ケイケイの映画日記
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2021年07月22日(木) 「SEOBOK/ソボク」





評価高いみたいですが、何かの間違いじゃないですか?(笑)。ご贔屓のコン・ユが主演のエンタメ系作品なので、「新感染」くらい面白いかと思いきや、既視感たっぷりの内容、唐突なキャラ変、雑で平板な脚本にツッコミ満載でしたが、そんなに落胆しなかったのは、一重にクローンの<ソボク>役、パク・ボゴムの存在感でした。監督はイ・ヨンジュ。

元情報局員ギホン(コン・ユ)は、とある事件がトラウマとなり、辞職。そして脳腫瘍により、余命宣告もされている中、かつての上司アンから、ある依頼されます。それは極秘プロジェクトにより誕生した人類初のクローン「ソボク」(パク・ボゴム)を護衛すること。しかし、これには裏があり、訳がわからぬまま、二人は逃亡する羽目になりま

先ずソボクなんですが、超能力が使えます。何故か?何故だかわからない(by研究所所長)。えぇぇぇ!こじつけでも何でもいいから、理由は付けるべきでは?そしてこれはソボクと研究所の人々しか知らない。これも、えぇぇぇ!
普通上に報告するのでは?

アメリカ側の要人が「人間は不老不死になれば、先に残るのは欲」と語ります。それ正論ですが、アメリカが言うの?大昔に「炎の少女チャーリー」で、散々子供を利用しようとしてたじゃん?なんか鼻白むな。

と、序盤で既にてんこ盛りの???。その後も国家の機密重要プロジェクトのはずなのに、アンが勝手に指示を出すわ、民間人と思しき爺さん(これが存在感も何もない。CMに出てくる素人タレントみたい)が、唐突にラスボス的に参戦するわ、アメリカに命じられての指令のはずが、は?このアメリカ人は、どちら側ですか?と混乱。いえ、多少の説明はあります。でもそんなもの無くして、雇われ兵士は、みんな韓国人でも話は通じます。

ソボクは細胞と遺伝子組み換えで出来たクローン。当然親と思しき人はいて、彼を世話しています。でも序盤であんなに嫌味で無礼な人が、本当は彼を愛していて・・・的展開も謎。そこには目くらましの要素を見え隠れさせねば、いくら何でもその後の展開が雑過ぎる。行間読めないのじゃなくて、これでは観客の良心に委ねているわけ?それは無いわ。

重篤な病気のギホンは薬も持参できず、でもソボクの超能力で何とかやり過ごすギホン。この辺もなぁ。過去のトラウマ事件の内容も説明不足で解らず、とにかく雑雑雑!

と、普通なら罵詈雑言で終わる作品なんですが、ソボク役のパク・ボゴムが素晴らしい。男女どちらにも見える整った容姿から、無機質と神々しさが共存している。普通の人間の倍で成長すると言う設定なので、彼は10歳だけど20歳。逃亡生活で初めて見る風景や食べ物に、静々と興味津々な様子はとても純粋です。幼さを残す中の判断力と思考は聡明で、人間ではない自分は何者なのか?自問自答する様子、生きていた証しをこの世で残したい思いは、人間である私たちにも通じるものでした。この作品で予想外で最大の功績です。  

期待のコン・ユは、社会派・アクション・ロマンスと、エンタメ系なんでもこなし、その上男前(重要ポイント)と言う、稀有な俳優で、今昨では余名僅かと言うことで、減量までしたとか。それがちっとも生きない演出に、ファンとしては憤懣やる方ないのですが、今回は役柄的に若手のポゴムに花を持たせたと思えば、いいって事よ。

と、貶したり誉めたり忙しい鑑賞でしたが、主演二人目当てなら、どうぞご覧になって下さいませ。








2021年07月17日(土) 「プロミシング・ヤング・ウーマン」




コロナ禍のせいで、思うように映画が観られなくなり二年近く。絶対観たい!と言う作品が稀になってきた昨今、この作品は「絶対」観たい作品でした。先行上映があると知り、馳せ参じました。レイプの復讐物に有りがちな設定から梯子を外しています。ポップでスイート、ロマンチックで毒々しく、そしてどうしようもなく哀しい。監督は女優でもあるエメラルド・フェネル。初監督が信じられない。脚本も監督。私的に傑作です。

親友ニーナと同じく、医大に進学したキャシー(キャリー・マリガン)。しかし、ニーナは同級生たちにレイプされ、訴えも退けられた事に絶望し、自殺。怒りに燃えたキャシーは医大を退学。昼はさえないカフェに勤めながら、夜な夜な酔ったふりをしては、言い寄る男たちを騙し討ちにして、鉄槌を下していました。しかし、医大時代の同級生ライアン(ボー・バーナム)と再会。自分に好意を寄せるライアンに、キャシーの心は揺れ動きます。

酔ったふりをして、自分をお持ち帰りする男たちに、暴力を振るう、または説教だけして、相手から自尊心を奪い取るキャシー。しかし朝帰りの彼女を、卑猥な言葉で囃し立てる見ず知らずの男たちの不躾さを描いているのは、これはキャシーが若い女性だから。男性なら見知らぬ人から、理由もなく心ない言葉で傷つけられる事はないでしょう。それも性的な。彼女の心は一向に晴れない事を表しているのでしょう。

私は「アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ」みたいに、夜な夜な男を誘っては、半殺しみたいにするのかと思っていたので(「アイスピック〜」は、レイプした男を皆殺しにした。それはそれで爽快)少し肩透かしでしたが、よく考えれば、大の男相手に、か弱い女性がそんな事出来ません。

これはキャシーの男性への復讐ではなく、自傷行為なのでしょう。真面目で明朗な、でも野暮ったい女学生であったろう、キャシーとニーナ。カースト上位の花形の学生たち(女性とも含む)には、悪ふざけのショーの生贄として、パーティーに二人とも呼ばれたのでしょう。キャシーは行けず、一人で参加したニーナは、酒を飲まされ泥酔させられ、意識のない間にレイプされます。これって、日本でも某有名大学で会った事です。やはりほんの数年前。

あの時自分が一緒にいれば、あれはニーナではなく、私だったかも知れない。姉妹のような幼馴染を亡くしたと言うだけではなく、そう解釈すると、キャシーが暗闇の底でのたうち回る気持ちが、理解出来るのです。

何とか昔の娘に戻って欲しい両親。しかし、大らかに見守る父に対して、母は「友達に今のあなたを話せない」と言う。「元の明るい娘」に戻って欲しい父と、「元の人に自慢できる優秀な娘」に戻って欲しい母。キャシーは母親のために生きているのじゃありません。もうどんどんキャシーの気持ちが解る。

そんな時偶然に勤め先のカフェに現れたライアン。学生時代からのキャシーへの好意を隠しません。ライアンの誠実さに徐々に心がほぐれ、行きつ戻りつしながら、恋人関係に進む二人。私は成人した子供が、人生で行き詰まり絶望した時、哀しいけれど親は役には立てないと思っています。親が支えられるのは、ティーンエイジャーまで。立ち直るのには、親ではない誰か、愛する人の存在が必要だと思っています。なので、この成り行きにも納得でした。

それと並行して描かれていたのが、レイプ事件の当事者ではなく、関係者。学長と思しき女性はニーナの名前すら忘れており、「当時はそんな事件が毎週のように起き、相手の男子学生は優秀で、こんな事で将来を奪われてはならない」と、信じられない言葉を吐き、絶句。毎週女生徒がレイプされているのに、何のお咎めもなしですか?将来はハイソ確実の医者になる男性だからと、私には聞こえる。この言葉、ドラマの「一つ屋根の下」で、次女小梅がレイプされ、示談に来た弁護士が「将来ある若い男性の未来が閉ざされることがあってはならない」云々言っていたのは、約30年も前の話。その時も怒りに震えたので、良く覚えているのです。

そしてカースト上位の女学生だったマディソンも、「泥酔したニーナが悪い」と言う。多分レイプするために、無理に飲まされたのを知っているのに。何なの?この女たち?夜道を歩いていたからレイプされた、肌を露出した格好をしていたから痴漢にあった、だから「される」女が悪い。それを「今の時代」の同姓である女性が言うの?今も昔も、女性が男性と対等の地位に上ろうとすると、男になるか、男に媚びを売るかになるのでしょう。

そしてマディソンは結婚して、双子を出産。医学の医も語らず、話は家庭の事のみ、せっかく勉強したのにそれを生かせない現状に疑問も持たない。それはもちろん社会のシステムも不条理なのです。しかし、マディソンはそのことすら、意識外に見える。監督は世界中の「ヤング・ウーマン」を取り巻く環境の厳しさを、描いていると思います。敵は男だけじゃないわけです。選民意識を持った女性も、また敵なのです。

たった一人、関係者でキャシーが許した人がいます。事件の相手方の弁護士(アルフレッド・モリーナ)です。お金のため、悪事を働く男どもの弁護を引き受け続けているうちに、良心の呵責に耐え兼ね、精神を病んでしまい、仕事が出来なくなっている。あれは昔の事で、若気の至り。悪かったよ、今の立派に更生した自分を見て。反省の証しだよ。あなたの大切な配偶者や恋人や親や子供や孫や兄弟や友が、加害者にこう言われて、あなたは許せますか?私は出来ない。全力で社会的に抹殺してやりたいと思うでしょう。キャシーはこの弁護士には、あなたを許すわと言います。何故か?彼は罰を受けて、悔い改める人生を送ると誓っているからです。

キャシーから手痛いしっぺ返しを受けたマディソンは、「これ切りにして」と、ある物をキャシーに手渡します。ここからは、だいたい予測出来ました。
「告発の行方」は、1988年の作品。この作品で、レイプを観ながら囃し立てた男たちは、有罪になります。なのに現実はそこからちっとも前進していない。監督はここも意識していたのかな?尋ねてみたいです。

ロマンチックな陽光に照らされていた自分が、いきなり暗闇に突き落とされたのです。二度目はもっともっと暗い。絶望しかなかったでしょう。ラストの展開は、私は自傷行為ではなく、キャシーが自分の人生にケリをつけたかったのだと思いました。

最後まで過去の自分と今の自分は別人。これでいいだろう?の男たち。そこには限りない「その他大勢の女性」への蔑視がある。無知は罪だけど、無自覚も大罪だな。ライアンに届く人を食ったようなキャシーのメールに、思わず微笑んだ私は、その後哀しくて哀しくて、涙が止まりませんでした。決してハッピーなラストではないけれど、私はキャシーは救われたと思いたい。

聡明で繊細な女性の役どころが多いキャリー・マリガンですが、この作品の七変化の熱演は、本当に素晴らしい!どこかの評論家が、この役はプロデューサーに名を連ねるマーゴット・ロビーが相応しい。キャリーでは男を誘うセクシーさが足りないと書いたと読みました。その人、この作品の何を観ていたのか?泥酔した女を持ち帰る男は、セクシーさなんか関係ないのよ。大事なのはレイプしても気が付かない程、泥酔しているか否か。キャリーくらい可愛かったら、めっけもんなんだよ。キャシーは30歳と言う年齢と不釣り合いな、ドールハウスのような部屋に住んでいます。それも親の家。いつまでもガーリーな服が良く似合い、それが彼女の本質で、大学中退してから、彼女の人生は止まっていると表している。

なので、ガーリーなキャシーも、男を誘う蓮っ葉な姿も、両方痛いのではなく、痛々しい。この複雑で哀しいキャシーを演じるのは、私はキャリー・マリガン以外、いないと思います。

予想とは全く違う作品でしたが、特異なプロット・演出に、普遍的な若い女性の生き辛さや苦悩、問題点が散りばめられ、それがズバッとハマった見事な作品。傑作です。





2021年07月11日(日) 「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」




前作より完成度が高くてびっくり!これは予想外でした。前作は監督主演のジョン・クラシンスキー&エミリー・ブラント夫妻が好きなので鑑賞。まあ、悪くないですよ、くらいの感想でしたが、アメリカではスマッシュヒット。なので今回も特に期待していませんでしたが、パニックホラーに力点が置かれていた前作と比べ、今回は監督の人生哲学が投影されているなと感じました。面白かったです。

エブリン(エミリー・ブラント)は、夫リー(ジョン・クラシンスキー)は亡くなり、リーガン(ミリセント・シモンズ)、マーカス(ノア・ジュブ)と赤ちゃんの三人の子を連れて、音に反応して襲ってくるモンスターからの逃亡の日々を送っています。ある日、絶対絶命の危機に晒された時、ある人に助けられます。その人はリーの友人エメット(キリアン・マーフィー)。妻子を亡くした彼は、一人生き抜いていました。翌日、独りで他にも生存者がいるはずと、隠れ家を抜け出したリーガン。娘を探してくれと、涙ながらに懇願するエブリンに根負けしたエメットは、リーガンを探しに行きます。

前作で少女ながら、禍々しさと神々しさを共存させたような、不思議な魅力を放っていたミリセントが、今回主役の役回りです。禍々しく不穏な前作の雰囲気は、子役ながら卓抜した演技力だったようで、今回は神秘的な力強さを感じさせます。今回、出演のキリアン・マーフィーも、私は好きな俳優です。エメットのような取り立てて個性の必要のない役どころは、繊細さや癖の強さを得意とするマーフィーには、役不足だと思っていましたが、不穏さと神秘性は、マーフィーの得意とするところ。ミリセントとの相性は頗る良く、二人の道行は、まるで実の親子以上の親和性を感じ、良いキャスティングだと思いました。

冒頭、マーカスの少年野球を応援する風景から一転、モンスターの襲撃は、前作を未見の人への紹介ですね。それと共に退屈そうな、でも親だからの義務感で応援に来たリーとエメットの様子は、それが如何に幸せな風景だったかを、観客の脳裏に焼き付けます。ダイブの手話を覚えるエメット、自分も恐れ戦きながら、子供たちに「大丈夫」を繰り返すエブリンの様子は、のちのち伏線だったのだと、気づきます。


リーガンの予想した通り、他に生存者がいました。しかしリーダーによって、その集団は全く別の顔をしており、荒くれ者がリーダーの集合体は、まるで落ち武者狩りのような荒み方で、まさにディストピの様相ですが、人格の優れたリーダーが率いる集合体は、穏やかで平和に暮らしている。これは「国」を当て嵌めて考えてもいい事だと思います。監督もそう言いたかったんじゃないかな?

神出鬼没のモンスターので現れ方は、前作より洗練されており、何度か椅子から飛びあがりました。モンスターがじわじわ近づく焦りと、スピード感のある恐怖の使い分けも上手かったです。

モンスターが襲来してから、一年の以上の月日が経ち、子供を守らねばと言う悲壮な義務に疲弊していく大人に対し、その何倍ものスピードで成長していく子供たち。ラスト、モンスターに立ちはだかったのは誰だったのか?感激して泣いてしまいました(実話)。

またまた続編あるようなラストです。大人たちはみんな身体のある箇所を狙われていました。それが次にどう繋げるのか?絶対次も見なきゃ。私はジャイモン・フンスーは、死んでないと思います!


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