- 2009年05月29日(金) 【紅い谷】 千里の彼方より千里の彼方へと、砂塵が吹き飛ばされてゆく。 砂漠に今日と明日の別などない。ただただ切れ目のない今ばかり。 そんな話を聞いたことがある。あれは大陸から来た男だった。顔立ちも目や髪の色も尋常ではなかったから、おそらくは紅毛の血が入っていたのだろう。そんな話をして、妙に懐かしい目で、故郷です、と言った。 俺としてみれば、そんな、草一本育たないような荒地のどこがいいのか皆目わからなかった。なんとなく高い山の上の、荒涼とした、瓦礫ばかりの稜線を思い浮かべて少しもしっくりしなかった。ただ夢に見た。 また夢に見た。 夢に見るのはいつも、政宗さまの臥所で寝入った夜だ。となればだいたい精根尽き果てるまで突っ込まれた後だ、夢など見ることは稀、良い夢だったことは皆無と言ってよい。だいたいこの人は、加減を知らない。 武士は知勇をもって仕える。だが、主が求めれば芸も色も勤めであろう。であれば刀剣と筆先に加え、色をもって仕えることに異論はない。それだけのことであるなら、ただそれだけのことだ。 ……頭の中を、 信長公の伽に召しだされる松永弾正久秀というイロモノが ぐるぐる回っています…(ばさらヴィジョンで)ヤヴァイ。 - - 2009年05月18日(月) 【乱序】 笛吹く男の手の掌に死があり、揺らめいて青白く立ち上る。 片倉小十郎の笛の音が米沢城の宴を賑わすのは、それほど珍しいことではない。月の頃に桜の頃に、名手といわれる小十郎の笛の音は、恒例のこととしてそこにある。だが米沢城の奥も奥、城主の寝所において――なら。 ごくごく、稀、と、いえた。 その理由のひとつは、政宗そのひとが、小十郎の笛を好まなかったため。否、恐れたため、としてもよい。 - - 2009年05月15日(金) 【死人】 よくできた守役だとか、副官だとか、軍師だとか。 まあみんな、冗談だよなってことを、しょっちゅう言うわけだ。みんなってのはなかなか豪華なメンツで、親父が最初で今は軍神さんとか、長曽我部のアホとか、武田のオッサンとかな。時々、本当にそうなのかと自問自答してみるが、いやそうじゃねえ、俺は狂犬一匹飼ってるだけだ。 礼儀正しい教養人、笛も吹く剣は達人と芸の細かい片倉小十郎を相手に、狂犬ってのはねえと思うか? ところがあいつは狂犬だ。 だって見ろよ、今もそうだがあいつの目の底はおそろしく暗い。戦場で、命捨てた覚悟で暴れまわるやつらを死兵とか死人とかっていうが、小十郎のやつときたら飯食っても、畑で野菜育てても、ぶっちゃけ俺にヤられてたって死兵だ。死人だ。 朝昼晩、ぶれもせず飽きもせず命を捨てたも同然ってヤツを、部下に飼ってみな。手を焼くぜ。下手すりゃ食われる。だから狂犬だ。 親父も、右目を潰して落ち込んでる八つのガキに、よくそんなもん押し付けたと思うぜ。とにかく、あいつが守役でございってて出てきたときは冗談だと思ったな。いや、冗談であってくれと願ったぜ。冗談じゃなかったわけだが。しかしなあ、俺は一目であいつが狂犬だってわかったってのに、あいつは自分が狂犬だってことを知らねえときてる。どうすりゃいいんだ。 とりあえず挨拶みてえに「御ために死にますいつでも死にます」ってのはやめろってとこから始まって、「俺の右目になれ」つってだまくらかして、十年かけて飼いならした。 あいつは今でも死人だ。それはまあ、本当に死ぬまで変わらねえだろう。死人に生まれついちまってんだ。だがともかく、あいつは「俺のために」しか死なねえ。もう一歩進んで、俺が天下狙うって言い出してからは、「最後まで俺を守る」ために、今日は死なねえ、明日も死なねえ。そんでもって明日のために備え明後日のために備える。今日を生き明日を生きる。 どうだ、俺の涙ぐましい努力がわかるだろう。あいつがよくできた顔して俺の横に座ってのは、ガキの頃からの俺の守役教育のたまものなんだぜ。普通は逆だと思うんだがよ、まあしょうがねえ。俺もあいつは嫌いじゃねえ。 こないだ、鬼島津が九州から、いいか、九州だぜ? ちなみに俺ん家は今のとこ奥州だ。そのうち天下とるけど、まあそりゃいいやな。鬼島津が九州から一騎打ちに来やがったんだ。小十郎とやりてえってな。 おいおい冗談じゃねえぜ。天下取りで忙しいんだそんなことやってる場合じゃねえ、って言いかけて、俺はびびったね。小十郎が昔の顔になってた。 命の取り合いってのを、本当に何も持たねえでただやりあうだけの勝負ってのを目の前にぶら下げられて、血が騒いだんだろう。血が騒いだなんてもんじゃねえな。軍師だのなんだの、俺が十年かけてつけてやったお面がはがれて、座敷の上で狂犬が牙剥いてたんだ。ああもう、嫌になっちまう。 ここで止めたら、自分の尻尾が剥げるまで噛むだろうと一目でわかった。わかっちまったんだ。だから行かせた。行かせておいて、俺はもう、生きた心地がしなかった。あいつは死ぬかもしれねえ。あの馬鹿、あの狂犬。 俺の右目じゃねえか。 それでも俺は止めなかった。できた主だって思うだろ、そうだろ? あいつは俺の右目じゃねえ。あいつはあいつだ。それを俺くらいよくわかってるヤツもいねえだろう。この勝負を取り上げたら、あいつは壊れるとわかってた。あいつは行って、そんで生きて戻ってきた。妙に血色が良かったのは気のせいじゃねえ。あいつは死を食って生きてんだ。 あいつにとっては俺は重荷だ。明日ってもんさえ重荷だ。あいつには刀の重さ以外はみんな重荷だ。なんてこった、そんなこた知ってたが、まさかこれほどだとは思わなかった。俺の十年を返せ、返しやがれ。 鬱憤晴らし代わりに抱いてやったのがそもそもの始まりだ。別にごつごつした手足が楽しいわけじゃねえ。割れた腹筋だとか盛り上がった大胸筋だとかがいいわけじゃねえ。まあ、引き続いてやってるからには悪くもねえわけだが、とにかく女抱くような話じゃねえんだよ。 そうだ、耳元で睦言言ってやったら、あいつ何て言ったと思う。 「政宗様、あなたはこの小十郎に、幾つ、死ねない理由を作るおつもりか」 すげえ不機嫌そうで、俺は痺れたね。そうだ、死なせてなんかやらねえ。あいつは俺の右目だ。十年かけて手なずけた狂犬だ。俺のためにだけ吠えて食らいつけばいい。あいつが俺の足元で倒れて死んだら、 そのときは俺が死人だ。 「戦国BASARA」政宗×小十郎 こういうのもアリだな。 竜にタガをはめている堅物、っていうより、 飼い犬に手を焼いてる竜ってほうが、関係性として好みだ。 - - 2009年05月10日(日) 私は、あまりにも長い間、魂を眠らせていた。 - - 2009年05月03日(日) 【冥土の土産】 合戦を前にして、まさに敵兵の中に切り込んでいこうとするそのせつな、この男は彼の顔を見る。その長さを測ったことがあった。1.5秒。たまたまというには長すぎる、だが咎めてみるには短すぎる。しかもその、色。 「なんだってあんな目で見た」 戦場に紅い露が降り、そしてそれも冷えてゆく夜半、彼は尋ねた。 「あんな目とは」 杯を持つ手を宙に止めて、その男は問い返した。しらばっくれる気なのか、それともこの唐突な問いに本当に意味を汲めなかったのか、そのどちらもありそうなのが片倉小十郎という男だと、政宗は知っている。 命がけで俺の背中を守っているくせに、自分より俺のほうがずっと大事なくせに、一言言えば今この場でも死んでみせるのだろうに、と、政宗は考えた。そのくせに、俺が何を考えているのかも知らぬのだ。 そして頭をわずかに傾げる。 「突撃の前に、俺を見ただろう。俺の顔をよ」 「……ああ」 小十郎は言った。その視線が向けられるのを知りながら、政宗は杯を傾ける。酒の味はしなかった。合戦の後はいつもそうだ。鼻には血のにおいしかしない、舌には血の味しかしない。着物をかけられてさえ、返り血を浴びたような気がする。たかぶっているせいだろう。右目と呼ぶ小十郎を前に、問い詰めるような話をしているのも、きっとそのせいなのだ。 「小十郎は、戦場では政宗さまの背中を守ります」 「そんなこたァ、知っている」 「背を守っているあいだ、お顔は見えませぬ。ですから」 「冥土の土産に」 政宗の手から朱塗りの杯が転げて、わずかにその底に残っていた酒が撒き散らされるあいだ、小十郎は黙って笑っていた。笑いながら、自分はいったいどういう目でこの主を見たのだろうと考えていた。 彼岸から臨むように見たのであろうか、まさに死者の目で。それとも幼かった主人を心からの慈しみをもって見ていたときのようにだろうか。そのどれでもなかったろう。だが、ではどうかと問われれば、小十郎には思案がない。彼はただ、合戦の前にいつも主人を見るようにして、この日も主人を見たのにすぎない。むしろ問われたことがおかしかった。 「戦国BASARA」伊達政宗×片倉小十郎。 なんだってまた、やったこともないゲームの話を…。 簡単に言うと、 小十郎が自分のためにいつでも死ねるのを当然だと思ってる政宗が、 でもやっぱり、実際本当に心底までそうなんだと思い知らされて、 ものごっつい動揺するところが見たかった。 恋慕に発展するなんてことは絶対まったくありえないけど、 自分より親兄弟より女房子供より政宗大事な小十郎萌え。 -
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