一平さんの隠し味
尼崎の「グリル一平」のマスターが、カウンター越しに語ります。
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番外(スキー)編 3
とんでもない話があるんですけど。
六甲山ご存知ですよね、くねくね曲がった道を登って上がるわけですが、あの道のガードがない道を想像して下さい、 その名は「ウイングヒルズ白鳥」!まだオープンしたてのスキー場でした。
スキーをやり始めてまだ、二年目の滑りたくてたまらない頃、友達二人と息子を乗せて出かけたんです、 その頃は、まだ四駆の車が少ないころで、ほとんどタイヤチェーンを持参してゲレンデへ向かったものでした、
その日は友人に、チョッと古いけど、と、言ってたプラスチックのチェーンを借りて、いざ出発!スキー場が近くになった頃、 チェーン規制にかかり、何とかタイヤにチェーンを付けて山を登りはじめました、くねくねとガードレールのない、すぐに崖下の道を登り、もう直ぐ頂上って時にチェーンがプチッと切れたんです、
とりあえず、切れたチェーンを拾って蛇行運転しながら、そのまま駐車場へ・・・、 みんな滑りたいことが先で、帰りの事なんか誰一人、心配する余裕はなかったのです・・・、
汗いっぱいかいて、みんなでお昼時間のとき食べながら一人がポツリと言ったのです、 「そう言えば、チェーン切れてたよな、帰りどうするん?」「・・・・・・・」 「雪がだんだん、ひどくなってきてるで!」 「売店でチェーンぐらい売ってるやろ!なんとかなるって!」「そんなことより早く滑ろ!」これは私!
そして・・・三時ぐらいになり、みんなで帰ろうとした時、雪がひどくなり、慌てて売店に、 「すみません!チェーンありますか?」 店の人が 不思議そうに・・・・ 「ありませんよ」 「タイヤはスタットレスだったら、まだチェーンは巻かなくても大丈夫ですよ!」と、店の人 「いいえ・・・違うんです、あのーノーマルタイヤなんですけど・・・」と、息子が、 「えええー!」と、店の人
売店を出て、みんな無口になってしまった、・・・車はセドリックのワゴン車でした、 さあー帰るしかありません、みんな笑いもなく、車の中は、とても静かでした・・・。 サイドギヤを引きながら、下りにさしかかったとき、いきなりタイヤが滑りはじめ、蛇行はじめ、ハンドルが・・・
タイヤは回ってない状態でそのまま滑ってました、どんどん加速してゆきます、全身が突っ張って! 全身、汗が吹き出て、後ろの友人二人は「ああああー」「危ない!」「危ない!」「止めよう!」 止めようにも止まらない!だんだん前の車の車間距離が縮まって!サイドをおもいっきり上げると少しは減速した!
すると息子が「お父さん!山側の土手に車を当てながら減速したら!」・・・・・「なるほどいい考え!」 さっそくハンドルを山側に切り横のボデーを当てながら「ズズズズゥー!」「ガガガガァ!」 ボンネットの上には山からの雪がボタボタと落ちてくるし、スピードが出ないように、出ないように!・・・。 後ろの車も、前の車がとんでもない事をやらかしてるので、100メーター近く車間距離をとっていました、 僕たちの前の車もバックミラーに写る後景に、恐れをなし、かなりの距離を開けられてました、(笑) 後ろに座ってる友人も顔色がだんだんなくなってゆき、一人が気分が悪いと言い出し、「止めて!」 「止まらへんて!車が勝手に動いてんねんて!」「あかん!反対方向に動きだしたでー!」
車は山側だけでなく反対のガケ側にも、勝手に向かいだし・・・「ああああー」「落ちるうー!」 運がいいのか、1メーター位の高さの雪が積もってて、そこに「ガガガア!」「ハンドル切って!切って」 「落ちるうー!」 あの時は、本当に落ちるのかなーって思いましたよ、後ろの二人も、もう最後だと 覚悟をしてたそうです・・・谷側の雪のガードレールにボンネットが突き刺さり、そのままの状態が20秒 ほど止まってました、僕が「今だ!ゆっくり降りて!」、うしろが降りようとした時、ボンネットが雪の中から ずれ出し、雪道にもどりだした、二人はまた、ドアを閉めて後ろで「あああああー」と、大声が始まった!
また山側の壁に「ガガガガー」・・・何回となく繰り返し、繰り返し!えらいもんで恐怖感もいつのまにか 消え去り、気が付いたら下りも最後のカーブにさしかかり、みんなで「着いたー!」「生きてるでー」と、 笑いながら、みんなで握手したり、手を叩いたり、少し広い駐車場に車を止め、全員で後ろの山を 眺めて、なにか感無量な思いが・・・息子が・・・ポツリと、 「あの山を下りて来たんだよなー」「ほんまに死ぬかと思った!」・・・。
何年か経った今でも後ろの二人が店にきます、冬になりスキーシーズンになると必ずこの話題に なります・・・いまでは笑い話になってますが、あの時、私たちが下から山を見上げてる時、 後ろの二人の内の一人が駐車場のずーっと奥のほうで「ゲーゲー」と吐いてたことは内緒です。
またこの次
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