心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2010年07月20日(火) 操作的診断基準の影響

今回の話は結構長くなるかも知れません。
・・・すると途中で書くのに飽きてやめてしまうということもあります(途中で終わっている発達障害の話のように)。
けれど、ともかく書いてみるか。

さて、どこから話を始めたものでしょう。

僕はアルコール依存症であるほかに、うつ病でもあります。単極性、メランコリー型。うつ病には見えないと言われますが、それでも再発には気をつけなければいけません。

なので、ときおり依存症とうつの二つを抱えた人から相談を受けることがあります。ところが、話を聞いていると「どうもこの人はうつ病っぽくないな」とか「うつ病ではあり得ない」と感じることがままあるのです。

なぜそんなことが起こるのか、いろいろ考えたり、調べたり、人の話を聞いてみました。ひとつの可能性は、正しい病名が告知されていない場合です。つまり、本人に知らされた病名と、カルテに書かれた病名が違っているわけです。ある種の病気には世間の偏見がべったり張り付いています。正しい病名を告知することで、本人や家族がショックを受け、治療の拒絶・中断を招いてしまっては元も子もありませんから、より受け入れやすい「うつ病」という病名をとりあえず知らせておくというのです。患者の利益を考えれば、インフォームド・コンセントより優先されるわけです。

しかし、それに当てはまらない場合もあります。この場合には医者の診断と本人の知っている病名が同じです。にもかかわらず、うつ病っぽくないのです。これはどうしたことか。医者の診断が間違っているのか?

そんなことを調べていくうちに、操作的診断基準の抱える問題というのに突き当たりました。

操作的診断基準というのは、最近のDSM-IVのことを指します。それが流行る前に使われていた手法は「伝統的な診断」と言われ、病因論に基づいていました。病因というのは病気の原因で、例えばうつ病は内分泌系の異常です。同じように気分が沈んでも、原因が違えばうつ病とは違う病気です。病気ごとにある種のモデルが考えられ、そのモデルに当てはまるかどうかで診断を下します。そのモデルは必ずしも言語化できるものとは限らず、医者が経験によって作り上げるものであるかもしれません(病像)。

例えば統合失調症の人には、言葉では表現しづらいある種の雰囲気があります(硬さみたいなもの)。それはプレコックス感なのかもしれません。そして、その雰囲気の有無が手がかりの一つだと言われれば納得できます。

「ここにいない人の声が聞こえる」という症状があったとします。統合失調の妄想、解離性障害で別人格の声が聞こえている、薬物中毒の離脱症状、広汎性発達障害の妄想や思いこみと、いろいろな可能性が考えられます。症状だけでなく、その背景にある病気の仕組みを考えることは、素人目にも自然に思えます。

しかし、病因や病像を使うことには問題もあります。病気の仕組みは簡単には分からないし、議論の対象にもなります。病像という曖昧なものを頼りにすると、医者が違えば診断が違ってしまう可能性があります(実際プレコックス感を一度も感じたことがないという医者もいる)。

そこで、病因ではなく症状に注目し、診断の基準を明確にしたのが操作的診断基準です。例えば、抑うつ気分が二週間継続していて、明らかに他の病気でなければ、それはDSM-IVの「大うつ病性障害」に当てはまります。そして、大うつ病性障害のことを一般にうつ病と呼んでいるわけです。

こうして考えてみると、伝統的な診断による「うつ病」と、操作的診断基準による「大うつ病性障害」は全く異なる概念だということが分かります。それが一緒くたにされて「うつ病」と呼ばれていることが混乱の原因でしょう。

今の時代、うつ病とされている人の中には、昔のうつ病の概念に当てはまらない人がたくさん含まれています。その人たちに、服薬と休息という伝統的な治療を行っても良くなるとは限りません。

ひとつの病名の中に、いろいろな病気の人が混じっているのが今の時代の特徴

というわけです。

そしてそれはうつ病だけに限った話ではなく、依存症についても同じです。今日の雑記は、

依存症だという診断を受けても、実は依存症じゃない人が結構たくさんいる。

ということを書くための前フリというわけです。そして依存症じゃない人たち(アディクション概念に当てはまらない人たち)が依存症の治療を受けていることが、何らかの歪みを作り出しつつある・・・そういう話を書いていこうと思います。

(ヒマをみつつ続く)


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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