航海日誌

2002年11月18日(月) 第三回

****さやけき月の物語****


□■□孤独な剣のキング□■□

(3)

「AコースとCコースを三つずつ、黒生とスペシャルデカンタ、チキンの丸焼き…本日の魚料理全般で!!」高らかに注文した主は目の前にいる。
(……………)
「………何で、こんなことになってるんだ…………?」私は低く呟いた。
宿の一階の食堂の、一番奥のテーブルには、私の他にあと三人いた。
「まあ、いいじゃないですか、ご飯くらい。一緒の方が美味しいですよ。」のんびりメニューを見ているのは保護委員会の男。
「民間人にまぎれなくてはならないから、こちらに泊まることにした。何か問題があるか?」フードをとった亜麻色の髪の少女は、私に聞く。
(よりによって、ここじゃなくてもいいだろうに…。)
「そういえば、自己紹介もまだでした。僕はポート・ワトー。ワトーと呼んでください。」そういって、ワトーは例の名刺を少女に渡す。
「私は……薊(あざみ)…こっちは綾瀬。追われていた理由は話せない。」
「別に話してくれなくていい。こっちも面倒事はごめんだ。私はハルシオン。」
「ハルシオンとやら、この街に何日か滞在しているなら知っているか?『廻る木馬』を。」薊が聞く。
「?」
「ああ、酒場ですか。…もしかして薊さんも『太夫』目当てですか?」ワトーが言う。
「あの、男娼みたいな芸人のことか?」太夫といわれて合点のいった私は薊に聞く。
「失敬だな、ハルシオン。彼はどこにも雇われていない流れの吟遊詩人だぞ。この島で彼を知らないのはモグリだ。」
(って…言われてもな…)どうやら目を輝かせて言うことを見れば、薊は『太夫』とやらのファンなのだろう。
「じゃあ、後で行ってみましょうか。」ワトーが言う。
「私はいい。」
「駄目だ。太夫を男娼だなんて言う人間にはしっかり見て、訂正してもらわないとな!」
(何であなたがきめるんですかね…)いつの間にか意気投合した二人に押される形で食事の後、『廻る木馬』に行くことになった。

□□□

「遅かったか…?」薊は『廻る木馬』のカウンターを陣取って店の男に聞く。
「まだのようですね。」ワトーは入り口付近で私に言う。
「悪いが、私は帰らせてもらうよ、苦手なんだ…」私はワトーの返事を聞く前に店を出た。
夜はマントを着ていても、少し肌寒い。空気が澄んで、三日月が夜空に奇麗に輝いている。宿に近い弓張橋を渡る時ふと川を見ると、三日月がうつっていた。
ガンッ!
…ほんの数十メートル後ろで(正確には私の歩いてきた方だ)そんな音がして、暗闇を見つめるが何もない。
しかし音は聞こえた。
カラン、コロン、カラン、コロン、
下駄の音だ。
「宵待月に身投げなんて味気ないことはしてくれるなよ、金色の人。」つややかな唇がそう呟く。
「生憎だがこの深さでは寝相が良くても無理だろうよ、闇色の人。」私は真似てその男に言う。
男はふらりとその羽織りを揺らすと、橋にもたれかかった。
「二度目だ。」
「音楽が嫌いでね。」

「あまりに不粋なんで、覚えていたよ。金色の人。」男からは白粉とほのかな別の薫りがした。
「嫌いになったんだ。いいだろう?1人くらいそういう客がいても。」
「種族的には、愛でるはずだけどな…」
「純血種じゃないからな。御期待に添えなくて。」
「いいや、見る目がある。」男は面白そうに言うと、振り返る。
「客が待ってる。」
「いつまでいる?」
「この、欠けた月が満ちるまでは。」
「では次の邂逅に期待しよう。____身は投げてくれるなよ、金色の人。」そう告げて歩いて行く後ろ姿に吐き出した。
「ハルシオン。名はそういう。」
「ハルシオン。」男は一度呟くと、頷いて手を振った。
「柘榴(ざくろ)」
カラン、コロン、カラン、コロン、カラン、

また下駄が遠ざかって行く。
私も宿に向かって歩き出す。
「柘榴……」ぴったりだと思った。しかし太夫とは何だろう?
翌朝、私は薊に叩き起こされ、しばらく説教を頂くのだった。

□□□続く…


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