軍服を着ている時には、それなりには見られるようだが、普段着になると途端にチンピラのような扱いを受ける。
「そのギャップがよいという奇特なご婦人方もいるかもしれないが、もう少しなんとかしたまえよ」 以前、大佐にもそんなことを言われた。
それでも、このリゼンブールという片田舎では、人々は普段着の俺を好意的に出迎えてくれた―そもそも、セントラルの人々と異なり、あまり人の外見など気にしていないのだとも考えられるが。
俺は以前の記憶や中尉の話を頼りに、ロックベル宅へと足を運んだ。
途中で、ふと見上げた小高い丘。丘の上には、石が並ぶ。 −墓だ。
不揃いな大きさの石が並んでいる。 その中に、俺は兄弟の母親の名を見つけた。 ここから、あの兄弟の旅は、始まったのか。それとも、もっと前から、始まっていたのか。 ぼんやりと眺めていると、後ろに人の気配がした。
「誰?」 振り向こうとする前に、声をかけられた。 「お母さんの知り合い?」 金髪の少年が、無邪気な中にも警戒心を含んだ顔でこちらを見ている。
手には、花束。 聞き覚えのある声だった。
「アル...アルフォンスか?」 少年は大きな目をきょとんとさせて、ちょこちょことこちらに近づいてきた。 「僕の知り合い?」 以前の鎧の姿とは似ても似つかぬ小さな身体が話しかけてくる。
「...ごめんなさい、でも、僕、ここ数年の記憶が少しあやふやになっていて...」
姿が変わっただけだなのだとしたら、当然性格はあの優しいアルフォンスのままなのだろう。自分が記憶を失ったことで、自分も不安であるだろうに、それよりも周りの人に気をつかっていることは容易に想像できる。
それなのに思わず名前を呼んでしまった自分の浅はかさを悔んだ。 「いや、いや、元気そうでなによりだ。俺はジャン・ハボック。イーストシティでお前と何回か会っただけなんだ」
話を終える前に、アルの顔がぱあっと明るくなった。 「ハボックさん?ハボック少尉?」
今度は俺がきょとんとする番だった。
「兄さんの残した手帳に、東方司令部の方々の話が書いてあったんです」
*
兄さんの手帳の雑記を読んで、空白の数年間を埋めてきた。 そう少年は語った。
「でも、ウィンリィとピナコばっちゃんには内緒ですよ。僕が記憶が無いことで、あの二人は少し安心しているみたいだから」
少し声をひそめてそう言ったアルは、大人のような表情を見せた後、笑顔を作った。
俺はなにか言いたかったが、うまく言葉にならず、その代わりにアルの頭をくしゃくしゃと撫でた。
アルは嬉しそうに笑った。 「少尉は、兄ちゃんみたいだったって」 「え?」 「マスタング大佐は話のわからないガンコ父親みたいなところがあったけど、少尉は、兄ちゃんみたいで、楽しい人だったって」 兄さんが、とアルはつぶやく。
「それは喜んでいいのかな」 「秘密の相談とかもしたいことがあったって」 「たぶん身長のことだろうな」
アルは、手にしていた花束を墓前に供えた。 「少尉」 「ん?」 「僕、錬金術をまた学ぼうと思うんです」
*
俺は思わずアルの肩をつかんだ。 「少尉?」 「お前...今なんて...」 「少尉、痛いよ」 俺はそれでも力を緩めることはできず、身をかがめて、アルの瞳を見つめた。
「アル、それは、どういう意味だ?」 「少尉、」 「お前、せっかく...エドが...それなのに...」 「しょーい!」
びしっと、アルの小さな手の平が、俺の額を叩いた。 「なにか色々心配しているみたいだけど、大丈夫だよ」
絶句している俺を見ながら、アルはまたぴしゃぴしゃと額をはたく。
「大丈夫。決して、過ちを繰り返しはしないから」
自分の目線に近い俺の肩に腕を回し、ぎゅっと抱きついてきた。
「みんなとの出会いを、無にするようなことはしないから」
大丈夫。
「ただ、僕はもう少し、強くなりたい」
だから。
俺は顔を上げる。微笑む少年と目があった。
エド、お前は、 俺とアルの髪の色がどうとか言ってたが。
全然似てない。
あれは、お前の色だ。
お前の色に包まれて。
アルは。
fin
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