天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

歳を重ねていくこと - 2001年07月31日(火)

朝、ドライブしながら口紅塗るのに鏡をのぞいて、見てしまった。荒れまくってる自分のお肌。陽が当たると、うちの中ではわからなかったボロが光に浮き出される。見たくないもの、見てしまった。

自分が全然進歩してないようで自信なくしたり、一体なにやってるんだろうって虚しくなったら、一年前の自分と比べることにしてる。そしたら確かに進歩してるわたしを見つけられるから。去年の今頃はまだインターンにもなれてなくて、病院でも正規の資格なしのまんま、限られた仕事しか出来なかった。まだここにも来てなかった。頑張ったよね。しんどいインターンも終えて、今はちゃんとやりたかった仕事出来てる。一年後にはもっと目標に近づいてるはずだよね。

歳を重ねるごとに素敵に輝いてる女でいたい。ずっとそう思って頑張って来た。

だけど、確実に一年前から後退してるもの。お肌。細胞はものすごいスピードで衰えて行く。内臓の機能も、栄養分の吸収も、代謝も。必要なものがどんどん失われて、要らないものが貯蔵されやすくなる。「歳を重ねる」なんてかっこつけて言ってみても、要するに「年を取る」ってこと。体はそれを否めない。絶対覆すことが出来ない生化学の事実。専門なんだから、しくみが全部わかっちゃうし、どうすれば少しでも防げるかなんても知ってる。なのにたばこの量もコーヒーの量も増えて、ちゃんとごはんも食べないし運動もしない。これじゃあ、ちっとも輝いてる女じゃないじゃん。

こんなお肌、見せたくないよ。もうこのまま会えなかったらそれでもいいや、なんて本気で思ってしまった。いっつも子ども扱いされてるし、若く見えちゃうし、あの人の頭のなかのわたし、うんと年上なんかじゃなくなってるかも。写真だってかわいく写ってるのしか送らないもの。体重減っておっぱいもお尻もまた一回りちっちゃくなってる気がする。なのに腰は去年のほうがもっとくびれてたような気もするし。会ったらがっかりされちゃうよ。やだな。ババ臭いこと考えてる。


結婚とは、一緒に年を取っていくこと。素敵な結婚とは、一緒に素敵に歳を重ねていくこと。肉体が衰えていくのもちゃんと見つめ合って、それも全部ひっくるめて愛し合って、一緒に輝きながら齢を重ねていくこと。そんなふうに思った。

「いつまでも年齢を感じさせない女性でいて下さい」。
バースデーに送ってくれたカードに夫が書いてた言葉。素敵に歳を重ねてたよね、ふたり。結婚、捨てられるのかなあ、なんてまた心が揺れる。



あの人から電話が来ない。
もう約束の時間を4時間過ぎてる。こっちからかけても繋がらない。どうしたんだろう? 何かあった? ろくに寝てないのに朝早く仕事にかり出されて、駅まで歩く道で3回くらいコケそうになったなんて言ってたのに、そのまま夜は仕事仲間とキャンプとかに行った。BBQしてコテージに泊まるってはしゃいでるから、「ぼーっとしてBBQでやけどなんかしないで」って心配してたけど、もっと大変なこと起こっちゃった? そのあとまたそのまま会社に戻って仕事って言ってたし。

それともお母さんになんかあった?

・・・彼女になんかあった?

「急用が出来て、時間通りにかけられないこともあるんだから。でもそういうときはちゃんとあとから電話するから。心配しないで待ってて」。
いつもこういうときに不安になりすぎてよけいなこと考えちゃうから、あの人がそう言ってた。

待っていいの?
不安だよ。心配だよ。こわいよ。

彼女と一緒でもいい。あなたがケガしたりしてるんじゃなかったら。


コーヒー沸かして、たばこばっかり吸ってる。寝られないよ、かけてくれるまで。またお肌がボロボロになってくよ。だめじゃん、わたし。

でももう、それどころじゃなくなってきちゃった。









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素敵なアメリカ人 - 2001年07月30日(月)

今日から独り立ち。
自分の受け持ちになった病棟で患者さんを診る。ひとりで全部判断するってものすごいプレッシャー。メディカルレコードのドクターの字がみみずで、焦ったり。患者さんが「自分は大豪邸に住んでて、おかかえのコックが食事を作ってくれる」なんて妄想にはまってたり。ドクターのオーダーがおかしいと思っても、ほんとに自分の判断の方が正しいのか不安だったり。しょうがないから、担当のドクター探して口頭で聞きまくり。ナースに「この患者さん、経口のサプルメント要らなくない?」って聞かれて「まだ必要な段階じゃない」って答えたものの、答えたあとで心配になったり。チーフに報告したら、「You were right」って言ってもらえて、ほっとする。でも、時間に追われて、カウンセリングひとつ残しちゃった。

めちゃくちゃ疲れた。
だけど、素敵なドクター見つけちゃった。少しだけ話も出来た。明日も会えるかなあなんて、ちょっとウキウキしてたりして。


アメリカに仕事で来て以来、あの人は時差を間違えなくなった。日本時間と両方で生きてるわたしより、ちゃんとこっちの時間がわかってる。「ほりの深いアメリカ人になりたい」なんて言ってたあの人。あの人の感覚ってアメリカ人っぽいとこがある。ややこしい話をするときとか、仕事の話をするとき、そう思う。アメリカに来たときの話を聞くと、すっかり溶け込んでたんだろうなってわかる。このあいだ突然くれた電話も、「Good morninユ」って言う声がわからなかったくらい、ちょっとの英語もネイティブっぽいし。冬が好きな理由のひとつが「こたつに入ってミカン食べるのが最高」っていうところは違うけどね。


あなたはもうすぐアメリカ人になるんだよ。
素敵なアメリカ人と出逢って
愛し合うようになったら
その人はあなたの生まれ変わりなの。

「ねえ、前に会ったことあるよね」
って聞いたら
「うん、日本でね」
って答えるの。

日本に行ったことあるアメリカ人探さなきゃね。


少し前にそんなことメールに書いたら、
「最近、反抗期だね」って言われた。


あの素敵なドクターは、でもちょっと違うかな。日本に行ったことなさそうだし、素敵だけど全然あの人みたいじゃない。大丈夫だよ。ちょっとくらいよそ見したって、わたしはあなた一色だから。あなたみたいに素敵なアメリカ人は、見つからないよ。

コンピューターで検査数値チェックしてるとき、突然あの人に抱きつきたくなった。抱きついて、耳元で「大好きよ」って囁きたくなった。


明日帰って来たら、電話がある。
「ありがとう」と一緒に、今はまっすぐな愛をいっぱい送りたい。




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神さま - 2001年07月29日(日)

A.I.を観に行こうと思ったら、近所の映画館のサインボードからタイトルが消えていた。代わりに Americaユs Sweethearts が入ってる。ジュリア・ロバーツの新しいやつ。楽しみにしてたのに、火曜日からやってたことすっかり忘れてた。でもなんで A.I. 終わっちゃったんだろう。そんなに不評だった? ネットで確かめようとしたら、繋がらない。電話すると、ケーブルの工事が影響しててインターネットはしばらくアクセスできないという。 Americaユs Sweethearts のスケジュールも調べられないから、結局映画はやめにした。窓からサインボードが見えるほど映画館は近いんだから、スケジュールくらい見に行けばいいんだけど。

それで勉強の続きをする。ちょっと焦ってる。映画はやっぱり今度の週末にしよう。いつまでたっても苦手な肝臓疾患。深すぎるというより、広すぎる。

夕方、ちょっと休憩してたら電話が鳴る。日本は朝の6時? 夜中に会社から電話があって、7時に来てくれって言われたらしい。駅までの道を歩きながら電話してくれる。「覚えてないだろ、この道」「覚えてるよー。あなたんちからずーっと坂下りて、左に曲がってまっすぐ行ったら駅。でしょ?」「覚えてるじゃん」「当たり前じゃん」。

あの時、あの人の曲の、どういうところが好きかなんて話をしてた。「終わり方が一番好きかな。中途半端みたいだったり、小節の途中で終わったり。なんかどきっとする」「ほんと? ちゃんと聴いてくれてるんだ」「そうだよ。細かく聴いてるでしょ?」「そんなふうに聴いてくれる人、ほかにいないよ、きっと」「頑張ってね。ほんとに好きよ、あなたの曲。ずっと応援する。死ぬまで応援してあげる」。

「きみも頑張るんだよ」「頑張れるかなあ、あたし、ひとりで」「ダメだよ、ぼくも頑張るんだから」。

覚えてないでしょ? そんな話してたこと。
駅であの人はたばこを買った。わたしとおんなじブランドの、パッケージが色違いの。おんなじたばこ吸ってるんだーって笑ったね、初めて会った日。

各駅停車に一緒に乗って、次の駅で一緒に降りた。ライブの打ち合わせに行くためにあの人はそこで駅を出る。「このあとに快速が来るから、きみはそれに乗るんだよ」。子どもに言うみたいに言って、高く上げた手を振りながら人込みに消えて行った。4日目で、最後のデートになった日。


「今度さ、おもしろいメール送るよ。」
「なになに?」
「知能指数テスト。あと5問、今日作ろうと思ってるんだ。」
「なにそれ? 自分で作ってんの?」
「そうだよ。僕のメールってつまんないからさー、ちょっと凝ってみようと思って。」
つまんないって? あの超短文で数行の? わかってるんじゃん。でもつまんなくないのに。がっかりはするけど。
「忙しくって大変なのに、そんなことしてて平気なの?」
「思いついたら、おもしろくてさ。きみだけの IQ を知るためのテストだよ。」

電車一本見送ったって言いながら、わたし用 IQ テストの解答の仕方を説明してる。
よくわかんないけど、楽しみにしてよ。「水曜日の朝、電話するね」。そう言って、駅にいるのにおっきな音のキスをくれる。それから「きみは?」って言った。



神さま
消しゴムで消してください。

わたしがあの人にぶつけた嫉妬を。
あのとき止められなかったみっともない言葉を。
あの人のなかの醜いわたしを。
あの人が遠ざかったあの時間を。

あの人に百万回分の「ごめんなさい」を送ります。
ありったけの「ありがとう」を伝えます。





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烙印を押された奴隷 - 2001年07月28日(土)

「大好きだよ。大好きだから、もとのきみに戻って」。
電話を切る少し前に、そうあの人が言ってた。

「明日の朝、仕事に行く前に電話して。待ってるから。」
そうも言った。

朝電話したら、「大丈夫?」って聞かれた。全然大丈夫なんかじゃなかった。大丈夫じゃないふりも出来なかった。

行きの車のなかで、いつも聴く FM のステーションがつまらなかったから、Duran Duran を聴く。でも、辛くて聴けなかった。つまらない FM に戻す。ほかのステーションにカチャカチャ合わす。どれもつまらない。渋滞で隣り合わせになった 赤い2ドアの BMWに乗ってた人がかっこよかった。じっと見つめてたけど、あっちが先に進んでしまった。こっちのレーンが進んでまた隣り合わせになったら、またじっと見た。それを繰り返してた。

明日はお休みだと思うと、寝不足でも仕事は大丈夫だった。仲良くなった同僚とおしゃべりするのも楽しかった。刑務所病棟も、腎臓透析クリニックも、頑張った。

帰りの高速で、また Duran Duran を聴いてわざと自分を苦しめようと思った。やっぱり辛すぎて、出来なかった。

帰ったら、電話をかけることになってる。かけるのが嫌だった。あの人の時間の朝8時から9時の間にかけてって言ってた。うちに帰ったのは7時半だった。ベッドに身を投げ出したらうとうとして、電話の音で目がさめた。8時過ぎだった。

「おそーい。遅いから心配してかけたよ。」
「・・・なんで? 8時から9時の間って言ったじゃん。」
「え? そうだった?」

いつもみたいに話すあの人。
いつもみたいには話せないわたし。

「昨日もうやめたほうがいいって言って、ほんとにやめようかと思ったけど、電話切るころにはやっぱりそんなこと出来ないって思ってた」。朝の電話でそう言ったあの人。

「やめる」って言葉に恐怖心を抱いて、それからまだ抜け出られなかったわたし。

それでもこころが溶けていく。
溶けていく。

話をしているうちに、どんどんほどけていく。

「月曜日の朝に電話する」。
そう言われて、もうそれまで待てなくなってる。

どんどんほどけていったこころに、ちっちゃな結び目がひとつ残ってる。「やめる」って言葉が作った結び目。結び目は烙印。

わたしのこころはあの人の奴隷。自由がきかなくて苦しんでると思い込んでるけど、飼い慣らされた状態にほんとは満足してる。烙印を押されて、解き放たれることのない奴隷。もう、絶対離れられない。


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チャイニーズ・ドレス - 2001年07月27日(金)

あれからまた3時間半、ずっと電話してた。
殆ど毎日電話くれるのに、それでも話は尽きない。いくらでもいくらでも、話したいことがある。どこまでもおしゃべりが続く。

それなのに、最後の2時間はめちゃくちゃになってしまった。
わたしがまた言っちゃいけないことを言い出してしまったから。
あの人の彼女のこと。
あの人が聞いててくれるのをいいことに、止まらなくなって、止まらなくなって、イヤミまで口をついて出る。とうとう「しょうがないじゃん」なんて言われてしまって、わーわー泣いた。

「イヤ、イヤ、イヤ」「お願い、お願い、お願い」。
こんなに思い合ってても、どんなに優しくしてくれても、大事に思ってくれても、あの人の彼女への愛が痛い。ずっとずっと痛い。
どうしても消すことができない痛みを抑えられなくて、わけのわからない言葉になって嗚咽と一緒に口から出る。しょうがないよ、わかってるよ。しょうがないの。初めからしょうがないの。でもなんで「しょうがない」なの? しょうがない。しょうがない。しょうがない。わかってるけど、聞きたくなかった。

泣きながら言葉にならない気持ちを叫び続けるわたしは、とても正気には聞こえなかったと思う。気が触れたみたいなわたしが怖かったんだ。あの人は言葉を失くして、もう何も答えてくれない。名前を呼んでも答えてくれない。呼び続けると「名前呼んでるだけじゃわからない」って言った。

「なんでそんなふうになるの? わかってるよ、きみが辛いのは。でもこれ以上どうしたらいいのかわからないよ。僕はずっときみを大事にして、ずっと優しくしてるのに。」
「優しくしてくれるのはわたしがかわいそうだから?」
「そんなふうに思ってない。」
「同情してるの? わたしに。」
「違う。」

大きなため息が聞こえる。

僕はきみが大好きで、すごく大事で、だからこの関係ずっと大切にしてきたし、ずっと大切にしようと思ってた。嬉しいことがあったときも落ち込んだときも、一番話を聞いて欲しいのはきみだった。きみが苦しいときには僕が助けてあげたいって思ってきた。だけど、だけどきみが辛くておかしくなって、僕にそれをどうしてあげることも出来ないのなら・・・、

「もうこんな関係無理だよ。もうやめたほうがいいのかもしれない」。

もうおしまいにしようって何回も思ったのはわたし。そう言ったことも何度かある。でもあの人はその度にイヤだって言った。あの人がやめるなんて言ったのは初めてだった。

なんでこんなことになったんだろう。さっきまで楽しかったのに。出来ない? もう普通に話が出来ない? 今までみたいにやってけない? ーあの人が言った。

答えることが出来なかった。愛されてるなんて、大きな勘違いだったのかもしれない。それでも失いたくない。失いたくなければ、もうずっと痛みを抱えているしかない。「好きなの」。それしか言葉が出なかった。「わかってるよ、そんなこと」ってあの人は笑った。笑った意味がわからなかった。


どうやって電話を切ったのか覚えてない。朝の4時半になってた。


「近所にチャイニーズ・ドレスの店があるんだよ。前を通るといつも、きみに着せたいって思う。」
「チャイニーズ・ドレスが好きなの?」
「いいじゃん、あれ。きみは絶対似合うよ。会いに行くとき買って持ってくから、着てよ。着てくれる? それから脱がしていい?」

昨日の、そんな会話を思い出してる。


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電話の続きを待つあいだ - 2001年07月26日(木)

昨日のはずのお休みの日が今日になって、
いっぱい話をする約束の電話をかけてくれた。

仕事中も、帰りの車の中でも、「帰ったら電話、帰ったら電話」ってずっと思ってたから、今日は仕事が楽しかった。プロ意識欠落? でも頑張れるんだ、そういうときって。朝診た患者さんが気になって、お昼にもう一回覗いたら「気にかけてくれてありがとう」って言ってもらっちゃった。

明日の仕事の準備をしながら、まだかな、まだかな、って待ってるわたしってホントに子どもみたい。久しぶりのお休みだからゆっくり睡眠取るって言ってたのに、曲作ってたら朝になったってかかってきた。「大丈夫? 寝なくて平気?」なんて言いながら「眠たいって言っちゃだめー」って思ってる。「全然。テンション高いから、今」って、あの、曲が出来たときのわたしの好きな声。セクシーな寝起きの声もいいけどね。

作りたての曲はアレンジが完成じゃないからって聴かせてもらえなかったけど、この前のを聴かせてくれた。なんでこんな曲が作れるの? って前は思ってたけど、最近は聴くたんびにあの人らしさが嬉しい。それでも絶対、毎回、新鮮な驚き。「またやったね」って思う。素敵、素敵。どんどん素敵になって行くよ。

音楽の話は止まらない。あの人の夢は終わらない。ちゃんと夢に近づきながら、その間に違う夢が増えていく。それに比べてわたしのやりたいことなんて、って思うけど、つまんないわたしの夢の話も一生懸命に聞いてくれる。でもね、あなたの曲を聴くと、どうでもよくなっちゃうんだ、自分の夢が。

これからギターを見に行くって言うから、「えーもう電話終わりなの? いっぱいって言ったじゃん」って拗ねたら、「違うよ。楽器屋さんに行きながら話そ。ギター選んで、それからうちに帰って、またうちで話そうよ」って。久しぶりのお休みの日、ほんとにめいっぱい使ってくれるんだ。なんだか知らないけど、「すいかを食べたら怖い話」をしてくれるって言う。それから、聞いて欲しいことがあるって。あんなに素敵な曲が作れても、悩みはあるらしい。ちょっと最近凹み気味って言ってた。行き詰まってる? 聞いてあげるよ、たまにはちゃんと「お姉さん」になって。

楽器屋さんに着くと、1時間くらいしたらまたかけるから待っててって言って、電話を切った。

あの人は今、楽器屋さん。
わたしは待ってる。
1時間で終わらないかもね。外は「蒸し暑い〜」って言ってたから、暑さが寝不足に堪えて、帰って来たら眠たくなってるかも。


でも、待ってる。
もう3時間くらい話ししたけど、もっといっぱい話せること、うんと期待して。
寝るって言わないでね。もっともっと話すんだから。

こっちはもう夜中。明日の仕事、わたし大丈夫かな。
それでも待ってる。はやくかけてきてね。何時になっても平気だよ。ずっと話ししてたいよ。
一晩中声聞いてたい。


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嫌い - 2001年07月25日(水)

彼女のこと妬いたら
「ごめんね」
って言うあの人が嫌い。

会いに来れないくせに
「会いたいよ」
って言うあの人が嫌い。

「平気だよ」
って言ってるのに
「平気じゃない」
って言うあの人が嫌い。

「メッセンジャーの彼に上半身のヌード写真送った」
って言ったら
「危ないからやめなよ」
って言うあの人が嫌い。

「きみがだいじょうぶじゃないときは
 僕がだいじょうぶにしてあげる」
って言うあの人が嫌い。


嘘。
好き。
好き。
好き。
好き。
好き。

嫌いでも、好き。


螺旋階段、蹴っ飛ばしちゃったみたい。
どこ行ったかわかんないから、もう登れないよ。
またもとのもくあみ。



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螺旋階段 - 2001年07月24日(火)

昨日よりは疲れなかった。今日は精神科に行った。精神科だけで6つも病棟がある。心理科っていうのも別に4病棟ある。精神科が充実してるこことが、この病院をとても気に入った理由のひとつだった。来週からは一般病棟のほかに、精神科の2つと心理科1つの担当になる。

こんな弱虫の自分が精神科なんて大丈夫かなとも思うけど、患者さんのすがるような目を見ると一緒に頑張ろうよって思える。口に出しては決して言えないけど、そういうこころは通じる。なかなか通じないこともあるけど、こころを開いてくれる時にはほんとによかったって思う。

ベテラン先輩のカウンセリングについていった。バイポーラーの16歳の女の子。BMIがうんと危険範囲の肥満が、体の方の健康の心配だった。「・・・わたし、痩せたい」と口にした彼女。ベテラン先輩が、ひまわりみたいな笑顔になった。「じゃあね、1800キロカロリー始めてみようか」。はにかんで、でも目をそらさないで彼女は頷く。こころが開いた瞬間だよね。「何か嫌いなもの、ある?」「ミルクがダメ。ブロッコリーも嫌い。それから・・・」。一時的でもいい。断片の信頼が少しずつ繋がって行くから。わたしはいくつ、ひまわりの笑顔をあげられるかな。


相変わらずわたしはあの人でいっぱい。
だけど少しだけ、ほんの少しだけ、螺旋階段を登れたような気がする。
うんと登ったところから、笑顔で「バイバイ」って手を振る自分を想像してる。

ずっとずっと前に見た夢を思い出した。ここに来て間もないころに見た夢。あの人とドライブしてた。どこかの高速道路を走ってて、交差点でエンストする。高速なのに交差点があった。おまわりさんにつかまりかけて、ふたりで車を置いて逃げる。螺旋階段をぐるぐる急いでかけ降りながら、「車、どうするの?」って聞いたら、「大丈夫。5時に高島屋の駐車場に取りに行けばいいから」ってあの人が答えた。

「今日はこれからオバチャンのパーティに連れてってあげるよ。」
「なんでオバチャンのパーティなの?」
「たまには年の近い人と会いたいでしょ?」
夢の中で絶句した。
「なんでー? オバチャンなんかに会いたくないよー。」
「行こうよ。おもしろいよ、オバチャンのパーティ。」
螺旋階段をかけ降り続ける。
「それから5時になったら車取りに行って、ラブホテル行こ。」
「うん。行く行く。」
そこで目が覚めた。

夢の思い出はどれも鮮明。
夢だか現実だか、わかんないくらい。夢で会った数の方が多いんだものね。


螺旋階段のお話、ありがとう。
昨日は泣いちゃった。でも今日は大丈夫だった。明日はいっぱい話せる約束のお休みの日だから、わかんない。せっかく登りかけた螺旋階段、飛び降りちゃうかもしれない。
下で見上げてるあの人の胸に飛び込んじゃうかもしれない。でも、いいよね。

いつか、わたしを追いかけて来れないで下から名前を呼んでくれるあの人を振り返らずに、ひとつずつひとつずつ階段を登れる時が来る。I love the way you call my name.  どこで聴いたんだっけ。どこで見たんだっけ。あなたがわたしの名前を呼んでくれるときの呼び方が好きよ。あんなふうにずっと呼んでてくれるかな。

螺旋階段はどこに行き着くんだろう。行き着いたところに、天使が微笑んで待っててくれたらいいな。



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失いたくないもの - 2001年07月23日(月)

久しぶりに白衣を着たらしゃきっとした。病棟に入っら血が騒いだ。「インターン」のバッヂはもうつけられなくて不安だけど、頑張るしかないと思った。続けられるものはこれしかない。でも疲れた。とにかく疲れた第一日目。

うちに帰ってメールを読んで、
泣いた。
泣いた。
泣いた。
わたしは何を欲しがっているんだろう。
ほんとは何を求めているんだろう。

人は失いたくないものを失わなくちゃいけないとき
どうやってそれを手放すんだろう。

わたしはそれをどうやって諦めて来たんだろう。

あの娘の命があと一年って言われたとき
どうやってそれを受け入れたんだったろう。

かさかさばりばり鳴る音がおもしろくて
落ち葉を踏みしめながらはしゃぐあの娘を見ながら、

クリスマスに赤とグリーンの大きなリボンをつけてあげると
いやいやをして振り落とそうとしたあの娘を笑いながら、

来年、この娘のいない落ち葉の季節を、クリスマスを、
迎えることなんて出来るんだろうかと思ってた。

季節が巡るたびに
これが最後のあの娘のいる風景なんだと思うと、
もうあの娘のいない季節なんか巡って来ないでと願った。

それでも取り乱さずに、
あの娘が最後まで幸せに生きられるようにと
大切に、大切に、一日一日を一緒に過ごそうと決めた。
そしてそうやって過ごしたはず。最後の最後の日まで。


同じことがなんで出来ないんだろう。
なんでおんなじように受け入れられないんだろう。


それが出来れば
あの娘が今でもわたしの大切な存在でいるように、
あの娘を今でも愛してるように、

あの人をずっとそんなふうに大切に思って愛していられるのに。
ちゃんと天使のあの人だけを愛していられるのに。

天使なんかじゃない。
天使じゃないあの人を愛してしまったわたしが苦しんでる。

きっと一度は失わなきゃいけないんだ。
一番失いたくないものを守っているためには。
人間のあの人を諦めなきゃいけないんだ。
それが諦められないんだ、わたし。

勇気がないよ。
出来ないよ。
怖いよ。
そんなふうには傷つけたくないよ。
そんなふうには苦しみたくないよ。


どうしよう。
明日の仕事の準備をしなくちゃ・・・。



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7 days - 2001年07月22日(日)

あの人が帰ってきた。
ほっとしてる。
なんでだろね。
わたしのとこに
帰ってきたわけじゃないのにね。

疲れた声で電話をくれた。
くたびれたからもうこのまま寝ちゃうって言って。
少しだけ話してすぐに切る。
いっぱい寝てね。
ゆっくり寝てね。
明日の朝起こしてあげるよ。

自分の部屋に帰って来たあの人を想うのが
一番好き。

わたしが行ったことある
あの部屋だよね。


モーニングコールしたら、
ヘロヘロの寝ぼけ声。
「あと15分してからもう一回かけて〜」。
出た。
あんまり眠たそうだから、
今日はリクエスト通りにしてあげる。
いつもより寝起きの声がセクシーだったから
許してあげる。


15分後の再コール。
まだ寝ぼけ声のあの人を必死に起こしてから、
話す。
夜中の3時過ぎに道で素敵な女の人に声かけられるのね。
娼婦だと思うんだけど。「時間ある?」って。
それで、答えるの。
「きみの名前と6桁の数字と
 明日9時にデートしてくれることが引き替えならね」って。
女の人は「いいわよ」って返事して、
それから7日間一緒に過ごすの。
月曜日から日曜日まで、ずっと抱き合って過ごすの。
でね、別れてうちに帰るんだけど、
その途中、ずっとずっと電話が鳴り続けるの。

「ね、素敵だと思わない?」
「きみが好きそう。僕も好きだよ、そういうの」
「でしょ? すっごく素敵でしょう?」
「聴かせてよ、明日」
「うん、聴かせてあげる。1曲目が今すごいヒットしてるやつで、いいの。で、この7days は歌詞が好きなの。もう1曲素敵な曲があって大好きで、でもあなたは2曲目が一番好きって言うと思う。」

Craig David のサイトを探して、
クリップをアルバムごとダウンロードできるところを見つけた。
今日のうちに URL 送っとこうかな。
なんか、こういうことだとめちゃくちゃ頑張る。


明日から仕事。
緊張する。2ヶ月半のブランクは大きい。
忘れてることが、もういっぱいある。
大丈夫かな。もう少し勉強しとこうか。

「今日はもう寝なよ。最初の日は大事だから。それでなくても疲れるんだしさ」。
最初の日だから、わたしが行く前に電話してくれるって言う。
記念すべき大事な日だからって。
なんかね、すごい支えられてるよ。

変われるかな。変われるかな、わたし。
「7days 」聴くたびに、きっと思い出すよ、今日のこと。
仕事で挫けそうになったら、聴いて思い出す。あなたが支えてくれてること。







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もう何も考えたくない - 2001年07月21日(土)

Looking Back 2 が届いた。
このあいだ甲斐バンドの「夏の轍」が届いたあとで、母に追加注文したCD。
しょうがない娘だと思ってるだろな。

ちょっとだけ聴くのが怖かった。聴いたらやっぱり襲ってきた。
懐かしい記憶。ふたりともオフコースが懐かしくて、いつも一緒に聴いてたあの頃のこと。2段階式「オフコースの思い出」の、最初の方は飛んでしまって、蘇るのはあとの方だけ。

楽しかった遠い記憶ばかりが、鮮やかに戻ってくる。
あんなに大好きだったんだよ。結婚して何年経っても恋人同士みたいな夫婦だった。何年経っても「愛してるよ」って言ってくれた。ずっと自慢の「旦那さん」だったんだよ。

年を取るほどわからなくなることがある。
ー過去はいつでも鮮やかなもの 
 死にたいくらい辛くても
だから過去を振り返っても意味がないっていうこと? 輝いてしか見えないから?
今は死にたいくらい辛くても、やがてはそれも鮮やかな過去になるってこと?
あの頃ちゃんとわかってた歌詞の意味がわからなくなった。

おととい、またある人からもらった言葉。
「たとえ痛みでも知らないよりは知ったほうがいい」
昔、思ってたことがある。辛いことがあるたびに。どんなことでも、経験しなかった方がよかったことなんてないんだって。だから苦しみを知らなかった頃に戻りたいなんて思わなかった。その頃よりも強くなれた自分がいるから。ひとつずつ人の悲しみもわかるようになる。そして優しくなれる。何も知らないよりも知っていたほうがいいに決まってる。たとえ知れば苦しくなることだって。苦しみを覚えて受け入れて消化して、強くて優しい大人になっていくんだって思ってた。

だけど、その人の言葉がわからなくなったわたし。
それと同じこと? こんな痛みでも知ったほうがよかったの? それを糧にして前に進めるときがくるのは、すべてが終わったあとだけじゃないの? ずっと終わらない痛みはどうすればいいの?

わからない。わからない。
何にもわからないおバカになっちゃった。


ー今の君も あの頃に負けないくらい 
 僕は好きだから
歌詞があの人の言葉と重なる。思い出してたのは夫のことなのに。
「元気なきみが好きだけど、今のきみもちゃんと好きだよ」。

淋しくて切なくて悲しくて苦しくなった。


母にありがとうの電話をかけたら留守だった。留守電にメッセージを残したから、きっとまたとんでもない時間にかけてくる。いつまでたっても時差がわからない母。

夫に電話したけど取らなかった。「別に用事じゃないの。またかけるね」ってメッセージを入れたけど、こっちは多分かかってこない。

指が勝手に、覚えてる番号を押してゆく。
話しが出来ると思ってなかったし、そんなつもりじゃなかった。わたしの電話とあの人の電話を繋げてみたくなっただけ。切ってると思ったのに呼び出し音が鳴って、それだけで胸が熱くなった。3回鳴らして切った。わたしの番号は出ない。でもわかるかも。叱られちゃうかな。1時間経って電話が鳴る。

「さっき、かけた?」
「・・・うん。ごめん。かけちゃった。」
「きみだなってわかったよ。こりゃあ、またピーピー泣いてるなと思ってさ。今ちょっと時間空いたから。淋しかった?」
「淋しー。」

またすぐに行かなくちゃいけないって切った。「あと2日我慢して。月曜日にはいっぱい遊んであげるからね」。「うん!」なんて、!マークつきで返事をしてる。

このままおバカのまんま、もうなんにも考えなくてもよければいいのに。
もう、なんにも、なんにも考えたくない。




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クレイジーになりそう - 2001年07月20日(金)

淋しい。
淋しい? って聞いてたのはこのことだったのか。
日本の中であの人がどこに行ったってこっからの距離なんか変わらないのに、遠くにいるみたいで淋しいよ。なんで?

電話できないから? メールもらえないから? 送っても読んでもらえないから?

それだけじゃない。なんで?
知らないところにいるから? あの街を歩いてるあの人を想像できないから?

淋しいよ。なんでなんで?


しょうがないから
読んでもらえないメール書いてる。
「今日TBテストの反応チェックに行って来たよ。ポジティブに出ちゃってレントゲン撮られた。TBよりも、肺ガンになってたらどうしよう? 死ぬ前に一度だけでいいから会いに来てね」とか。

「帰って来たらほっと出来るようなメール、また入れといてね」って言われたのに、これじゃあほっと出来ないね。

自分が送ったメールも見てる。
ハンバーガーの雲の写真、不評だった。「うんこみたい」って言われちゃった。

電話の会話ばかり思い出してる。
そんなしょうもない言葉さえ。
電話の声しかないんだもん。わたしに届くあの人。ずっとずっと全部取っときたいけど、頭のメモリー足りないよ。たくさんすぎて、知らないうちに消えてく言葉がきっとある。ずっと全部取っときたいのに。


淋しいよ。
胸が苦しくて深呼吸ばっかりしてる。


外は人でいっぱい。
レストランやカフェのパティオで、お食事したりお茶飲んだり新聞広げたり。
ドーナッツショップの前にはティーンエイジャーがたむろしてる。

アパートの前で、誰かが車を止めてクラクションを鳴らし続けてる。
そして、大声で叫んでる。「ロォーゥザリィーッ」って。
鳴らし続けるクラクション。叫び続ける声。
ガンガンかけてる音楽は、Nelly。

クレイジーだね。
うるさいよー。ロザリーはお留守だよ。
でも・・・こんなお迎えでも、いい。


シャワー浴びて、お出かけしよう、わたしも。
別のクレイジーになる前に。

チビたちの缶かんごはんも買ってこなくちゃ。




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「二人の人を愛する力」 - 2001年07月19日(木)

何で彼は1人だけを愛せないのですか?
彼はangelさんの事好きなんでしょ? 何で辛い想いさせてるの?

「9:1」を教えてくれたかの女。

わたしも考えたことがある。
普通なら、わたしが辛い思いしなくていいように、「もうやめよう」っていうんだろうと思う。でもそれが出来ないって言っちゃう人だから愛おしい。だからしょうがない。「きみが僕の世界からいなくなるなんて、考えられない。きみは考えられる? 僕と話も出来なくなること」。わたしにも考えられない。おしまいにしたって、思いは終わらない。そしたらきっともっと辛いよ。違うのかな・・・。それとももっと辛くても、それは必要なこと? でもね、

もっともらしい理屈とか、頭でっかちな理論とか、小難しい論理とか、大人な我慢とか、ものわかりのいい諦めとか、飾り立てた愛の言葉とか、もうそんなものはいらない。「ずっといて欲しい」「ずっと好きでいて」「きみが大事だよ」「きみの存在が大切だよ」。まっすぐなこころを受け入れたい。それがあの人の気持ちのすべてだから。気持ちにそのままでいるのは大人じゃないのかもしれない。だけど、大人になることが無意味なこともある。だって大人がいつだって正しいわけじゃない。「大人」の意味もわからない。あの人はちゃんと大切にしてくれてる。自分の思いもわたしの思いも。ちゃんと彼女を愛しながら。

あの人は彼女を愛してる。恋人への愛。そばにいたい愛。守ってあげたい愛。やすらぎを与え合いたい愛。抱き合いたい愛。一緒にいて安心したい愛。そして、結婚したい愛。
わたしは? 彼女とは別のところにある、大切な存在。必要な人。それも愛? きっと彼女への愛とは別のところにある愛。肉親への愛とも違って・・・名前がないから言い表せないけど、そんな愛もあるんだと思う。



そして昨日、素敵な言葉に出逢った。「二人の人を愛する力」。わたしにもらった言葉じゃないけど、ある人が別の人から言われた言葉を教えてくれた。そんな力があるんだ。あの人はその力を持っているんだ。きっと簡単なことじゃない。強くなければ持てない力。あの人のそんな力にわたしは守られてる。泣いてぐじゃぐじゃになって、めちゃくちゃなこと言って困らせても、どんなわたしもその力で愛してくれてる。あの人はわたしを苦しめてなんかいない。わたしが勝手に苦しんで、辛い思いをしているだけ。


彼女のことが辛いのはきっと変わらないけど、一日ずつ結婚の日に近づいて行くのが苦しいけど、その人をずっと愛してて欲しい。「二人の人を愛する力」でわたしのことも愛してて欲しい。ちゃんと別々の愛し方で。理屈なんかじゃなくて。こじつけでもなくて。

そばにいて欲しいけど、抱いて欲しいけど、それが出来ない距離にいるから「二人の人を愛する力」を保っていられるんだろうなとも思う。

・・・強がってるのかなあ、わたし。でも、

わたしを必要としてくれてる。モーニングコールのためじゃなくて。わたしもあの人を必要としている。お互いがかけがえのない存在だと、信じられるようになってきてる。




月曜日から仕事が始まる。「また一緒に頑張ろ?」って言ってくれた。頑張れるよ。あんなに頑張ってるあなたを昨日また見つけて、わたしも頑張ろうって思えたよ。「生活の1部(分)があの人でいっぱいになっても、残りの9分を自分のために生きる」。かの女に教えてもらった「9:1」に、近づける気がするよ。


昨日あれから電話をくれた。「曲、出来たよ」って。満足した晴れ晴れしい声だった。よかった。きっといいのが出来たんだね。あの声を聞くたびに嬉しい。あなたに出会えてよかったって思える瞬間。でも昨日は特別だった。あなたのこと、また誇りに思ったよ。



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生みの苦しみ - 2001年07月18日(水)

朝早く、健康診断に行く用意をしてたら電話が鳴った。
明日から行く名古屋の仕事に、急遽デモを一曲増やすことになったって。
それでこれからスタジオに缶詰で曲を作るって。

「今から作るの? 明日までに? そっち今もう夜の7時でしょ?」
「そうなんだよ。まだ構想もなんにも出来てない。」
声が焦ってる。
「焦らないで。焦っちゃだめ、焦っちゃだめ。」
「焦ってる? わかる?」
「わかるよー。いつでもいくらでも曲がポンポン作れると思ってるんだ、会社の人みんな。」
「そう。機械じゃないのにさ。今日さー、久しぶりに友だちと鍋パーティだったのに、キャンセルだしさ。」
可笑しいよ。鍋パーティどころじゃないじゃん。それも「鍋パーティ」って・・・。
「じゃあさ、『鍋パーティをキャンセルせざるを得なくなった怒りの曲』ってのは?」
「怒った曲か。う〜ん。」
いつもみたいに笑わない。焦ってる。
「3人でスタジオ入りなんだけど、僕が作らなきゃなんにも始められない。どうしよう?」

プレイライターの友だちが言ってた。一週間後に芝居の練習が始まるのに脚本どころか頭の中さえ白紙だった時は、飛び降りようかと思ったって。みんなが待ってる。期待されてる。それに応えなくちゃいけない。なのに創れない。「クリエーターの生みの苦しみ」って彼は呼んでた。

「焦っちゃだめだよ。きっと出来るから。いつもちゃんと素敵な曲が作れてるじゃん。こういうときこそ、すごいいいのが出来るかもよ。」
「うん。焦るとだめだよね。ちょっと落ち着いてきた。頑張るよ。」
こんなとき、頑張ってなんて言いたくなかったけど、気持ちはめいっぱい「頑張って」だった。
「頑張って。頑張って。頑張って。頑張って。」
やっと笑ったあの人が言う。
「もっと言って。」
「頑張って。頑張って。頑張って。」
「嬉しいよ。もう行くんでしょ?」
「うん。ごめんね。・・・もっと落ち着けるまで話してたい。」
「大丈夫だから行きなよ。すごい落ち着いてきたから。僕も機材積まなきゃいけないし。」
「ずっと応援してるからね。」
「うん。よかった、電話して。気をつけて行くんだよ。車、ぶっ飛ばしちゃダメだよ。」

こんなときにも心配してくれる。ちゃんとキスもしてくれる。だけどキスにまだ不安がわかる。頑張ってね。ほんとに頑張ってね。大丈夫だから。そう思うと、なぜか名前を何回も呼んでた。「頑張って」よりも「大丈夫だよ」よりも、もっと素敵なことを言ってあげたかったのに、言葉が見つからなくて、出てきたのは「大好きよ」。あの人は笑った。

「メールちょうだい。励まして」っていうリクエストに応えて、いっぱいメールを送った。いつものようにEカードも。病院から帰って来てチェックしたけど、見てないみたいだった。日本は朝の5時。まだスタジオなんだ。


日本の朝8時半。ピックアップ通知は来てない。もう名古屋に行っちゃってる? 出来たのかな。大丈夫だったのかな。お願い。上手く行ってますように。


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セックスは気分転換? - 2001年07月17日(火)

水曜日から2日あの人は名古屋に仕事に行く。週末はずっと大阪でイベントの仕事。

ほんとは彼女と旅行? なんて思ってちょっと黙ってたら、
淋しい? ってあの人が聞いた。

バカだねー。ずーっと毎日、もっともっと離れてるんだよ。名古屋と大阪に行ったからって、いつもより淋しくなんかならないよ。

「・・・ほんとは彼女と一緒?」
「なんだなんだ。そんなこと考えてたの? 彼女とどっか行くと思ったの? 仕事だって。そんなこと嘘つかないよ。」

よかった。そんなことわたしに嘘つく必要ないものね。わたしはあの人のそういうヒトじゃない。

「最近ずっと仕事が忙しいからゆっくり会ってない」なんて、聞いてないことまで言う。でも平気だった。近くにいて会えないなんてもっと淋しいんだろうな、って彼女のこと思ったりしてる。わたしはあの人ともうこのまま会えないんだろうなあって、少し前から思い始めたことを口にした。

「もう、きっと会えないね。そんな気がする。」
「そんなことない。僕はちゃんと考えてる。」
「あなたはね、あたしの会いたいって気持ちがどんなのかわかってないよ、きっと。」
「わかってる。」
「わかってない。」

あなたは、会いたい時にいつでも彼女と会えるでしょ? でも想像してみて。彼女がうんと遠いところにいて、そこには別に彼がいて、その彼と結婚することになっちゃって、それでも彼女はあなたのことも好きで、「会いに行くからね」って言ってくれてて、でも全然会いに来てくれなくて、結婚する彼がいるからあなたからは会いに行けなくて、ずっとずっと会いたくて会いたくて来てくれるの待ってて、でも「会いに行くから」って言いながら来てくれなくて。

「ねえ、想像して。悲しい?」
「・・・うん。」
「・・・悲しい?」
「悲しい。」
バカ。
「・・・あたしと会えないのが、悲しい?」
「悲しい。」
「うそだ・・・。」
「なんでそこでうそって言うの?」
「だって、彼女とそんなふうに会えなかったら悲しいって言った。」
まためちゃくちゃなこと言ってる。でも今までみたいに泣かない。言ってすっきりしてる。
「ちがうよ。きみの気持ち考えたら、悲しいって。」
いいよ。それで十分。少しだけこぼれた涙を拭いて、話題を変えた。

「ねえ、じゃあ答えて。『あなたにとってコーヒーってどんなものですか?』」
「う〜ん。気分転換。」
笑っちゃった。あの人が言う。
「なになに? なにそれ? どういうこと?」
「あのね、心理学やってた友だちが教えてくれたの。それは自分にとってセックスがどういうものかってことなんだって。」
「気分転換だったのかあ。」
ってあの人は笑う。
気分転換ならいいか、ってわたしは思う。
「あたしさあ、『毎日絶対欠かせないもの。一日最低5、6杯は必要』って答えちゃったの。」
「バッカだなあ。思いっきりそのままじゃん。好きだもんなあ。」

泣かない。泣かない。ちゃんと笑って話が出来た。

切るときに、「受話器にしっかり耳くっつけて」っていつもみたいに言うから、キスを待ってたら「好きだからな」って囁いた。そしてキスしてくれて、「お返しはなし?」って言った。

今は十分しあわせだよ。今はもう、このままでいい。ちゃんと頑張れる。











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つかまえそこねた妖精 - 2001年07月16日(月)

今日も湿気がなくて、気持ちがよかった。
真っ青な空に浮かぶ雲がハンバーガーみたいで、あの人に見せてあげたくなった。ハンバーガーは全部で8個くらいあって、斜めに積み重なってた。ちゃんとパティとレタスの区別がついて、バンのあいだにそれがきっちり挟まってる完ぺきなのが二つあった。デジカメで写したら実際に見たほど完ぺきじゃなかったけど、送った。あの人は「あれのどこがハンバーガー?」って笑うんだろうな。ハンバーガーが大好きだから。

モーニングコールの電話をかけたら、もう起きてた。「さっき起きた。そろそろかかってくると思って待ってたよ」って、眠たそうな声だった。起こすつもりで用意してたThird Eye Blind の「Camouflage」を聴かせてあげたら、「いいけど、また眠りに戻って行きそう」って言った。気持ちよく起きられそうな曲だと思ったんだけどな。

ゆうべアパートの窓の下でほたるを二匹見た話をした。いくら郊外っていったって、こんな大都会の住宅地の、それもアパートの敷地内にほたるがいるとは思わなかった。多分ほたるだと思う。ちっちゃな赤い光がひゅんと弓状に飛んだと思ったら、落ちたところで消える。そしてまたひゅんと赤い光が飛ぶ。「ほたるだと思うんだけどなあ」「それ、ほたるじゃなくて妖精だったんだよ」「え?」「妖精だったんだよ。惜しいことしたね、ちゃんとつかまえとけばよかったのにさ」。一瞬何を言ってるんだかわかんなかったけど、なんだかすごい素敵な気分になった。「いいよ、だって妖精ならここにいるもん。ほら、あたしあたし」なんて混ぜっ返したけど、愛おしい気持ちが止まらなくなった。いいよ、わたしにはこんなに素敵な天使がいるから。

昨日から国家試験の勉強を始めたっていうと、えらいえらいって誉めてくれた。ずっと何にも出来なくて、それでも「頑張らなきゃだめじゃん」なんて言わないでいてくれて、ずっと待っててくれたの知ってる。あの時からわたしはボロボロに崩れてた。今日やっと、一歩踏み出したわたしを見つけたんだ。えらいえらいって言うあの人は嬉しそうだった。わたし、頑張れるかも知れない。そう思った。誉めてもらったらもっともっと誉めてもらおうと頑張る子どもとおんなじ。子どもみたいでも、そんな自分が好きだと思った。

明日はわからない。また泣いてるかもしれない。明日大丈夫でも、一週間後はわからない。でも、仕事が始まると、少しは元のわたしに戻れるような気がする。仕事のことにもまだ問題はつきまとうし、もっと先には一番辛いことが待ってる。もうこのまま二度と会えないのかもしれない。ずっと苦しいまんまかもしれない。だけど、今日ちょっと好きになれた自分を今は信じる。

今週の週末ちょっと遠出の仕事が終わったら、やっと一日お休みがあるらしい。やっとゆっくり出来るから「その日はいっぱい話しようか」って言った。「ほんとー? デートしないの?」「会わないよ」。もう気にならなかった頃には戻れない。でも、わたしを大切に思ってくれるあの人を今は信じる。

安心して寝られるから、明日も電話で起こしてって言う。そんなのが嬉しい。こんなとこからでも、あの人にしてあげられる小さなこと。明日の朝はトランスで起こしてあげようかな。今朝もうひとつ用意してた Deborah Cox のクラブミックスは「これなら起きる起きる」って言ってたから。Sasha かな。もっとアップビートなの?

さっき窓の下を見に行ったけど、今夜はほたるがいなかった。あれは妖精だったのかなあ、なんて本気で思ってみる。


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顔のない恋人 - 2001年07月15日(日)

昨日の朝、突然電話をくれた。
心配して。

今朝も電話してくれた。
ゆうべ「声聞きたいメール」送ったから。
朝電話くれたのに、夜にはもう声が聞きたかった。
聞いたら泣きそうになったけど、平気になれた。

明日の朝モーニングコールしてーって あの人が言う。

「あーもう、爆睡して起きれそうにない。」
「起こしたらちゃんとすぐ起きる?」
「平気だよ。寝覚めいいほうだから。」
「どこが〜。サイテーじゃん。」
「だからさあ、絶対起こして。」
「ちゃんと起きてよ。『あと10分〜』っての、もうなしだよ。」
「言うよ絶対、『あと10分〜』。でもたたき起こしてよ。」
「わかった。作戦考えとく。」
「どんなことしてもいいからさ。」
「エッチな声出したら起きる?」
「別のとこ起きる。」
「うんうん。それがいい。」
「真剣に起こしてくれよー。」


普通に会ってる恋人同士みたい。
寝覚めの癖も知っている。
でも寝顔なんか1回しか見たことない。

カレンダーをふと数えたら、
前に会った日から1年と21日経っていた。



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猫になる夜 - 2001年07月14日(土)

体が重くてだるいなあって思ってたら、始まった。あれ、そうなんだっけ? もうそんな日だった? 毎月そう。先月いつだったかなんて、覚えてる必要もなくなっちゃったから。そのためだけに覚えてる必要があるわけじゃないんだけど。

おなかが痛くて頭も痛くて、変な感じで眠くて、夕方からベッドで休んでた。目が覚めると暗くなってて、日本の午後1時過ぎだった。時計を見ると自動的に日本時間に変換される仕組みになってる、わたしの頭。それで時々どっちの時間だかわかんなくなったりもしてる。

午後1時。あの人はきっと今頃彼女と会ってる。お天気いいのかな。外でお昼ごはん食べてるのかな。彼女のところにいるのかな。きっとそうだろうな・・・。いいな。羨ましい。お昼ごはん、作ってあげたいよ。フレッシュのバジルの葉っぱとトマトがたっぷりの冷たいパスタ? オリーブオイルにガーリック効かせて。パスタはやっぱりエンジェルヘアだよね。冷したチリでもいいね。うーんと辛くして。夏らしくズッキーニをいっぱい入れるの。ラズベリーのティーバッグをカノーラオイルに漬け込んで作るドレッシングなんてのも出来るんだよ。ペパーミントティで作るのも涼しげでいいかもね。

パブリックマーケットの写真を見せたら「いいなあ、こういうとこ行きたい。一緒にここに買い物行って一緒にごはん作ろうよ」って言ってた。嬉しかった。わたしの大好きな場所だったから。生活感に溢れてて、活気があって。「こういうとこ、好き?」「うん、好きだよ」「へえ、あたしも大好き。でも日本から遊びに来る友だち連れてってもあんまり喜んでくれないんだよ」「なんでー? 僕は好きだよ。いいじゃん、こういう野菜の売り方とか」。ここにはあんなパブリックマーケットはないけど、スーパーでも野菜と果物がやっぱりあんなふうに色とりどりに山積みされてて、素敵なんだよ。

お料理が好きなあの人は、時々電話で聞く。「それ、どうやって作るの?」って。簡単でおいしいレシピがいっぱいある。一緒に作りたい。一緒に作りながら教えてあげたい。それを彼女に作ってあげてもいいよ。わたしには思い出をひとつくれたらいいから。楽しみにしてたことが出来ないままで、それをその人に取られてしまうのは淋しい。


朝買い物に行って帰ってきたら、いつもはドアの向こう側で鳴いて迎えてくれるチビたちが、ドアを開けたら今日は部屋の奥から飛び跳ねてやって来た。まるでふたりで相談して、いつもと違うことして喜ばせてくれたみたい。かわいい。

チビたちは何をやってもかわいい。キッチンのテーブルからお気に入りのちっちゃい灰皿落っことして割っちゃっても、本棚に飛び乗って遊んでバッサバッサ本を床に落としても、クローゼットに忍び込んで暴れて洋服を毛だらけにしちゃっても。落ち込んでると、ベタベタくっついて甘えて慰めてくれる。電話しながら泣いてると、ふたりでそばに来て「にゃあ」って鳴く。「今のどっち? 何て言ってるの?」って電話の向こうであの人はいつも聞く。

ベッドに入ると、妹チビはどこにいてもやって来て、わたしの腕のつけ根あたり乗っかって寝る。お兄ちゃんチビは自分のバスケットのベッドでひとりで寝てるけど、朝になるとにゃあにゃあ起こしに来る。「おなかすいたー」って。


猫になりたいな。猫になってあの人の肩のところに乗っかって眠りたい。重たいって言われても、しがみついて離れない。ぎゅーっと顔をくっつけて眠るの。一晩だけでいいよ。あの人んちの猫たちが嫉妬しちゃうから。そしてわたしはあの人の首筋に、そうっと一本ひっかき傷を残してくるの。痛くないようにしてあげる。


今日はお兄ちゃんチビも引っ張ってきて、3人で一緒に寝よう。



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オレンジの夜景 - 2001年07月13日(金)

「やっぱり会える人じゃなきゃだめ?」
ってあの人が言った。
「僕のこと、恨んでる?」
ってあの人が言った。
「僕のどこが好き? なんでそこまで想ってくれるの?」
ってあの人が聞いた。


きみがね、仕事のことで困ってて弁護士にまで会いに行ったりして大変なのに、昨日あんな時間に電話してもちゃんと励ましてくれて嬉しかった。メールでも励ましてくれて、ほんとに嬉しかった。きみのそういうとこが好きだよ。

きみが何も心配しないで働ける病院で仕事が見つかるまで、僕がずっとついててあげたい。だから出来るだけ時間作って電話してるんだけど、それでも足りない? 

無理に優しくしてなんかいないよ。僕はきみに優しくしたいだけ。ちゃんと安心して働ける仕事が見つかったって、変わらないよ。僕はずっとここにいるよ。ずっときみが大事だから。


会える人じゃなきゃだめなんじゃなくて、あなたじゃなきゃだめなの。あなたに会いたいの。こんなに好きなのに会えない気持ちなんか、あなたにはわからない。あなたはいつだって好きな人に会えるんだもの。恨んでなんかいない。何を恨むの? 恨まれるのが怖いの? どこが好きなんてひとことじゃ言えない。好きな理由をいっぱい見つけられるくらい、わたしは淋しいの。

あの人は大きなため息をひとつずつつきながら、わたしの言葉を聞いていた。


「月曜日に電話するね。」
「月曜日まで待てない。」
「困らせないで。メールするから。」
「今日はデートなの?」
「今日は会わない。」
「明日は会うの?」
「明日は会う。」
「ずっと?」
「ずっとって? ずっとじゃないよ。朝仕事があって、そのあとちょっと会って、夜はまた仕事だから。なんでそんなこと聞くの? 聞いたら辛くなるだろ?」
「聞いても聞かなくても辛くなる。」
「またそんなこと言う。」
「あなたが彼女といるとき電話する。」
「・・・するの?」
「うん。」
「・・・じゃあ、電話して。すればいいよ。」
「嫌いになっていいよ、こんなことばっかり言って。」
「嫌いになんかならないよ。」
「嫌いになったって、好きでいてくれたって、おんなじことだもん。」
「なんで今日はそんなに困らすの? 僕のこと困らせて嬉しい?」
「嬉しい。」
笑い出したあの人が言う。
「ねえ、僕の負けだよ。だからもう意地張らなくていいよ。泣かないで聞いてよ。好きだよ。」


わたしの負けだよ。いつだって、いつだって、いつだって。


今日は星がきれい。でもあの街の星はもっときれいだった。40分も車を走らせたら、街中を見下ろせる展望台のある山に登れた。星屑を集めたみたいなオレンジ色の街の灯りが下にどこまでも広がる。空を見上げたら、星が迫ってくるみたいだった。夏でも冬でも、「夜景見に行こうか」って夫がよく突然言い出した。白鳥座もオリオン座も、ものすごく大きかった。星に詳しい日本の友だちに話したら、そんなわけないよって笑われたけど、ほんとに星が大きかった。突然のドライブもオレンジの夜景も大きな星も幸せだった。

帰りたい。帰りたい。あの頃の幸せに戻りたい。オレンジの夜景に帰りたい。

教えて。どうやったら二人の人をいっぺんに愛せるの?


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自己嫌悪 - 2001年07月12日(木)

落ち込んだ。

あの人が
車に置いてた大事なものいろいろ
ちょっと離れてる間に
バッグごと盗まれちゃった。

「聞いて欲しかったー」
って夜中に電話してくれたのに
何も言えなかった。

自分のことみたいに
ショックだったんだよ。
それで言葉が出なかった。

何にもいえなくて
黙ってた。

やっと
「すごいショックで言葉が出ないよ」
って言ったら
「怪我したわけじゃないから、心配しないで。
 財布も携帯も身につけてたから大丈夫だったしさ」
なんて逆に励まされた。

「元気出して」
って言ったら
「あー、久しぶりにその言葉聞いたよ。
 嬉しー。きみに励ましてもらった。
 ずっと僕が励ましてばっかりだもんな」。

落ち込んだ理由はコレ。

わたしったら、
ずっと励まされてたの?

もしかして、
ただ励まされてた?




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会いたい理由があるとき - 2001年07月11日(水)

朝早く電話で起こされて、病院の人事部に雇用の手続きをしに行った。
何十ページもあるいろんな書類の束に記入事項を書き込んで、名前を書いてサインして。半分まで終わったところでもう読む気がしなくなった。そして、ほんとにいいのかなあ、ってまた不安になった。昨日弁護士さんに会って納得したはずだったのに。最後の何ページかは飛ばし読みして適当に記入したら、抜けてるところがいっぱいあって、結局ちゃんと読み直して記入し直し。その上待たされた待たされて、3時間以上かかった。健康診断の日時も決められて、ますます「ほんとにいいのかなあ」って思ってしまう。

うちに着いたらぐったりして、ベッドでうとうとしてると、また電話。別の問題が出てきたらしい。明日はガバメントのオフィスに行って、あることを申請しなくちゃならない。それは簡単に片づく問題ではあるんだけど。

普段は忘れてるのに、こういうことがあると「あーわたし、ここで生まれた人じゃないんだもんねー」ってつくづく思う。そういうことってずっと何かがある都度、感じなきゃいけない。10年住んでたって、ここで生まれた10歳の子どもほどもいろんなことを体得出来てない。

法的にではなくて、人種としてわたしはアメリカ人じゃない。当たり前だけど。でも日本人からも遠くなってる。紛れもなく日本人なのに。そう言えば夫がよく「自分が何人なのかわからなくなってしまう。どっちの国にも属してないんだって思うと中途半端で虚しくなる」って言ってた。「アイデンティティの喪失」。それで精神の病いを引き起こす人も少なくない。わたしはずっと平気だったけど。でもこの街に来てから、ひとりなってから、時々ものすごい孤独感とか疎外感に襲われたりする。感じさせられてるわけじゃなくて、自分で勝手に感じてる。自分で選んだことなのに。「ナニジンでもいいじゃん」って友だちは言う。うん。ナニジンでもいいんだ。そんなの普段は関係ない。ただ「どこにも属してない」って感覚がちょっとわかるようになったの。


こういうときには、一番そばにいて欲しい人にそばにいて欲しい。

今日はいつもより電話が遅いなあって思ってたら、「ぎりぎりになっちゃって今からもう出るとこなんだ」ってかかってきた。「弁護士さんと話して、どうなった?」って聞いてくれて、時間がないから結論だけ話した。ちゃんとゆっくり聞いて欲しかったけど。

わたしがいつも、ただ会いたくて会いたくて、会いたい会いたいって泣いてると思ってるでしょう? ちゃんと理由があって会いたい時だってあるんだよ。理由があって会いたいときは、会えないことが歯痒すぎる。胸が掻きむしられる。惨めにさえなる。どうしてどうしてわたしだけ、こういう時にさえ会えないの? 

あなたが仕事の帰りの電車から降りてくるのを、駅で待っていたい。わたしを見つけてちょっと驚いた顔して、それから微笑んでそばに来て、「どうしたの?」ってわたしの頭に手をおいてあの心配するときの顔見せて欲しい。

彼女はきっと、普段は忘れてるんだろうな。そして時々「ああ、わたしはこの人のものなんだ」って確認できることがあるの。わたしも忘れてるときがある、「わたしはあの人のものじゃないんだ」って。そしてそれを確認しなきゃいけないときがある。

We belong to you and me. ビージーズの「愛はきらめきの中に」で覚えた言葉。トラボルタが好きなあの人はサタデーナイトフィーバーが大のお気に入り。わたしもあの映画のあの歌のあの言葉が好きなんだって話したよね。初めて会ったときだった。よくわかんないって顔してたけど、今ならわかる? お互いがお互いのものだと思えて安心できる気持ち。

わたしは誰かにさえ属してない。

会いたいよ。


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弁護士さん - 2001年07月10日(火)

弁護士さんに会いに行った。
通りをワンブロック歩いたところで道を聞いたら、逆方向に向かってた。あわててバスに乗ったら、シティは相変わらずすごい車の量でなかなか進まない。結局30分も遅刻したのに、1時間しっかり話をしてくれた。

なんとか問題は解決しそう。なんだかいろいろ深刻に考えすぎてたみたい。いい弁護士さんだった。よかった。「先のことは心配しなくても大丈夫だよ。きみなら絶対上手く行く。採用された病院でとりあえず働いて、もし別のチャンスが見つかったらすぐに病院を変わったっていいんだから。自分が目指すものを常に最優先に考えること。常に次のステップを考えること」なんて、人生相談の答えみたいなことも言ってくれた。でも励まされた。

そう、先のことは考えないでいよう。今は今出来ることを頑張ろう。1ヶ月先のことさえわかんないのが普通なんだもの、この国では。いつも進行形でいれば、なんとかなる。

すごい強い味方を得たみたいな気分になった。「すごく気持ちが楽になりました」って帰るときに言ったら、「それが僕の仕事だから」って弁護士さんは笑った。Thatユs my job. お決まりの常套句。でもなんか嬉しかった。ちゃんとそれ以上のもの感じたから。弁護士さんの世界でも医療と同じように、クライアントへの精神的サポートって大事だよね、と思った。


シティを歩くといつも思う。あの人と歩きたいなって。初めて来たときにも思った。あの人はこの街に、すぐに溶け込んじゃう気がする。シティには、わたしがいつか絶対行きたい、思い入れの強いお店がある。いつでもすぐに行けるけど、行かずにいる。あの人にも、絶対行きたい場所がある。いつか来てくれたときに、一緒にそのふたつのところに行くの。それまでわたしは行かずに待ってる。

「行かずにとっとくからね。」
「ほんと? じゃあ一緒に行くまで待ってて。」
「うん。前に立って感動して泣いちゃうところ、写真に撮ってあげるよ。」

そんなこと言ってたの、覚えてるかな。まだずーっと待ってるんだよ。いつ実現するのかな。実現するのかな。会えるのかな。会えるのかな。・・・会えるのかな。

「先のことは考えないでいよう」は、あの人のことには適用しない。


帰りの電車の中で、Public Announcement のCDを聴きながら、国家試験の勉強をする。同時にあの人のことも考えてる。器用になった、わたしの頭。どんなときにもあの人のことは頭から離れない。


うちに帰ると、母に頼んでた甲斐バンドのCDが届いてた。懐かしい甲斐さんの声。あの頃、このハスキーな声とちょっと乱暴な言葉にしびれてた。独特のフレーズを曲の中に見つけて、昔と同じようにぞくっとする。懐かしさにきゅんとなる。ちょっと声が甘くなったね。それでもっと好きになった。あの人にも聴いて欲しいな。

どこまでもあの人のことばかり。どうしようもないね。

でも昨日までとはちょっとだけ違うわたしがいる。弁護士さんのおかげ。もっと早くに会っとけばよかった。「弁護士なんて」って思ってたわたし。専門家だからこそ友だちよりも精神的に助けられることもあるんだ。



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矛盾だらけ - 2001年07月09日(月)

あれからずっと、夫のことが気がかりでしかたがなかった。
夫のことっていうより、バレたんじゃないかってことだけど。

「心配だから電話をください。話したくなかったらいいけど、何かあったのなら教えてください」。
昨日こわごわメールを送ったら、今日電話がかかってきた。様子がおかしかったのは、日記を見つけたせいじゃなかった。それはほっとしたけど、彼の身の回りでちょっとしたことが起こってた。確信が出来るまで話せなかったと言っていた。

それは、まるでサイコなサスペンス映画のような話だった。犯罪ぎりぎりのところで他人の精神をコントロールする男。いわゆるマインドコントロールを、個人的なことに、特に異性関係に悪用して、それによって他人の生活や家庭を崩壊することに快感を覚えて、快感のためにそれを繰り返し続ける。夫は直接巻き込まれたわけではないけど、その当人がごく身近な人で、様子がおかしいと気づき始めたところで人づてにある事実が発覚したという話。間接的には夫は仕事にも私生活にも相当のダメージを受けていた。とにかく止めさせなければいけない、そのためにはその人がそういうことをするに至った原因や動機や経過や、それに関連のある行動や、そういったものを突き止めてきちんと分析しなければならない。身近な人だけに、それ自体よりも、事実をひとつずつ受け止めなければならないことに、傷ついて苦しんでた。

その人はわたしの身近な人でもあった。恐ろしかった。鳥肌が立った。背筋がぞおっとした。そして、夫のために胸が痛んだ。夫の苦悩が胸の奥まで伝わった。そばについていてあげたいと思った。

愛情なんだろうか、と思った。またふたりであの街に帰って、嫌なことはみんな忘れて一緒に暮らすのがいいかもしれないと、ふと思った。あの街でなら出来るかもしれない。あの人を愛したままで、夫を大事にも思えるかもしれない。姿のなくなったあの娘を、あの頃のようにふたりで愛し続けるのがいいかもしれない。って。

混乱していた。怖くて、「好きな人でも出来たのかと思ってた」なんてジョークっぽいことを言ってから、やぶへびだったかなと自分がビクッとした。夫は笑わなかった。「そんなどころじゃないよ」って言った。でも、その件については真相はわからない。

そして、そんなふうに探り合いをする関係は、やっぱりもう嫌だとも思った。
感情と理性がごちゃごちゃになって、考えてることが矛盾だらけで、わけがわからなくなった。



最近、彼女のことを聞いてしまうことが増えた。あの人は隠したり嘘ついたりしない。正直に答えられると嬉しいけど、辛い。だったら聞かなきゃいいのに、聞いては落ち込んでる。そんな女なんて鬱陶しいはずなのに、そんなわたしを「こまったちゃん」って呼んで優しくたしなめて、なだめてくれる。今日もたしなめたあとで「こまったちゃんでも好きだよ」って言った。昨日夜中に突然「あなたと彼女のことばっかり考えちゃうよ。『考えるな』って言われても無くならない」なんてメールを送ったから。そして、「きみが最近こまったちゃんだから、僕は昨日決めたよ。今週は『きみに思いっきり優しくする週間』にする」って。

わたしの天使はやっぱり素敵だ。    

罪のないことは時には残酷だけど、ありのままを見せてくれて、ありのままでいられるから、たとえ苦しくても救われる。ちゃんと言葉でも救ってくれる。探り合いなんかしなくていい。

やっぱりわたしは天使を放せない。あの娘が迎えにきたって、帰せない。

そして、ものすごく矛盾してるけど、それにそれはわたしにとって紛れもなく苦しいことのはずなのに、それでもあの人の大切な彼女にしあわせでいて欲しいと思う。それでいて、わたしには決してもらえないしあわせが、その人のものになると思うと胸が締めつけられる。

あの人の結婚と、わたしと夫が元に戻る日と、どっちが先なんだろうなんて思ってみたりもする。

ほんとに、矛盾だらけ。




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白い糸 - 2001年07月08日(日)

わたしとあの人の小指は
白い糸で繋がれてる。
そんな気がする。

赤い糸の赤にどんな意味があるのか知らないけど、
赤い糸じゃないのは確か。

わたしの小指の白い糸が
長く長く長く長く
海を渡って空を架けて時間も越えて
あの人の小指に繋がってる。

透明だと見えなくて淋しすぎる。
白なら空の色にも海の色にも染まって
どんな色にも紛れてくれる。

いつか遠い遠い未来に
白い糸が赤に変わるの。
生まれ変わるんじゃないんだよ。
このままのあなたとわたしが
白い糸に繋がれたままでいて
それがいつか赤い糸に変わるの。
ずっとずっと遠い未来に。

だから
白い糸が赤いほうの糸に
絡まってしまわないように
気をつけていて。
もつれてほどけなくなったら
あなたは白い糸を切らなくちゃいけなくなる。

あなたの強さで守っていて。
白い糸は赤い糸ほど丈夫じゃないから。
あなたの優しさで支えていて。
バカなわたしが自分ではさみを入れたくならないように。

「またきみの空想癖が始まった」って
あなたはきっと笑うね。


昨日あの人が言った。
「ずっと好きでいて」。

「ずっと好きだよ」より、ずっと胸に染みた。
七夕の夜の、思いがけない贈り物。


白い糸、一緒に信じて。


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このままずっと - 2001年07月07日(土)

素敵なメールもらっちゃった。昨日の日記読んで、幸せな気分になったって。「このままずっと彼と2人しあわせでいてほしいなぁ」って。嬉しかった。とっても。


結局、「夜、帰って来たらまたかけてもいい?」って言ってた電話は待ちぼうけになった。そして今朝、仕事に行く前にかけてくれた。メールに書いてた約束の時間だったから。「寝過ごしたー」って言いながら、ものすごく疲れてるふうだった。朝の4時まで仕事してたらしい。それなのに、「電話くれなかったじゃん」って文句言うわたし。

「だって、期待しないでって言ったじゃん。」
「そんなこと言ったって、待っちゃうよー。」
「待っちゃったのか、バカ。」
「ひどいー。もうメッセンジャーの彼に会いに行くよ。」
「ダメ。」

あんなに心配してた昨日のあの人は、もうどっかに行っちゃってる。
わたしはまた、いつものわがままになって、彼女のことを気にしてる。

「ほんとは彼女と会ってたんでしょー」。とんでもないこと言っちゃった。だって早く終わるって言ってたのに。「なんでだよ、ちがうよ」ってちょっと怒ったような声。そう、会ってたら「会ってた」ってあの人は言う。でも、寝過ごして遅刻しそうなのにわたしが泣いたら電話を切れなくなるから、嘘ついてるんじゃないの、なんていじけたこと考えてしまった。

それでもちゃんと、わたしの機嫌を直してくれる。全然予想もつかない方法で。
「眠たいよー。行きたくないー。頑張れるようなこと、言って。」
「どんなこと言って欲しい?」
全然気の利いたことが言えないわたし。
「チュー」
「え?」
「チュー」
「え?」
「チュー」
「・・・『チューして』?」
「うん。」
ほんとに気の利かないわたし。
「してあげるよ。」
がんばれがんばれって言いながらキスの連打をあげたら、わたしがしあわせな気分になれた。


このままずっとあの人と2人しあわせでいたいなぁ。でもだめなんだ。


今日は土曜日。そして、七夕。あなたが彼女と過ごす夜。

おりひめ星とひこ星は、一年に一度会えるからいいな。


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心配 - 2001年07月06日(金)

明け方の4時半ごろに電話が鳴った。
「もしもし」。なんだかちょっと深刻そうな声だった。
「どうしたの?」。約束の日じゃないのに。それにこんな時間。
「今日早く仕事終わったから。これからもう一つの方に行くんだけど、ちょっと時間あるからかけた。」
「びっくりしたー。」
「心配した。ずっと心配してた。」
「・・・。メールしなかったから?」
「そう。もう電話取ってくれなかったらどうしようと思って、待てなかった。ごめん、こんな時間にかけて。」
「ほんと? 心配したの?」。だってメールにちっともそんなそぶり見せてなかったじゃない。
「したよー、めちゃくちゃ。知らないだろ、僕がきみのこといつもどんなに心配してるか。」
「メール見たの?」
「ううん。送ってくれたの?」
「うん。さっき」。それでかけてきたのかと思った。

心配させようとしたくせに、心配させちゃって悪かったって思ってしまった。
それで、胸になんか甘酸っぱいものが広がった。でも「成功」なんてもちょっと思った。

「ごめんね。意地悪したの。心配させてやろうって思って。」
「・・・。ずっと胸がキリキリ痛かったよ。もう心配させないでよ。ね。」

安心したのか、声が変わって、いつものおしゃべりを始めた。
つられてそれに応えてた。

A.I. 観たよ。 うそー。観たいって言ってたから一緒の日に観ようと思って待ってたのにぃ。 えー観ちゃったよー。じゃあさ、クロコダイル・ダンディ、一緒に観ようよ。なんかああいう楽しいだけのヤツ観たくなった。 もう終わっちゃったよ、こっち。 そーか。そうだろうな。今こっちでやってるもん。ソードフィッシュももうやってる?  やってるよ。 いいなあ。観たい。 日本はいつやるの?  秋なんだよ、それが。 なーんだ。じゃあ先観ちゃお。 ムカつくー。言わないでよ、ストーリー。 教えてあげるよ、全部。あとさあ、ジュリア・ロバーツの新しいの今月やるんだよ。嬉しー。  なんていうの?  なんだっけ? アメリカンなんとか。忘れた。

A.I. は同時公開だったから、せっかく「一緒に」観られると思ったのにな。ジュリア・ロバーツは「America's Sweethearts」だった。邦題、別のになるのかな。

いっぱいおしゃべりしたのに、朝仕事に行く前にまたかけてくれた。少しだけ話して、「夜、帰って来たらまたかけてもいい?」って言った。言ったあとで「めちゃくちゃ疲れてたら、かけないかもしれないけど」なんて言う。「だめだよ。期待して待っちゃうじゃん」「期待しないで待ってて」。だめだって。期待して待っちゃうんだから。
切る前に「メールちょうだい」って甘えた声で言ってた。

だからたくさんメールした。心配させたお詫びに昨日撮った写真も送った。「ごめんね」のEカードも入れて、全部で5通も送った。メールしなかった2日の穴埋め。すっかり元のわたしにもどってる。でもまたちょっとだけ意地悪した。
「帰って来たら電話してね。してくれなかったら、メッセンジャーの彼に会いに行く!」
「心配させようとわたしに思わせたお詫びに、愛情いっぱいのメールちょうだい。くれなかったら、メッセンジャーの彼に会いに行く!」

当分使えそう。また心配する? そんなことないよね。

だけど、何を心配したのか、聞くの忘れちゃったじゃない。
・・・何をそんなに心配したの?


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お天気 - 2001年07月05日(木)

3日前までの雨と雷がうそみたいに、昨日とおとといは最高のお天気だった。空はカラカラに晴れ上がって、湿気が全然なくて、風がひんやり涼しくて、陽はかんかんに照りつけるのに暑さが心地いい。ここにもこんな日があるんだ、って驚いたほど。

それなのに、今日はまた夕方からお天気が崩れた。

昼間、シティのお祭り騒ぎに便乗しに行ったけど、人が多すぎて、見たかったイベントはあきらめた。少し離れたところの芝生の一角に座って、地下鉄の駅に降りる手前のコーナーストアで作ってもらったサンドイッチと、チップスとお水とワインを広げて、ピクニックした。

隣りでピクニックしてた家族の小さなぼうやが、パパに差し出してもらったすいかに一生懸命かぶりついてるのがかわいかった。がんがん響く音楽と観客の奇声を離れたところから聴きながら、他愛ないおしゃべりを延々続けて、笑いころげた。

それだけでくたびれちゃって、予定してた夕方からのスウィングダンスもやめにして、一本はずれた人通りの少ない通りのカフェテリアでコーヒーを飲んだ。

なんだかすごくのんびりできた。特別なこと何もしてないのに、気持ちが満足した。

「カフェイン、全然効かないね」っていいながら、どんより曇り始めた空から逃げるみたいに、地下鉄の駅にもぐりこんだ。

夜になって、クリスのスタジオのあるビルの屋上にのぼって花火を見た。花火は半分雲に隠れてちゃんと見られなかったけど、シティの夜景と、集まったボートの灯と、それが水面に映ってゆらゆら揺れているのを見ながら、またバカみたいなおしゃべりするのが楽しかった。花火が終わると、何十隻ものボートが並んで同じ方向に帰っていくのが素敵だった。

真夜中なのに帰りの高速は渋滞で、あっちこっちでポリスカーの明かりが点滅してた。降り出した雨が強くなって、ウィンドシールドに打ちつける雨の速さにワイパーが追いつけないでいるのを見ながら、会いたい会いたい会いたいって思った。愛してる愛してる愛してるってつぶやいてた。胸が痛かった。

お天気って気持ちの浮き沈みに影響するんだなんて、わかりきったようなことをわざわざ考えてた。


昨日も今朝もメールが来てた。いつもの、伝言板に書き込むメモみたいなメッセージ。今朝のメールには、次の電話の日と時間が書いてあった。今日もまだ意地張っていようかなって思ってたけど、「いい?」って聞いているのに返事を出さずにいたら、よけいな心配する。あの人の心配は時々とんでもない方向に行ってしまうから。それでもまだちょっと強がっていたくて、真似して伝言板のメモみたいな返事を送った。

前に住んでたところの友だちからメールが来てた。
「暑くて気持ちいいよー」って書いてた。
あの街の夏は、毎日がそう。今年もあの街のあの夏を過ごせないんだ。





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7月4日 - 2001年07月04日(水)

採用通知の電話が来た。
すごく気持ちがマッチした病院だったから、嬉しかった。でも面接時にちょっと曖昧にしておいたことを弁護士さんに電話して確かめたら、予想通りのことが判明してしまった。木曜日に病院に電話して話さなきゃ。・・・どうなるのかなあ。


明日は7月4日。
すっかり忘れてた。いくらなんでも、この日にひとりでいるなんて、自殺行為に近い。友だちに電話をかけまくった。家族と住んでる友だちはみんな留守。おばあちゃんちに行ったりしてるのかな。こういう時ってこっちの人は家族が第一だから。結局レベッカとクリスに仲間に入れてもらうことにした。一ヶ月ぶりに会う。久しぶりにいっぱい話して、嬉しかった。「あれから誰とも会ってないんだよ」って言ったら、「大丈夫、大丈夫。遅れ取ってないって。明日思いっきり遊ぼ」って言ってくれた。


タワーレコードに行った。Duran Duran の Rio のリマスターのエンハンスト限定版が今日出たから。タワーレコードにはビルボードの国別のチャートが貼ってあって、それの更新を見るのをいつも楽しみにしてる。しばらくなかったのに、今日新しいのが貼ってあった。日本が一番トップに載っている。知らないアーティストばっかりだけど、絶対見る。一生懸命見てたのに、もうランキング上位の人の名前も覚えてない。

確か先月は Bユz っていうのがシングルのトップになってて、ああ、去年日本から帰るとき飛行機の中で聴いたっけ、って思った。切なくて、すごく素敵な曲だった。曲名を覚えてないけど、あの時の気持ちが歌詞とシンクロしちゃって泣きそうだった。なんて曲なのかな。知りたい。

知らない名前の中にユーミンと小田和正を見つけた。インターンしてる時、仕事中に突然「きみなき世界」が頭の中で鳴り出して、ぐるぐる回り続けて困った。あの歌も切ない。今だったら泣いちゃうかな。あの頃は時々の電話も楽しかった。Looking Back 2 が出たんだ。欲しいなあ。「日本にいたとき、誰が好きだった?」って聞かれて「オフコース」って答えたっけ。古くてびっくりしただろうな。

結局タワーレコードには Rio はなくて、HMV に行った。「おすすめ」のところにあった Earth Wind & Fire が懐かしくって買ってしまった。あの人は知らないだろうな。80ユS 好きだから知ってるかな。今度話せるのいつだろう。セールのところにあったナタリー・コールも買ってしまった。Mr. Melody が入ってたから。大好きな曲。甘くて優しいヴォーカルは気持ちが落ち着く。そして古くて懐かしい曲はいつも心が和む。なんだか安心する。Rio は一枚だけあった。早く報告したいな。


帰ったら留守電にディアドレからメッセージが入ってた。
「元気〜? アンタお母さんちに電話したでしょー? アパートにかけてよ。今日は今から飲みに行って明日は家族とディナーだけど、あとはいつでもいいから電話して。いつでも何時でもいいから、かけて。会いたいよー。話したいよー。今週絶対会お! きっとだよ。Miss ya !!」
なんて、大きな声でがんがん入ってた。嬉しかった。
もっと前に電話して、元気もらえばよかったよ。


今日は元気になった。
the Fourth of July の、ひとりの前夜祭かな。






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ほんとのわたし - 2001年07月03日(火)

ずっと強がって生きてた。
弱音吐いちゃだめ、愚痴こぼしちゃだめ。
人頼っちゃだめ、諦めちゃだめ、投げ出しちゃだめ、って。
プライド高くって、弱み見せたくなくて、意地張って、
淋しいときに淋しいって言えないで、幸せじゃなくても幸せなふりして。
気が強いから悔しくても笑ってて、トイレで隠れて泣いたりして。

だから、自分を誤魔化すために、走り回って、飛び回って、
できるだけ自分を忙しく忙しくして、やらなくていいことまで頑張って。
1日が48時間だったらいいのに、っていつも思ってた。

なんであんなに頑張らなくちゃ、頑張らなくちゃ、って息巻いてたのかなあ。
そんなだから、充実感はあったけど、しょっちゅう空しさも感じてた。
無理して無理して無理しすぎて、ほんとのわたしを見失ってた。


今は1日が72時間あるみたいな毎日。
空が暗くなるのを見ながら、「あー、やっと一日が終わる。なんにもしなかったなあ、今日も」って思って、「目がさめたら明日なんだー。いいのかなあ、こんなで」って思いながらベッドに入る。朝起きたら「また長あい一日が始まるんだあ」って思う。
そして、考えることといったら、あの人のことばかり。
考えてもしょうがないこと考えて、毎日毎日気持ちが動いて、どこにもとどまらない。
嫌になる。ほんとにバカだと思う。これはこれで、もっと空しくなっちゃう。
こんな自分はもっと嫌い。こういうのも、ほんとのわたしじゃない、と思う。


こんな自分が嫌いだから、強がりでいる方が自分らしいのかな、なんて思った。
あの人が、強がらなくていいこと、意地張らなくていいこと、教えてくれて、
きっと力が抜けすぎちゃったんだって思った。
わたしは強がっていなくちゃ、しっかり生きられないんじゃないかな、って思った。

それで昨日、電話であんなこと言っちゃったんだ。
ほかの人好きになりそうとか、
あの人がわたしのこと忘れても仕方がないようなこととか、
あの人にとってわたしの存在なんか意味がなくなるっていうようなこととか、
わたしがあの人から離れていこうと思ってるみたいなこととか。
例のメッセンジャーの彼が優しくて、会いたくなったのは本当だけど。


今朝、メッセンジャーの彼にも言われた。
「自分に正直でいなくちゃだめ」って。
「好きな気持ちに正直でいればいいんだよ」って。

そう、自分に素直に、正直になることを教えてくれたのはあの人だった。
あの人はいつも自分に正直で、昨日もそのままの気持ち言ってくれてた。

昨日のわたしは無理してた。だからずっと後味悪かった。

かけひきなんか、出来ない。かしこくなんてなれないよ。
あの人は無邪気で純粋で罪のない天使だから。
あの人の前ではほんとのわたしでいたい。
ぐじゃぐじゃでみっともなくてもいい。


でももう少しだけ、強がってていい? 明日もメールしないよ。
少しくらいの強がりは、ほんとのわたしだから。
きっといつものように見抜いてくれるから、大丈夫だよね。


国家試験の受験通知がとうとう来てしまった。
明日から、本気で頑張ろう。
ちゃんと1日24時間で生活しよう。
あの人ほどじゃないけど、頑張りやのわたしもほんとのわたしだもの。


自分を好きにならなくちゃ。自分に正直になるってそういうことなんだ。
好きな自分が「ほんとのわたし」なんだ。



・・・って、今日は、そう思った。


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よけいなこと - 2001年07月02日(月)

ーわたし今ある人とメッセンジャーしてます。
 どうしよ、どうしよ。
 その人に会いたくなってる。
 日本に会いに行きたくなってる。
 そんな話で盛り上がっちゃってる。
 どうしよ、どうしよ。
 でも会ってデートしたいって思ってる。
 日本に行ったら、ずっと一緒にいてくれるって言ってくれてる。
 その人と会ったら、あなたのこと苦しくなくなるかもって思ってる。
 すごく優しくて、わたしのこと好きになりそうって言ってくれてる。
 その人ならわたしのことだけ好きでいてくれる。
 そしたら離れてても今みたいに苦しくないって思ってる。
 わたしに好きな人が出来ればいい?
 ほんとにそう思ってる?
 どうしよ。
 その人に会いに行っちゃいたい。
 好きになれるかもしれない。
 そしたら安心する?

今度は作り話じゃない。その人がすごく優しくて、知らないところでみんな忘れてその人と夢みたいに過ごせたら、ってそんなことにすがりつきたくなった。あの人は今朝電話してきた。メールを読んですぐに。
「男が出来て欲しいなんて思ってない。だんなのことは、初めからいたんだから、それでも嫌だけどしょうがないかなって思う。でも新しい男なんか出来て欲しくないよ。淋しいよ。・・・勝手すぎる?」

心配させようとか、妬かせようとか、思ったわけじゃない。気持ちが揺れたのは確か。走り出しそうな気持ちを止めて欲しかった。結果的には同じこと? 

「・・・どういう人?」
たまたま辿り着いたHPの日記がすごく面白くて、時々見に行って元気づけられてて、「面白いー」ってメール送ったら返事が来て、それからもたまーにメール交換するようになって、「誰にもいえないこと、聞いてくれる?」って別れたけど忘れられない彼女の話とか聞くようになって、時々メッセンジャーするようになって。・・・あなたが彼女のところに泊まるって言った日、その人一晩中メッセンジャーつき合ってくれたの。

「最近知り合ったってわけじゃないんだ。」
「うん。」
「めちゃくちゃ淋しいよ。『わたし、捨てられたのー?』って感じ。僕のこと好きじゃなくなった? 嫌いになる?」
「そんなわけないじゃん。好きだよ。でもね、あたし焦るの。あなたが結婚するとき、誰かにいてもらわなくちゃひとりでなんかいられないから。そのあとも絶対ひとりでいられないよ。だから・・・。」
言わないって決めてたこと、言っちゃった。
「嬉しい。」
「嬉しいの?」
「嬉しいよ。そんなに想ってくれてて。」
「いつもこういうとき嬉しいって言うんだ。あたしは苦しいのに。」
「わかってるよ、苦しいの。勝手だってわかってるよ。だけどきみにずっといて欲しい。」
「あなたが結婚したら、もうあんまり電話も出来ないし、曲も聴かせてもらえないし、あなたがどんな仕事してるのかもわかんなくなっちゃうし、行き詰まってても話聞いてあげられなくなるし、今みたいに応援してあげられない。そしたらあたしがいることに何の意味がある?」
「何かしてもらえるからきみにいて欲しいんじゃないよ。大事だから。大事な人がいてくれてるってだけで支えになってるから。」
「彼女が好きでしょう? 彼女が大事でしょう? 彼女がそばで支えてくれるでしょう?」
「・・・。・・・う〜ん。」
「あたしね、あなたは奥さんを大事にする人だってわかるの。ずっと大切にする人だって。結婚したら大事にしなくなっちゃう人多いけど、あなたはそうじゃない。」
「そうかな・・・。なんで?」
「なんでって? なんでそう思うかってこと?」
「うん。」
「わかるんだもん。あなたがそういう人だから好きなの。あなたが結婚しちゃうのは悲しいけど、大切にしてあげて欲しいって思うのも本当なの。」
「・・・。そっか・・・。」

よけいなこと言った。言いたくなかったことまで言っちゃった。なんでこんな話になったの? バカだ。大バカ。「そっか」って何? どういうこと? 

「今週はまた忙しくて毎日電話出来ないから、電話できる日メールする。電話、・・・出てくれるよね?」

それまでわたしからメールしない。心配してた「悪いこと」、自分で起こしかけてるかもしれない。



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駅 - 2001年07月01日(日)

駅まで続く道。
人気の少ない路地が大通りに差し掛かる手前で、あなたは歩きながらわたしの頭を自分の肩にほんの一瞬抱き寄せた。大通りは陽差しがきつくて、まぶしさにあなたの反対側に顔をそらせたら見覚えのあるお店が並んでた。相変わらず早足のあなたを追いかけながら、その歩き方のくせをきっと忘れないんだろうなと思ってた。
「あついね」って言ったら「あついね」ってあなたが言った。
「もう少しゆっくり歩いて」って言おうとして、やめた。


あなたは強くて優しくて大人だった。あれからずっと考えてたことを話してくれた。
うん、うん、ってただ頷きながら聞いていた。コーヒーカップがゆらゆら揺れ始めてぼわーんと輪郭が滲んできたと思ったら、それがまたくっきり浮かび上がった次の瞬間、ぼたっと涙か落ちた。それ以上涙がこぼれないように、拳を作って親指の爪で両方の目頭をぎゅっと押さえていた。
それから、
「ずっと友だちでいてくれるでしょう?」
ってあなたが言った。
「こんなことで、僕の気持ちは変わらない。こんなことで、終わりになんかしたくない」。
なのに襲ったのは喪失感だった。胸にぽっかり穴があいたみたいなのに、涙でおなかがいっぱいになった。

「ほかの話しよか?」
あなたがそう言うから、わたしは頑張って微笑んだ。


「あなたの顔、あんまり見られなかった」。駅に着く間際にそう言った。「僕は見たよ。きみの顔、いっぱい」。悲しかったけど嬉しかった。ずっとあの微笑み見せて話してくれるから、わたしはもう頑張らずに笑って応えられた。

突然微笑みが消えて、あなたの顔の表情が止まった。どうしたのかな、とふと視線を落としたら、胸のところであなたが「バイバイ」の手をしてた。手は振られずに止まってた。

どきんとして顔を上げた。あなたはわたしの目をじっとじっと見つめてた。
「行けない」。笑うつもりが、泣きそうになった。
「だーめ」。


「ねえねえ、これ見て。ほら、かわいいよ」
「だーめ」。
先にベッドで待ってたわたしが、見てた猫の雑誌を差し出したら、あなたはそう言ってわたしから雑誌を取り上げた。そしてわたしのバスローブのひもをほどいた。こんな日が突然来るとは思ってなかったあの日の、あの時とおんなじ顔だった。だけど今度は続きはなかった。


ふたりを永遠に引き離すみたいな改札口を、ひとりで通り抜けた。プラットフォームに続く階段を上りながら何度も振り返った。何度振り返ってもあなたはそこにいて、わたしを見ていてくれた。同じ表情のまま、ずっと見ていてくれた。振り返る度に手を少しだけ振ってくれた。わたしは手を振れなかった。かわりに少し微笑んで見せたけど、あなたは一度も微笑まなかった。

サイレント映画のワンシーンを見てるみたいだった。まわりに何も音が聞こえなかった。ロングにのびてく映像。だんだん小さくなるあなた。慌ただしく動く人込みの中で、あなただけが動かなかった。

「もう振り向いちゃだめ」。自分に言い聞かせて歩調を速めて、階段を上り切った。


一番悲しいシーン。最後のシーン。一番最後のあなたの顔。ゆうべまた思い出したら、涙が止まらなくなった。ベッドの中で枕を顔に押し当てて、声を上げて泣いた。
一晩中泣いた。あの日の夜と一緒だった。一年も経ったのに、なんで悲しみは少しも薄れないんだろう。

終わったわけじゃないのに。
終わったわけじゃないのに。

終わったわけじゃないけど、行き着くところもないから?
終わったわけじゃないから、思い出が思い出になり切れないでいる。






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