心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2010年11月06日(土) アルコールが最も危険な薬物

イギリスでは違法薬物をその危険性に応じて三段階に分類している(クラスAが最も危険)のですが、David Nutt教授の属していたACMDというのは、科学的根拠に基づいてそのクラス分けを内務大臣に勧告する役割を負っていました。

ところがこのNutt先生「薬物の危険性は過大評価されている」という論文を発表してしまったのです。その論文によれば、違法薬物による害は人生の他の活動(例えば乗馬)による危険と大差はないというのです。例えば乗馬のせいで毎年10人が亡くなり、100件の交通事故が起きているが、それが乗馬依存症候群と呼ばれて禁止されたりしない。しかしこれはエクスタシー(MDMA)による害と「大差ない」し、乗馬を禁止すればこれらの被害は社会から取り除くことができる、と。

この論文は違法薬物撲滅運動をやっている人たちの怒りに火を付け、Nutt教授はクラスA薬物である大麻をクラスBに格下げしようとしている危険人物という烙印を押されてしまいました。大臣はNutt教授に対して「薬物の危険を軽視した」ことで謝罪するように要求しましたが、教授はこれを拒否。さらにACMDは格下げを勧告したものの、大臣はハッキリとこれを拒絶。これを教授は「科学的根拠を無視した政策決定」と非難し、大臣からクビを言い渡されてしまいました。

しかしNutt教授はこれで引き下がる人ではなかったようで、政策の影響を受けない独立した薬物研究機関を設立。他のメンバーと一緒に新しい論文をLancetに発表しました。これが昨今ニュースで流れていた「アルコールが最も危険な薬物」という話です。

こちらの新しい論文では、薬物による精神的、肉体的ダメージ、犯罪が社会に与える害、家族の苦境、環境や経済的ロスなどを総合し、使った本人が被る個人への害と、社会が被る害の二つに分けて評価してあります。

結果、個人が被る害が大きいのは、ヘロイン(34)、コカイン(37)、覚醒剤(32)。社会が被る害が大きいのは、アルコール(46)、ヘロイン(21)、コカイン(17)の順。かっこ内は点数です。両者を足した総合点では、アルコールが72点で第1位、ついでヘロイン55点、コカイン54点となっています。

これによれば、アルコールの害はタバコやコカインより3倍も多く、MDMAの危険性はアルコールの8分の1。新たにクラスBにランクされたメフェドロンよりもアルコールは5倍も有害なのだということになります。

アルコールの害が大きくなるのは、一人ひとりに与える害は小さくとも、社会で大量に消費されているがために、社会全体からすれば大きな被害を被っているというわけです。

BBCの記事では、この論文に対する酒業界の反応も載っています。酒を乱用するのは全体から見れば少数派で、残りの多くは社会的な飲酒を楽しんでいる、としているものの、アルコールの乱用は社会の重大なリスクであり、それを恐れているともあります。社会に対するアルコールの害が深刻化すれば、20世紀初頭のアメリカの禁酒法のような極端な施策も行われかねません。そうなってしまったら、酒を造り売る業界はほぼ根絶やしになってしまうのですから。

醸界ニュースという酒造・酒販業界のニュースメディアに、酒の安売りによって酒販業者の生活が脅かされており、政府が酒類の販売制限を行うように政治的なアピールを行っている、というニュースが流れていました。酒というのは半額にしたからといって倍売れる商品ではありませんから、酒の価格が下がることは販売業者によって死活問題なのでしょう。

酒造・酒販業界もWHOのアルコール制限政策を歓迎しているという話なのです。

Alcohol 'more harmful than heroin' says Prof David Nutt
http://www.bbc.co.uk/news/uk-11660210
Drug harms in the UK: a multicriteria decision analysis
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(10)61462-6/fulltext
飲酒はヘロインやコカインよりも有害であることを示す薬物別有害度グラフ
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20101101_alcohol_more_harmful/


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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