| 2004年11月20日(土) |
新刊前夜祭突発的SS |
思ったより長くかかりそうだったので、掲示板からこちらに移動しました。それでちょびっと追加。
−−−−− 鋼のが弟君と喧嘩をした。
普段は育ち盛りの兄弟に相応しく、取っ組み合いの喧嘩になるようだが、今回は様子が違っているようだ。
ホークアイ中尉に連れられて執務室に入ってきた鋼のしょんぼりとした姿を見て、私は少し戸惑った。いつものふてぶてしい態度からの変わり様は面白いくらいなのだが、その真剣な表情は事態の深刻さを物語っている。
兄弟二人の目的を遂げるためには、喧嘩をしている場合ではないのはお互いに分かりきっていること。
原因は、なんとなく想像がつく。私は小さな溜め息をついた。
「大佐、先ほど電話でお話させていただきましたが、お願いできますか」 声をかけられ、ホークアイ中尉に視線を戻す。
「ああ、分かった。…弟君は、君の家にいるのだね、中尉?」
おとうと、という言葉をきいて、鋼のはピクリと身体を強張らせ、無意識のうちに掴んでいたらしい、ホークアイ中尉の軍服の裾をまたきゅっと握り直した。
弟君は、今回は非常にご立腹らしい。 鋼のには一番効く反撃法に出た。
精神を、閉じ込めてしまったというのだ。
あの大きな鎧はただの飾りとなり果て、鋼のがどんなに叩いても、弟君からの応答はなかったという。
イーストシティのダウンタウンの四つ角で、がんがん鎧を叩き続ける鋼のの側を通りかかった中尉が電話をかけてきたのは一時間前のこと。
男性顔負けの力で、動かなくなった鎧と錯乱寸前の鋼のを抱え、自宅に向かった中尉は、電話で私に相談を持ちかけてきた。
「今晩、私がアルフォンス君を預かりますので、大佐はエドワード君のことを見ていただけませんでしょうか」
*
仕事を終えた中尉が帰宅した後も、私は1時間ばかり残った書類の作業を続けた。
その間、鋼のは大人しくソファーに座っていたが、時折ちらちらと執務室の電話に視線を送っていた。
遠くの時計台から正時を告げる鐘が鳴った。 「さて、今日はもう中尉もいないし、ここまでにしておくか」 私は独り言のように言って椅子から立ち上がった。
執務室を出るまで、鋼のは電話を気にしていた。 「なにかあったら、私の家に電話をするように中尉には言ってある。さあ、行くぞ」 こくり、と鋼のは頷いた。まるで迷子の子どものような頼りなさ、従順さだった。
途中、閉店間際の食料品店でベーグルとミネストローネを買った。
帰宅すると鋼のをダイニングテーブルに座らせて、食べるようにと先ほどのベーグルを渡した。 案の定、ぼんやりとしたまま食べる気配はなかったので、私はスープを温めなおした。
「飲みなさい。あたたまるから」 私は隣に座って食べ始めた。 するとようやく鋼のはスープ皿に手を伸ばし、ひとくちだけ飲み込んだ。
ごくり。
小さな音が鋼のの喉元から聞こえた。
「…アルは」 震える声で、つぶやく。
「アルは、本当に、怒ってて話してくれないだけなんだろうか」
スープ皿を持つ手がカタカタと小刻みに揺れている。
「…中尉が弟君を運んでいる時、転倒しかけたら弟君が一瞬支えてくれたそうだよ」
「…本当に?」
「不安なのかね、鋼の」
「…不安、だよ…」
−−−−−
今日はキンメダイの煮付けを作りました。今自分がとても魚くさい…
|