ディーナのこと - 2002年12月15日(日) 日曜日の出勤。 いつもはカバーしないフロアで、日本人の患者さんに会った。正確には日本人が入った患者さん。 今日退院するから診察は簡単に済ませておうちでのケアを説明し終えたら、名前を聞かれた。「日本人なの? 私もよ」って、その人が嬉しそうに言った。見かけは全然日本人じゃなくて、おばあちゃんのおばあちゃんくらいの人が日本人だったらしい。「まだ日本語しゃべれますか?」って突然流暢な日本語で聞かれて、「はい」って緊張して答える。それから「日本で生まれたの? 日本のどこ?」ってほんとに流暢な日本語で聞かれ続けて、面接受けてるみたいに緊張しっぱなしで答えてた。日本語話すのになんでこんな緊張するのかわかんない。 「いろいろお世話になりました」って丁寧に頭を下げて言われて、「こちらこそ」って答えてしまった。バカじゃん。めちゃくちゃ恥ずかしかった。 夜、母から電話があった。声が震えてた。 離婚の慰謝料をまるごと騙し取られたのに、わずかに残った貯金を死んだ夫の借金の返済に追われる妹にやってしまって、なんでこんなことになってしまったんだろうとみじめで不安でやり切れない生活に疲れて死にたくなって、勧められるまま神経内科に通い始めたって言う。お薬を飲んでて少し落ち着けるようようになったから、それでわたしに電話してみたって言った。 ちょっと前のわたしなら、一緒になって声が震えたかもしれない。 涙声の母の話を最後まで聞いてから、「お母さん?」って呼んだ。 どうしても話さずにいられなくなった。そんなこと、絶対信じるような人じゃないはずだけど。 ディーナに出会ったこと。「あなたのお母さんがとても苦しんでる」って言われたこと。ディーナに言い当てられた母の過去のこと。母の結婚のこと。母と父のこと。わたしが黒い影に覆われて生まれたこと。ダークネスって言ってもわかんないだろうから、「黒い影」って言った。黒い影は母につきまとってたもので、それをわたしが生と一緒に母から与えられてしまったこと。黒い影が磁石のように悪いことを引き寄せて来たこと。母も黒い影にまだ覆われたままなこと。 「その人が、あたしの黒い影がなくなるように助けてくれるって言ったの。黒い影がなくならなきゃあたしは幸せになれなくて、悪いことが増えてくばかりだって言われたの。あたしの影がなくなったら、お母さんの影もなくなるって」。 はじめはお金を取るビジネスだと思ったけど、そうじゃなかった。その次は怪しい宗教かと思ったけどそれでもなかった。言い訳するみたいにそう母に言った。「何バカなこと言ってるの。あんた騙されてるんだよ。それか、その人オカシイんじゃないの?」とか言うかと思ったけど、母は黒い影の話をこわいくらいに納得してた。いつもいつも胸の奥の方が痛かったのが、ディーナに言われたとおりのことをして、信じてお祈りしてたらなくなったことも話した。母はそれも信じてくれた。 「私の影もなくなるのかしらね」。幸せなときならそんなこと信じないだろうけど、今ならどんなものにだってすがりたい、そんな気持ちだ、って母は言った。 そうだよ、お母さん。だからあたし、お母さんの分も毎日お祈りしてるの。毎日毎日、必死になってほんとに一生懸命信じてお祈りしてるの。そう言ったら、泣きそうになった。 「何に向かってお祈りすればいいの?」って母は聞いた。 「その人は神さまって言う。でも、自分を助けてくれる大きな力がどこかにあるって信じてお祈りすればいいんだと思うよ」。神さまなんて信じそうにない母にそう答えた。「仏さまでもいいのかしら」って言うから可笑しくなったけど。「気の持ちようってことだわね」って母は言ったけど、それでもいいと思った。 それでもいい。母の気持ちが楽になるなら。 それでもいい。母は笑わずに聞いてくれた。 それでもいい。幸せに向かえることを信じてみるって母は言ってくれた。 クリスマスプレゼントを送ってあげるよ、お母さん。 ハッピーな気分になれるような、明るい素敵な洋服。昔みたいにいつもおしゃれでいてよ。 妹にも送ってあげよう。 今日もお祈りするよ。お母さんのために。わたしは信じるよ、お母さんの幸せ。 それから、妹のために。 自分のために。あの人のために。カダーのために。 別れた夫のために。 大切な友だちのために。 そんなに欲張ってもいいのかな。 いいってことにする。いいに決まってる。 -
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