約1ヶ月、ロクに仕事をしないで毎日を過ごしている。といっても無職ではない。ちゃんと会社員として毎日出社している。出社しているが、本来の作業がないのだ。おかげでかねてからの趣味の一つである読書がはかどること! 読むジャンルに制限を決めてはいないが、つい購入する本は、気に入った作家という基準なものだから自ずとジャンルが狭まってくる。狭めるつもりはないが、自分で金出して買うのだから、気にいらん作家のつまらん文章は買いたくない。すると購入する本が広がらない。読むジャンルに制限をしていないのに、自分で制限を狭めているこの矛盾。キュキュッっとライトなチョークスリーパー状態。 そこで頼りにするのは、他人の好み。自分では買う気はないけどちょっと読んでみたい。そんな本を貸し借りできる知人が居たら、しかもお仕事関係者で居たら昼日中から、社内が“便利な街の図書館”状態だ。 そんな“社内図書館”から借りだした本の中で、自分の趣味では読んだことのない一冊を手に取った。
「男と女のゼニ学」青木雄二 著 この著者は漫画家で、「ナニワ金融道」の作者といった方が、ピンと来るかもしれない。 手にしたキッカケも「ああ、あの漫画を書いている人の本か。アレは時々読んでいて面白いから、じゃあこの本も読んでみよう」ってなぐあい。で、実際には……。 やや、面白いわ!男と女という最小単位の社会の中での金の使い方、使われ方の事件と、そこから考えられる著者の思う男性論・女性論。金に関わったときの心理状態も論じられている。 本文で取り上げられている事件を読むと「こんな馬鹿な話で人が引っかかって詐欺に会う人がいるとは…!」と驚きっぱなし。驚きを通り越して、大笑い。 だが、その驚きと大笑いのアホらしい事件に、自分が落ちてしまう事はないとはいえない。社会の一人だから。 万が一そんな事件の中心になったとしても、ギリギリ3カウント前には切り抜けるくらい冴えたセンスを持ちたいね。巻き込まれっぱなしで、金と心中なんてせっかく読書で得た知識もワタクシも無駄になる。それは社会的損失が大きいよ。いや、そういう人になればアホな事件が避けて通るわ。
同業者だからこそ通じる呼吸、というか手を抜ける作業というのがある。本来は作業工程上省いてはいけないのだが、往々にしてあるのが、小さな会社ならでは。
ワタクシの勤め先は、印刷会社である。当然、印刷物にはいちいち指示書が付く。「この紙を使ってこの刷り色にして、必要な数はこれだけ、納期はいつまで」そんな内容だ。 だが、小物……納品数の少ない物や名刺、ハガキ、封筒等ほぼ消耗品といえそうな物には簡単なメモ書きが付箋で付いているだけという事がある。例えば、見本品に「増刷なのでこれと全く同じ物を200」と走り書き。もっと酷いときには口頭のみの場合もある。
そんな細かいことは実は日々起きているんだが、本日の出来事にはさすがに感心するやら、呆れるやら笑ってしまった。
封筒の印刷が持ち込まれた。 版下に、使用する封筒も用意され、納期は手が空いたときにチャッっと入れてくれというアバウトさ。(実はそういうアバウトな納期指定が多かったりする)で、肝心な刷り色。 「墨(黒色)でいいんですか?」 「いや、紺っていうか、青?あの、煙草のピースのパッケージ知ってる?ああいう青」 「はあ、ピースの青ですか。はい分かりました」 「じゃ、よろしく」 お客様は、今度は大きい仕事持ってくるからね、と帰っていった。
封筒の印刷を受注したワタクシ、印刷オペレーターに直接持って行く。 「まあ、今週中に刷り上がってりゃOKですよ。刷り色は煙草のピースの箱の青、あんな感じで」 「ふーん。ピースの青ね、分かった」
これで通じちゃう印刷会社。こんな具合に進行していく印刷会社。楽だけど……社会人としてこんな進行でいいのだろうか?笑いの裏にうすら寒いワタクシを発見。
梅の気配すらなかった今年遅めの新年会にて。誰からともなく春の企画が持ち込まれた。 「今年のお花見は京都で…!」
普段、こういった企画物の立ち上がりが遅いのだが、期間限定の旅行目的の為に、いつになく迅速に行動をしたのが仇になったようで、まさかこんなに早く桜が咲くとは……!オマケに週末天気予報も悪く、肌寒い雨の中の花見となる。(実際は土曜日と日曜日の昼頃までが雨だったが) それでも、せっかく手配した二泊三日の京都旅行。麗らかなソメイヨシノは散ってしまったが、艶やかな紅しだれ、清廉な白雲のような御室桜は丁度見頃。気を取り直して、出掛けてきた。
ところが出発前からハプニングが。同行の友人一人が急遽キャンセルの連絡。別の者は復路の時間を少し早めたいとの事情。慌てて新幹線やらホテルやら変更の手配。 いつになくトントン拍子に話が進んでいったと思ったら、必ずどたばたが起こる。皆、仲が良いやら悪いやら。だが、この微妙なズレ具合が付き合いの面白いところでもある。 これ以上のハプニングが起こらないよう、全てを滞り無く終えるためにワタクシがしたことは、旅行の企画・手配の段階で何もしなかったことだ。つまり、手配の変更等ワタクシはいっさいしていない。(他に、「今日はここに行きたーい」とか「どうしてもこれが食べたい!」と発言しないこと。)
さて、出発前にこれだけの出来事が起きれば、禍福は糾える縄の如し、あとは良いことが続くはず。と思ったのが甘かった。最大の事件は出発当日、新幹線の発車十五分前に起きた。 発車三十分前に東京駅で今回の幹事と待ち合わせし、一緒に新幹線へ乗り込むこととなっていた。が、待ち合わせを五分過ぎても、十分過ぎても奴は来ない。さすがに心配になり電話を掛けた。幹事役の皐月ちゃん。こやつは遅刻癖が有るから不安だなあ。駅に着いているけど迷子になっている、ていうのならまだ良いんだけど……。 「ごめ〜ん、今まだバスの中。もうすぐ着くよ。何だかすっごいバスが遅れちゃって。それからふるふるさんが遅れるって。朝に連絡があった」絶句……時間厳守の時にバスを使うな!おまけに、ふるふるさんが出発時間に間に合わないとは!?どうしたのだ! ともかく奴が来なければワタクシもどうにもならない。どうにか間に合ってくれるよう祈るばかり。すると、本日の同行者、天祥から電話が掛かってきた。 「ごめん、まだ東京駅に着いてない。ひょっとしたら間に合わないかもしれないから、先に行ってて」再び絶句……。おっまっえっらっはー! ああ、もう!やっぱり面倒くさがらないで先に切符を受け取っておけば良かったか!それとも、モーニングコールを入れて、バスを使わずに電車で来いと言っておけば良かったか!?
あと、五分。東京駅の八重洲南口をウロウロ。「うわ〜、ごめんねぇ」皐月ちゃん到着。ふたり、ホームへ向かって走り出した。するとワタクシの携帯が鳴る。天祥だ。発車まであと三分。 「いま、ホームに着いた!何処にいる?もう、新幹線に乗った?」 「いま、皐月ちゃん拾った。ホームに向かってる!いや、着いた。乗れ乗れー!」 新幹線が動き出した。 三人は座席でようやく顔を合わすことが出来たのだ。 「いや、もう。いつもならもっと早く着くのに、道が混んでてさ」 「ねえ。電車で来ると乗り換えが面倒だからバスに乗ったんだけど、これなら電車の方が早かったよ」 ……出発の朝にこんなスリルは要らないのだよ、君たち。 「ところで、もう一人。ふるふるさんは?」 「出発には絶対間に合わないから、先に行ってくれって。後から来るって」 「お仕事が忙しい人だからなあ、大丈夫かな?」 「昼過ぎには京都に着くはずだから、ホテルで合流して今日の予定を進めようよ」 こんな感じで二泊三日・京都お花見旅行の幕は開いた。
旅行中、今まで行った事のないところを中心に行こうと計画を立て実行。 今回出掛けた場所で一番気に入った場所は、上賀茂神社。 鳥居をくぐってすぐ右手にある大きなしだれ桜が見事。木々と川の音が心地よく、相性がよい場所、気が整えられるっていうのはこういう気持ちなんだなあと実感。それから、神社のすぐ側にあるお店の焼き餅も美味しくて幸せの一時。 逆に、どうも落ち着かなかった場所は宿泊したホテルの部屋。起きてみんなと騒いでいるときには大丈夫なのだが、いざ寝ようと灯りを消すとどうもざわざわする。何処がざわざわする。二晩とも眠りが浅いまま、朝を迎えていた。綺麗なホテルだったんだがなあ。
そうそう、肝心の桜だが、やはり遅咲きのものしか残っておらず、少々寂しい場所もあった。それでも、春の空気と共に花を楽しんだ。それ以上に食の充実度が高かった。お菓子も食事もお酒も。人との交流も心地よかった。京都のパワーを取り入れて、美味しいお土産を手に帰宅。大満足。
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