“僕(茂樹)たちは、幼少年時代から、頭に(「部落」にたいする差別蔑視を)滲み込ませられて成長したわけです。だけど、差別するのはよくないことだし、それはわかっております。・・・
“あなたも言われたように、今日この差別観が最も露骨に表面に現れるのは、「部落民」と「普通人」との結婚問題の場合のようですが、僕は、僕自身が「部落」の婦人と結婚することはあり得ないとしか考えれません。それは、僕個人としてもそうですし、なにしろ他の事例とはまた格別に違って、親族縁者の不可抗力的な反対に出合うでしょう。
“こういうすべてが不正不当なことであるのを十分に・・・いや「十分」にかどうか、とにかくある程度は「理論的に」・・・認識しておるつもりの僕が、恥ずかしながら、なおかつそんなふうなのです。この地方の一般的な状態は、まだまだ「とにもかくにもいくらかは理論的に認識」どころか、内心では差別蔑視を当然とし、ただ厄介なうるさいことになるのを恐れて、とりわけ部落民の前では、差別蔑視的な態度または言辞を出さないようにしとるだけの人人が、大部分でしょう。
“先にも触れましたが、ご存知のように、婚姻に関して、「一般人」の皆が・・・他の物事に関しては相当に開明的または民主的な人人さえもが・・・ひそかに公然とかまず最も注意警戒する一つの要点は、相手が「部落民」「部落出身者」ではなかろうか、ということです。・・・これが赤裸々な実情であって、それはたいていあなたも否定なさらないでしょう。これも日常的によくご存知の通り、市丸三の組と他の所とでは、家庭的あるいは個人的な交際なり友人なりの関係が、皆無同然の状況なのです。”