ささやかな独り言。...琴代 諒

 

 

第41回フリーワンライ企画参加作品 - 2015年03月21日(土)

2015年3月21日Twitterにて開催 第41回フリーワンライ企画参加作品
使用お題 愛してるの数だけ嫌いになるの

「愛してるの数だけ嫌いになるの」

初めて会ったのは秋の頃。着慣れた、でもくたびれていないスーツ姿が新鮮で、密かにどきどきした事を覚えている。
その後一緒に企画を練ったり、書類をチェックしたり、喧嘩したりして、お約束のようにどんどん距離は近づいて、春になる頃、私達は身体を重ねるようになった。身体を重ねるようになって、そうしてまた秋が来る頃私達は一緒に暮らすようになった。

繋いだ手の暖かさにほっとした寒い季節。
愚痴をこぼす私を見つめる、ちょっと呆れたような、でも優しい視線。
笑いのツボが一緒だった、くだらない与太話。
コンビニで傘を買って帰った雨の夕方。
終電を逃して見合わせた苦笑いの顔。
とっておきのワンピースで出かけた喫茶店。
おそろいに変えた携帯電話。
変えてすぐに気づいてもらえたネイルのデザイン。
誕生日にあげたプレゼントと、メッセージカード。

一緒にすごす度、全部全部、好きなところが膨れ上がっていく。彼も、彼と一緒の風景も、もらったものもあげたものも、全部全部。

だけど。
なのに。
今、お気に入りのケーキ屋さんで買ってきたケーキは、箱ごと私の足元で潰れている。雑貨屋さんで一緒に買ったふわふわのスリッパは、箱からあふれたクリームでどろどろだ。おそろいのキーケースに入った家の鍵は、こつんとケーキの箱にぶつかってから、床に落ちた。
私の目の前、彼の趣味を全面的に通して買ったソファの上に、全裸の彼がいる。私の知らない、全裸の女と。

私の大好きな彼と、私の大好きなものや思い出で作られた部屋なのに。
愛してるのに、愛してたのに、どれだけ一緒にすごした日々を思い出しても、愛してるの数だけどんどん嫌いになるの。



...

3月13日 第39回フリーワンライ企画参加 - 2015年03月13日(金)

3月13日開催 第39回フリーワンライ企画
使用お題 「冷たい指」


晩秋の夜だった。
故郷を離れて久しい私の元に、祖母危篤の報せが届いた。
とるものもとりあえず駆けつけた私が見たのは、病院のベッドの上で辛うじて自発呼吸をしている祖母と、祖母の周りで泣き濡れる親類達だった。

「ばあちゃん、遅くなったけど来たよ」
そう言った声は届いたのだろうか。久しぶりに繋ぐ手は記憶のものより随分ごつごつして冷たかった。
晩秋の夜の中、がたがた震えながら駆けつけて冷え切っていたはずの私の手よりも、祖母の指は冷たかった。

実は、私は祖母と折り合いが悪かった。母は出て行き父は再婚して新しい家庭を築き、私が家族と呼べるようになったのは祖母ばかりであるのに、それでも折り合いが悪かった。
ふたりで、ふたりきりで暮らしているうちにどんどん祖母との間に流れる空気はギスギスしたものになり、その空気に耐えられなくなった私が実家を離れて、そうして私と祖母はやっとお互い折り合いをつけられるようになったのだ。

だから私は、祖母が危篤になっても、亡くなっても、きっと淡々としているのだろうとずぅっと思っていた。
思っていたのだ。
実際は、祖母危篤の連絡を受けてから病院に着くまで、手と膝の震えをなだめるのに精一杯だった。祖母が息を引き取って病院から帰ってきた時には、涙が溢れて止まらなかった。
そして、私はそんな自分を持て余し、どうしていいか判らずに葬儀関連の雑事に不必要に打ち込んでいたのだ。

自分が、祖母を愛していたのか憎んでいたのか絶望していたのか。どうしても判らないのに涙だけが出るのだ。

祖母が亡くなった今、私の中の子どもの私は途方にくれた顔で立ち竦んでいる。あの、病院で繋いだ時と同じ祖母の冷たい指を軽く握りながら、祖母と一緒に行く事もままならずに。
そうして私も、そうして途方にくれた子どもの自分を見る度に、祖母に怒りをぶつける事も泣く事も許す事も出来なくなって途方にくれるのだ。


...




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