そろそろ飽きてきたのでどうしようかと思う。。。(笑)
***さやけき月の物語****
□□□孤独な剣のキング□□□
(4)
ワトーは大陸の生まれで、もともと貧しい農村に生を受けた。 持って生まれた精霊の加護に気付いたのは幼い頃だったが、小学校を出る時、両親が無くなり、それ以来アントリーフの叔父の家に引き取られ、生活していた。叔父は薄く遠き種族の血をひいており、ワトーに様々なことを教えてくれた。学者を目指した時期もあったが、それより自分の血のルーツに興味を覚え、保護委員会に入った。 この島に来たのは、太古の昔の遺跡がまだ大陸に比べて手つかずで放置されているため、その調査もかねて来島した。 偶然にも同じ宿で自分と同じ種族の血をひく人間に会うことになり、手放しで喜んだが、友好関係はあまり旨くいってないようだ。
「……どうして使えないんでしょうねぇ………。」ワトーは古書をぱらぱらとめくりながら、隣に宿泊している人間を思う。 ハルシオンほど濃い血をひいているなら(姿形からワトーはそう思った)太古の術がむしろ自分などより使えて当然なのだ。 ワトーには彼女をとりまく精霊たちの大きさに驚いたのだが、当の本人はそれに全く気付いていないのだから少々悔しくもある。 本を閉じて、鞄に入れ身支度をする。これから、本来の仕事をしなくてはならなかった。島の奥地へ行く馬車はあと10分ほどで広場に来る。ワトーがショートソードを腰につけた時だった。
コンコン、バン!
「失礼するっ。」ノックと扉が開くのが同時だった気がするが、まあいい。そんなことより入ってきた人物は扉を閉め、内側から押さえている。 「ハルシオン!!どこへ行ったっ!!」かん高い声と足音が扉の前を通り過ぎて、聞こえなくなるまで、彼女は扉に張り付いていた。
「…………薊さん、まだ怒ってたんですか……。」ワトーが言うと、扉にはりついていたハルシオンは、ようやっと力を抜いて、ため息をこぼした。 「……柘榴と会ったのが気に入らないらしい………。」 「柘榴?」 「ああ、太夫の名前だと思うが…昨日会ったんだ。」ハルシオンはそう言うとワトーの姿を見て、 「どこかへ出かけるところだったのか?」 「ええ、この島の遺跡に。……よろしければ…」 「私も一緒に行っていいだろうか…?」 「薊さん、当分怒ってそうですからねぇ………。」ワトーは苦笑した。 「あんな男のどこがいいのか、よくわからないが…。」ハルシオンは呟く。 「そうそう、バスがもうすぐ来るんですよ、裏口から出ましょう。」 「助かる…。」ハルシオンはそう言ってまた盛大なため息をついた。
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「……ワトー……。」ハルシオンはガタゴトと揺れる荷馬車の中で隣にすわっているワトーに声をかけた。その瞬間、前の観光客がどよめいた気がするが、まあいい。 「何でしょう?」ワトーはいつもかわらずにこにこと笑みを絶やさない。 「私の…気のせいだと思いたいんだが……。」そう呟いて視線を廻りに巡らせる。 「…そんなに珍しいものなのか…?」好奇な対象にされることには慣れていたが、荷馬車が広場を出てから聞こえるヒソヒソ話は、確かに自分を指すものであった。 「はぁ。これから行く先が行く先ですからねぇ。でも、大丈夫ですよ!保護委員会がある限り、種として狩られる心配はありません!」 「……いや、私はそんなことを心配してるわけじゃ……」ないんだが、と続けたかったが、ワトーと話しはじめたことがまた荷馬車の客をあおったようだった。時折聞こえる会話にうんざりしながら、ふと横を見ると、1人の男がじっとこちらを見ていた。 (……………きもちわる……。)フードからのぞく顔色は、別段普通の人間のそれなのだが、荷馬車においてもフードをとらないという神経がハルシオンには薄気味悪く感じた。 「さあもうすぐ着きますよ。」そんなハルシオンの気持ちを知ってか知らずか、ワトーは明るく言った。
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遺跡は荷馬車を降りたところから、さらに山の中にあった。これ以上好機な視線にさらされるのもうっとおしかったので、ワトーとハルシオンはそこから持ち前の早足で、森を駆け上がった。背中に歓声を聞いたが、聞かなかったことにしようとハルシオンは思った。 「こりゃすごい!」ワトーは見えてきた森の神殿を目に叫んだ。 現在観光として一部だけが公開されているが、すべてを調査するにはまだ時間がかかった。 森の茂みの中に埋まっている石は、何百という年月を経て、緑のコケに覆われている。 「すごいな…」ハルシオンもこれには素直に感動した。 「…ああ、入り口はこっちです。」ワトーは以前にも来たことがあるので、ハルシオンに案内する。 「……でも、なんだか少し小さくないか……?」ハルシオンは感じたままの感想を言った。 「そうなんですよ、この地区一体の村か町だとすれば、こんな規模じゃあないはずなんですけどね…。」ワトーも首をかしげる。 神殿内は生活感は全く無く、ひっそりと儀式だけが執り行われたような空間であった。石造りの高い壁も柱もこれだけの年月がたつにもかかわらず、損傷という損傷が少ないのは奇跡的だった。長い廊下を歩いていくと、一つの間に出る。 「ここが終点です、今の所はね。出土品は山の下の博物館に展示してありますから、あとで行きますか?」幸いにして、その日一番はじめの荷馬車に乗ってきた所為か、人は今のところワトーとハルシオンだけだった。 「ああ、でもなんだろう…」ハルシオンは壁に描かれた奇妙な文字や、数々の絵を見回す。 「どうか、しましたか?」ワトーはそんな様子を不思議そうに眺める。 「……ここは、何かの出入り口じゃないのか…?」ハルシオンはまた自分の感じたことを述べた。この部屋は誰かが訪れた時に迎える為にあるような造りになっていた。けれど、それにしてはひどく狭いのだ。むしろ、ここから先へ行く為の待ち合い室のような感じだった。 「……出入り口…?」ワトーも見回してハルシオンを見る。 「そう、……あ?」ハルシオンが壁をじっと見ていたら、一点が光っているのに気付いた。その前まで行くと、小さな穴がある。 「……???虫にでもくわれたかな…?」石なのだから、こんな人工的な穴があること事体おかしい。ハルシオンはその穴をのぞいてみたが、何も見えなかった。 「…そんなところに穴があったなんて…。」ワトーはともすれば蔦に隠れてしまうような小さな小指の先が入ればいいくらいの穴を見た。 「おかしいな、光ったと思ったんだけどな…」ハルシオンが呟くとその息が穴にふれて、鈍く光った。 「!」二人は顔を見合わせて、もう一度ハルシオンが穴に息を吹き込む。今度は、淡い緑色に光った。 「ワトー。これはどういうことなんだ?」 「わかりません。穴…穴……。息……。呪…・」ワトーはしばらく考えていたが、はっと顔を上げて、 「ハルシオンさん、穴にむかってこう言ってください。『ファレノ・プシス・ティフマ』。」 「いや私は…」ハルシオンはワトーが言う方がいいのではないかと思ったのだが一度聞いた言葉は脳裏に焼き付いた。そしてワトーが黙ってこちらを見ているので、ハルシオンは穴にむかって言った。 「ファレノ・プシス・ティフマ」 すうっと緑色に光った穴は、しだいに青くなり、やがて白くなった。その後、光が失われたかと思うと、突然地鳴りががして床が動き出した。 「!!」ハルシオンとワトーは一歩退くと、足下に奇妙な図柄が現れ、光を放っていた。 「これは…!」ワトーは驚いて古書を取り出した。その図面は失われた種族の残したものだった。 「行きましょう!」ワトーはハルシオンの手をひき、図面の上に立った。 次の瞬間彼等の姿はその部屋から消えていた。 ただ、ひとつそれを影から見つめる目をのぞいては…。
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「なんてこと……」ハルシオンは目を見開いた。 そこには、光り輝く神殿も、沢山の遠い種族も存在しなかった。高い木々は枯れ、ただ、空と大地がそびえたつ貧しい土地があるだけだった。 「…遠い種族は確かにここに存在したのです…それが、どうして滅びてしまったかは…わかりませんが…」ワトーは悲しそうにその風景を見て言う。 「けれど残されたものはあります。『ファレノ・プシス・ティフマ』僕の解釈が正しければ、『永久なる・真実の・継承』そういう意味です。未だ未解明な部分が多いので、この言語にはまだ名がついていませんが、ハルシオン、あなたの御両親はそれを御存知だ。」 「私の…?」ハルシオンはワトーを見る。 「『ハル・シオン』…意味は…『高く・望まれる者』…素晴らしい名です。」ワトーは目を細めてハルシオンを見る。 「ポート・ワトーは?」ハルシオンはワトーに聞く。 「『尊き心、奢らぬ賢者』…ちょっと名前負けですかね…」ワトーはそう言って、苦笑した。 そして二人は歩き出した、時代に残された残像の元へ。
□□□続く……
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