非日記
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2005年09月10日(土) れもん味。

「何か冷たい飲むもの」と思い、冷蔵庫を開けた。元は白かったのに、何年か経つうちにベージュがかってきてる冷蔵庫の奥に、ペットボトルを一本みつけた。900ml入り。
そういえば、ちょっと前、出勤直前に飲みかけのやつを慌てて放り込んだんだっけ。烏龍茶も新しいのを作って冷蔵庫のポケットに入れてたし、隣には封を切ってないペットボトルも入れていた。だから、帰ったときには直ぐにそっちを出してしまい、奥に放り込んだ方は、すっかり忘れてた。だって喉が渇いてる時には、ごくごく飲みたいじゃないか。

えらく軽い。まるで入ってないかのようだ。傾くたびに重心が僅かに変わるのだけが、何かが入っている事を示している。振ると、ちゃこちゃこと酷く軽い音がするのもそうだ。どうも、ほんの二口三口しか残ってない。
嗚呼、それだから冷蔵庫の奥にチラっと見かけても、「まあいいか」と思ってたんだっけ。

900ml入りの殆ど空のペットボトルをいつまでも突っ込んでおけるような、贅沢なでっかい冷蔵庫じゃない。いいさ、私は冷たい飲み物が、まずは一口欲しかったんだ。二口め三口めは、ぬるい飲み物に氷を入れればいい。

…その時点で、私は、ペットボトルの外装に興味が無かった。

ふたを開ける。ラッパ飲みしようと口につける。不思議な香りが立ちのぼってる気がする。
癇に障る、わずらわしい香りだ。

…よろしいですか私よ。気がするたびに気にしてたら、マトモな生活は送れっこないんだ。気にしなかったときに限って、気にしておけばよかったと後で思うものだが、そういう細かい事をあまり気にしてはいけない。
なぜかと言うと、既に気にしていたならば、気にしておけばよかったなどと、「後で」思うわけがないからだ。つまり、「気にしておけばよかった」と思うのは、気にしてなかった時に限られるんだ。「気にしておけばよかったと思うときに限って、気にしなかった気がする」のは当然の帰結というわけだ。気にしなかった時で、気にしなかった事が問題にならなかった時には、当然のことながら「気にしておけばよかった」などと後から思っておらず、「気になった事を気にしなかった」事をすっかり忘れている。

だから変な匂いがした気がしたのに、止める間もなく、それに気が付くと同時に既に口の中に液体が流れ込んできていたのも、もちろんよくある事なんだ。


…その黒い液体は、れもん味がした。
ペットボトルを見ると、コーヒーと書いてあった。確かに、コーヒーの中には種類によって酸味の強いものもある。私は酸味より苦味の強いほうが好きだが、別に飲めないわけじゃない。

だが一体それは本当にコーヒーだろうか?爽やかなレモン風味なのに?

考えてはいけないハズなのに、脳内にレッドアラートが鳴り響いている。
爽やかな柑橘系の黒い液体。
おかしい。

私は味音痴だからか、別にまずいとは思わない。結構爽やかな味だと思う。
ただ、コーヒーであるはずの黒い液体が言ってみれば酸性系の刺激臭をしていて、口内に含むとレモン風味ってのがなんか「ありえない」感じで怪しい。何故レモン風味なんだ?しょうがを入れてジンジャーコーヒーや、シナモンを入れてシナモンコーヒーなんかは飲んだことある。しかしレモンなんかコーヒーに入れるだろうか?それ以前に、これはペットボトルの市販の無糖コーヒーであって、どこにもそんなケッタイなコーヒーであることを証明するところがない。
お茶をつくって空きペットボトルに入れていることもあるが、私がつくるのは烏龍茶だからレモン味なんかしないんだ。ここまで爽やかなティーは飲んだことが無い。他に可能性…



意識A「ねえ、いいから飲んじゃおうよ。いつまで口に含んでるの?すっごくすっぱいんだけど?何ぼーっとしてんの?」

謎の遠い声『…唸れしなぷす開けでんしの回廊よ』

意識B「なんか警報が…鳴って…る?…なんだろう?どこが鳴ってるのかな?」
意識A「えー、何?この平和時に警報なんか鳴らしてんのは、どこの所属の馬鹿よ?何、チャンネルあわせて、わざわざ受信するつもりなの?うっさいなあ。気にすんなよ」
意識B「それが、随分古いコードを使っているような…?警報とは言っても明滅気味で、回線自体も相当古いものを使ってる。こんなコードを誰が…。それに、さっき口腔内に飲み込めという指示が自動的に入ったが、それになんと応えが返って来た。<これは命令でしょうか?>だ」
意識A「そんな…ばかな…迷ってるってんの?迷う?」
意識B「私だって<は?何を言っている?>と思った。」
意識A「食べ物を入れたら自動的に咀嚼し嚥下する一連の行動は、既に完成されているわ。それに解除や停止をかけられるのは、限られている。私達が迷うならまだしも、彼らが自分で迷うなんてありえないわ。」
意識B「もう一度確認したら、<命令だと言うならば従います>だよ。おかしいだろ?まるで自決の命令を出している時のような反応だ。そこにこの警報。誰か、何か、私達以外に末端に指示を待ての命令を出したものがいる。階級とシステムを無視し、私を飛ばして直接介入しえたものが…」
意識A「確かにおかしいけど。だけどなんだってのよ?さっさとしてちょうだい。もう良いじゃないの。どうせ明滅気味なんでしょ?ただのミステイクよ。そんな警報、こっちで解除しちゃえ!」
意識B「待て。これは私への<命令>だ。仮にも私に<命令>してるんだぞ?私に<命令>を出せるという<立場>が異常だ。ありえない立場だ。これは無視できない。誰だそれは。私を知っている…、あなたは…、誰…?」
意識A「勝手にラブドラマってんじゃないの!少女マンガなら後で買ったげる!現実に戻れ、このとんちかん!」

謎の遠い声『待ってはげちょろちゃびんな!それは駄目なのよてろくたすったかもんだ!それはちょべりばやんばるくいななのよ!』

意識B「エラーに意味不明の箇所が多い。なんだこれ?…古代語?今解読を…」
意識A「今から解読ー?そんな事言って、いつまで口に含んでればいいのよ?口に含んだら咄嗟に飲み込むのも本能のうちよ。すっごくすっぱいから、アタシはさっさと舌の上からどかしたいわ。そんで何かで口直しすればいいじゃないの」
意識B「口直しは良いけど…確か封を切ってないのが何かあったろう、後でアレを飲めば良い。それより舌の上からどかしたいって、それはどういう意味だ?すっぱいって、爽やかな柑橘系じゃないのか?おまえ的に不味いのか、それ?」
意識A「爽やかな柑橘系だって、すっぱいよ。だってレモン風味だって言ってるでしょ。不味くは無いが、美味くも無いね」
意識B「…古代語…古い言葉…忘れられた言葉…すっぱい…すっぱい…舌の上から早くどかしたい…舌の上…舌?舌は…あの器官は、あの器官の本来の任務は確か…」

謎の遠い声『届け、この声!あの人のもとへ!』

意識A「ダラダラ考えてたって答えなんか出ないわよ。あんたとろいんだから。良いわ、私が命令します。さっさと飲みこ」
意識B「んだら駄目だッ!!!」
意識A「どうしたのよ!?急に脇から叫んで!びっくりするじゃないの!」
意識B「この警報だ!これは我らが神の言葉!口に含んだものは有害物質の可能性があるから、断固体内に入れてはいけないという!舌や鼻の古い職分には、含まれている成分を判断する事があった!」

ひらめいた!

意識B「酸味は、本来腐敗を暗示する!これは<味>ではない!通信兵による信号弾だ!警報!警報!体内への侵入を許すな!排除しろ!」
意識A「らじゃ!警報!警報!直ぐに揮下に伝達!吐き出せ!…私達の管轄に回ってくるなんて随分久しぶりじゃないの。異物を体外に排除するのは、今はもっと下の仕事だわよ。だから胃にまわして、アッチに任せておいてもよかったんじゃないの?どうせ出すなら、上からだろうが下からだろうが同じだろう」
意識B「おまえはそういう、何でも他人任せにしていい加減な事だからいけない。そんな事したら腹が痛くなるじゃないか?久しぶりすぎて私も忘れかけていたが、私達には職分があるのだ。寄り代ならちゃんと神の言葉を伝えんかい!」
意識A「なんと!?理不尽な言いがかりはよさぬか!おのれは、神の代行たるわらわが力不足とぬかすか?わらわはちゃんと詔を伝えたのじゃ。正しく読み取れぬおのれが力不足よ。レモン風味だがイマイチ私の好みじゃない。触れてると感じが悪いので、はやく他所へどかそうと明言したであろ?」
意識B「抽象的すぎ!いつものただの我侭とどこが違うんだ」
意識A「わらわと神は一心同体。わらわは神の触指であり、神はわらわとともにあるのじゃ。地獄の腹痛もまた神の贈り物なり。そういうものでおじゃる…」
意識B「いや、だって直接介入で妙な回線がこじ開けられたぞ。おまえがいいかげんな事を言ってたから、さすがにヤバイと思ったんじゃ…」
意識A「うむ。わらわは神のわらわへの深い愛を感じもうした。神がわらわを守ってくだされたのじゃ。腹痛はかわいそうじゃと」
意識B「違うって」
意識A「ところで、件の古い警報はどうなったんだ?」
意識B「…消えてしまったみたい」

謎の声『らぶらぶびーむおうちにかえろうきゃはははは』←古代語


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