鍋をたたく...鍋男

 

 

浜松市楽器博物館総合案内図録2015 - 2015年12月10日(木)

去年の末にそういうのを作るからと原稿を頼まれました。今年のあたまに出して、先日本が送られてきました。257ページにもなる本を編集するのも大変だったろうと思います。
世界の歴史ある楽器からつい最近の楽器まで、あまねく紹介されている。かつそれぞれの専門家がその楽器、文化などについてのコラムを書いている。
こんなりっぱな本に自分の文章が載ってるのが、うれしくもこそばゆい。

こんなあきない本もない。
本を閉じられなくなるのが怖いので、まだ自分のページしか見てないけど、めちゃめちゃ楽しそうです。
あなたが楽器好きなら、楽器博物館にお寄りの際にぜひ一冊お買い求めください。(発売時期は未定 今のところ4月頃になるのでは、という話でした)

僕の文章だけ、ちょこっとのっけさせてもらいます。





トリニダード島の人だからといって、すべての人がスティールパン(スティールドラム)を叩けるわけではない。
それでも、どの人と話をしても、
[うちの親戚は去年優勝したバンドでたたいてたのよ]
とか
[小さい頃、おじさんの家に遊びにいってよくたたかしてもらってた]
という話になるから、やっぱりみじかな存在の楽器であることはまちがいない。

ここカリブ海のトリニダード島では、各町にスティールパンのバンドがあり、それぞれのバンドが、年に一度のスティールパンの祭典 [パノラマ コンペティション] で、優勝するべく日々の練習にいそしんでいる。
低音から高音までざっと10パートほどに分かれてアンサンブルを形成するスティールバンドのサウンドの特徴は、何と言ってもその音圧だろう。
ドラム缶まるままの楽器ベースパンの音圧は想像していただけると思う。6ベースというパートはそのドラム缶を6本並べる。ベースパートだけで、多いバンドなら30-40人もいるのだ。ドラム缶の数はベースだけでも100本を超える。一斉に鳴らした時の音圧は他で経験したことのない激しく豊かな非議来だ。
 特に大きなバンドは100人、120人というメンバーを抱え、壮大な音を作ることから、敬意を持ってスティールオーケストラとよばれる。

1993年の[パノラマ]の少しあと、私はトリニダード島を訪れ、Moods(ムーズ)というバンドにいれてもらって練習することになる。普段の練習は20人ほど、パノラマの時でも40〜50名。トリニダードでは、この規模だとスモールバンドとよばれる。

練習場はコミュニティセンターにある広場。端にバスケットのゴールが設置してある。センターといっても小学校の体育館をこぶりにしたような建物があるだけで、がらんとした屋内は響きすぎて練習には適さない。片方に胸の高さほどのステージがあって、スタンドからはずされたスティールパンがところ狭しと並べてあった。

毎日、仕事や学校から帰って、夕食を食べ、シャワーを浴びると、練習に行く。中心になっているのは、リーダーであり、楽器制作者でもあるリロイとその家族。7時をすぎると、その親戚や近所の青年、少年が集まってくる。
子供たちが一通り練習し、新曲のフレーズを覚えたころに、一線をしりぞいたおじいちゃん達が何人かやってきた。今日は少しスペシャルだ。彼らはパーカッション隊に入って絶妙のグルーヴを出してくれる。さっきまで[練習] だったのが[演奏]に昇華する瞬間である。

新曲を何回か通して、みんなが気持ちよく演奏できたところで練習は終了。時間は夜の9時を回っている。
夜道は危険なので、子供たちと一緒に帰る。この国ではぼくは子供扱いだ。大人達は練習場[パンヤード]に残って引き続きミーティングをしている。おじいちゃん達もそのミーティングに来ていたのだった。

今考えるとそれはちょうど、日本のお祭りの時の青年団のようだ。
学校に行って、パンヤードに行って、を繰り返していれば、不良になる時間もない。アンサンブルをちゃんと成立させるには、協調性も必要だ。
みんないい音を出したいので、楽器の扱いは自然とていねいになるし、楽器職人への敬意も生まれ、トリニダードの文化への理解も深まる。そこにはおじいちゃん達の存在が不可欠である。
日本のお祭りの時に、子供のたいこの練習を見てあげてる近所のおじいちゃん達を思い出した。

最近はMoodsのようなコミュニティ中心のバンドは少なくなってしまった。少人数でびしっとしたアンサンブルをするのも楽しいと思うのだけど、トリニダードではどのスティールバンドも大人数化を目指している。大人数のバンドではつきあいがもっとドライになる。隣で演奏してる奴の家も知らない、おかんの顔も知らない。これではなんだかもったいない。
街の連中が一緒になって演奏するコミュニティ単位のバンドってええなぁ、と思う。個性あるスモールバンドが新しく生まれて、新風を感じさせて欲しいと願う。そのバンドが人気を集めて、結果、人数が増えるのであればそれはそれでけっこうなことだ。

日本の[祭り]、[たいこの練習]といった三世代が一つのことに打ち込めるようなシステムってよくできてるな、と思う。そこに入れない若者のためにも、各町でスティールバンドを作っちゃえばいいのにね、なんて自分に都合のいいことばかりを考えている。


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