fantasia diary* 

ほどよくダラダラをモットーに。 
アコギをゴロゴロ弾くように。 

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2003年03月07日(金) 白木蓮

「何見てるんだ」
 すぐに彼は振り返ったが、その視線のあては再び上に戻された。
「何故ここに木蓮が咲いているのか、気にならないの」
 彼の細く白い面が向けられているその花は柔らかく、燭台のような枝にいくつもの、更なる白が灯っている。
 かつて木蓮を好きだと云った少年の姿は見えない。
 けれど彼らは少年とも共に居るつもりで、しかしその少年を締め出している意識もあった。
「たった1本で、この土の塊を照らして、湖を照らして、僕らを」
 息を詰めるでもなく、色白の少年は言葉を切った。
 届かないと思う気持ちも、羨望も哀惜も今は通り越して、ただ届かない事実がしなやかに強く、重たい花をつけていた。
 その木蓮は、およそ自生したとは思えない湖岸で、見かけよりずっと太く長い根を辺り一帯に巡らせている。
「もう居ない、多くの人々に、明かりを灯すんだ。
 根本に立ちかえるなら、戦争も政治も同じだ。ルック」
 少年は、ここに居たときの彼らが語った夢を思い出す。
 夢と云うには堅実な、それでも十分に壮大な、彼らの生きる上での、向かう先、目的の視点。
「シーナ」
 その声も内容も、大人びて熟成したものになっていた。
 実際彼らは嘘をつかなかったのだ。嘘をついていたのは自分だけだった。
 届かないのは、誰にだって同じじゃないのか。触れるか、触れないかの違いだけで。
「木蓮は、この星で最古の花木で、もうずっとずっと前から、同じ姿だったんだ」
 ここに居ない少年がかつて云った言葉を、シーナはなぞるように口にする。
「そして、政治はそうはいかない」
 彼の身に起きた出来事、一生涯の全てをも、彼は諸行無常と云おうと云う。
 そして少年も、知っていたと云う。
「国に明かりを灯すのは、俺が請け負った生だ。
 やっていることは皆違う、それでも何かに明かりを灯している」
 何も云わずに、色白の少年は俯いた。
 肩につくまであった髪は、嘘をついた彼として黙って切り落とされ、
 その分多めに下ろした前髪を通して見た世界は、彼には輝いて酷く綺麗に見えた。
 彼らの語った生を、事実そうある彼らを、今なら追える気がしていた。
「この木蓮は、あいつの置いていった精一杯の明かりなんだろ」
 きっともう一生側には居られないと、そう思って植えたのだろう、白木蓮の苗木。
 土を触る少年の様子をルックはよく覚えていたから、
 隆起した根元の呼吸する生土にも、開きかけた大ぶりの花にも尚目線を合せ難くて、
 仕方なくシーナを見た。真っ直ぐに。
「お前は無茶をし過ぎだよ」
 最後まで少年のままだった少年は、苦笑いをする彼の、少し小皺の増えた黄色い肌を眺めて、
 自分にもそれが備わっていたら、と強く思った。


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何がどうした話なのか、わたしもよくわかってません。(…)
けど多分重要なのはほんのすこしなので長い話も書けない。えー
いや、全く駄文なんすが、それこそに所望があったっつあたりで
これはハコノさんのお誕生日に差し上げるシーナルックです。
つーわけでおめでとー!切ない切ないシーナ年!

白木蓮って春なんだか冬なんだかみたいな色彩を醸し出すので、
桜のような精一杯の春の木とは一線を画している気がします。

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