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2012年06月11日(月) どうやったらいいかわからないことをやってみる

土曜日はホルツマンの”Vygotsky at work and play”の読書会にいった。ホルツマンはかつて(いまも)発達心理学者であり、マクダーモットやコールらのやった有名な学習障害の研究などにも共著者として名前をつらねている(Lois Hood)、ということをそのときはじめて知った(だから、ホルツマンというよりはルイスといったほうがいいのだよね)。この本はホルツマンがこれまで盟友のフレッド・ニューマン(昨年逝去)と一緒に展開してきたプロジェクトを総まとめしたような内容で、ソーシャルセラピー、学校教育における教員研修、放課後クラブ(コールらのフィフス・ディメンションが有名)、企業研修などが紹介された2-5章を、彼女らのマルクス、ヴィゴツキーに下支えされた理論編が1,6章がサンドイッチしているという構成。読書会をした限りでは、ホルツマンの実践は、集団で即興劇を行うということが最大の特徴である以外には、あまり実情がよくわからないという感想をもった(もっとも、即興劇での会話をばっと出されたとしても、我々がそれを解せるかどうかは怪しいのだが)。
 VygotskyやMarxに詳しい伊藤さん(北海道大学)も書いているので、そちらも参照してもらったほうが正確だとは思うが、彼女の理論のなかで、私にとって印象に残ったのは、「結果であって道具でもある/道具であって結果でもある」という、道具と結果が同時的に、弁証法的に発生するような活動というとらえ方と、そこで、人は模倣を通して「どうやったらいいかわからないもの」を、とにかくやってみることによって学ぶ(学習者として発達する)ということが中心になっているということである。普通、道具というのは結果のためにあると考えられるけれども、結果が出たときにはじめてそれが道具になるというようなあり方もあることにホルツマンは注意を喚起している。
 例えば、私の息子は2歳のころからお金を払うということにことさら興味をひかれ、レジにいくと大人に先んじるどころか、前のお客さんがいるときでも「スイマセーン」「コレデス、コレデスー」と自分がもっているものを置きはじめたり、大人が会計をしようと思うと自分が払うのだとお金をひったくろうとし、大人に阻まれて泣き叫ぶということを繰り返しているのだが、これは模倣をしているのである。こういうことに手を焼いた私たちは、前もって小銭を用意しておいて、彼がぐずりだす前にそれを持たせ「ほら、会計して」と言ったり、レジの人の方でも寛容に、彼がそれを差し出すと、全然合計はたりてなくても「ありがとうございます」といってくれたりする。それで彼は満足する。
 まだまだ、彼は買い物はできないが、こういうことを繰り返すことで買い物とはどうすることかを学んでいくのだろうと思う。つまり、どうやるかわからないけれども、とにかく大人がやっていることを模倣しつつやってみるうちに、何かができるようになるし、その時に「お金」であったり、「すいません」「これです」といったデタラメな言葉であったりは、はじめて道具になるということである。ホルツマンは「発達とは自分でない存在として振る舞うことによって何ものかを創造する活動である。…ヴイゴツキーの言うZPDはなんらかの範囲や社会的なはしごかけではなく,ふるまう(perform)ための舞台であると同時に振る舞い(performance)そのものでもある活動である」といっている。つまり、上記の買い物のエピソードそのものがZPDなのである。
 ナラティブプラクティスの実践のなかで、アズイフというものがある。もともと臨床実践のグループスーパーヴィジョンの技法としてできたもので、クライエントやその家族に参加者がなりきって話をしてみることで、普段、決してきくことができないようなことを質問したりすることで、そのクライエントについての理解を深めるというワークである。私はこれを質的研究のカンファレンスの道具としても使えると考えて実践してきた。アズイフで何が起こっているのかを考えるとき、このホルツマンの考えは参考になるように思う。演劇的手法ということではピッタリだし、アズイフでは役になりきって考えてみることで、知的に理解しているのではおさまらないような気付きが参加者全体にうまれたりする(セッションが終わっても、家族のなかで批難の対象となった母親が「みんなから責められるのは納得いかない」とブツブツいうなど)。これなど道具でありつつ結果であるということだよね。気づくためにアズイフをやっているわけだが、アズイフ自体が気づきにもなっているということだ。ちょっと大事に考えていきたい。


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