彩々

2004年02月27日(金) 記憶を弔えば

ひとり遊びが上手なこどもだった。
春が近づくたび、
「春を探しに行こう」とつくし取りに駆け出した。
何時間も、海辺で貝集めをして困らせた。
いじめられてる子を見過ごせずに、
年上の男の子に、代わりに棒で叩かれて悔し泣きした。
家族に泣き顔を見せるのが嫌いで、
けれど涙を拭って帰っても、いつでもすぐに見破られた。

記憶の断片をだれかと共有できてる幸福。
ただ見守られることで、
いかに自分が健やかに育ってきたかを知る。

私はまだ、あのときの小さいこどものままで、
些細な事につまづき、転んでばかりだし、
名前に込められたような広いこころも未だ持ち得ていないけれど。
自分がふんだんに愛されたように、
あんな優しいまなざしで、
あたたかい空気で包むように、
彼女のことを愛せるようになりたい。

大切な人の死を、
まだうまく内在化できない私は、
ただ、
息を吸って、吐いて、
透明人間になりたいと願いながら日々を過ごし、
毎朝、目覚めるのを拒否する。



2004年02月23日(月) 変えられないものを受け入れるちからを

かけがえないものを失うとき、
同時に、
すばらしく尊いものを得るときがあるとするなら、
それは、今かもしれない。

大切な人が逝った。
注がれっぱなしの愛情に、幾度も救われた。
言葉でも、具体的なアピールでもなく、
そのたたずまいに絶対的な肯定感をもらった。
たぶん、
これ以上の愛されかたはもうない気がする。
しばらくは喪のしごとをしっかり務めて、
正直に哀しみと同居していこうと思う。

彼女に会った。
絶望的な喪失感に、
嗚咽がこみ上げてきて、しゃくりあげて、
吐くように泣いた。
彼女がただ、
黙って頭を抱えてくれたから。
もう、泣くことを止められなかった。

おずおずと不器用に抱き締める腕、
なぜか早鐘を打つ彼女の鼓動。
けっして、
どっしりとした安心感や
頼もしい言葉を与えてくれはしないけれど、
息継ぎなしで
泣きじゃくりながらも、
しばらくぶりに心底落ちついてた。
確か、何日か前までは、
心が離れようとしていたはずなのに。

わらっちゃうほど私の構造は単純で、
もう、ゆるゆるとかちかちだった心がほどかれようとしてる。



2004年02月16日(月) 予感

くるしい。
ただ単純に、おもいをぶつけるだけだった頃に戻れたら。
いや、結局は同じことの繰り返し。
どこに出口があるのかわからない。
もしかしたらここが、二人の果てなのかもしれない。

随分とおくまで来てしまった気がする。
能天気さと包容力を失った今の私は、
ひどく混乱の波に揺さぶられるしかない。
彼女が電話をきったとき、
私の視界にも暗幕がおりたようになった。
もう一歩前すらみえない。
いままさに、私はあなたを失おうとしてるのか。

まるくなって膝を抱え、
目覚めることなく眠ってたいよ。



2004年02月13日(金) 大根役者

うっすらと額に汗をにじませながら、
おじさんたちと雑談。
今日何杯目かわからないコーヒーを、
胃の奥に押し込む。

ひと足早い送別会シーズン突入で、
ここんとこ休肝日の入れようがない。
今夜くらいはバッティングセンターで、
にわか運動でもすべきか。
モルト1杯分で、6、7ゲームくらいできそうだし。

しばらくは、無理してまで彼女に会うのはよそう。
また、ひとしきり泣かせてしまった。
私はといえば、
とめどなく、頬をぽろぽろと滑り落ちる涙が、
じぶんのものではないように思えて、動揺した。
彼女への思いはあまりにもまっすぐすぎて、
球速を加速度的に上げて、
とうとう私の脳神経までぶつ切りにしたか。



2004年02月09日(月) わすれものはなんですか

頭を抱えて、
悩んだフリをするだけじゃ、
仕事は一歩も前に進まないと知ってる。

けれど、
没頭すればするほど、
深く対象を知れば知るほど、
視界は狭まり、足はもつれ、
自作自演の泥沼にどっぷり。
そもそも、
自己満足を超えた仕事ができるのかもわからない。
不安と葛藤と自意識がないまぜになって、
ただもう呆然と、
夕方の、あの、まちの匂いを胸に吸い込みながら、
地平線のグラデーションに見惚れてみた。

でも、
どうしても表現したい世界がある。
迷いながらも肉薄したいリアリティが。

週末は久しぶりに彼女に会った。
少し疲れてるみたいだったけれど、
ビールをごくごくと飲む横顔に、
穏やかな安堵感をおぼえた。
と同時に、
彼女への愛情が、
際限なくこんがらがって
ひどくいびつなかたちになっていることに
気付くのだった。



2004年02月06日(金) …and then?

ひらひらと小雪が舞う。
寒寒した枝のあいだから空を仰ぐと、
幾重にも重なるグレーのグラデーション。
場所は違えど、毎冬、
数えられないほど繰り返しているこの仕草が、
いろんな記憶を呼び戻す。

前の彼女が好きだったあの曲を、
わざわざ感傷的にカーオーディオで鳴らすのは、
過去の時間そのものを懐かしんでいるんじゃない。
願わくばあのころの幸せの感触を、
あなたとの時間の中で、築き上げたいからだ。
充足感や、胸の中がじわりとあたたかい感じを。

とても疲れてるみたいだね。
仕事のミスが追い打ちをかけてるの?
私には何もできない。
針ネズミになってる今の二人の状態で、
あなたに頼られることで自分の存在を確かめたくない。
一見やさしげだけれど、
子離れできない神経質な母親のように。

痛いほどわかってる。
今のふたりには、
物理的にも、精神的にも、
自分がコントロールできる距離が必要だと。

でも、
会いたくて、気が狂っちゃいそうなんだよ。



2004年02月04日(水) 破壊のあとに残るもの

また、
あなたを傷つけてしまった。
あなたの気持ちがわからないとか、
結局私は宙ぶらりんなんだとか、
投げ付けた言葉たちは、確かに偽物じゃない。
ずっと、
多分、一緒に時間を過ごすようになってからすぐに、
薄膜を重ねるように、私の胸に積もった「ほんもの」の気持ち。
けれど、
喉の奥でいつも、言葉にされずに封じられたそれらは、
ぐつぐつと煮詰まり、ぐんぐんと密度を上げ、
昨夜、あなたに突き付けたときの刃の鋭さは図り知れない。

あなたは混乱した。
いつか言ってくれた「一生一緒にいる」という台白。
あなたの心の中は混沌としていて、
私と一緒にいる、その理由を説明する言葉も、
「すき」という感情の明確な解釈も、
「ほんとうに」できなかったのに。
私は、
一時的な情緒不安定を振りかざして、
私の存在理由をあなたの口から証明させようとした。

どうしたらいいのかわからない。
混乱して、泣いては心のバランスを崩すあなたに、
私は「わかった」というしかなかった。

でも。
私の自己愛的な感情吐露が気付かせた。
一度、認知してしまった自分の苦しさ。

私が、大人になることでしか、
心穏やかにあなたの隣ですごすことはできないと、
そう宣言されたかのような夜。





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喬(きょう) [MAIL]

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