****さやけき月の物語****
□■□孤独な剣のキング□■□
(3)
「AコースとCコースを三つずつ、黒生とスペシャルデカンタ、チキンの丸焼き…本日の魚料理全般で!!」高らかに注文した主は目の前にいる。 (……………) 「………何で、こんなことになってるんだ…………?」私は低く呟いた。 宿の一階の食堂の、一番奥のテーブルには、私の他にあと三人いた。 「まあ、いいじゃないですか、ご飯くらい。一緒の方が美味しいですよ。」のんびりメニューを見ているのは保護委員会の男。 「民間人にまぎれなくてはならないから、こちらに泊まることにした。何か問題があるか?」フードをとった亜麻色の髪の少女は、私に聞く。 (よりによって、ここじゃなくてもいいだろうに…。) 「そういえば、自己紹介もまだでした。僕はポート・ワトー。ワトーと呼んでください。」そういって、ワトーは例の名刺を少女に渡す。 「私は……薊(あざみ)…こっちは綾瀬。追われていた理由は話せない。」 「別に話してくれなくていい。こっちも面倒事はごめんだ。私はハルシオン。」 「ハルシオンとやら、この街に何日か滞在しているなら知っているか?『廻る木馬』を。」薊が聞く。 「?」 「ああ、酒場ですか。…もしかして薊さんも『太夫』目当てですか?」ワトーが言う。 「あの、男娼みたいな芸人のことか?」太夫といわれて合点のいった私は薊に聞く。 「失敬だな、ハルシオン。彼はどこにも雇われていない流れの吟遊詩人だぞ。この島で彼を知らないのはモグリだ。」 (って…言われてもな…)どうやら目を輝かせて言うことを見れば、薊は『太夫』とやらのファンなのだろう。 「じゃあ、後で行ってみましょうか。」ワトーが言う。 「私はいい。」 「駄目だ。太夫を男娼だなんて言う人間にはしっかり見て、訂正してもらわないとな!」 (何であなたがきめるんですかね…)いつの間にか意気投合した二人に押される形で食事の後、『廻る木馬』に行くことになった。
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「遅かったか…?」薊は『廻る木馬』のカウンターを陣取って店の男に聞く。 「まだのようですね。」ワトーは入り口付近で私に言う。 「悪いが、私は帰らせてもらうよ、苦手なんだ…」私はワトーの返事を聞く前に店を出た。 夜はマントを着ていても、少し肌寒い。空気が澄んで、三日月が夜空に奇麗に輝いている。宿に近い弓張橋を渡る時ふと川を見ると、三日月がうつっていた。 ガンッ! …ほんの数十メートル後ろで(正確には私の歩いてきた方だ)そんな音がして、暗闇を見つめるが何もない。 しかし音は聞こえた。 カラン、コロン、カラン、コロン、 下駄の音だ。 「宵待月に身投げなんて味気ないことはしてくれるなよ、金色の人。」つややかな唇がそう呟く。 「生憎だがこの深さでは寝相が良くても無理だろうよ、闇色の人。」私は真似てその男に言う。 男はふらりとその羽織りを揺らすと、橋にもたれかかった。 「二度目だ。」 「音楽が嫌いでね。」
 「あまりに不粋なんで、覚えていたよ。金色の人。」男からは白粉とほのかな別の薫りがした。 「嫌いになったんだ。いいだろう?1人くらいそういう客がいても。」 「種族的には、愛でるはずだけどな…」 「純血種じゃないからな。御期待に添えなくて。」 「いいや、見る目がある。」男は面白そうに言うと、振り返る。 「客が待ってる。」 「いつまでいる?」 「この、欠けた月が満ちるまでは。」 「では次の邂逅に期待しよう。____身は投げてくれるなよ、金色の人。」そう告げて歩いて行く後ろ姿に吐き出した。 「ハルシオン。名はそういう。」 「ハルシオン。」男は一度呟くと、頷いて手を振った。 「柘榴(ざくろ)」 カラン、コロン、カラン、コロン、カラン、
また下駄が遠ざかって行く。 私も宿に向かって歩き出す。 「柘榴……」ぴったりだと思った。しかし太夫とは何だろう? 翌朝、私は薊に叩き起こされ、しばらく説教を頂くのだった。
□□□続く…
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