天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

eternal sunshine of the spotless mind - 2004年03月29日(月)

車を停めたところまでデイビッドが迎えに来てくれて、それから一緒にアパートに向かう。アパートの裏玄関の前でドアマンのリコが口笛を吹いてわたしに手を振ってくれたけど、階段がない表玄関の方から入る。もうひとりの表玄関のドアマンのおじさんが「久しぶりだね」って言ってくれた。デイビッドのアパートに入ると、「おかえり」ってデイビッドがわたしに言った。2ヶ月ぶりのデイビッドのアパート。帰って来たんだ。2ヶ月ぶりに。「おかえり」なんて嬉しすぎる。

リンカーン・センター・シネマで映画を2本立て続けに観た。「My Architect」と「Goodbye, Lenin」。「Goodbye, Lenin」はズルして出口のロープをこっそりくぐって入ってタダで観た。映画もすごくよかったけど、それがおもしろかった。松葉杖でたくさん歩かなくていいように、デイビッドはいつも気づかってくれた。

金曜日も土曜日も泊った。日曜日は教会さぼって、夕方までいた。
土曜日も日曜日もお昼まで一緒に眠った。そしてデイビッドがブランチを作ってくれた。デイビッドは土日もお昼は仕事をしなくちゃいけないくらい忙しかったけど、デイビッドが仕事をしてるあいだはわたしはエクササイズをして持ってったバイブルを読んだ。松葉杖を使わずにゆっくりゆっくり歩く練習もした。デイビッドがいると、エクササイズも全然苦にならなかった。

「仕事、一段落ついたよ。ドアマンのリコに会いに行こうよ、きみ長いこと会ってないから」って、仕事場からデイビッドが出て来る。「待って。あと5パラグラフ読んでから」「OK」。ロッキングチェアに座ってたデイビッドがカウチでバイブルを読むわたしに突然言った。「I really really like you」。「なに? 急に」。わたしは笑って、足早に仕事場に戻ってくデイビッドにそう言った。そんな時間が嬉しかった。デイビッドと過ごすそんな時間がほんとに好きだと思った。

日曜日はひとりで5ブロック先の銀行まで行ってみた。デイビッドは止めたけど、わたしは試してみたかった。ものすごく時間がかかった。途中でちょっと休憩してはまたちょっと歩いて。でも歩けた。往復10ブロック。松葉杖ついてだけど、あんなにたくさん歩いたのは初めてだった。戻ったら心配してたデイビッドが褒めてくれた。

ナターシャとお散歩に出掛けられないのがつまんなかったけど、「きみが一緒に行けないからナターシャがすぐに帰りたがるんだ」って、お散歩に出掛けたふたりはほんとにすぐに帰って来る。代わりにドアマンのリコとナターシャと4人でホールウェイでたくさん遊んだし、お部屋でナターシャの横に寝そべってたくさんおしゃべりした。ナターシャは何度もわたしにキスをせがんだ。


うちに帰るのが淋しかった。デイビッドんちがあんなに楽しかったから。日曜日デイビッドのアパートを出てから、ジャックのところに寄った。プロティン・シェイクを取りに行くため。それに、ひとりでうちにいたくなかった。「なんでデイビッド連れて来なかったんだよ」っジャックは言った。携帯にデイビッドからメッセージが入ってた。なんで鳴ったの気づかなかったんだろ。うちに無事帰ったかどうか確かめるための電話だった。心配そうな声だった。帰ってから電話したら「ちゃんとうちに帰ったんだね」ってデイビッドは安心した。帰らなくてよければいいのに。ずっと、デイビッドのところから。


今日はフィジカル・セラピーのあとにまたひとりで映画に行った。
「eternal sunshine of the spotless mind」。あの、別れた恋人の記憶を消すってやつ。期待してたよりずっとよかった。すごくよかった。もしもわたしもデイビッドも別れたあとにお互いの記憶を消したならば。また出会う。きっと出会う。それは百年か千年か二千年経ったらあの人とまた巡り会うことと似てるかもしれない。



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家族 - 2004年03月25日(木)

母がいた。父もいた。もう15年以上会ってない遠い国にいる姉もいた。妹はいなかったと思う。デイビッドの姪っ子と甥っ子もいて、それはパーティが終わってみんなが帰ったあとのうちだった。「みんな」が誰なのかわかんないけど。

ロフトにパーティの残りのお料理を母が並べて、ロフトへの階段をデイビッドの姪っ子たちと登って食べてた。仕事が忙しくてパーティに参加しなかったデイビッドがお部屋に入って来て、「さあ、これから朝までここで仕事だ」って言って目覚まし時計のアラームを合わせた。わたしはロフトからスイスチーズのサンドイッチをデイビッドのために持って降りて、「無理だよ。そんな無茶しないで一緒に遊ぼうよ」って腕を引っ張った。姉はひたすらパーティのあとのテーブルを奇麗にしてて、デイビッドの姪っ子たちに手伝わせようとする。英語圏に住んでるくせに姉は英語がしゃべられなくてわたしに通訳させようとしたけど、デイビッドの姪っ子たちはなぜか姉の言ってることが理解出来て、姉にまとわりつきながらお手伝いしてた。

黒いアップライトのピアノがあってわたしは弾こうとしたけど、夢の中だからか指が宙を浮いたまま降りて来ず、ちっともキーを叩けなかった。なのにデイビッドが後ろから「もうちょっと音を小さくしてくれないかな」って言った。諦めたわたしは、お手伝いが終わったデイビッドの姪っ子たちと床に座り込んできゃあきゃあ言いながら遊んでた。

一体どこの国なのかわからなかった。それにヘンテコリンな家だった。母が始終幸せそうにケラケラ笑ってた。


ゆうべ、デイビッドはパレスタインのことをたくさん話してくれたあと、「元気になった? 僕のポリティックスの話聞いて」って笑った。わたしは夢中で質問をたくさんしてたけど、話が終わったらまた元に戻ってしまった。

「まだうんと忙しいの? いつまで忙しいの?」「だんだんノーマルに戻ってきたよ。これから少し楽になる」「そしたらまたどっか行くの?」「どこにも行かない。ここにいる」「・・・」「ここにいるよ」。

車の運転のお許しが出たから、明日かあさってうちにおいでよってデイビッドは言った。うんって言いながら決められずに黙ってた。「元気になったら電話しておいで。待ってるから」って言ってくれたけど、元気になんかなれなくて、泣きながらいつのまにか眠ってしまった。


今朝フィジカル・セラピーの間に携帯が鳴った。帰り道でメッセージをチェックする。長い長いバカなクライアントの話で、最後に「きみが今日は元気になってますように」って入ってた。今日は松葉杖なしで歩く練習をした。PT のアシスタントが手を引いてくれて、その次には手を離して。痛かった。でもゆっくりゆっくり歩けた。嬉しかった。それでもデイビッドに電話しなかった。

夕方ジャックが来た。お願いしてたプロティン・シェイクをバックパックに詰めて延々自転車に乗って迷子になって途中で電話して来て、「橋を目指して走るんだよ」って言ったらそれから10分ほどでやって来た。うちでジンジャーエールをガバガバ飲んで昨日買って来たピーカンのコーヒーケーキをぱくぱく食べてチビたちと遊んで、「きみがピアノ弾くと猫がアバレ出すだろ」って言うから「全然。すごく気持ちよさそうに眠り始めるの。ほんとだよ。なんなら弾いてあげようか?」って言ったら「いや、いい。やることがたくさんあるからそろそろ帰るよ」って拒絶された。

そしてバックパックからプロティン・シェイクを出そうとしたら、出て来たのはビニール袋に入った大きなコーヒーソーダの瓶。ジャックこそアバレ出しそうな勢いで、僕は延々自転車に乗って何しにここまで来たんだ、って頭抱えて何度も何度も叫んでた。間違えて入れたらしい。どうやったらそんな間違い出来るのかと思った。いつものわたしなら一緒になって頭抱えて責めるけど、今日は笑顔で気持ちよく送り出してあげた。

15分ほど経ったら電話がかかってくる。「自転車のタイヤ、パンクした」って。「今まで生きてきた中で最悪の日だよ」って。


デイビッドに電話した。「明日来るだろ? 早めにおいでよ、ラッシュアワーに引っかからないように。夜まで僕が仕事するのがヤじゃなければだけど」「ヤじゃないよ。あたし、エクササイズしてる」「それはいいね。じゃあ夜は映画観に行こうか。レンタルしてもいいしさ」。

ひとりで生きてるのがやになったなんて、言えない。
こうやって少しずつ誰かに甘えながら、それを繋げて生きてくんだ。夢の中のヘンテコリンな家、おもしろくて楽しくて幸せだったけど。家族なんか全部自分が捨てて来たんじゃん。





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もうやめたい - 2004年03月24日(水)

レントゲンを撮った。骨はとてもよく治癒しつつあるらしい。写真を見てもわたしにはわからないけど。

大きなスクリューがくっきり映ってるのがやっぱり悲しい。くっきりピカピカに浮かび上がってるのが悲しい。人間の足じゃないみたいだ。よく見たらスクリューはほんとにスクリューで、平たい頭に十字が入って先がギザギザになってるアレだった。ひざ頭から膝下の後ろまで、ふたつの骨を繋げて斜めにずっしり打ち込まれてる。キッチンのキャビネットに重たいまな板を引っ掛けるのに大きくて丈夫なスクリューが要る、ってずっと前にデイビッドが探してたけど、コレならじゅうぶん間に合いそうだと思った。

Dr. ローズは、ブレイスはもう外していいけどまだ松葉杖は両方とも使わなくちゃいけないって言った。それから、ひざ頭に神経が通ってないのは膝を切り開いたせいで、もとに戻るのに6ヶ月かかるらしい。まだ腫れてるのもまだ痛いのもまだ膝に全然力が入らないのも、それで普通らしい。「それだけ大きな手術をしたんだよ。だけど普通より回復が早い。きみがエクササイズを頑張ってるおかげだ」。そう言ってからDr. ローズは「ありがとう」って言った。


昨日入れてあげたチャイがおいしくて、ディディーがおんなじチャイを買いたいって言うから、帰りにうちの近所のわたしがチャイを買うスーパーマーケットに寄った。それからそのそばのチャイニーズ・レストランでお昼ごはんを食べた。

ドクターに車の運転のことを聞くのを忘れたことに気づいて、レストランからドクターのオフィスに電話する。セクレタリーの女の人がドクターに聞いてくれた。「車、運転していいですってよ」ってセクレタリーの女の人は笑って言ってくれた。



わからない。
わからないけど、嫌になる。
突然嫌になる。
ひとりで生きてること。
もうやめたい。生きてること。
こんなふうに。

もうやめたい。生きてることそのもの。


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別れた恋人を忘れるために - 2004年03月23日(火)

ゆうべは殆ど一睡も出来なかった。別に深刻な考え事してたわけじゃなく。
それで、フィジカル・セラピーの最後にいつものように横になって膝に氷を載せて冷やしてもらってるあいだ、本気で眠ってしまった。PT に大声で名まえ呼ばれて起こされた。

終わってから今日も映画観に行こうと思ってたけど、途中で眠りそうだからやめた。
別れた恋人のことを忘れたいために記憶をなくす失くす手術を受けるってやつ。わたしは忘れたいかな。デイビッドのこと。忘れたいかもしれない。別れた夫も最初の夫も昔の恋人も、カダーもハンサム・ドクターも忘れたいと思ったことないけど。天使のことは記憶を失くしても忘れるわけがない。


膝はかなり曲がるようになった。問題はまだまっすぐに伸びないこと。立って膝を伸ばそうとすると痛くて痛くてしょうがない。焦る。このまままっすぐにならなかったらどうしよう。チビなのによけいにチビになる。ハイヒールなんて当分履けそうにないし。


ディディーが遊びに来てくれた。
嬉しい。手術の次の日泊まってくれて、それから何回かお昼ごはんとかジュースとかドーナッツとか持って来てくれて、それっきりだった。ずいぶん元気になったって言ってくれた。CD を変えるたんびに立ち上がって自分でしようとするから「じっとしてろよ。なんでそう動きたがるんだよ」って叱られる。

バースデー・パーティに招ぼうと電話したけど、何度かけても繋がらなくて心配してた。携帯の調子がずっとおかしいらしい。「来年のバースデーはダンス・パーティにするから絶対来てね」って言ったら「きみがスキーでまた骨折らなかったらね」って言われた。まだスキーやりたいこと、ディディーもクレイジーって言う。

ディディーはダンスのクラスに行くから帰ってった。サルサのクラスメートだったけど、今はよそのスタジオでタンゴ習ってる。「今はタンゴだよ」って。そうなんだ。タンゴって憑かれたみたいにとりこになる。オスカーさんも今タンゴに夢中になってる。セダクティヴなダンスって言われるけど、わたしは踊ってる自分が恍惚となってしまう。ああ、わたしも早く踊りたい。


ディディーが帰ってったあと、眠った。
目が覚めたら夜中の2時まえだった。デイビッドから「ハロハロー」ってタイトルのメールが来てた。「どうしてる?」って。届いた時間は9時過ぎだった。慌てて返事を送ったけど、もうメールは来ない。


明日はドクターの診察の日。
アニーのオフィスのアニーじゃないほうのアニーのだんなさんが明日は都合が悪いから、困ってた。ディディーが連れてってくれることになった。

車の運転、許可が出るかな。


会いたい?
わたしに会いたい、デイビッド?
わたし会いたいよ。
別れたら忘れる分、今会いたい。


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ジェラシー - 2004年03月21日(日)

ゆうべあの人と今日の電話の時間を約束した。ものすごく久しぶりのウェイクアップ・コールのリクエスト。なのにキーボードに夢中になってたら30分遅れた。

あの人はもうとっくに自分で起きてて、風がびゅんびゅん吹く中傘さして歩いてた。途中で傘が折れて、寒い寒いって言ってた。ここも風がびゅうびゅう吹いてる。真冬みたいに寒い。

朝と夜がまるっきり逆なのにあの人の朝が見えなくて、同じ夜の同じ寒さの同じ雨混じりの風のすぐそばのあの人の街であの人が歩いてるような錯覚がした。こんな風の強い日は天使も飛べないらしく、壊れた傘と一緒に吹き飛ばされそうになってる。「気をつけて」って笑いながら、ほんとは半日先の朝の街を半日先に歩くあの人に「いってらっしゃい」を言って見送る。4年前のまんまの天使が寒さに震えながら手を振った。



オスカーさんはわたしの教会を気に入ってた。パスターのお話のしかたに感銘を受けてた。わたしは驚かなかった。いろんな教会のこと知っててバイブルを隅から隅まで知り尽くしてるような人だからこそ、きっとあの教会を好きになると思ってた。パスター・ピートは「お説教」をしない。パスター・ピートは「宗教」を教えない。自分の心と自分の言葉で神さまへの faith の真の意味を教えてくれるパスターだ。サービスが終わってから人をかき分けてパスターをつかまえて名刺渡して話をしてパスターが書いた本を買うオスカーさんをちょっといきなりチカラ入りすぎって思ったけど、わたしはわたしの教会とパスターが誇らしかった。


「How are you?」のデイビッドのメールに返事を送る。オスカーさんが教会に連れてってくれて一緒にお昼ごはん食べてグローサリー・ショッピングに行って銀行に行ってドラッグ・ストアに行って、必要だった買い物も用事も済ませられたこと。なんにも悪いことしてないのにちょっとドキドキしたのは、デイビッドがジェラスだから。それに、わざわざ地下鉄に乗ってうちまで来てそっからわたしの車を運転して連れてってくれたこと書いたのは意地悪だったかなって思った。

「オスカーはきみの教会に通ってるの? 通ってないだろ????」って返事が来る。
ーううん。前からあたしの教会に興味あるって言ってたの。ちょっとヘンだけど。オスカーさん教会気に入ってくれたよ。パスターの書いたあの本も買ってた。

「ちょっとヘンだよ。オスカーはあの本を好きにならないと思うよ」
ーあたしは好きになると思うよ。パスターのこともとっても気に入ってたもん。

それからちょっと考えて付け加える。

ーオスカーさんがあの本好きになるかどうかなんて、あたしはどうだっていいんだけどね。

「ハハハ。そっか。じゃあ僕はこれからカバラの本を少し読んで寝るよ。明日も忙しくなりそうだから。おやすみ」
ーおやすみ、デイビッド。

もう来ないと思ったのに、また来た。
「おやすみ!!」

メールの書き方で分かる。「・・・」がついてたり「!」がついてたり、デイビッドらしくなく文法が少しおかしかったり、スペースが2文字分空いてたり。

「僕は狂ったみたいにジェラスになり得る。だからそのことは考えたくさえない」。
わたしがほかの男友だちと出掛けることをいつかそんなふうに言ってた。そんなそぶり見せないけど、ちょっとしたことで分かるんだ。メールの書き方でさえ、分かるんだ。嫉妬したり安心したりが。

そしてわたしは切なくなる。
なんで切なくなるんだろ。
ジェラシーは愛してるからって思うから?


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恋に落ちたらいけない街 - 2004年03月20日(土)

生理痛がキツくて昨日は一日ベッドの中にいた。
左足が痺れて痺れて、いつもの生理痛のせいなのか調子に乗ってダンスの真似ごとしたせいなのかわからない。

夜11時が過ぎて、もう帰ってる頃かなと思って電話してみた。

15分くらい前に帰って来て、いま電話しようと思ってたとこだったのにきみが先にかけてきた、ってデイビッドは言った。もう少し待ってればよかったなんてちょっと思った。こっちからかけるより、かけてくれる方が嬉しいに決まってる。


今日は頑張って起きた。朝目が覚めるときは相変わらず膝が痛い。いやだ。
シャワーを浴びて、ちょっとだけエクササイズして、たくさんピアノを弾いて、夕方外を歩いてみた。曇り空で寒かった。公園上がる坂道は前みたいに辛くなかった。それでも帰り道はしんどかった。うちに帰って少し眠った。だめだ。少しのことでまだすぐに疲れてしまう。

夜、Dr.チェンが電話をくれる。わたしのケガのこと、誰かに聞いたって。
「知ってる? 僕は日本人の女の子をきみともうひとりしか知らないんだけどね、その子が2週間前にスキーで骨折して手術したんだ」。
その子もボーイフレンドとふたりでスキー旅行に行ってたらしい。 Dr. チェンはつけ足す。「彼女も男関係でいつも悩んでてさ。きみたちいい友だちになれるよ」。って。うるさいよ。

それから、「今度のボーイフレンドは長いこと続いてるじゃん。上手く行ってるみたいじゃん」って言った。「まあね」って嬉しそうにな声出して答えた。

「ボーイフレンド」は忙しい。仕事にも遊びにも忙しい。10年この仕事して来てこんなにクライアントがついたことは初めてだって言うほど忙しくなっちゃった。そんなに忙しくなったのに、遊ぶこともちゃんとスケジュールに組み込まなきゃいけない人だから、ますます忙しい。そんなことは平気だけど。それだけなら平気だけど。

デイビッドは、バーンズ&ノーブルに行って買って来た本を今読んでるってメールをくれた。カバラの本。「カバラって何?」って返事を送る。生きることとか幸せとかそういうことについてのジューダイズムのテキストらしい。わたしはカバラをインターネットで探してみる。見つけた。たくさん。全部「My favorite」に入れた。明日から読んでみよ。わたしも知りたい。生きることとか幸せとかそういうこと。それからジューダイズムももっと。


「お月さんとニューヨークシティの間につかまったなら、もう恋に落ちるしかない」。
あの人の好きなニューヨークシティ・セレナーデ。
うそだ。ニューヨークシティは、恋に落ちたらいけない街なんだ。


明日は教会。ジェニーは親戚の人が来て一緒に休暇に行くから、当分教会に来ない。ほとんど毎日仕事場から電話をくれたのに、それもなくなっちゃう。淋しいな。明日は教会にオスカーさんが連れてってくれる。なんか人恋しくて、オスカーさんに会うのが楽しみになってしまう。教会のあとグローサリー・ショッピングに連れてってもらうのに、買い物リスト作るの忘れた。まあいいか。


もう少ししたらあの人に電話してみよかな。


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禁断の映画 - 2004年03月18日(木)

フィジカル・セラピーが終わってから、通りの向かいのシアターに観に行った。
「Dirty Dancing: Havana Nights」。
オリジナルのほうのをわたしは知らない。
知ってるのは、あの古ーい音楽だけ。
だからわたしにはブランニューの映画だった。

あーなんて素敵素敵素敵。ダンスが。音楽が。
ブレイスつけた足のトウが思わず床を叩く叩く。肩が揺れる揺れる。胸が踊る踊る。
あこがれのキューバ。ホットなキューバン・ミュージック。体が疼くサルサのリズム。ステップ。くるくるターン。

「キューバがいいなあ。行きたいなあ」ってキューバン・レストランでごはん食べながら話したハンサム・ドクターのことちょっと思い出したりした。
あの頃はキューバン・ダンスなんか踊れなかったけど。

しなやかでセクシーなムーヴメント。それでいてしっかりしたフレイム。乱れのない一瞬の静止。そして体ごと音楽に溶け込む。先生の声も思い出す。

もう我慢出来なかった。
最後の最後の最後まで、クレジットのスクロールが終わって音楽が止まるまで、たったひとりになっても出られなかった。気がついたら立ち上がって、松葉杖に体預けながら腰が動いてた。足がステップ踏みそうになるのを必死で我慢した。
踊りたい踊りたい踊りたい。
ケイティのように。
くるくる広がるドレス着て。

もう待てないよ。
待てない。
禁断の映画観ちゃったよ。


今日もデイビッドは電話をくれた。
バースデーのあの夜に「毎日電話して」って甘えたら「毎日はわからないよ。それにたった5日だよ」って言ったくせに、ちゃんと毎日電話くれる。今日はくたびれて頭痛がするって、ちょっと疲れた声だった。「きみはどんな一日だった?」。

映画の話をする。
昨日までのデイビッドみたいに、今日はわたしのおしゃべりが止まらない。「危ないよ。気をつけなよ」って、立ち上がって思わずステップ踏みそうになったってとこで、デイビッドはハラハラ声でそう言った。「あたし、もう一回観たい」。デイビッドと。

ほんとはあと8回くらい観たい。
ビデオ出たら絶対買う。DVD も買う。DVD は・・・安くなってから。
サウンド・トラックなんかもうタワーレコードのオンラインでオーダーしたよ。


今日も足首に1.5ポンド・ブラウンライスをくくりつけて、エクササイズする。
ついでに鏡の前に立って、腰を振って上半身踊らせて浮かせた左足を少し床にタッチさせながらリズムをとってみる。

膝が痛む。痛むけど、
キリキリ痛いのが快感になってきた。




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おかしなマグネット - 2004年03月17日(水)

明け方まで起きてた。
目が覚めたら午後3時だった。からだ中が痛くて痛くてだるかった。
昨日もエクササイズ頑張りすぎたかもしれない。

シリアルを食べてシャワーを浴びる。膝の傷が少し滲みた。昨日 PT が「もう要らないよ」って絆創膏を剥がしたから、手術の痕が剥き出しになってる。膝の真ん中から下に向かって7、8センチの傷。それからスコーピーの痕がふたつ。醜い。いやだ。くっきり残るんだろうな、これ・・・。

気温が急に下がったせいか、膝が固まってるような気がする。電気毛布で膝をくるんであっためた。寒い。外はまだ雪。昨日ほどは降ってないけど。


今日も、ってもう夕方だったけど、エクササイズから始める。BGM はビリー・ジョール。最近発見した。エクササイズにぴったりって。先週のフィジカル・セラピーで「ビッグ・ショット」がかかったときだ。それ以来うちで、5、6枚ある CD とっかえひっかえ BGM にしてる。懐かしくてときどき泣きそうになりながら。

ピアノでクラシック弾くのが本気でヤになったのは、ビリー・ジョール聴いてからかもしれない。あの頃は「ビリー・ジョエル」だったっけ。

今はまたクラシックが楽しい。子どもの頃の感覚を指がまだ少し覚えてるのがすごいと思う。だけど今よりうんと小さかったはずの手で、なんであんなのが弾けたんだろう。あのまま続けてたら天才ピアニストだったかもしれない。なんて。


それからキーボードを練習する。ショパンの5曲、ほぼ完成。もっと完成させたら「デイビッドのためのピアノコンサート・ショパン5曲」ってのをやろうかと思う。

「Misty」とか「the Girl from Ipanema」とかも合間に弾いてみる。こういうのも大好きだけど、ラウンジとかで奇麗なおねえさんがポロポロ弾いてるイメージでだめだ。全然わたし向きじゃない。わたしは、レースの襟のついたベルベッドのドレス着て頭にでっかい白いサテンのリボンつけて必死の形相で弾いてるピアノ発表会の子ども、ってイメージが精いっぱい。


今日もデイビッドは電話をくれた。今日もパーク・シティはあったかくて、雪が溶けてるらしい。明日一日滑ったら、金曜日のお昼には飛行機に乗って帰ってくる。だからってすぐに会えるわけじゃないけど。来週の水曜日にドクターの診察に行ったとき、車の運転のお許しが出たらいいな。



昨日はオスカーさんが電話して来て、日曜日の朝にうちに来てわたしの車を運転して教会に連れてってくれて、それからまたグローサリー・ショッピングとか銀行とかに一緒に行ってくれるって言った。いいって言ったのに、「僕がそうしたいんだ」って聞かない。わたしの教会に行ってみたいってのは前から言ってた。それから、「僕がきみの教会を好きにならなかったらどう思う?」だって。「I don't care」。そう言ってやった。だってそうじゃん。関係ない。

さっき、カダーが電話して来た。「Don't you miss me?」「No」「なんでだよ」「普通に映画観たりごはん食べたりするのならしたいけどさ」「だからだめんだよ、僕は。きみを見ると抱きたくなる」「じゃあ会えない」「なんで?」「なんでって何? あたしにはデイビッドがいるんだよ?」「わかってるけどさ。わかってるから抑えようと思うんだけど抑えられないんだ」「You are crazy」 「I know I'm crazy」。



「きみもおかしなマグネット持ってると思うけど、僕のはきみの以上だよ」。
昨日ロジャーはそう言ってため息ついてた。

誰でもみんなおかしなマグネット持ってるんだよ。ロジャーはね、自分のマグネットに引き寄せられる女の子の間をふらふらしてるのがいけないんだよ。条件とか考えながら。正直な気持ちはどこにあるの? 自分の気持ちが引き寄せられるマグネットに自然に引き寄せられなさいよ。

今度エラそうにそう言ってやろ。

だって、正しいマグネット同士は絶対自然に引き合うんだよ。自然に。強く強く。
でもいつかすごい理不尽な力で引き離されるとしたら。わたしはおかしなマグネットしか持ってないのかもしれない。


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アレが利いた? - 2004年03月16日(火)

ゆうべはロジャーのガーリッシュな恋の悩みを延々聞かされてたせいで、デイビッドの電話を取り損ねてしまった。かけ直したけど繋がらなかった。

今日は携帯が普通に鳴らず、いきなり留守電のシグナル音が鳴る。デイビッドからのメッセージ。しばらくしたら携帯は普通に鳴った。「やっと声が聞けた」ってデイビッドが言った。

パーク・シティはあったかくてジャケットなしでビレッジを歩いてるって。おしゃれなブティックやレストランが並んでて、「きみはここを好きなるよ」って言う。マイアミもそうだったじゃん。行きたい行きたい行きたい。ひとりだからおしゃれなレストランには行く気しなくて、ピザかなんかで晩ごはんを済ませるらしい。片足のわたしを連れてってくれたレイク・タホーの素敵なレストランを思い出してた。ギャラリーの中から実況中継してくれる。お店の人とかほかのお客さんとおしゃべりしてるのも全部聞こえる。ラジオ聴いてるみたいでおもしろかった。ケタケタ笑った。

足ケガしてなかったら、パーク・シティにも一緒に連れてってくれたかな。フロリダのときみたいにまた勝手に知らない街を想像する。想像の風景の中に今度はわたしも登場してる。行きたい行きたい行きたい。


夕方にはフランチェスカが電話をくれて、「もうスキーは行っちゃだめだよ」とか言う。行くよ。絶対行く。ジャックにもクレイジーって言われたけど。アイススケートもローラーブレイドもスキーもダンスも全部するよ。膝をうんと強くするためにバイクも買うつもりでいるんだから。ハドソン・リバーのジャージー側をデイビッドと一緒に走りたい。

今日のフィジカル・セラピーで、膝がなかなかまっすぐにならない理由がわかった。筋肉じゃないらしい。関節らしい。ちゃんと歩けるようになるためには太腿の筋肉を強化して元に戻さなきゃいけないけど、同時に膝の関節の強化も忘れちゃいけないって言われた。膝をまっすぐにするために。

うちに帰って、足首にウェイトをつけて、っていっても1.5ポンド入りのブラウン・ライスの袋だけど、足を伸ばして座って膝から下をリフトアップする運動を繰り返す。頑張らなきゃ。頑張らなきゃ。これがもっと必要だって、なんでもっと早く教えてくれなかったんだろ。なんか今日はやる気マンマンになってる。

デイビッドはまた遠いけど、わたしは淋しくない。短いスキー旅行だからだけかもしれないけど。でもアレが利いたような気がする。「I love you」。


外は大雪。
「 NY は大雪だってさ。こっちは降ってないのにフェアじゃないよ、ね」ってデイビッドはお店の人に大声で楽しそうに言った。

うんと楽しんで来るんだよ。ケガしないようにね。


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Purest of Pain - 2004年03月14日(日)

昨日の夜、デイビッドは来てくれた。
わたしはバースデーのディナーを作って、ケーキが好きじゃないデイビッドのためにアーモンドとピーカンとりんごのパイを作って、今日のバースデーのお祝いをした。日付けが変わる寸前にパイのキャンドルに火をつけて、ベッドルームでチビたちと遊ぶデイビッドを呼ぶ。

うわあ。こういうアップル・パイ、誰が作ってくれてたか知ってる? おばあちゃんのアップル・パイとおんなじだ。なんで知ってた? 僕が好きなアップルパイの焼き方。

驚いて椅子に座ってキャンドルを吹き消すデイビッドの首に後ろから抱きついて「ハッピー・バースデー」を歌ってあげる。12時ちょうど。デイビッドがわたしのバースデーにしてくれたように、12時きっかりに電話をしてわたしも「ハッピー・バースデー」を歌ってあげようと思ってた。電話じゃなくて、歌ってあげられた。12時ちょうど。

知らなかったよ。それにアップルパイじゃないんだよ。わたしの得意なヘーゼルナッツと洋梨のタルトのレシピを、うちにりんごしかないからりんごにしただけ。それから、2ブロック先のグローサリー・ストアに自分で行ってみて、ヘーゼルナッツを置いてないから代わりにアーモンドとピーカンを買った。アーモンドとピーカンを入れたお店の袋を持って歩くだけで、ものすごく足が痛くなった。

アーモンドとピーカンのフィリングが多すぎて、りんごがもっとたくさん入ってる方がいいなってデイビッドは言った。「じゃあ今度はりんごいっぱいにして作るよ」って言ったら「来年のバースデー?」って笑う。わたしは「まだ一緒にいたらね」って言いかけて、黙ってた。

昨日意地になってエクササイズして、今日2ブロック歩いて、前より腫れてしまった膝をデイビッドがマッサージしてくれる。痛い。痛いけど、よくなるような気がする。まるで PT がやるのとおんなじ。「ラッキーだな、PT は」って言う。こんな足触ったってラッキーなもんか。「見てよ、この太腿。こんなに筋肉落ちて醜い」。そう言ったら「気のせいだよ。右足と変わらないよ。両方おなじにガリガリで醜い」って言われた。前なら怒ってたかもしれない。人が深刻に不安になってるのにって。長いことマッサージしてくれて、「これでうんとよくなるよ」ってデイビッドはポンと膝を叩いた。「痛いじゃん」って叫んだけど、痛くなかった。

わたしのバースデー・パーティの写真で作ったスライド・ショウをデイビッドが見たいって言った。それから、レイク・タホーにスキーに行ったときのスライド・ショウも見せてあげた。BGM に使った曲をデイビッドは知らないって言った。「Purest of Pain」。レノの空港で撮ってくれた、ブレイスつけて両手に松葉杖持って車椅子に乗って笑ってるわたしの写真を見ながら、パーフェクトなタイトルだなってデイビッドが言う。「でしょ? だからこの曲にしたの」。

歌は言葉のわからないスパニッシュ・バージョンの方にした。歌詞が悲しすぎるから。

きみが去ってしまうことを僕は気づいてる。
誰かがきみのそばで待ってるのを知ってる。
そしていつかきみなしで生きてかなくちゃいけない日がくる。
その日が来るまで一日一日強くなれたらいいと思うよ。
きみが去って行くときに悲しまないでいられるように。
だけどなれない。
僕は弱さを隠すことすら出来ない。
毎日が冷たくてさみしい。

「そういう歌なの」「切ないね」「切ないと思う?」「切ないよ。悲しい」。

足の痛みだけじゃなかった。レイク・タホーの最後の夜、「僕は自由でいたい」って言ったデイビッドからわたしは欲しいものを何も期待出来ないことがわかった。いつかデイビッドからわたしは離れなくちゃいけないときが来ることもわかった。悲しかった。足の痛みより痛かった。デイビッドは知らない。レイク・タホーの写真の後ろに流れるこの歌に重なるわたしの痛み。

だけど一緒にいるとこんなにも満ちた気持ちになる。歩けない苛立ちもいつかデイビッドが違う誰かと結婚しちゃうことも、みんな忘れて幸せになれる。だから今うんと大好きでいるんだ。今。

帰り際に抱き締めてくれたデイビッドにもう一度ハッピー・バースデーを言う。
それからぎゅっと抱きついて「I love you」って言った。言ってやった。いいんだ、デイビッドが困ったって。




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Dear David, - 2004年03月13日(土)

Remember?
Last year I e-mailed you 'Happy Birthday'
and I didn't even know how old you were.
Since around that time
we have spent so many good times together
-a few bad times together.
I have known much more about you
-your age, your height, much much more.
I am so happy I know you
because you are such a wonderful person.
And you have also known a lot about me, right?
Now you have to know one more thing, that is
-how special it is for me that I can celebrate your birthday today.

Happy, happy birthday!
Wishing you many many many good things coming ahead.

I love you.


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猫みたいに - 2004年03月11日(木)

よかった。
彼女は幸せになる。
ほら。一番大切なものは離れて行かなかった。

長いことかかったけど、今度こそつかまえられるね。ずっと欲しかったもの。
もうダメだのもうおしまいだの、何度も何度もわたしをハラハラさせてくれたけどさ。
あんなに痛い思いもしたけど、ほんとに信じられないことだったけど、
わたしには見える。神さまが笑ってる。
あんな残酷な仕打ちしといて笑ってるなんてヒドイじゃんね。
でも笑ってる。それが神さまの方法なんだよ。

神さまは神さまの方法で彼女に手を差し伸べて、
彼女は知らず知らずのうちにその手を掴んだ。
神さまはすべてを与えてはくれない。
彼女が自分で掴んだ。ちゃんと自分で。
わたしにはそれがわかった。彼女があの日送ったメールを読んだとき。




動物の愛はなんでこんなにも強いんだろうね。
人が動物を愛する愛も、なんでこんなに強いんだろうね。
人間同士の愛よりずっと強いような気がする。
なんで人と人はこんなふうに愛し合えないんだろう。

バースデーの夜、チビたちと遊びながらデイビッドがわたしに聞いた。

当たり前じゃん、当たり前じゃん、当たり前じゃん。

なんで?

だって、動物の愛も動物を愛する愛も本当に本当に本当に、ピュアな愛だからだよ。
なんにも余計なこと考えなくていいじゃない?

そうか。そうだね。ピュアな愛だから強いんだ。

I like it.

I like it, too.



なんで人間はピュアな愛だけじゃだめなんだろ。なんで余計なものがくっついてくるんだろ。デイビッドは「I like it, too」なくせに、いろんなものをいっぱいくっつけて愛を見えなくしてしまう。わたしの愛は猫のみたいにピュアなのに、デイビッドは受け止めようとしてくれない。なんで猫みたいになれないんだろ。なんで。


デイビッドは今日もおやすみの電話をくれたけど、
今日もわたしはハッピーじゃなかった。
「落ち込んだっていいよ。僕だってきっとイライラするよ、落ち込むよ」。
そう言ってくれたけどさ、足のことだけじゃないのにな。





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なんにもする気になれなかったけど - 2004年03月10日(水)

昨日はサブの PT だった。レギュラーのふたりの PT よりずっといい PT だと思った。細かいところまでチェックしてくれる。いつもの PT がくれなかったアドバイスもしてくれる。フィジオロジカルな説明もきちんとしてくれる。それでわたしはダンスのことを聞いてみた。ふつうに歩けるようになるまであと2、3ヶ月、それからダンスが出来るようになるためには今のセラピーより上の「ファンクショナル・セラピー」が必要らしい。7月には踊れるようになると思ってたのに、そう最初の PT に言われたのに、無理かもしれない。ダンスのことは今は考えるな、まず歩けるようになることを考えなさい、そう言われた。

うちに帰ってベッドに突っ伏す。デイビッドのことが膝のことと一緒になる。

今度の日曜日はデイビッドのバースデーなのに、毎日仕事がどんどん入る上に月曜日からスキー旅行に行くせいで忙しくて忙しくて会えない。おとといの晩、「バースデーのお祝いはいつするの?」って聞いたらそう言われた。今年はパーティはしないけどなんとか時間作ってきみとディナーに行こうよ、って言ってたくせに。「なんか悲しい」ってメール送ったら「Don't be sad, silly girl. ごめんよ、クレイジーなスケジュールで」って返事くれたけど、もうこっちから送んなかった。明け方には「難しいクライアントのスタータスがやっと解決出来そうだ。やっと寝られるよ。きみは『おはよう』だね。笑って笑って笑って笑って!」って「笑って」のところが色つきの違う字体と大きさになったキレイなメールくれたけど、返事しなかった。フィジカル・セラピーが終わってタクシー待ってるときには電話をくれたけど、サブの PT に言われたことで落ち込んでた。

それからそれからそれから。
夏には1ヶ月どっかに行くとか言ってた。やっと歩けるようになった頃、デイビッドはいない。まだダンスは出来なくてわたしはスタジオに通えなくてそしてデイビッドはいない。やっとふつうに歩けるようになるのに。

気がついたら声あげて泣いてた。妹チビが伸びた爪でわたしの髪をくしゃくしゃ引っ掻く。

日が落ちて来て、もうなんにもする気がない。
足のエクササイズなんかしたっておんなじじゃん。頑張ったって頑張ったって夏にならなきゃふつうにさえ歩けない。歩けない。

これから大切に育てて行くんだ。デイビッドとのことそう決めたことも、もう今はただ悲しい。



今日もなんにもする気になれなかった。

夕方カダーが仕事場から電話をかけて来た。バースデーにおめでとうの電話をくれたときには言えなかった。今日は言った。お金のこと。だめだ。まだ返してくれない。・・・しょうがない。カダーもまだ大変なんだ。「Passion」観たって言ってた。わたしとおなじ意見だった。ジーザスを知らない人にはなんのメッセージもない。カダーは、ジューズがジーザスを殺した事実が明らかなとこだけはいいって言った。わたしには意味がない。

カダーはわたしに会いたいって言った。ファックしないんだったら会ってもいいってわたしは言った。でも結局会わなかった。

ジャックが今日も電話をくれて、長いこと話した。信仰について。愛について。結婚について。ジャックはそういうことに関しては驚くくらい人間的だ。

電話を切ったら、デイビッドからの電話が鳴った。「何度も何度もかけてたのに、ずっと話し中だった」ってデイビッドは言った。


仕方ない。エクササイズするしかない。するしかない。
痛い膝を伸ばして折って回して曲げて。げっそり筋肉の落ちた醜い左足の太腿に力を入れて足をあげて力を入れて足をあげて。バカみたいだけど、するしかない。バカみたいだ。バカみたいだ。そう思いながらエクササイズした。だって、するしかないから。


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結婚しないで - 2004年03月08日(月)

昨日。
バースデー・パーティは楽しかった。
ジャックが大きなバースデー・ケーキを買ってきてくれた。今年はわたしの名まえだけでマジェッドの名まえはなくて、ひとりでキャンドルを吹き消したけど。マジェッドは「行けたら行くよ。ガールフレンド連れてっていい?」って言ってて来なかった。ふたりでお祝いしたんだろうな。

遅れて来たデイビッドは窓からわたしの名まえを大声で呼んだ。迎えに出たわたしを「ハッピー・バースデー!」って抱きしめて、ほっぺたに大きなスマック入りのキスをくれた。

プレゼントは猫の腕時計だった。ベルトのところに猫がふたり。わたしにパーフェクトな贈り物。椅子に座ってるデイビッドに片足で抱きついたらそのまま元に戻れなくなって、「ありがとう」って長いこと抱きついてた。「気に入った?」。わたしのからだを起こしながらデイビッドは聞く。もちろん、もちろん、もちろん。

わたしの同僚友だちたちと、デイビッドはおしゃべりを絶やさない。デイビッドらしかった。とりわけジャックと気が合ってたのが可笑しかった。

二ネットの旦那さんが二ネットを迎えに来て、それと同時にみんな帰る。デイビッドだけいてくれた。「きみはいい同僚たちがいて幸せだよ」ってデイビッドは言った。そして二ネットの小さなニコールをとても気に入ってた。あんな可愛い女の子が欲しいって言った。テレビを観てチビたちと遊んでたくさんくっついてたくさんおしゃべりしてカウチの上で抱き合った。不自由な足でちゃんとなんか出来なくて可笑しくて笑って足をかばいながら抱き合って、わたしは泣いた。

「ちゃんとイケなかった?」
「ちゃんとイッた」
「なんで泣いてる? 悪いこと考えてる?」
「ううん」
「うそだ。悪いこと考えてる」
「ううん」
「Don't worry」
「Don't worry って?」
「・・・Don't cry 」。


おばあちゃんのお姉さんも、おじいちゃんの両親も殺された。おやじの兄弟も母親の親戚も殺された。ジューイッシュという理由で。僕はまだ何もわからない小さな子どものときからそれを聞かされて育った。そういう時代は終わらないんだよ。いつの時代も世界のどこかでジューイッシュはジューイッシュという理由で殺される。きみは知ってた? 9.11のテロもそれが理由のひとつだってこと。ジュイーッシュはネイションなんだ。きみが日本人であるのと同じに。そのネイションを絶やすわけにいかない。ジューイッシュを守らなくちゃいけない。だからジューイッシュの娘と結婚をしてジューイッシュの子どもを育てなきゃならない。両親と祖父母に僕は子どものときにそう洗脳された。洗脳されたものは簡単に消すことが出来ない。たとえもしもそれが間違ってたとしても、洗脳されたものを変えることは簡単には出来ないんだよ。


「ジューイッシュの人じゃなきゃだめなの?」。いつか結婚したらニコールみたいな女の子が欲しいってデイビッドが言ってわたしがそう聞いたときの、それがデイビッドの答えだった。

悲しい歴史。悲しい争い。悲しい憎み合い。「歴史なんかなければいいのに」「僕は宗教なんかなければいいと思うよ」。いつかそう話したことがある。宗教なんかなければいい。ほんとにそうだ。宗教なんか。なぜ信仰が宗教である必要があるんだろう。信仰だけでいい。純粋な信仰さえあればいいのに。宗教なんか。宗教なんか。


「結婚しないで」
「結婚したらきみを秘密のガールフレンドにする」。
デイビッドはわたしの額にキスをしながらそんなこと言う。
「それはだめだよ。そんなことするべきじゃない。弟に早く結婚させて子どもを100人作ってもらえばいいじゃない」。
デイビッドは少しだけ微笑んで「OK」って言った。

「結婚しないで」。
もう一度言ったら、また少しだけ微笑んで「OK」って言った。

悲しい嘘。悲しいわたしの行き先。
結婚しないで。そしたらずっと一緒にいられる。ずっと一緒にいたい。結婚しないで。


おんなじだ。天使のあの人にもいつもいつもそう思ってた。いつもそう言って困らせた。


なんでだろ。なんでわたしはまたおなじことで苦しまなきゃいけないんだろ。


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Happy birthday to you~♪ - 2004年03月06日(土)

12時00分。電話が鳴った。
取ったらいきなり、

Happy birthday to you~♪ Happy birthday to you~♪ Happy birthday dear ・・・♪

って。
嬉しいー、デイビッド。
そんなの全然全然期待してなかったじゃん。


明日は教会のサービスの前にクラスを受ける。
ジェネシスのクラス。
だから今日は早くベッドに入って、バイブルのジェネシスのところ読むんだ。

「ジェネシスのところ勉強するんだよ」って言ったらデイビッドは嬉しそうだった。


Yes, I will have a happy birthday.
Happy birthday to me!


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the Passion of the Christ - 2004年03月04日(木)

フィジカル・セラピーに通ってるジムの斜め向かいに新しい大きなシアターがある。
そこで「Passion」やってること見つけた。今日セラピーが終わってからヨチヨチ歩いてひとりで観に行った。

ゆうべバイブルのジョンのゴスペルを最初から全部もう一度読んだ。映画に備えて、どうしても読みたかった。読まなくちゃいけないと思った。読んでよかった。

ほとんどの場面が目を覆いたくなる残酷さで、だけどわたしはどのシーンのどのパートも少しも見逃さないようにとスクリーンを見つめた。手で顔を半分覆いながら、胸の震えを押さえながら、必死で見つめた。それでもどうしても耐えられない場面はあった。

わたしはずっと泣きっぱなしだった。悲しいからとか残酷だからとかそういう理由じゃなくて、ジーザスがあの死への最後の12時間をどう生きたのか、その姿とその思いに動かされたから。

ジーザスを知らなかったら、信じてなかったら、この映画に大した意味があるんだろうか。残酷で暴力的で観るに耐えないだけの、滑稽にすら思える映画かもしれない。絵と音楽はものすごく美しいけど。

わたしにとっては、好きとか嫌いとかの映画ではなかった。ただ、観てよかった。観てほんとによかった。


ものすごくエネルギーを費やした。
映画館を出ると、ぐったり疲れてた。手術してから初めてひとりの力で何かをやり遂げた、そんな大げさな気分だった。


タクシーの中で教会のマイクからの電話が鳴った。
うちに帰るとジェニーが電話をくれた。
それからジョセフが電話をくれた。アンナが電話をくれた。
夜にはジャックと電話で話した。ロジャーと2時間くらい話した。

映画を観たあと誰とも話したくない気持ちだったのに、電話攻撃の日。


デイビッドとは、メールだけで話して、電話で一度も話さなかった日。
夜中の1時半に電話してみたけど、電話は留守電に変わっててデイビッドはもう寝てた。
記録が途切れた。



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天使のようじゃなくても - 2004年03月03日(水)

わたしの受けた手術は、手術後膝が固まってしまう危険性が大きいことで知られているらしい。今日、Dr. ローズは、わたしの膝は危険を回避してものすごく順調に回復しつつあるって言ってくれた。「僕は嬉しいよ、きみはよく頑張ってる。ほんとによくやってる。ちゃんと成果が表れてるよ」。わたしは嬉しくて顔が思わずニコニコになる。

まだ膝がまっすぐにならないのが不安だったけど、Dr. ローズはエクササイズを続ければ心配ないって言った。「それからベッドの上でボーイフレンドにしっかり膝を押してもらいなさい」だって。「はい」って答えたけど、「ボーイフレンド」は忙しくてベッドの上でわたしの膝を押しに来てくれる暇なんかない。

アニーのオフィスのアニーじゃないほうのアニーの旦那さんはカフェテリアで待っててくれて、診察が終わってからカフェテリアに行ったわたしに「ドクター、どうって?」って聞いてくれる。「順調だって。大丈夫だって」ってだけ答えてわたしもコーヒーを飲んで、また連れて帰ってもらった。

帰り道はこの前と通ったのとおんなじ、海沿いのナントカパークウェイを走ってくれた。海沿いに伸びる長い長いシーウォールはローラーブレイドに持ってこいの場所で、夏になったらブレイド持って絶対来ようって思う。ジェニーとロジャーと、それからデイビッドも一緒に。

帰ってすぐにデイビッドに電話した。Dr. ローズが言ってくれたこと、ひとつずつ報告する。ブレイスもうちの中ではもう外していいって言われたことも、3週間後の診察のときには松葉杖も要らなくなってるかもしれないことも、「ボーイフレンド」の部分はのぞいて全部。デイビッドも喜んでくれた。ものすごく喜んでくれたけど、それから「僕が今何やってたか知ってる? きみは信じられないって言うよ」ってガッカリ声で言う。

コーヒーカップを落として割っちゃって、床にこぼれまくったコーヒーを拭いてたとこって。わたしがクリスマスにあげたコーヒーマグ。2週間前にはもうひとつあったのを落っことして割って、もうふたつともなくなった。あーあ。「僕が新しいのふたつ買うよ、今度は安いやつにしよう」って、また割るつもりらしい。今年のクリスマスもコーヒーマグかなって、なんか笑った。


ドクターの診察に出掛ける前、迎えに来てくれるアニーの旦那さんを待ってるあいだに病院のお昼休みのオフィスに電話したらロジャーが電話を取った。

フィジカル・セラピーのこと聞いてくれて、まだ膝がまっすぐになんないこと言うと、ちょうどいいじゃんアイススケートするにもローラーブレイドするにもってロジャーが言う。膝の曲げ方が足らないっていつもロジャーに注意されてたから。そうだねってわざとしんみり言ったら「ジョークだよ、ジョーク」って慌ててた。

「日曜日あいてる?」って聞いたら「わかってるよ、みんなで話してる」って言ってくれた。やったやった。みんなちゃんと来てくれるつもりだったんだ。バースデー・パーティ決定。

それデイビッドに言うの忘れた。


夜、天使のあの人に電話する。
ハッピーバースデーの歌をうたってあげた。日本の今日はあの人のお誕生日。
あの人はわたしのバースデーをまた8日だと思ってる。「だから。僕は人の誕生日を覚えられないんだって」「覚えてよーあたしのくらい。あなたのお誕生日の月と日を足すんだってば」「あーそかそかそうだった。で、7か。ってこの会話もう3年越しでやってない?」。

そうだよ。3年越し。会いたい会いたい会いたいって毎日泣いてたのが、今は「いつか会えるかな」に変わってる。あの人は相変わらず「会いに行くよ」って言ってくれるけど。

6月。あの人に出会った天使の季節がやってくる。その頃にはわたし、ちょっとは踊れるようになってるかな。ひらひら舞うあの日の天使のようじゃなくても。




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バースデーのプラン - 2004年03月02日(火)

出来た!
自転車、一回転出来た。
はじめにやったときは昨日とおなじにとても足が回らなかったのに、最後にもう一回、今度は少しサドルを高くしてもらったら、回った。「出来たー!」って思わず PT に叫んだ。先生は何食わぬ顔で「だから出来るって言っただろ?」って言った。

昨日の PT は来週には出来るようになるって言ったけど、今日の PT は「今日だって出来る出来る」って最後にもう一度やらせてくれたとき。


今日も公園に行ってみようと思ったけど、うちに帰って少しだけ休むつもりが眠ってしまった。ジェニーが仕事中に電話をくれて「何か要るものある? 買ってくよ」って聞いてくれたのに、寝ぼけ声で自分でも何言ったかわかんない。「仕事終わってからまたかけるよ」ってジェニーは切って、次にかかって来たのは2秒も経たない後かと思った。ぐっすり眠ってた。

歯磨きペーストを買ってきてもらった。ほんとはトイレット・ペーパーも欲しかったけど、なんか悪くて頼めなかった。まだふたつあるからいいか。

ピザが食べたくなって、ジェニーが来てから近所のイタリアン・カフェに一緒に買いに行ってもらった。すぐ近所なのに歩いて行けない。時間かければ多分行けるけど、松葉杖ついてたらピザの箱を持って帰れない。ほんとにまどろっこしい。・・・。そっか。カフェで食べてくればいいのか。今度ひとりで行ってみようか。

ピメントとフレッシュ・モツァレラのフォカチア・ピザ。おいしかった。正直言って、全然ちゃんと食べてなかったから。ちゃんと食べなきゃケガのヒーリングによくないってわかってるけど、やっぱりひとりで食事するのは億劫でだめだ。



夜11時頃。空港からのタクシーの中からデイビッドが電話をくれた。「今きみんちの近く走ってるよ」って、わたしの好きな橋を渡ってるとこだった。

「日曜日、バースデー・パーティやるの?」ってデイビッドは聞いた。
うそ。覚えててくれた、バースデー。

どうしようかなって考えてるとこだった。病院の同僚たちが「お祝いに行くよ」って言ってくれてたけど、なんかもう日もないし準備もちゃんと出来ないしお部屋なんかお掃除も出来ないし、かと言ってこの足じゃどこに行っても足手まといだし、って。

まだ決めてないんだって答えて、「したら来てくれるの?」って聞いたら「もちろん。きみのバースデーだよ」って言ってくれた。「やりなよ。友だちにうちに来てもらってさ。大したこと出来なくったっていいよ。みんなが来てくれてプレゼントもらってお祝いしてもらって。誕生日だよ? あ、問題は日曜日だからきみは教会があることだな。じゃあ教会終わってからだね。何時にする?」。・・・って。

ほら。またそうやって予想もつかないこと言い出して、どこにも行けないわたしのバースデー素敵にしてくれようとする。なんか嬉しくて、どうしようどうしよう、タイ・フードとイタリアン・フードのデリバリーにしようか、ケーキはどうしようか、「バースデーどうするの?」って聞いてくれてたし明日ジェニーに電話しなきゃ、あ、教会終わってから用意手伝ってもらおう、っていきなり頭ん中忙しくなる。

デイビッドがお祝いしてくれたらいいやとか思ってたけど、ふたりだけでごはん食べるよりずっと嬉しいプランだ。

明日からずっと頭ん中忙しくなるな。

来てくれるのかな、みんな。


明日はドクターの診察の日。
アニーのオフィスじゃないほうのアニーの旦那さんが連れてってくれる。


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必要だ - 2004年03月01日(月)

ゆうべ熱いお風呂にゆっくりつかって膝を伸ばしながらあっためたからか、今朝起きたら痛みがおさまってた。デイビッドのおかげ。涙が出そうなくらい嬉しかった。今日も気温は50°Fを超える。ダウンジャケットはやめにして、薄いジャケットのポケットにりんごをひとつつっこんでタクシーに乗り込む。

3日行かなかっただけでフィジカル・セラピーが恋しい。キビシイほうの PT の先生も好きになった。


昨日一日エクササイズしなかったから心配だったけど、膝は90度まで曲がるようになった。うちでする CPM の角度を100度まであげてもいいって言われた。キビシイほうの PT の先生にまたキリキリギリギリ膝を曲げたり伸ばしたりされて、いろんな器具使って運動したあと、今度は膝頭を思いっきりぐりぐりマッサージされる。目にいっぱい涙を溜めて堪える。

座って足を乗っけて前後に動かすマシーンをやったあと「自転車やりたい」って言ってみたら、先にトレッドミルやろうって言われた。やった。もう時間があんまりなくて、今日はトレッドミルなしで自転車でシメかなって思ってたから。

トレッドミル、楽しい。ハンドルを腕で力いっぱいプレスして体重が足にかからないようにするから普通にトレッドミルするのとはほど遠いけど、自分で歩いてるような気になるのが嬉しい。目の前の鏡に映った姿はおへそが見えてて、早く夏になってこんなふうにおへそ出してかっこよく外歩きたいなんて思う。

マイアミのラテンの女の子は誰もかれも抜群に奇麗な体にカッコイイおへそで、もう見るのもうんざりだ、とかデイビッドがわけわかんない文句言ってたけど、わたしのおへそだってけっこうカッコイイじゃん。

自転車はまだペダルを一回転出来ない。とても足がそこまで動かない。でもかなり進歩したみたいで、来週には一回転させられるようになりそうだねって先生が言ってくれた。


いつものように最後に膝を15分くらい冷やしてもらって、またタクシーに乗って帰る。少しうちで休んでから、公園まで歩いてみた。

ほんの少しの坂道がきつい。歯を食いしばって足を上げて、くちびる噛んでそろりそろり踵を下ろす。普通なら5分もかからない目的のベンチまで、30分以上かかった。ベンチに座ってると、おかあさんに連れられた小さな女の子が「ハイ」って手を振ってくれたり、お散歩のおじさんが「足大丈夫?」って声かけてくれたりする。



「今日はどうだった?」って聞いてくれるデイビッドに、昨日言われた通りにお風呂につかったとこから、今日やったこと全部話す。「僕はね、ほんとにきみの足は予定よりうんと早く回復すると思うよ」「ほんと? あたし頑張ってる。すごい頑張ってるんだよ」。なんかバカみたいに「頑張ってる」を繰り返す。「わかってる。わかってるよ、Sweetie」。出た。わたしの好きな Sweetie。

あんまり早く回復したらピアニストにはなれないなってデイビッドは笑う。

踊れるようになるのは6月か7月だって言われたこと話したら、夏には踊れるようになるなんてすごいって喜んでくれた。わたしは遠いなあって思ってるのに、みんなにもそんなにかかるのかって言われたのに、デイビッドの喜び方がわたしを元気にしてくれる。


なんでもポジティブに考える人。
悪いことをいいことに変えられる人。
誰にも真似出来ない方法で励まして助けてくれる人。
わたしには今デイビッドが必要だ。

これからだって必要だ。
デイビッドがいなきゃこんなふうにはなれないよ。
どうしよう。必要だ。


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