと言ふ事でせうか。
何処からか続きを読まなくなったのに。
二次創作だけは書いている、と仰る方もそりなりに。
いらっさいますものね、こりはこりで凄い事ぢゃないでせうか。


ま。
そんな事ともあれ。
あんな機会がまたあるとしたら。
気持ちにも体力にももっと余裕のある時に。
参加させて頂きたいなあと思ってみたり。
つかそうぢゃ無い時はちったあ慎め己(びしぃ!!)


2006年01月10日(火) ※ホントは、061003.未明。

今の己は一体。
何処に居るのかな。


そんな感じで。
告知チャット企画に便乗すると言ふ。
余りにも己らしからぬ理由で本サイト更新(笑)。



書く事とか。
書かずには居られない事とかにホントは。
そんなに重きを置いて居なかったのです、己は。

思へば、そんな己だから。
色んな人を苛立たせたり傷つけたり。
要らん心配を掛けたりしてきたのかなあと。

でも、御免なさい。
己は。
自分の中に、抱えきれない程の重さとか。
感情とか衝動とかを覚える限りは。
こうやって吐き出さざるを得ない人間なのだと。


どんなに酷くても。
怖くても。
痛くても。
辛くても。



そりは兎も角。

しずなつスキーな方で知らない人は居りますまいっつーサイトさまに。
とんでもない御作が寄贈されておりまして。
先程、一気に拝読仕りまして。
泣けて、泣けて、仕方無かったです。


そんな結末も、在り得たんですよね。
己、マリみてに関してはジャンルフリーっつーか。
18禁もダークも、お構い無しに、只。
荒れ狂う自分の気持ちの行き場を求めて読み耽っていた時期があったので。
ちょっとやそっとではもう、動じない自信があったのですが。

あきません。
ある意味、リアル過ぎるんです。
しずなつは。
だからこそ、ダークに傾かず。
正面切って、死と生の狭間で揺れる彼女たちを描いて下さった事に。
心から、感謝したいと、そんな的外れな事までを。
思ったのです。



今、このタイミングで、その作品に出逢えた事。
心から、感謝したいと、個人的に思いましたです。

こんな所でめっさ独り言染みててあれですが。
有り難う御座いましたです……(平伏)。


2006年01月09日(月) そこにあなたが居るのなら。※ホントは060924.

多分。
何をしたって何をされたって構わんのでせう。
ええ、例の学園長補佐さんの事ですが、何か?(ヲイ)


てか。
舞-HiMEのしずなつのしんどさを思うと。
舞-乙HiMEのシズナツもまあ、結構アレですが。
そりなりに、幸せっつーか。
同じ我慢でも随分と違うのぢゃないかなあと(何ソレ)。

少なくとも。
舞-HiMEでの静留さんなつきちさん程には。
自分でも分らなくなる程の背伸びとか。
してなさそうですし、シズルさんもナツキちさんも。


さて。
昨日は、己的初の舞-乙HiME小話をUP。
でもってその中身と来たらば。
明らかに己の脳内捏造設定炸裂だった訳ですが。

ええ。
ナツキちさんが、クルーガー辺境領主の令嬢らしい事は。
公式設定だったかと思いますですが。
お母さまが科学者だったとか言ふ話は聞いてないです(誰に)。
舞-HiMEでは、アンチ・マテリアライザーの研究者だったので。
聡明故に、ガルデローベの大学とかに留学してて。
そのまま請われて研究者の道に進んでて実は。
ヨウコ先生のお師匠さん的立場、とかだったら楽しいよなあ……と。
つか、アスワドから飛び出したヨウコさんを拾ったのが。
クルーガーさんちだと良いなあ……と(んなご都合主義な)。
自分の夢を託す相手が見つかったので、ナツキちさんのママ。
故郷に帰って婿迎える決心がついたんですねきっと。
だから、ナツキちさんが思い込んでいる程。
ナツキちさんママは不幸でもなかったりするのですよきっと。

……とかって、明らかに捏造甚だしい設定が。
あんな突発小話の裏にあるだなんて。
誰も知るまい、ふっふっふ……(当たり前)。

後は、シズルさんですけれども。
(ハルカちゃんの中の人に釣られてシズルはんって書きそうになった/ヲイ)

ヴィンドブルーム出身としかないんですよね、プロフィールには。
でもそりなりに裕福なお家の出なんぢゃないかと。
あの京言葉からてっきり、ジパング出身やと思ってたんですが(其処?)。
もしかしたら、おかあはんがジパングのご出身なのかも。
大きな商いしてはるお家、なイメージがありますですね。
そりこそ、裏にも表にも顔の効く感じの。
小さい頃から何でも出来て、何不自由なくて。
でもだからか、何も欲しくなくて、満たされなくて。
静留さん以上に、大きな虚ろをその心に抱えてきたのぢゃないかなと。
てか。
シズルさんの怖さって、もしも、ナツキちさんに出逢わなかったら。
ナギ大公と同じ方向に向かっていたかもしれないって所なんですよね。
まあ、あくまで、己的な印象、ですけれども。
オトメシステムの不条理さに支えられた。
代わり映えのない世界の閉塞感に嫌気差して。
十二王戦争の再来を望む側に立っていたかもしれないなあと。

其処にもしも、何かしらの野心が芽生えていたとしたならば。
トモエちゃんの立ち位置にいたのは、きっと。
シズルさんぢゃ無かったのかなあとか(笑)。
や、怖い怖い。
良かった、色んな意味で、ナツキちさんが居てくれて(笑)。

ナツキちさんは。
舞-HiMEのなつきさんよりも、分り易いと言ふか。
動いて下さいますですねえ……己の中で。
多分、ずっとホントに素直なんですよね。
復讐者としての歪みを抱えないで居る分。
いつも一杯いっぱいなのは変わらないみたいですが。
変な背伸びをしなくて済んでいるからかなあ、とか。
もう、周りから見たら、可愛くて溜まらんのぢゃないのかなと。
きっと、実家で猫被って居る姿も。
両親にはきっちり見抜かれてて、でも敢えて見逃されてたんぢゃないかと。
ほら、その方が可愛いから(マテコラ)。
クルーガー家の居候ヨウコさんはそんな親子関係を見てきっと。
こっそり頭を抱えていたに違いない(笑)。
だから、後年、ナツキちさんが変な上級生(笑)に惚れられて懐いて。
徐々に地を出す事になるのも全然平気に観察出来ていたに違いない。
だから、あれですよ、訓練合宿の際の。
シズルさんのナツキちさんへの悪戯行為(笑)傍で見てても。
動じず華麗にスルー出来たんですよ、きっと。

とか、そんな捏造コネタで遊ぶのもええんですが。
やっぱり出来ればちゃんと公式で。
シズナツ二人の過去をきっちり見せて欲しいもんですねえ……。

『舞-乙HiME』OVAで明かされる予定は……なさそうですけれども。
や、己の脳内妄想ひっくり返すやうな、公式エピソード。
ほんのり期待したいと思いますです。

ともあれ、今から11月が、かなり楽しみな己です、はい。


つか。
舞衣ちゃんにももっと、活躍の場を!(笑)
ナツキちさんと親友らしい所を是非見せて頂きたく!!

ぢゃないとまた己。
とっとと捏造すrげふがふごふ(逸らし目)。


2006年01月08日(日) つーか久々にアクションっぽいシーン書けたのが愉しかったり(何)。※ホントは060923.


切り結ぶ。
寸断無く切り込んでくる得物を弾きながら、右へ左へ。
かわすその先に回り込んでくる、刃。
必死に払い落とすその先に、見える。
余裕に満ちた、ほんのりと緩んでさえいる口元。
けれども。
それに闘志を掻き立てられるどころか、切なくて。
鈍った動きを、刹那に見切られて。
気が付けば、咽喉元に、鋭い切っ先を突きつけられていた。




綺麗な夢のその先に




「あきませんなあ……」

苦笑交じりな声に、情けなさよりも脱力の方が勝る。

「そんなんでは、いつまで経っても舞衣さんに勝てませんえ?」
「……分ってる」

間近に見上げてくる、真紅の瞳が細められる。

「ううん、ちいとも分かってはらへんよ」

続く言葉の温度の冷ややかさが、背筋を凍らせる。

「ナツキ……あんた、何しに此処へ来はったん?」

それでも、その端麗な面に浮ぶ笑顔はそのままで。
却って、肝を冷やす。

「何しに……って……」

辺境伯爵領主の娘に生まれた、その時から。
自分を縛り付けていた、様々な柵。
先代の伯爵の一人娘であったが故に、ガルデローベ随一の科学者である地位を捨てて故郷に帰った母の背中を見るまでも無く。
それは、いつか、この身と心とを押し潰してしまうかもしれない事に気付いた日から。
オトメに為る、それだけが、自分を解放する唯一の手段だと信じて、此処に辿り着いた。
誰にも文句を言わせない、己がマスターの命と名誉の為だけに生きる事の出来る、誇り高きマイスター・オトメたち。
そう為る事だけが、ただ一つの夢だった。

「あんた、ちぃとも、本気やあらへんもの」

手にした得物をまるで重さを感じさせない優雅な動作で引き下げると、彼女は、いっそう華やかな笑顔になる。

「此処に来たんは、オトメにならはる為……違いますか?」
「……違わない」
「せやったら、何で、本気出しはりませんの」

その言葉を言い終えるや否や。
鋭く風を切った白刃が、耳元で一閃する。
その間も、身動きすら出来なかった。
そう、瞬きすら。

「お仕えするマスターが決まったら、時と場合に拠っては、オトメはオトメ同士、戦う事だって有り得ますんえ?」

いっそ、愉しげに。
刃を、練習場の強固な壁に深々と突き刺したまま。
パールオトメでただ一人着用を許される純白の制服に身を包んだ彼女は、凄絶に微笑んだ。

「今の内に、ライバル蹴落とす事も出来んと、どないしはりますのん?」
「シズル……」

普段の穏かさ、たおやかさを微塵も感じさせない、戦士としてのオトメの笑顔。
これが、自分が憧れ続けていた存在の、頂点を極めようとする者の笑顔。
でも。

「でも、私は……」

血のように紅い、けれども、凍りついた月のような冷たい光を湛えた瞳を覗き込む。
その奥底に潜む、彼女の心に辿り着きたくて、必死になったあの日を思い出す。
お部屋係として、彼女に一番近い存在として、過ごした毎日を思い起こす。
そう。
彼女は、自分よりも先に、マイスター・オトメになる。
今の時点でも、生まれ故郷は愚か、各国首脳から引く手数多な彼女の事。
主を必要としない五柱に選ばれでもしない限り。
いつかは誰かと命と名誉を共にする、この世界でも最強の存在の一人になる。
でも。
だからこそ。
自分の負けず嫌いな気持ちを真正面から受け止めてくれる親友に対してならいざ知らず。
彼女には、本気の刃など、向けられない。
進級に向けての、最後の舞闘会で対戦する事となった、親友との戦いに備えての練習の筈が。
自分の中にある、情け無い程の真実に気付く切っ掛けになるなんて。

「私は……おまえとは、闘えない」
「……ナツキ?」
「おまえは……限りなく、マイスターに近いおまえなら、誰が相手でも本気で闘えるのだろうな。でも私は……」

ただ、自由になりたかった。
全ての柵を一旦かなぐり捨てて、生き直せるのならそれだけで良かった。
誰にも文句を言わせない為に、一番で居たかった。
誰にも負けない自分で在りたかった。
そんな子どもじみた動機で、オトメを目指した。
マイスター・オトメに為ろうとしていた。
知らなかった。
自分は、本当に、何も知らなかったから。

「私は……おまえとだけは、どうしたって、闘えない……」

自分自身と同じ位、いや、それ以上に。
大切なものなど、無いと思っていた。
守るべきものは、自分自身、ただそれだけだと。
だから、負けたくはなかった。
誰にも、負けたくはなかった。
でも。

「闘えないんだ……」

力を失った掌から滑り落ちた杖が、音を立てて転がる。
情けない、けれども同時に、酷く静かな気持ちだった。
彼女と戦う事を強いられる位なら、マイスターオトメになんてなれなくて良い。
コーラルオトメナンバー2にあるまじき考えかもしれないけれども。
自分に、嘘は、つけない。

「……ほんまに、あんた言う人は」

真紅の瞳が、長い睫に縁取られた瞼に挟まれて細くなる。
その眼差しは、かつて見た事もない程に剣呑で。
そのまま、射殺されるかもしれないと、半ば以上本気で思う。
それでも、良い。
情けないけれども、どうしようもない。

「……堪忍な」

不意に。
その視線が逸らされる。

「あんたにも、色々、夢やら希望やらあったやろうに」

苦い笑いを滲ませた声音が、肩先に力なく触れる。

「最初から、そうやったね。うちは、あんたの中のそういう、綺麗なもんを、粉々に打ち砕いてばっかり」

何を言われているのか。
言葉の意味が頭の中に落ち着く前に。
彼女は、音も無く身を翻す。

「堪忍。お稽古はこれでお仕舞い。後は、ハルカさんにでもお願いしておくれやす」
「ちょ……待て、シズル……っ」
「うちはな」

叫ぶように呼びかけても、向けられた背中は小揺るぎもしない。
その肩越しに、静かな、酷く静かな声だけが届く。

「うちには、何もないんよ。生まれも育ちも、普通からしたら恵まれ過ぎな程やのに、でも、うちの中にはホンマ、何んもない。あんたや、ハルカさんや……舞衣さんが持ってるみたいな、綺麗な夢も、希望も目的も」

あるのは、力だけ。
そう、ぽつりと、零された声は。
ともすれば、聞き逃す程、小さくて。
気が付いたら、手を伸ばしていた。

「そんなこと、そんなこと言うな……!」

必死に、手を伸ばしていた。
だらりと力なく体の傍に垂らされた、左の手首を、掴み取っていた。

「言わないでくれ……そんなの……っ」
「ナツキはうちとは違う」

しんと、静かな声が。
拒絶すら感じさせる、冴えた声が、続く。

「あんたは、ホンマに、優しい子ぉやから。誰からも愛されるやろし、誰の事も守れる、強いマイスターオトメに、きっとなれる。けど、うちは」
「シズル……っ!!」

殆ど怒声に違い叫びが。
自分でも驚く程の強さで、咽喉から迸った。

「それじゃ…私は! おまえに何も無いのなら、私は……私は、おまえの……!」

こみ上げる熱いものが。
吐き出せない程の大きさで、咽喉を埋める。

「私じゃ……駄目だっていうのか……そんなの……」
「ナツキ……」

振り返る彼女の顔は、見えなかった。
溢れるものが瞼を覆って、思わず顔を背けていた。
近づけたと思っていた。
たとえ、オトメとして自分が相応しかろうがそうでなかろうが。
彼女の空ろな笑顔のその奥にある心には確かに、近づく事が出来たと、信じ込んでいた。
でもそれは、幼い自分の、思い込みでしか無かったのだと、思い知らされたようで。
それが、悔しくて情けなくて。
溢れ出た勝手な涙を彼女に見せたくなくて、必死で顔を背けた。

「……堪忍、堪忍な」
「あ、謝るな……っ!!」

掴んでいた手を離して。
両の拳を目元に強く押し当てる。
もしも、自分が、こんなに子どもではなくて。
たとえば、自分や彼女の親友のように、真正面から。
彼女が唯一信じるもので……力でぶつかることが出来る人間なら。
彼女の心に少しでも、居場所を作れたのかもしれないという事に、改めて思い至って。
悔しかった、情けなかった。
闘えないなんて、ただの甘えでしかなかった。
ならば。

「良く分かった……私は、もっと、強くなるから……!」
「え……?」
「強くなる……おまえを叩きのめす事が出来るくらいに……強く……だから……っ」

何も無いなんて、言うな。
最後は、言葉にすら、為らなかった。

「ナツキ……っ」

不意に。
彼女の声が、揺らいで。
何かが激しく床に叩きつけられるような音がして。
次の瞬間、体中を、きつく、きつく、縛めるように、抱き竦められた。

「……シ、シズ……ル……?」
「堪忍……ホンマに……堪忍しとくれやす……」

耳元に触れる彼女の声は、小さく震えていて。
訳も分からず、胸が痛んだ。

「あ、謝るなって言ってる……っ! 悪いのはおまえじゃなくて」
「ううん、うちが……うちが……」
「シズル……」

震えているのは、声だけではなかった。
自分を抱き締める腕も、ぴったりと押し付けられた身体も。
何かを堪えるように強く、震えていた。
まるで、小さな子どものように。

「シズル……その……ご、ごめん……」

ただただ、驚いて、どうしたら良いのか分からなくて。
彼女の、柔らかな髪が流れ落ちる背中に、そっと手を伸ばす。
びくり、と彼女の背中が大きく波打った。
それを少しでも宥めたくて、その背中を撫で擦る。

「私は……その、感謝してるんだ。シズルが、私の……お姉さまになってくれて。こうして、本気で、相手をしてくれて。でも、私が、不甲斐ないから……子どもだから。私は、何一つ、シズルの為には出来なくて……今もそうだ、情けなくて、悔しくて」

何を言いたいのか、自分でも分からないままに、必死で言葉を探す。
彼女の中に、自分の居場所が無くても、今は、構わない。
ただ、彼女が、悲しげなのは、辛かった。

「シズルの事が知りたくて、一緒に居たくて、こうして此処にいる癖に、私は……まだまだ子どもで、甘ったれて。このままじゃ、オトメになるどころか、一人前の人間にすら為れないかもしれない」

大きく息を吸う。
両の手を広げて、彼女の背中の真ん中で、強く強く、繋ぎ合わせる。

「それに……もしもいつかおまえが誰かのオトメになって、もしも私も誰かのオトメになることがあっても……やっぱり、おまえとは闘いたくないなんて思っているんだ。お互いのマスターがもし争い合う事になったとしても、闘う以外の方法で、解決したい。こんな事を言うこと自体、私がまだまだ子どもなのだって事なのかもしれないけれども」

繋いだ両手で囲んだ彼女の身体を、強く強く、引き寄せる。

「だから……強くなる。誰にも負けないくらい、文句を言わせないくらい強く。だから、おまえもこれからは私に、遠慮したり、手加減したりしないでくれると、その、ありがたい」

抱き締めた彼女の身体は、先程の冷徹なまでの強さを見せたオトメのものとは思えない位に華奢で、柔らかくて、不意に、胸が詰まった。

「いつか、あいつを倒して見せるし……誰にも負けないくらい、おまえと並び立てるくらい、強くなるから……なあ、シズル」

今は、それだけで良いから。
そう思いながら、心の何処かが、必死になっていた。
これまで同様、身勝手で、甘ったれた想いだけれども。
強くなりたい。
誰にも負けないくらい、強く、なりたかった。
自分自身の為に……彼女を、繋ぎとめる為に、もっと。

「だから私を……見捨てないでくれ、頼む」
「見捨てるやなんて……」

耳元で震える声がする。

「ホンマ……堪忍。うちの方こそ、大人げない事、言いました」

背中に回された彼女の腕が緩んで、静かに上下する。

「ナツキ……あんた、ホンマに、優しい、ええ子やなあ……」
「……いいさ。おまえには、子ども扱いされても仕方ない」
「そうやのうて」

小さく苦笑いを零すと、彼女はそっと、身体を離す。
その顔に浮ぶ笑顔は、先程までとは打って変わって、物柔らかで。
眩しいものを見るような気持ちになって、思わず目を細めた。

「うちはな、ナツキ。別にマイスターオトメになりとうて此処に居る訳やないんよ。自分には、力がある。他の人にはない、恐ろしい程の力が。その事に、何の意味があるのか良う分からへんかったけど、他にしたい事なりたい事ある訳でもなかったから、此処へ来た。ただそれだけやったんどす」

まだほんのりと赤い瞼をそっと閉じて、彼女は呟くように続ける。

「この、持って生まれた力、何処までも高めるだけ高めて、誰にも負けへんようになったら、こんなうちにも、何か見つかるかな、思て。こんなうちにも、居場所、見つかるかな……思て」
「シズル……」
「けど、自分からは、良う、動かれへんかった」

言葉を切った彼女は、瞼を開く。
その真紅の眼差しの深さに魅入られて、言葉は愚か、息さえ零せない。

「そんなうちにとって、ナツキ、あんたは……知れば知る程、眩しぅて、かなん」

気が付けば、彼女の手がそっと、頬に添えられていた。
その指先が、優しく、輪郭をなぞる様に動いていた。

「いつか、うちがマイスターになって、あんたも、誰ぞのオトメになる日ぃが来たら。うちの方こそ、どないしたらええかきっと、分からんようになるんやろね」
「……シズル……」

吐息が掛かる程近い距離で、彼女は、ふふっと小さな笑い声を立てた。

「うちがこんな風に思うようになるやなんて……あんたのせいどすえ?」
「わ、私の……って」
「せやから、あんじょう、気張りよし。うちの為にも」

最後にそっと、頬を撫でて、彼女の手が離れる。

「今日の所はこれまで、やけど。明日からは、もうちょぉ、本気出して励んでもらわんと」
「あ、ああ……望むところだ」

身体を離して、小さく首をかしげるようにして微笑む彼女は、いつも通りの彼女に見えて。
知らず緊張していた背中から、思わず力が抜ける。

「その……今日は、すまなかった。折角、相手をしてもらったのに、こんなんで」
「もうええんよ」

恥じ入って面を伏せた時、頭の上に、ふわりと優しい掌が下りて来た。

「ナツキ。立派なマイスターになっておくれやす。あんたが居てくれたらうちは多分、少しはまともなオトメで居られる……そう思いますよってに」
「バカな事を……」

思わず苦笑して、見上げた彼女が。
笑顔なのに何処かとてつもなく、寂しげに見えて、どきりとする。

「シズル……その……」
「ていうか、」

何をとは分からないままに発した言葉を遮るように、彼女は悪戯っぽく続けた。

「いっそ、ナツキがうちのマスターになってくれはったら万事解決やのにね」
「……はあっ?!」
「伯爵領、ナツキが一人で継ぐ訳にはいかへんのやろか?」
「ばっ! 出来るかそんな事! つか、それこそ真っ平ごめんだ! 私が何の為に……!」
「ふふふ……冗談どす、冗談」

語尾にハートマークさえ付けかねない口調で言い放つと、彼女は、さっさと背中を向ける。

「さあ、もう時間も遅なりましたから、そろそろ帰りましょな」
「あ……う、うん……」

何だか上手く誤魔化されたような気分のままに、頷いて。
その辺にうち捨てられた格好の、自分と彼女の得物を拾い集めて、後に続く。
と、その背中が不意に、立ち止まった。

「ナツキ」
「……何だ」
「おおきに」
「……べ、別に。私は何も」

言い掛けた時、振り返った彼女の手が、そっと伸ばされて。
武具を抱えたままの手を、優しく包み込んだ。

「傍に居ってくれて、おおきに」
「……ん」

腕に抱えた武具を、無造作に肩に担ぎ直すと。
彼女のその手を、握り返す。
たとえばいつか、マイスターになっても。
たとえば、誰かと、命と名誉を分け合うオトメになっても。
彼女とだけは、闘えない。いや。
闘わないですむように。
いつか、きっと、必ず。

「私こそ……」

自分の中に生まれた、新しい夢のその先には。
彼女の笑顔が、あるといい。
その為にも。

私は、強くなる。
誰よりも、何よりも。



―  了  ―






『舞-乙HiME』DVD最終巻発売&購入記念!
己的初学園長さん&補佐、しかもコーラル&パールオトメ時代、でした。
やー、突発突発……(汗笑)。
書きたい場面とか台詞とかアレコレ思いつくままにぶち込んだんで。
なんつーか、小話にもなってないですが。
いつかちゃんと書き直してドコゾへUpしますので。
そりまでは、どうか、お見逃し下さいませね……(平伏)。

てか。
一晩寝て、起きて、ちょこちょこと書き直し。

つか。
何このオトメちっくなシズナツは……!!!(赤面)

ホンマ。
真夜中のラヴレター状態……ははははは……(滝汗逸らし目笑)。


2006年01月07日(土) 各所滞っておりますですが。※ホントは、060917.

ようやっと季節も過ごし易くなりましたので。
のたのたとアルコホル度数の高いおちゃけを舐めつつ。
夜中にぐだぐだと浮かび上がっては駄々漏れる。
何かの断片やら欠片やらを捕まえては。
書き書きするスタンスが戻ってきそうな気配だったり。

その第一弾が。
今年はどうやら、静留さんだったやうですね(笑)。

手持ちのDVDが飛び飛びだってのもあり。
通しで見直すのには気力と体力を要するってのもあって。
どの回に挟まっていたのか正確には思い出せない(ヲイ)。
でも、己の中で、「しずなつ」なベストシーンとして。
くっきりと刻まれている、夕暮れ時の生徒会室のシーン。

このシーンの部分だけ、何度も繰り返し観たのですが。
勿論、全話観終えた後なのですが。
なんつーか、切なくて。

この頃のなつきちさん、かなり結構。
一杯いっぱいだったとは、思うのですが。
静留さんも、かなり結構。
一杯いっぱいやったやらうになあと、思うと。
ホンマ、切なくて痛くて悲しくて。

その想いが高じて、書き書きした訳ですが。
勢いが勝って、ちょっと、アレ、な感じな仕上がりに。
でも、まあ。
今の己には、こりが、精一杯、と言ふ事で(平伏)。


2006年01月06日(金) 鯖、お取替え。※ホントは060909.

概要をコピペです。



●サーバ交換に伴うサービス一時停止
日時   2006年9月12日(火)1:00〜17:00
対象   全ユーザー
事由   サーバ老朽化とサーバ構成見直しのため

・メンテナンス中も利用可能な機能
日記の閲覧
・メンテナンス中に利用不可能な機能
日記編集、デザイン編集、環境設定、アクセス解析、カウンタ、投票など、閲覧以外のすべての機能

※メンテナンス中も日記の閲覧は可能となっておりますが日記の書き込み、デザイン変更などの環境設定はご利用できません。また投票、アクセス解析もこの時間帯のアクセスは対象となりません。
※メンテナンスは日記閲覧が可能な状態で行う予定となっておりますが何らかの理由により閲覧も出来ない時間帯が発生する可能性もありますのでご了承ください
※サービス一時停止の時間帯は前後する場合がございますので、ご了承ください。




メルフォとかは。
どうなるのでせうねえ……?(ヲイ)


2006年01月05日(木)

独り言。
ホンマ、只の独り言。

心配は、ご無用。
偶の、ガス抜き。






怒鳴り散らしたい位の感情がこの胸の中にはあって。
感情そのものでしかない何かがこの胸の中にはあって。

それを形に出来ればそして吐き散らす事が出来れば。
重苦しい何かから解放されるのかと言へばそうではなく。

ただ。
何を求めて己は人に近づこうとして。
何を求めて人は己に近づこうとして。

それが。
その事を勝手に考えてしまうこの心が。
酷く重くてうっとおしくて嫌で放り投げたくて。
堪らない時が、あって。

楽しい、嬉しい、幸せな時間とか、思い出とかを。
下手すると汚しかねない、馬鹿みたいな鬱屈した言葉を。
そう、こうやって。

何処かへと投げ出しうっちゃらかして。
清々したい、ただ、それだけの事なのかもしれないと。

持て余す自意識とかその他諸々と共に。
自分自身の存在の重たさごと。



遠くへ行きたくなる。
海ですらない。
遠くへ。




2006年01月04日(水)

リハビリ的に、やってみるコース(何)。





閉じた瞼の裏側に映るあの色は。
酷く赤くて仄暗くそれでいて熱くて。
逸らしたくても逸らせない視野の中一杯に。
いつか溢れて全てを塗り潰してしまいそうで。
目覚めてからも暫くは。
夜明けの光の中、目にするもの全ての中に。
その残像を幻視する程だった。







1月。
生徒会役員の改選が行なわれ。
対立候補に大差を付けて会長職に当選した後は。
細々とした引継ぎに追われて月の終わりを迎えた。
地域柄、出身地程の厳しさを感じない寒さはそれでも。
昨日よりも今日の方が身に染みる感じで。
自分用に新調された生徒会長用のジャケットの。
まだ着慣らされていない襟や袖口の硬さが。
余計に冷気を呼び込んで自然、背筋が伸びる。
寒い時ほど、身を縮めず凛と立ち振る舞う事。
記憶の中に僅かに残る母がいつだったか。
病床からその手を伸ばして、この背に触れて。
そんな事を繰り返した事があったなあと。
ふとに思い出した自分に、知らず微笑む。

「――それでは、執行部長は珠州城遥さんにお願いするということで」

思わず零れた笑みはタイミング良く。
副会長職に収まった隣席の少年の宣言に重なり。
指名された少女が起立し張り切って始めた演説に向けたものへと。
自然にすり替えることが出来た。


早い落日が高台に在る校舎の窓辺を遠くから照らし海へと向かう。
そんな様を見るとも無く見やりながら、廊下を行く。

「それにしても、」

生徒会室からずっと、当然のように隣を歩く副会長が。
さり気なく口火を切った。

「意外だったな。藤乃さんが立候補するなんて」

あら、とその端正な横顔を眺め上げる。

「それはうちの台詞や思いますけど」
「そうかい?」

自分と、全校女子生徒の人気を二分すると評される彼は。
これまた自分と同じく、これまではおよそ。
人望の割には権力志向とは無縁と思われていた生徒だった。
周囲に推されてクラス委員や部活の要職に立つ事はあっても。
自発的に、このような地位を求めた事がないと言う点に於いても。
似たもの同士な空気を何処かで互いに抱き合っていた。
そんな人物でもある。

「神崎さんほどの方が、敢えて立候補しはるのどしたらきっと、
会長職を選びはるんやないか、そう思てましたし」
「なるほど」

彼は、口元に人好きのする笑みを刷いた。

「それは考えないでも無かったんだけれどもね。
生憎、先を越されてしまったから」
「先……?」

ああ、と微笑んでゆるく視線を送ってくる。
黒々と底の知れない瞳に湛えられるのは、優しげな光。

「珠州城さんが去年末からずっと、張り切ってたからね。
その上、藤乃さんまで立候補したとなると、僕には分が悪すぎた」
「そらまた、ご謙遜やね」

やんわりと笑ってその視線を受け流す。

「まあでも、お陰で副会長職は信任投票。
僕自身は何の波乱も無く現職に収まれたのだから有難い」
「神崎さんも、受験対策どすか?」

逸らされた話題を、微妙に軌道修正しつつ戻す。
おや、と不思議そうに彼は目を細めた。

「藤乃さんは、そんなつもりで?」
「ええ。まあ、色んな方が推してくれはった、いうのもありますけど。
うちは一応、年内に受験終わらすんを希望してますさかいに。
皆さんのお役に立てて、ついでにそんな余禄も頂けるんやったらまあ、
引き受けてもええかなあ、言うつもりで」
「ははは……珠州城さんが聞いたら卒倒しそうな動機だね」

窓辺から差込む夕焼けに背を向け、二人して階段を下りる。
途中、何人かの生徒と行き会って、黄色い声や上ずった挨拶に答えつつ、
昇降口に辿り着いた。

「後は、そやね……長い事うちに居場所を与えてくれた、
この学園に対する恩返し、位のもんどすけど」

クラスが違う為、靴箱が並び立つ前で一旦足を止め、言葉を繋ぐ。

「神崎さんも、同じような事、考えてはったんなら面白おすなぁて」
「そうだね……僕も、ま、そんな所かな」

曖昧な言葉とは裏腹に、生真面目そうな笑みで答えた彼が。
そのまま、廊下の突き当たり。
中等部の校舎へと続く渡り廊下への出口を振り返る。
つられるようにして流した視線のその先で。
重い鉄扉がゆっくりと開く。

どきりとした。

海から流れてくる冷えた風を背に受けて。
大きく羽根を広げた鳥がそこから――。

それは一瞬の、幻覚。
実際には、夜の闇のように黒々とした艶を湛えた長い髪が。
冬の強風に煽られて持ち主と共に押し開かれた鉄扉の向こうから。
飛び込んできたのだった。

思いの他大きな音を立てて、扉が閉じ。
滑り込んできたあの子がぎょっとして、足を竦ませる。





続きます(えー)。


2006年01月03日(火) 天然サイダー味でも良かったかなあと思いつつ(何)。※ホントは060819.

天然ブルーベリー味にしました。
サイダーよりも、なつきちさんらしい色やなと思ったので。

ちなみにトマトは、色ではなく味で選びましたが何か?(笑)


つーことで。
昨日付で突発下書きをしていたなつきちさんBD小話を。
加筆訂正してWeb拍手の方に2分割UP。
思いの他文字数増えてしまった模様。
てか、うっかりHTML付けてUPしたのがアレだったかと。
そんな裏話はどおでもええとして(何)。

小話に登場しました。
京都の手作り金平糖ですが。
あれ、製法にマニュアルがないそうで。
口伝っつーか、一子相伝っつーか。
兎に角、作る経験を重ねないと分からない製法で。
何日も何日も掛けて作るのだそうですね。
米粒を精製して作った芯に砂糖を絡めて。
何日も何日も掛けて角を作り、色と味とを付けて。

他にも色々と。
ネタにするにあたって調べ直した事が。
この金平糖屋さんにはあるのですが。
まあ、色々と説明するのも野暮なので一先ず終了。

ただ、某mixiでも呟いてましたですが。
お店のお姉さんたちは皆さまお綺麗で可愛らしうて。
一所懸命で素敵なので(笑)。
声を掛けてきてくれたらば、折角のですので。
金平糖の作り方を一から説明してもらって下さいませ。
結構幸せな気分になれますです(笑)。

そりにしても。
久々に書き書きに没頭する事二時間余り。
体力も気力も相当減衰しまくってますなあと。
ホント、がっくり来ましたです……(伏し目)。
此方で時々一発書きしている奴には。
制限時間が付いて居たりしますですが。
あれは寧ろ物理的な制限っつーよりは。
30分とか60分とかリミットつきなら。
何とか集中力も気力も途切れないで書き上がるかなあと。
己を己で追い詰めている部分があったりなかったり(どっち)。

元々。
じっくりゆっくり時間を掛けて積み重ねるやうにして。
ものを書く人間では無かったのですけれどもね。
そりにしても、バテバテです。

それでも、こう、何かしら。
吐き出し形を成し、放り出しておかないと。
胸の中に詰まって息苦しくなるやうな。
気持ちがぐるぐるして落ち着かないやうな感じは。
常に何処かにあったりするものですから。
なんつーか、バランス悪い、今日この頃です。
む゛−ん゛(何)。


2006年01月02日(月) ※ホントは、060815.有り得ない位突貫(何)。

つか。
全然行き当たりばったりな下書き状態なので。
どうかお見逃しアレ。
その為の半纏…もとい反転仕様ですので……(逸らし目涙)。
完成したら、ドコゾへUPします……多分(多分!?)。



夏は帰省しないのかと。
何かの拍子に、あの子が訊いてきた。
それは確か、夏休みを目前に控えたある日の午後。
親戚周りもあるからと、お盆の頃の予定を伝えた時。
ほんの少しだけ、あの子の顔が。
いつも以上に、つまらなさそうに見えたのがずっと。
気になって、仕方が無かった。







生徒会絡みで学校行事に関する仕事があるからと。
嘘では無いけれども正確でもない言い訳を用意して。
義理のある方面への挨拶だけは最小限済ませて。
いつもより短めに、帰省を終えて学園に戻る。
送り火も見んと帰るんか、と。
身内の者には少し、驚かれたけれども。
本当の理由など、話せる筈も無い。

――ほんまに、かなんなあ……。

フェリーの船室の中、下船前の荷造りを終え。
旅行バッグの口金をそっと撫でながら独り言をそっと呟く。
今日明日の間に会えるとも限らないけれども。
そして肝心のあの子自身の予定を確認すらしていなかったけれども。
あの日目にしたあの子の寂しげな横顔が。
どうしても、胸の中に張り付いて消えてくれないから。

――しょうがあらしませんなあ。

小さく、笑った。


港からバスで小一時間、海沿いの国道を走りぬけ。
学園の正門へ向かう上り坂の手前の停留所で下車する。
随分と傾いた日が、海を茜に染めているのに目を細め。
荷物を持ち直して、歩き出す。
今は勿論夏休み、しかもお盆休みの真っ只中とあって。
正門まで辿り着いても、ひと気は全く無かった。
肝心のあの子にしたって、帰省とは無縁であっても。
わざわざこんな時期に学園に顔を出すとは思えない。
さて、どうしたものかと、並木道が交差する場所でふと立ち止まる。
取敢えず、真っ直ぐ女子寮に帰る気もしなくて。
中庭へと足を運んだ。

私服姿でこの場所を訪れるのは、初めてだった。
その事にほんの少し緊張する自分に気付いて微笑んだ。

今年の春、此処であの子と出逢った。

顔と名前は知っていたけれど。
実際に言葉を交わしたのはあれが初めてだった。

――なんや、随分と昔の事みたいやなあ……。

ほんの数ヶ月前のことだというのに。
胸に片手を添えて思い出す、あの時の。
取り付く島もないほどに鋭くそっけなさに満ちたあの子の姿と。
夏休み前の、どこか寂しげな横顔とが何故か矛盾なく。
この胸の中でそっと重なる。

――出来れば、今日にでも会いたい。

会って、いつものように微笑みかけて。
他愛の無い話をして。
時にはからかって。
そうして、自分の感情に素直に赤くなったり困ったりする。
あの子の顔を、見ていたい。

――あかんなあ……。

自分の思考に、ふと、苦笑が漏れる。
帰省を切り上げて来たのは結局。
あの子の為なんかでは無かった。
どんな理由でも構わなかったのだ。
あの子の顔を見たい、声を聞きたい。
それはただ、自分の為。

「……静留?」

だから。
少し遠い背後からその声が聴こえた時は。
一瞬、己の耳は愚か、正気を疑った。

「ああ、やっぱり……」

振り返ると、いつもの制服姿のあの子が。
少し驚いたような顔で、中庭へと降りる階段の半ばに佇んでいた。

「なつき……」
「帰省してたんじゃ、なかったのか」

軽く小首を傾げながら歩み寄って来るその姿は。
どうやら幻ではなさそうだった。

「ええ…生徒会の御用があるから、少ぉし早よ帰ってきたんよ」

ふうん、と興味なさげに鼻を鳴らすあの子を間近に眺め。
ふふ…っと声を立てて微笑んだ。

「何だ?」
「なつき、ひょっとして、補習組やったん?」
「……!」

正直に頬を染めて絶句したあの子に、一層頬が緩む。

「お誕生日の前の日や言うのに、大変やったね」
「別に……」

言って背けかけた顔が、はっと此方を向く。

「何で……」
「ふふふ……個人情報やけど、一応うち、生徒会役員ですさかいに」

高等部の生徒会執行部程ではなくとも。
中等部の生徒会の権限も世間一般の中学校のものよりも。
かなり強いのが我が学園の特徴だった。

「気に為る子ぉのプロフィール位はチェック済みどす」
「……職権濫用だな」

吐き捨てるように呟いた横顔が、夕映えだけでもなく薄っすらと染まる。

「ふふ…そんな日ぃに真面目に補習受けてたなつきには。
 ご褒美差し上げんとあきませんなあ」
「ご……っ?」

何だって、と言いたげなあの子に、ちょお失礼、と背を向け。
足元に降ろした旅行バッグの口金をそっと外す。

「頭使ぉた後なら、丁度良かったかもしれまへんなあ……」

そんな事を、わざと聞こえる位の声で呟きながら。
鞄の中、外の荷物に潰されないよう大事に入れていた。
包みをそっと、取り出した。

「お口に合ぉたらええねんけど」
「……って、食べ物か?これ」

深い緑色の紙包みを手渡すと、不思議そうな顔で手の中のそれを見下ろす。

「あけてみて、そないに変わったもんでもあらへんけど」

軽く眉根を寄せて、でも躊躇わずに包みを開き始めるあの子の目に。
抑え難い好奇心に満ちた光を認める。
それだけで、電車とフェリーとバスを乗り継いできた甲斐があったと。
心から、満足を覚える。

「……金平糖?」

かさりと音を立てて開いた包装紙の中には二種類の金平糖。
それぞれ、小さな竹籠に懐紙を敷いた上に盛られ。
透明な袋に包まれている。

「ええ、ちょお珍しい味のんがありましたから、お土産にと思うて」
「珍しい……?」

どこが、と言いたげに更に眉根が寄る。
爽やかな水色と、鮮やかな紅色のそれらは一見。
確かに何処にでもある金平糖にしか見えないけれども。

「青いのんが、ソーダ味。赤いのんは、トマト味」

歌うように説明すると、予想通りあの子は驚いて顔を上げる。

「と、トマト?」
「冷凍庫で冷やすと美味しいんよ?
 けど、マヨは掛けへん方がよろしおすな」
「ばっ…! いくら私でもするか! そんなこと!」

叫ぶように言い放つと、険しい表情のままで。
視線を再び手の中の金平糖に落とす。
小さなツノを幾つも張り巡らせた二色の砂糖菓子。
父に連れられ挨拶周りをこなしていた道すがらふと思いついて。
表通りから路地へ少し入った所にある老舗に足を運んだ。
懐かしいあの子の好きな色を思わせる、青。
そして、その傍らに寄り添わせたかった、赤。
夏場にしか店頭に姿を見せないそれらを見つけた瞬間。
これしかないと、思っていた自分を思い出す。

「変な取り合わせやけど、面白いか思いまして」
「……確かにな」

トマトか…と、胡乱げな眼差しで見やった後。
あの子は、無造作に青い方を包装紙ごと。
スカートのポケットに突っ込んだ。

「あら嬉しい。味見、してくれはるん?」
「め、珍しいからな」

透明な包みを、思いのほか繊細な手つきで開くと。
あの子は慎重に、赤い粒を幾つか指先に摘みあげた。

――なんや、ドキドキしますなあ。

そんな事を考えてしまうこちらの気持ちなどお構い無しに。
摘み上げた分を一気に口の中へ放り込む。

「……どうどす?」
「……うーん……?」

軽く唸り声を上げたあと、顰められていた眉がぱっと開く。

「……ホントだ……トマトの味がする……」

へえ……と。
打って変わって感心したような顔で包みをみやるあの子の横顔に。
胸の動悸が更に忙しなくなる。

「常温と、凍らした時とでは味が変わるんよ」
「へえ……」
「良かったら、試してな」

いつもとは違う、年齢相応に幼い表情を湛えた横顔。
それが、手を伸ばせば直ぐそこにあって。
何かを一心に見つめている。
その顔を見たかった。
その顔を見ることが出来たら嬉しいと。
でも、どうやら。

――それだけでは、十分とは思えんらしいなあ、この心は。

その想いを、自嘲じみた呟きでそっと抑えて。

「どうやら、喜んで貰えたみたいやね」
「ん……あ、ああ」

上の空で聞いていたあの子が、ふと我に返ったように振り返る。
照れ臭げに引き結ばれた口元が目に止まる。
そこから、そっと視線を外して、にっこりと笑って見せた

「ほな、これがうちからの御土産、兼、お誕生日のお祝い」

一緒くたにして悪いけど、と続けたら。
あの子の口元が一瞬、震えた、そんな気がした。
そこから再び視線を外して……。

あの子の顔が見えない角度から、そっと、その肩を抱き締めた。

「お誕生日おめでとさんどす、なつき」
「ば……っ! 何するこんなとこで……!」
「あら、そないに嫌がらんでも」

案の定、慌てて振り払おうもがき始めたその身を離さないように。
両腕に力を込める。 

「これはお祝いの抱擁やねんから」
「い、いらん! 暑い!」
「ううん、いけず」
「………っ! 静留……っ!」

力ずくで引き剥がす素振りを見せるあの子の耳元に。
そっと、唇を寄せる。

「なつきの誕生日、いうことは。
 うちがなつきと逢えた事、感謝する日、いうことですよって」
「な……っ」
「ちゃんと、お祝いしたいんよ」

言って、そっと、腕の力を緩める。

「おめでとう。それから、御土産よろこんでくれておおきに」

にっこりと笑って見つめたあの子の顔は。
夕暮れ時の中にあってもそれと分かる位に真っ赤で。

「……変な奴だな」

力を抜いた腕の中からそっと抜け出しながら、顔を背ける。

「土産を持ってきたのはお前の方だろ……礼なんて」
「そうどすか」
「そうだ」

言って、顔を背けたまま、躊躇うように唇を少し開いた後。

「……有難う」

呟くように零す、小さな声。
それだけの事に、耳まで赤く染めたあの子が愛しくて。
愛しくて、堪らなくて。
そっと、気付かれない位にそっと。
少し、足を引いて、微笑を返した。


これは、あの子の為やない。
そうやない。
この先、何度と無く繰り返し。
呪文のように確かめる事になる想いを胸の中に抱きながら。
ただ、あの子を見つめて、微笑み続けた。





時間切れ。
今日の日付の内に直せたら、奇跡(え)。
<060815>



ちなみに、この金平糖は実在します。
此方様ですh足してGo!(えー)→ttp://www.konpeito.co.jp/


2006年01月01日(日) 8月の台風。※ホントは060808.

そんな感じで。
元旦な日付に書いてますけれども。
今の己は、06年の8月台風7号アジア名MARIA様が。
関西に最接近なされた日に存在しておりますです(何)。

さて。
某mixi日記にメモって置いた事を。
もうちょっと補足しつつ此処にもメモをとか思いまして。
ええ、ホントは此処に書くのが一番相応しいだらうなあと思いつつ。
移動中に書けるのってあそこしかなかったもので(ヲイ)。

書き出しは、

>己の中のしずなつの形について。

でしたですね。つか何コレ(失笑)。
形っつーか、捉え方?描きたい方向性?
そりとも、原作アニメを見て以降。
アニメブックの『なつきのプレリュード』とか。
ドラマCDとかキャラソング集とか。
割と手に入りやすいオフィシャルなアイテムから読み取った。
なつきと静留の関係の描かれ方に己が感じた。
引っ掛かり、みたいなものかもしれないですけれども。

>「あんたの好きとうちの好きは違う」てなんやろなあとか。
>(友情と恋情の違いだけやない気が)。

これって、例の。
篠崎邸で目を覚ましたなつきとのやりとりのシーンの最後に。
静留さんが呟いた、あの台詞からだったんですが。
ドラマCD二枚目の「桜の花、咲くころ」には。
脚本の吉野氏曰く、アニメ版コンテの段階で切られたと言ふ。
直前のなつきの台詞を全部、入れたのだそうで。

「うちは……なつきが好きどすえ。
 せやから、何があったかて、うちはなつきを守ります」
「静留……。わ、私も……静留が好きだ。
 静留のような友人がいて、良かった……

色変えた部分が、そのアニメではカットされた部分どす(どす?)。

いや、これ、カットされてて良かったなあとか(何)。
上記のやりとりの後に、襖の向こうの廊下にでて、
静留さんが、くだんの台詞を口走るのですから。

「でも…あんたの好きとうちの好きは違うんどす……なつき」

カットされた台詞があったら。
友情と恋情の違い、としか受け取りようなかったと思うので。
てか、別にそりが悪いって意味ぢゃないんですけれどもね。
ただ、あくまで己の中の静留さんは。
そんな説明で納得出来るやうな理由で、己のなつきに対する気持ちを。
「邪まな恋」と言ふ一言で片付けたりはせんのぢゃないかなあと。
これが、先ず第一の、己の願望で(え)。

それに基づいて、次に書き書きしたコレが来るのです。

>なつきをありのまま受け入れ包み込むだけでええ、いうのと、
>「なつきをうちのもんに」いうのと間にある相違、
>ある意味相反する感情の在り方とか。
>その辺が気になり続けていて、だから書き始めたのだといふこと。

同じくドラマCDの同トラックに。

「いつか、なつきがうちの思いを受け入れてくれるかもしれへん。
 そんな夢みたいなこと、心の底でずぅっと期待してた自分に」

って台詞があるのですが。
ええ、蝕の祭りのカラクリを、初めて凪に聞かされた時の、
裏エピソードとして。

この、「うちの思い」ってのが、どうにもこうにも気になって。

素直に聴けば、

「なつきが側に居てくれさえすれば、それで幸せやと思うてました」

いう台詞から繋がる展開ですし。
「友情」優先、良いお友だち、良い先輩に収まって見守る事で。
満足出来ると自分を誤魔化していたのが、HiMEの運命を知って。
ある意味、後が無い状態になって開き直ったっつーか。
いずれ誰か一人しか残れない状態ならいっそ……みないな。
一種の自棄に陥って、恋情の暴走がスタートした、と。
そう解釈すればある意味事足りる展開やと思わんでも無かったのですが。

でも、逆に却ってそれが。
己の中にある、引っ掛かりを更に。
大きく膨らませていく事にも繋がったのですよね、恐らく。

まあ、これ以上突っ込むと。
ちょっとややこしいっつーか。
ちょっと恥ずかしい(何)話まで展開する事になりそうなので。
シャイな己は逃げを打ちますけれども(何々)。

要はあれです。
静留さんの「思い」の中身を、己は多分、知りたくて。
でもって、それを。
「異性愛しか受け付けない相手に対する同性愛の悲恋」では。
片付けられないっつーか、片付けなくないっつーか。
そんな方向で、色々考えてみたりしている訳で。

もっと言ふと。
25話の、直接対決の最後に、なつきが静留に贈った最後の口付けの。
あの意味も、もうちょっと掘り下げたいっつーか。
その辺も、色々考えてみたりしている訳で。

まあ、某mixiのメモの続きはその辺を。
更に胡乱にごちゃごちゃと説明してみたくて。
でも仕切れなくて書いた、追記だったのですけれども。


つーことで。
こりもあくまで、己の個人的なメモ書きみたいなもので(え)。
この先、自分が何を書こうとしていたのかを。
見失わないやうにするための、覚書でもありましたのです。


うっかりお付き合い下さる羽目になられた方には。
お目汚し、失礼を致しましたです、はい(平伏)。


一橋@胡乱。 |一言物申す!(メールフォーム)

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