sasakiの日記
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2010年10月15日(金) パラダイス&ランチ パート5

 「恭平さん?美穂子さんに婚約者がいるって知っていました?」
 1年後輩の中本が学食で遅い昼食をとっている恭平の隣に席を確保して聞いてきた。
 「婚約者って言ったってまだ一年だろ?学生結婚でもするつもりか?」
 「いやあ、卒業したらということで、何でも高校のころから付き合っていて、親のほうも了解済みらしいですよ。」
 学食のほこりに汚れた窓ガラス越しに学生達の集会が見える。”我われが勝利を勝ち取るためにはーー、断固国家権力を粉砕しなければならないーーー”などの過激に空しい言葉がとぎれとぎれに今日も聞こえてくる。学生達が何に向かって怒り、誰に抗議をしようとしているのか僕には理解できなかった。運動をしている友人からたびたび集会や、デモに参加するように誘われたが、曖昧な理由をつけては断り続けてきた。
 アメリカはアジアの片隅で連日ゲリラ達にタッチダウンを許し、自陣回復の空爆攻撃と言うロングパスも通せなくなってきていると新聞か書き始めてきた。そして、日本は自分達が何をしているのかという自覚もないまま、卑怯なバックアップを続けていた。
 「おまえ、どっからそんな話を仕入れてくるわけ?次から次から。」
 「いいやあ!そんな言い方されると、聞きたくないんですか?」
 「話して見れ。」
 「それがですねえ。」
 「ここいいですか?」、噂の美穂子がコーラ瓶を右手に、左脇にスケッチブックを抱え立っている。
 「ねえ、あれどう思う?あの詰まんない演説。あんなアジじゃ誰も聞かないと思うんだけど。闘争心のないセクトなんか解散してしまえばいいのに。」
 「どうもすごいね、美穂子さん、活動家みたいなせりふはいちゃって。」中本がひやかす。
 「暇つぶしにああいうことに首突っ込んでる人を見ると、いらいらするんだ。」
 「意義なーーし。」
 「よく言うわよ、このあいだ、集会に参加して元気にシュプレヒコールまで叫んでたくせして。」
 「あれは研究です。日本の学生における段階的日和見の傾向と対策の一考察と言ったところで。」
 「解かって言ってる?」
 「全然。」
 「でしょうね?」
 「小尾さん、午後何か講義残ってるんですか?なければ練習付き合ってもらえないっすか?」
 「だめだ、4講目がある。ドイツ語。」
 「出るんですか?」
 「出ない。」
 「じゃ、いいじゃないですか?」
 「下手な奴とはやらない。下手がうつる。」
 「美穂子さんはどうするの?」
 「今でも充分下手なんだけど、そのうえもっと下手をうつされるとこまるから、いい。なんて冗談だけど。約束があるんだ。」
 「へへ、デートなんだ?」
 「大雑把に言えばそうかな。デモに参加しようと思ってるんだ。」
 「あれ?」、中本が座ってる後ろの中庭をさしてながら意外だと言う顔をしている。
 「いや、もっと派手な奴。」
 「彼と一緒に?」
 「そっ。時々参加するの。すんげー発散するぜー。この間なんか機動隊と正面衝突しちゃった。」、美穂子は自分が暇つぶしに参加しているとは思っていない。
 学生運動も68年、69年でぴークを迎えてしまい、それ以降は美穂子が言う鬱憤晴らしみたいなデモが多くなっていた。
 「恭平さんの彼女って、東京の大学にいるんですってね?」、美穂子が突然尋ねる。
 「これが可愛い人なんだ。一度この大学で見かけたことがあるんだ、俺。」
 「しょうがない奴だなあ、お前は。なんでもぺらぺらと。」
 「話してくださいよ、ね?ぺらぺらと。講義にまで一緒に出ていたくせに。」
 「休みで帰って来たときに、よその学校の講義に出てみたいと言うので連れてきた事があるだけだ。」、郁子との付き合いは高校三年からだった。気の合った連中とつるんでは学校帰りに街の喫茶店にたむろしては不良じみたことをしていた。不良じみたことといっても、学校が喫茶店の出入りと喫煙を禁止していたに過ぎず、僕らには関係なかった。今にして思えば他愛のないことだ。僕らは乗り遅れそうな学生運動に憧れ、生半可な大島渚や三島由紀夫を語り、見たこともない、そして入り口にも立っていない人生を夢中になって話すことに時間を注ぎ込んでいた。その集まりに時々郁子が特別待遇で参加し、そして何度か二人だけどデートするようになり、付き合いだした。
 「どれくらい付き合っているんですか?」
 「4年になるかなあ?」
 「ええーーっ、4年も。長いなあ。それも札幌と東京別々に。」
 「始めからだったわけじゃねえよ。」
 この話題では何度も格好のあほな恋愛論の的にされてきたので、できることならパスしたかった。
 離れてさみしくないか、別々の場所での恋愛は不健康だとか、そんなもの成就するはずがない、えとせとら、エトセトラ。
 「休みだ札幌に帰ってきて、デートが大学の講義かあ、なんかおしゃれだなあ。勉強好きなんですか?彼女?」 
 「普通の女よりは好きみたいだ。以上。」
 中本がトレイを持って立ち上がる。
 「俺、帰ります。飯食ったら眠くなったのでこのまま家に直行します。そいじゃやお先に。」
 「あっ、私も行く。途中まで一緒しようよ。ヘルメットと火炎瓶鳥に家まで戻らないといけないから。」
 「えっ!家ん中にそんなもの置いてあるんですか?」
 「冗談よ、あるわけないわよ。じゃっ、恭平さん私も帰ります。この間お願いしたスカボロフェアーのコード譜よろしくお願いします。さよなら。」

     2009、7月8日に続く


 夕べ、9時前、裏の山でからすが突然騒ぎ出した。
 ああ、地震が来るかもしれないなと思うまもなく、ゆさゆさ、家の中が揺れだして、本当にカラス達はどうやって知るのか?この災難?不思議だけど本当にカラスや山鳥が地震が起きる前に、いっせいに鳴き出す。どうも地震の大きささえ解かってるふしがある。どっちかと言うとそういった前触れや予想はないほうが気持ちにゆとりを持てそうな気がする。それも、夜の夜中鳴かれるととってもこわい。さて外に飛び出したほうがいいのか、それとも、ベランダに出て界隈を見回したほうがいいのか、はたまた、このまま、家が潰れてぺしゃんこになるのを座して待つのがいいのか?楽しい選択肢がないのが困る。からす、頼むから口をつぐんでいてくれないだろうか?というのが昨日の夜の札幌震度2の感想だった。
 チリの落盤救出の時に思っていたことは、どうか最中に地震が来ませんようにだった。あんな細い穴、地震が来たら一発で塞がりそうでこわかった。閉じ込められた人もそうだけど、中に救出にいったレスキューのひとは本当に偉い。僕はもうあのカプセルのサイズを見ただけで駄目なのに、さらに救出に穴に入っていくと言うのが兎に角、偉い。みんなすごいわ。

 生命線が益々伸びていく。
 手のひらからはみ出しそうだ。
 
 これは困る。
 そこまで望んでいないんだけど。
 



 
 
 
 
 

 


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