TENSEI塵語

2007年07月19日(木) おもろい女

東野圭吾の「幻夜」を500ページ(6割)ほど読んだところなのだが、
「白夜行」の雪穂に引き続き、美冬というヒロインがおもしろい。
謎の美貌の悪女として、一刑事が化けの皮を剥がすために追いかけるが、
なかなかぼろを出さない、、、どちらも実にそつのない行動を取る。
雪穂に桐原という陰のパートナーがいたように、
美冬にも雅也という陰のパートナーがいる。
阪神大震災の直後の混乱の中での雅也の密かな凶行を美冬は見ていた。
しかし、美冬はそれを咎めるどころか、雅也の危機を救い、共に上京した。
その後の2人の関係がどのようなものかはだんだんわかるようになっている。

「白夜行」では、雪穂たちはあまり登場しなかった。
10日ほど前に、「白夜行」の不思議な印象を書いた。
「出番も少なく、中心として描かれないのに、主役のようだ」
それに比べると、「幻夜」の2人の出番は多い。
昨日読んだ部分の、美冬と雅也のやりとりはおもしろかった。
美冬は雅也の前でだけ、関西弁丸出しで話す、その調子もおもしろい。
そして、雪穂もこんな考えだったのだろうな、と思う。

美冬が、銀座の一流宝石店の社長と結婚しようとしていることについて。。

「美冬、おまえ、本気か」
「何が?」
「何がて、、、本気であの男と結婚する気なんか」
「当たり前やないの。そんなこと、伊達や酔狂でできるかいな」
「けど美冬はあの男のことを好きでも何でもないんやろ。それやのに、、」
「ちょっと待って。そのことやったら前から何遍も説明してるやないの。
 あたしはあの男が好きなのと違う。あの男の妻という座が好きなんよ。
 好きなものを手に入れたいと思うのは自然なことやろ?」
「そんなん、、、おかしい」
すると美冬は真顔に戻り、腕を組んだ。低い声でしゃべりだした。
「雅也、あんた、金のために結婚するのは動機が不純やとか
 いいだすんやないやろね」
再び横を向いた彼に、しょうがないなぁ、と呆れたような声を出した。
「ええ歳して結婚に理想を求めてどうするの。
 結婚は、人生を変える手段なんよ。
 世の中で苦労してる女を見てみ。みんな旦那選びをしくじってる。
 真面目第一とか、子ども好きとか、そんな寝ぼけたようなことを
 結婚の条件にしてるからや」
「好き同士が一緒になる、というのが本当の結婚とちがうのか」
「好き同士やで。秋村さんはあたしのことが好きやし、
 あたしは秋村夫人という立場が好き。何も問題ないやろ」
「俺の言いたいのは」
「わかってる」美冬は彼の口の前に手を出した。
「惚れ合ってる者同士のことやといいたいんやろ。
 けどな、そういう2人に結婚という形が必要か。
 あたしが本当に好きなのは雅也だけ。
 雅也もあたしのことを愛してくれてる。そうやろ?
 あたしらには結婚なんていう形式は必要ない。
 そんなものより、もっと強い絆で結ばれてる。
 あたしが結婚した後も、2人はずっと一緒や。
 あたしにとって雅也はこの世で信用できる唯一の同志。
 あたしも雅也にとってそういう存在でありたい。
 ただし、2人の関係は誰にも知られないようにする。
 相手が苦しいとき、舞台の裏側から助けてやる。
 世間の目には真実は見えへん。警察にもわかれへん。
 それでええと違うの?」
「けど俺は、美冬がほかの男のものになるというのが我慢ならん」
「結婚したからというて、あの男のものになるわけやない。
 名字が変わるだけや。
 たったそれだけのことで、遺産の相続人と生命保険の受取人になれる」


2人のやりとりはまだまだ続く。美冬は愛や幸福についてズバズバ語る。
それだけでなく、雅也を精神的に強くするための調教にも余念がない。
そうして2人の会話は、新しい罠(策略)の相談へと入っていく。

そういうもんじゃないでしょ、美冬ちゃん、と言うべきところだが、
美冬の言葉が妙に説得力をもって迫って来るのは、
この物語全体の雰囲気や、ここまでの経緯のせいでもあるだろうし、
具体的な形は成してないが、菜々子さまをも超える程の美女のイメージが、
私の中にできあがってしまっているからでもあるだろう。


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