幸せなんだろうな - 2003年02月18日(火) そんな簡単に行くわけなかった。 雪はゆうべも降り続いたらしくて、大家さんのフランクがきれいにしてくれたはずの車は、また完全に雪に埋もれてしまってた。地下鉄で行こうかとも思ったけど、取りあえず戻って2階の大家さんのおうちのドアを叩く。「なんだ。雪道運転するのが怖いの?」ってフランクは笑う。「そうじゃなくて、車が出せないよ。またすごい積もってるの。もう地下鉄で行くしかない?」。そう言ったけど、駅までの道を、あんな雪の上どうやって歩けばいいのかわからなかった。 フランクはパジャマの上にガウンをはおった格好のままで、ガレージから大きなショベルを持って来る。それからすっごい手際良さで雪かきして、車も道の真ん中まで出してくれたけど、あんな寒い中あんな格好で汗いっぱいかいて、風邪引いちゃったかもしれない。ごめんなさい。 雪の少ない大きな道路を走ればよかったのに、いつもの近道を行ったからそれがまた大変だった。ハンドルに必死でつかまって、関係ない左足にさえ力が入る。交差する道路の右側からトラックがやって来て、わたしの向かう方向にはストップサインがあるのに止まらない。止まらない。止まらない。あーあーあーあーってまっ青になってたら、トラックが気づいて止まってくれた。ドライバーのおじさんが「先に行きな」って手で合図してくれたけど、言われなくたって止まらないから行くしかなかった。怖かった。 携帯が鳴る。ID が「restricted」になってたから、病院からだってわかった。病院の電話はどの番号も ID が出ないことになってる。勤務時間がわたしより早いジェニーからだった。「今どこ?」「途中。運転してる」「平気?」「なんとか。怖いよお」「慌てずにおいで。気をつけて運転するんだよ」。 昨日、「明日どうやって仕事行こう?」なんて電話したから、ジェニーったら心配してくれた。 病院に着いたら、もう一日が終わったみたいにくたびれてた。ジェニーなんか1時間かかって自分で雪かきしたって。わたしは雪かきすら自分でしてないのに。 バレンタインズ・デーの前日に、ジェニーは Dr. アスティアニにランチデートに誘われた。それから今日、「なんでバレンタインズ・デーの日に電話くれなかったの? 待ってたのに」って言われたって。ジェニーは Dr. アスティアニのこと、ランチデートのとき以来気になってる。 Dr. アスティアニって、おとどしのクリスマスパーティで会ってからときどきわたしをデートに誘ってくれてた。だからジェニーはそれを気にしてたけど、「あたしにはもう興味ないよ、もうずっと前から」って言った。結局一度もデートしてないし、わたしはしてもいいなってちょっと思ってたけど実際一度だって電話もくれたことない。あれはただ、そんなつもりはなかったのに多分わたしが思わせぶりみたいなことしちゃっただけだから。 「クリスチャンなんだって」って、ジェニーったら嬉しそうに言ってた。でもママは反対するだろうなって。信仰が同じでもカルチャーが違うから。ジェニー自身は信仰さえ同じなら、どこの人だって自分は構わなくて、だけど結婚ってことになると絶対両親は同じカルチャーじゃなきゃ許してくれないらしい。 だからカルチャーの違う人を今まで考えられなかったジェニーがそれでも気になってるってことは、よっぽど感じるものがあったんだと思う。 ああ、マジェッド。それ。理屈じゃなくて、それなんだって。 どんなにマジェッドがいい人で、それをどんなにジェニーが知ったって、それでどんなにジェニーがもっとマジェッドを好きになったって、ジェニーはマジェッドを愛せない。 カダーがわたしに「きみを愛せない」って言った理由もそういうこと。 「愛っていうのは、何もかも受け入れられることなんだ」ってあの時カダーは言ってた。 カダーのそれはもういいんだけど、わたしはもういいんだけど、 ねえ、マジェッド。「move on」しようよ。あなたがいつもわたしにそう言ったんだよ。 運転してるあの人が言った。 今日は車の中だから、誰もいないから、いくらでも大好きが言えるよ、って。 今日はいくらでもキスもしてあげられるよ、って。 大きなライブが決まって、それが嬉しかったせいかな。 片手で運転しながら携帯握ってるあの人の笑顔が、いつもみたいにわたしの頭の右上に見える。あの人の仕事の成功はいつだっていつだってわたしも嬉しい。 はじめから、絶対に、絶対にどうにもならないってわかってた。 だから何もかも受け入れられるのかもしれない。 何もかも受け入れて、無条件で愛せるのかもしれない。 形のあるものも目に見えるものも、何も望めないってわかってるから。 そんな幸せ。切ないね。 だけど幸せなんだろうな。 わたし、幸せなんだろうな。あの人とのこと。 -
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