非日記
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朝、用を足しに行き、トイレのドアを開けた。 うちのトイレは知人の知るが如く、家の外と内の中間みたいなものだ。住んでる感覚からすれば家の一部だが、現実的に半分外だ。 そこで、すると、そこに一匹のトカゲが居た。
薄暗い場所で憩っていたトカゲちゃんは、突然の何か巨大な異変に仰天したらしい。飛ぶように移動し(たぶん彼的に走っていたと思う)…
…私が思うには、たぶん、我々が整備された道路や町中を通らず川や山を越えて距離を短縮するように彼は便器を越えて向こう側へ、より速くより遠く私から距離をとる為に、…行きたかったのであろう。
ところで、便器というものは、近代では、陶器でできている。 それは滑らかで白い。 滑らかである。…よく滑るのだ。 ついぞ私は知らなかったが、たとえトカゲの足であろうとも、よく滑るのだ。 踊るように走り抜けようとした彼の「足が滑った」様が、永遠のような長い瞬間の中で、私には見えた。
私の脳を雷光のように駆け抜けた衝撃は、たとえて言語化するなら、 「あ!待ッ…!」 最後まで思い切れないぐらいの瞬く間だった。これが俗に言う、「あっという間に」だ。
トカゲちゃんは踊るように、肥溜めの中へ落下していった。
…もう、何も見えない。
覗いてみたが、真っ暗だ。 ああ、どうしよう。どうしようもない。何が悲しくて、朝から汲み取り便所の便器の底を覗き込むはめになってるんだ、私は。台風は去った晴天だったというに、清々しさの欠片もない行為だ。
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