彩々

2003年06月21日(土) 過去には勝てない

またもや休日出勤の土曜日。
朝、
昨日飲みすぎてうすらぼんやりした頭を抱え、
すっきりと晴れた空を見上げた。

メールの行き違いは今日にも持ち越され、
彼女が淡々と振り返る前の彼氏とのエピソードに、
いちいち勝手に胸を痛めて。
彼は。
彼女を見る、照れた笑顔が印象的なナイスガイだった。
南国特有の濃い顔立ちに、鍛えられた体。
彼女もはにかんで、笑顔で寄り添ってた。
私の目から見ても、誰より幸せな二人。
鮮明に思い出せるシーンの数々は、
今でも、圧倒的な存在感で迫る。
卑屈な自分は大嫌いだけれど、
彼女と一緒にいるようになってどんどん自分に嫌気が差す。

今までの誰に対しても抱かなかった強い感情が、
彼女に対しては次々に沸いてきて、不安を加速させる。
距離感覚はゼロだし、コントロールも利かない。
暴発して彼女を呆れさせるし、時には傷つけても。

今の私は、数え切れない出会いの末の産物だし、
前の彼女との時間が確実に私を変えたのも事実。
でも、
ここまで自分を別人のように変えたのは、彼女なのに。
彼女は、
私の幸せそうな顔を見たことないと云う。
知らない誰かには、幸せそうに甘えてたんでしょう?と。

「ねえ、どうしたらいい?
 不器用なりに素直に甘えてるのに。
 あなたが知らないなら、幸せな顔なんて、他の誰も知らないよ」

喉の奥にしまわれ、
言葉は外に放たれないまま、くすぶり続けてる。



2003年06月19日(木) ひとりになって考えること

二人で聴けば、
雨音さえ甘く響くことを知る。
今の部屋は、
ベッドから窓を見上げると
裏山の木々が風に揺れるのがよく見える。
昨日の朝は、彼女の匂いと雨の音の中で目覚めて、
この部屋が益々好きになった。
後1年くらいで転勤だけれど、
それはそのときで、彼女との生活が待ってる。
けれどその想像は余りにも雲を抱くようで、
切なくなった朝。
もう、雨音はしとしとと悲しげ。
彼女のために作ったみそ汁の残りが、
机の上で冷め始めている。

最近の彼女は、
なぜか腕枕をしようとしてくれる。
その仕草を見るだけで、幸せに胸が痛む。
華奢すぎる胸板で、
私が好きなでっかい手がなくても、
誰からも得られない安心を手に入れる。

午後は、おじさんたちとひとしきり雑談した後、
がしがしキーボードを叩く。
尊厳ある生と死について、考える。



2003年06月16日(月) 薄曇りの月曜日

降ったり止んだり。
今年の梅雨は、いつになく気まぐれ。
というより、
しとしと雨を望む私の心がそう思わせるのか。
少し立ち止まって休みたい。
最近の私は、そんなことばかり考えてる。

どうして私じゃなきゃダメなの?と彼女が聞く。
どうしても、といつものように私は答えるけれど、
いつものように彼女は納得しない。
理屈じゃないのに。と心の中でつぶやく。
言葉が少なすぎる、と彼女は言う。何考えてるのかわからないと。
あなたにはちゃんと気持ちを伝えたいから、
適切な言葉がないときは沈黙が一番ただしいと思う、
とたどたどしく伝えても、やっぱり納得しない。
ただ、
今まで、わからない、とか何となくで済ませてたことが、
いかに多かったかを知る。
生まれて初めて、私は真摯に言葉と向き合う。

寂しがりを言い訳に、
色んな人のやさしさに甘えて生きてる私は、
彼女なしの時間をそこまで持て余したりしないけれど、
彼女の不在が常に、生活のそこここに色濃く息づいてる。

距離を感じるのは、
独りの寂しさじゃなく、メールや電話でのすれ違い。
明日はやっと会える。



2003年06月15日(日) 嵐が来る(revised)

まだ遠いけれど、
ごおごおと鳴く風を思うだけで心が晴れる。
天気予報にここまで気持ちを動かされるなんて、
疲労ゆえの破壊衝動だろうか。
今夜は夜勤。10時までパソコンの前。

空想がちだったという幼い頃の彼女に、会ってみたい。
写真でしか見たことない、ちいさい手を取って、つなぎたい。
生まれたときから父がいないせいか、
大人になった今でも私は、
男の人の大きな手に惹かれる。
この前会社の後輩と早朝の商店街を歩いてて、
なぜか無性に手がつなぎたくなって、
「つないでいい?」と何度も聞きそうになった。
彼に恋愛感情はかけらももってなくて、ただ、
そうすればとても安心できる気がして。
だからかな、
彼女の手を大きな手で包めたら、と時折思う。
けれど、私に与えられるのは、
人より若干高いこの体温だけ。

あの日は小雨だった。
ぼろぼろと目からとめどなく涙は落ちるのに
どうやっても感情は言葉にならなくて、
ただ部屋を飛び出すしかできなかった。
涙も拭わないでハンドルを握ったら、
呆然と独りを知った。
頭を冷やそうと海辺で煙草をふかした。
何年かぶりに嗚咽して泣いた。
何度も根気良く鳴り続ける彼女の電話に
かろうじて繋ぎ止められたけれど、
今でも少し、私の心は宙に浮いている。
一週間前の出来事。

写真の山が、押入の奥から出てきた。
床の上に散らばった無数のそれに圧倒された。
私と前の彼女の、笑顔。旅した数々の景色と、感情。
一番胸を刺したのは、
数の多さが示す時間の長さじゃない。
ディズニーランドで二人肩を並べて撮ってもらった一枚の、
私の少しはにかんだ、でも満たされた幸せな笑顔。
今の私は今の彼女しかいらないと心から思ってるけれど、
あの笑顔を、痛切に羨んだ。
後ろめたさを振り払うように、
幾度も試みながら写真を捨てきれなかったぬるい感傷を嫌悪した。
そして、
一枚一枚丁寧に記憶を追ってから、
一枚ずつ茶色い指定ごみの袋に投げ入れた。

君に会いたいよ。
でも、
あの日の棘が私に黙って膝を抱えさせる。


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喬(きょう) [MAIL]

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