航海日誌

2002年11月15日(金) 第一回

というわけで、短期連載(多分)管理人飽きしだいやめる。(笑)

*****さやけき月の物語******

□■□孤独な剣のキング□■□

 その島には観光で行った。そもそも、長期滞在するつもりなどまったくなかったのだ。
道ゆく人間たちの視線を感じながら、一件の酒場に入る。
カウンターでウォッカを頼んで、ふと見ると店の片隅に座敷があった。
「ああ、もうすぐはじまりますよ…」視線に気付いたのか、店の男が言う。
座敷には黒い格子と御簾があった。中央に紅色の布が敷いてある。黒で統一された店内でもそこだけ異様な場だった。
「太夫!」やがて、その声に振り向くとひとりの男が登場した。
東洋の衣服を着ているその男は、がっしりとした体躯で背も高い。濡れたような黒髪は私と同じくらい長かった。白い肌にあでやかに光る唇が妖しく、まるで夜の神のようであった。
(……ここは男娼を扱うのか…?)怪訝な顔をしてそれを見つめていると、客の間から拍手がおこり、男はどかっと赤い布の上に座った。
次に男が取り出したものを見てようやく納得がいった。カウルという弦楽器だ。この島特有のカモシカの骨と木をベースに作られている。
私はそっと席をたった。音を出す店が嫌いだからだ。しかし、客の雰囲気を壊さないために足音もたてず店を出た。
扉が軽い音をたてると静かな調べが耳に入った。それはしばらく耳に届いていた。


□□□

 宿は街のはずれにとった。二階の一番端の部屋だ。窓に腰掛けて月見を楽しんでいる時に、ふと視界に光が入った。
「赤い…光?」
それは森の方からだった。
(物好きな人間が夜遊びでもしているのか…?)
森はまだ未開発で、とても人間の入れたものじゃなかったはずだ。
そこで小さく悲鳴が聞こえた。
とても小さい、何故ならその声の主はどうやら森にいるらしいから。
普通の人間なら聞こえないだろうが、やっかいなことに私には聞こえてしまった。
(どうするかな…)面倒事には関わらない方がいい。私はただの観光客なんだから。もう一度悲鳴を聞いた時には窓辺を軽く蹴っていた。

□□□

 男は座り込んだまま、動けなかった。
腰が抜けたのだ。文字とおり、自分の力ではどうにも動けなかった。
肝試しだったのだ。
森の悪魔を捕まえるという、馬鹿げたゲームだ。皆、迷信だとばかり思っていた。
それが、こんなことになるなんて…!
ゆっくりと近付いてくる影に目を見開いて、死の瞬間を待った。
ひゅっ、と風を切って目の前に現れたのは藍色のマント。見上げると月明かりに微かに白金の髪が舞った。
「行け!」わずかに顎をひいてこちらを確認した声に促されて身体の自由が戻ってくる。
(女……!?)わけもわからず男は駆け出した。背後で剣をさばく音がする。その音が聞こえた時、男は二度と振り返らず走っていった。

□□□

(何だこれは…!?)
一言で言うなら、仮面の剣士。しかしこの暗闇に重い鎧を身につけ、その姿すべてを覆っているのは、まともな神経の持ち主がやることではない。
黒い剣士は剣を抜くと、攻撃してきた。とっさに剣を抜き受けてしまったが、ひどく重たい手ごたえに後悔した。
(勝てる相手じゃない…)二度交えてはっきりとわかった。この剣士は強い…!
痺れている手を握りしめ、どうにか剣をはじかれないようにするが、そもそもその一ふりの力が歴然と違うのだ。だがここから逃げなくてはならない。隙は無かったが、チャンスはあった。
(ラッキーなのかもな。)遊んでいるのだ、この相手は。自分より数段上の剣士であるのに、何故かこちらと同じ程度かそれより少しだけ上の状態で切り込んでくる。
(……まるで、退屈しのぎに遊ばれているみたいだ。)密かに微苦笑して、左足を深く踏み込んだ。
大きく相手の剣をはじいたところで、空へ舞う。
高い枝に着地すると、下を見た。黒の剣士は追ってこないようだった。
私はそのままきびすを返し、走り出した。
誰にも追いつけないような速度で。

□□□つづく…


 < 過去  INDEX  未来 >


SIA [MAIL] [HOMEPAGE]