――――――― 偶然にも奇妙な出会いをしてしまったものだ。
自分では気がつかなかったが、しばらく私は新聞記事に見入っていたらしい。 相手の女性は少し恥ずかしそうに、「息子が載っている記事なのです」と言ってそっと記事を引っ込めた。 その息子が誰なのか、聞く必要はなかった。ピンクの蛍光ペンで、しっかりと縁取られた記事には「進藤ヒカル」の名が――さっき覗いてきた清春の団体戦で、大将をしていた少年が――載っていたのだ。
「私は、社清春の父です」 名乗る必要もなかったのかもしれないが、つい口から言葉が出てしまった。 何故だろう。 息子が大将を務めている試合を見に行きもせず、この場に留まっている女性に何か興味でも湧いたのだろうか。
私の言葉に、女性は顔を上げた。 「社君の…」
どうせ、新幹線の時間まで、まだ余裕があるのだから。 ―――――――――
清春は小さいころから負けず嫌いだった。 その性格ゆえ、何にでも手を抜かずに果敢に取り組んでいく子供だった。 親バカだと思いつつも、将来が楽しみだった。 成績も良かった。スポーツも得意だった。
それが、そのエネルギーが、すべて囲碁に注ぎ込まれることになってしまった。 何故だ? 確かに奥が深い、知的なゲームであるといわれている。 追求しようとすれば際限の無い世界だと。 でも、何故清春がそこにいる必要があるのだ? 清春には、囲碁でなければならない理由がない。清春には、無限の可能性が――
「うちのヒカルにはなにも取り柄がなくって」 ベンチに座った進藤ヒカルの母親がそう呟いた時、一瞬私は自分の考えが読まれたのではないかと思ってどきりとした。 彼女はふふ、と笑ってこちらを向いた。 「だから、囲碁のプロになるんだー、なんて言われた時にはびっくりしつつも少し嬉しかったんです。ヒカルが、一生懸命何かに取り組んでいる姿を見られて…」 私は缶を上に向け、中のものを飲み干した。 コーヒーの苦い味が口の中に広がった。 違うのだ。この女性と私は、まったく背景が違うのだ。話をしても、何も意味がないのだ。 ちらりと公園の時計に目をやる。
「まったく、分かってなかったんです、私」 時計から目を戻すと、彼女の表情は、それまでと全く異なった、真剣なものへと変わっていた。
「分かっていなかった?」
「ええ。なにも。ヒカルがプロになるその意味を。 子供の受験をひかえた同世代の親たちを見ながら、心のどこかで優越感に浸っていた。うちのヒカルは、勉強もなにもできなかったけれど、もう、スーツも着て、お金を稼いで、確定申告までしちゃうのよ、って…」 彼女は、膝の上のハンドバッグの紐をきゅっと握った。 「そんな感覚でいたから、私、昨日のヒカルの試合を最後まで見られなかったんです。」
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時間が激しく経過してしまった上に、未完に終りそうな予感がします… 急に一人称になってしまうし、テーマが…私には難しすぎました(T_T) うむむ。どうしよう…。
素直に感想を述べますと、オマケページのヒカルが可愛かったです。 和谷君の絵も見たかった…。
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