たりたの日記
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| 2004年10月04日(月) |
「笑いかわせみ」を読んだ雨の月曜日 |
昨日に引き続き、朝から雨。 午後2時から夕方にかけて英語教室の仕事。家事といったって、洗濯を干すわけにもいかないから、雑用はさっさと片付け、昨夜から読み始めた本に没頭。
「笑いかわせみ」正津勉著。本の帯には無頼派詩人初の小説、日本のブコウスキー誕生とある。 ブックレビューなどで、この本のおおよそのストーリーは知っていたが、 この「笑いかわせみ」というタイトルがどうにも気になっていた。あのけたたましく笑うという鳥と、無頼派詩人のラブストーリーがどう結びつくのだろうかと。
「笑いかわせみ」は英語でLaughing Kookaburra。 中年の詩人がオーストラリアでめぐり合った愛くるしい女性、スティ。愛し合った夜に聞こえていた笑いかわせみの鳴き声。スティが眠り声で歌って聞かせたKookaburraの歌。 彼女へ向かうオーバーヒート気味の自分を恐ろしいと感じる詩人は、彼女に何とか一目惚れなんかじゃないと伝えたい。するとスティがニホン語で「永遠惚レ、ジャダメ?」と。
数多くあるラブストーリーのシーンの中でも、この場面はすばらしくいい。欧米の女の子の、カラッと明るくまっすぐな力強さはもともと好きなものだが、その前で、永遠惚れに恐れおののきつつ、そこにしがみつきたい気分でいる中年の男は哀れにもカワイイ。そこには今日なかなか見つけられないオトコの純愛が見えるようで、なんとも晴れ晴れと愉快な気持ちにさせられた。そこで笑いかわせみ。この鳥の声をわたしは知らないが、この歌ならよく知っている。 ここで本から目を話し、この歌を歌ってみる。
♪Kookaburra sits in the old gum tree Merry, merry king of the bush is he Laugh kookaburra, laugh Kookaburra gay your life must be
自然に歌が口からのぼってくるものの、いったいいつどこで覚え、なぜまだ覚えているのだろう。そもそもKookaburra が何なのかも知らずに、いつの時か、頭がこの歌をインプットしてしまっていたらしい。
このストーリーに、何ともこの歌が、スティが眠り声で歌う、この童謡が似つかわしいと思った。この歌のシンプルなフレーズと、輪唱で歌われる歌に特徴的な永遠にフレーズが続いていくような感じ、またlaugh、laugh、(笑え、笑え)とくり返すその言葉からやってくる突き放した感じが。 作者の独特な語り口調との微妙な調和。なるほどねえ、タイトルの「笑いかわせみ」。
久し振りに出会ったすがすがしいラブストーリー。 出会いの喜びがやがて、痛い別れで終わったとしても、物語は過ぎ去ってゆかず気持ちの中でとどまるような感覚がある。 なんというのだろう。著者と、どうやらご著者本人らしい主人公や恋人の間には微妙な隙間があって、その故か、これほど濃密なラブストーリーだというのに、どこかさらりとしているのだ。そして読者であるわたしはどうやらその隙間のところにすっぽり入っている感じ。物語の人物たちの鼓動や心のひだのようなものに手で触れているような不思議な近さを感じている。
それにしても、読書とはなんと贅沢なことだろう。 人の大切な出会いやその生が輝く瞬間、歓びの絶頂と底へと沈む哀しみや痛み、そういう「魂のいちばんおいしいところ」(この言葉は谷川俊太郎さんの詩のタイトルだが)を味あわせていただけるのだから。 この肌寒い秋の雨の月曜日の気が滅入りそうな日、わたしはふつふつと心愉しい時を過ごした。感謝!
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