心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2011年10月11日(火) どこから手を付けるべきか(その2)

アディクション(依存症)をケアするにあたって、「何が依存症を引き起こしたか」という原因は重要ではありません。「親が」とか、「社会が」という主語で語っても、依存症は良くなりません。酒を飲みながらACうんぬんの話をしても意味はないし、社会システム論はアル中本人を救ってはくれません。アディクションは原疾患であって、そのものを治療対象にしなくてはならず、「依存症を引き起こす原因」を探して取り除こうとするアプローチではうまくいきません。それが、addiction is primary disease という言葉の意味でしょう。

(もちろん、依存症の予防という観点からは意味のあるアプローチですが、予防と治療は別の話です)

しかし、何にでも例外はあるものです。

その筆頭に挙がるのは、統合失調症でしょう。

統合失調症の罹患率は約1%と、決して珍しい病気ではありません。しかし、統合失調症がときにアルコールの乱用や、ギャンブルの乱用を招くことは、あまり知られていません。

精神科医の中には、こんなことを考える人がいるようです。
十分退院可能な統合失調の患者がいるとします。しかし、今までの経過から見て、この人を退院させると大酒を飲んでしまい、そのせいで服薬や通院が不十分になって、統合失調の症状が悪化し、再び入院となってしまう可能性が高い。禁酒さえ続けば退院可能なのに、アルコールによるトラブルがあるせいで入院生活が続いている。そこで、断酒会やAAに通ってもらえば、十分退院可能であろうと。

この医者は、統合失調の症状としての大量飲酒と、アルコール依存症との違いを理解していないか、あるいは分かっていてもあえて違いを無視しているか、どちらかでしょう。

AAではニュカマーが本当に依存症かどうか確かめようがありません(きっと断酒会もそうでしょう)。飲酒の問題があれば受け入れています。しかし、飲酒を呼び起こす機序が違うために、AAは統合失調の人の再飲酒防止にはあまり役に立っていないようです。症状が悪化すれば、大量飲酒が始まってしまうことを防ぐすべはAAにありません。

大量飲酒する統合失調の人は、病気の具合が良いときは飲酒のことを思いつきもしないそうです。つまり、「禁酒維持されるなら退院可能」というのは、まだまだ入院治療が必要な状態だというわけです。

僕がAAにつながった十数年前は、幻覚幻聴(幻視と幻聴)の経験を話すアル中もたくさんいました。(アルコール依存症の5割が幻覚を経験するとされた時代は遠い昔になりました)。どちらも被害的な体験であるという共通点もありますが、やっぱり統合失調の人の妄想体験はアル中の幻覚体験とは違っています。特に作為体験(誰かに操作され、何かをさせられる)は統合失調ならではのものです。

病気のコントロールがうまくできれば、統合失調の人の飲酒問題は消失することが期待できます。グループホームへの入居や、家族による服薬管理など、環境調整を優先した方がベターです。

アルコールや薬物のグループには「向精神薬は一切飲まない方がよい」とする風潮があります。これは依存症という病気の性質を考えてみれば当然のことで、その風潮を非難してみても始まりません。しかし、依存症以外の精神疾患を抱えた人には、不幸を招くこともあります。この風潮に乗って、必要な抗精神病薬の服薬を中止してしまうと、いくらも経たないうちに病状が悪化します。

アルコールの例ばかり取り上げてきましたが、ギャンブルにも同じ事が言えます。

だから、アルコール乱用やギャンブルへの没頭があるからと、外形的な症状ばかり見て依存症と決めつけ、アディクションのグループに通わせても解決に至らない場合も多いのです。その人にとって一番必要な援助はどんなものか、を見極める必要があります。

もちろん、依存症になりやすい体質を持っていれば、統合失調の人が大酒を飲んでアルコール依存症を併発することもあり得ます。しかし、断酒例会やAAミーティングで耳を傾け、自分の話をするという治療構造にマッチするためには、統合失調の症状がうまくコントロールされている必要があり、併発の場合でも治療は統合失調優先にならざるを得ないでしょう。そうやって、病気をうまくコントロールしながらAAに通っている人も結構沢山います。

相互援助(自助)グループは薬ではありませんが、やはり薬と同様に「用法・用量を守って、正しくお使い下さい」なのです。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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