sasakiの日記
DiaryINDEX|past|will
| 2010年05月07日(金) |
想い出にJEALOUSY |
20年前にロンドンから戻った時に、クマのスタジオで友達なったコーちゃんという不思議な日本人のことを書いてあった原稿があった。そのころは何に使うかと言う目的もないままこんなことを書いていた。昔、この、ブログにはまっていた時、いちど抜粋して書いていたかもしれない。 昨日、久しぶりにロンドンの写真を見ていて懐かしくなって捜してみたらあった。
コーちゃんは長いこと絵描きだった。絵描きになったきっかけはあまり詳しくは話してくれなかったけど、嫌なことがあって、日本を離れ、ロンドンに住むことになったらしい。 細い目に、短く刈り上げた髪、鼻筋がしゅっと通っている顔は日本人と言うよりもチャイニーズに見え、本人も良く間違えられると言っていた。「間違えらっれても別にどうっていうこともないけれどね?奴ら、中国人、韓国人、日本人の区別つかないから。」、コーちゃんは英国人を呼ぶときには必ず奴らという。13年間のロンドン生活でそう呼ぶようになったのかどうかわからないけれど、観光客の知らない英国をたくさん知っているようだ。 僕はコーちゃんの完成した絵を一度も見たことがない。でも、時々、スタジオに集まるミュージシャンの姿をソファに座り、、エンピツで描いたラフなスケッチは見せてもらったことがあった。その絵は僕が想像したとおりに暗く、幾分かコーちゃんの秘密も入っているように感じさせるものだった。大抵は夜の9時ころからふらっとやってきて、僕らのために飲み物を作ってくれたり、上のラウンジにあるキッチンの掃除を黙々とやり、それからスタジオのほうに顔を見せにやってくる。 「NICE SOUND ISN’t IT?」挨拶代わりに言ってくれる。 僕が英国に滞在している間はほとんど毎日遊びに来てくれて、一緒にご飯を食べたり、ロンドン事情を話してくれたりといろいろきを使ってもらった。もっともコーちゃんは気を使うなんて日本的なことは全然してないよと言い、「ただ、ユキオ一緒に話すのが好きだから、毎日来ているだけだよ。」と、札幌にいるとき、男同士ではまず交わされない優しい言い方で訪問理由を教えてくれた。イギリスはなんといってもホモやゲイの本場だと思っていたから、もしかしたら、コーちゃんもそっちの人なんじゃないかとクマに事前に聞いていなかったら不安があったと思う。 ある日コーちゃんが僕らのレコーディングを見ていて突然、「僕は絵を描くのをやめた。明日からミュージシャンになる、それも、ギタリストになる。ついてはクマ?相談なんだけど、僕にギターを教えてくれないかな?」、僕とクマは顔を見合わせ、「コーちゃん?絵はどうするの?明日からやるったって無茶だよ。それに僕はギタリストじゃなくベーシストだよ?まあ、コーちゃんみたいな素人だったら教えるのに苦じゃないけれど、でも、 僕はそんな暇ないよ?」、コーちゃんは意に介さずシレっと言う。「絵はいいんだ。10何年やったしもういい。先が見えた。ギターを教えてほしいと言うのは別にクマに頼んでいるわけじゃないんだ、クマの友達にギタリストたくさんいるだろう?その友達から本格的に習いたいんだ。」、最前線でプレイしているミュージシャンにギターを教えて欲しいと頼むピカピカの素人のコーちゃんはすごいなあと思った。 1年後に2枚目のアルバムを作りにイギリスに行ったら、コーちゃんはモードがどうの、Fのスケールがどうの、ウエスの曲は甲弾いてといっぱしのミュージシャンになっていた。実際に目の前で弾くのを見せてもらったがどうしてどうして、一年前は素人以前だったのに、フレーズまでもが外人だった。センスなのか日本的音楽土壌にまったく汚染されていなかったのが良かったのか、僕はすっかろ感心してしまった。 ギターって本当に面白いよ、音楽、最高だね!今36だから後10年練習したらメンバー集めてギグやるんだ、そのときはユキオも見においでよ、と言ってくれた。相変わらず普段何やってるのかわからない不思議な人だった。 スタジオにはコーちゃんだけじゃなく、入れ替わり立ち代り、いろんな人が訪ねてくる。近所にデザイン事務所のカップル、クマのバンドの仲間、自転車乗りの兄ちゃん、僕の英語のアクセントに文句をつける怖いシンディ、喧嘩して鼻を折られるアリスティア、飛ぶのが生きがいのジャマイカン、エロル、ロンドンフィルでファーストバイオリンのメタル好きのマイケル。 クマはそんなわけで一日じゅう喋っている。僕と同じ歳なのに疲れを知らない。 「ユキオ、紹介する。この日とカムデンの市場で野菜売ってるおじさん。僕が行くといつもまけてくれるんだ。いい、オジサン。」、ハンチングをかぶり。短いベストに茶色のズボン。典型的なロンドン下町のおじさんというスタイル。「この人は今日、自分達のバンドのテープを持ってきたから聞いてくれって。ちょっと聞いてみようよ?」 おじさんたちのバンドはオールドスタイルのR&Bに命を懸けているみたいで、スタジオの立派なスピーカーから思わず優しく微笑みたくなるような愉しい音が流れ出てくる。おじさんは僕らにどうだと言うような嬉しげな顔で聞いてくる。 クマと二人で「なんかいいねえ?普段野菜を売ってるおじさんたちが暇を見つけてバンドやってる姿想像するだけでハッピィになれるね?」 僕が日本に戻る日が近づいたころだった。コーちゃんが「ユキオ?観光バスに乗ってみない?僕、考えたら今までロンドン観光したことないんだ。このあいだジャネットと話したら、彼女もないって言うし。一緒に行かない?ユキオだって札幌にいるときは市内観光なんかしないよね?ジャネットも乗り気なんだ。」 ダブルデッカーのジャネットはとても幸せそうだった。ロンドン塔やトラファルガー広場を見て本当の観光客になったとコーちゃんは言う。何か取っても深い意味があるように聞こえた。 「今、全然絵を描く気がしない、飽きたんだね、きっと。・・・差別?あるよ、この国ではね。日本より露骨だから暮らしやすいんだ。嫌がられるところにはいかなければいいだから。・・・日本には帰ったみたいなあとは思うよ、時々ね?でも、日本に帰ってもハッピーな気持ちにはなれない・・・仕事なんてそんなにない、でも僕にはジャやネットがいる。僕は彼女と仲がいい、それで充分じゃないかなあ?・・・ジャネットが寝てしまい、夜が静かになる。ギターのスケールを眠くなるまで続けるんだ。・・・僕はこのままロンドンに残ってどこかのパブでメンバー集めてギグをやるよ、きっと、何時になるか判んないけど。」ミステリアスな13年だったんだろうな。 屋根なしのダブルデッカー二階席、僕はコーちゃんとジャネットの前の席に座り、気持ちのいい緑の風を本当の観光客になって楽しんでいた。そして後ろの話し声を聞いているとコーちゃんは本当のイギリス人で、ジャネットに優しかった。
あれから20年近くかあ。コーちゃんには一度も会っていないし、消息もよくわからない。元気に暮らしてるといいなあ。僕はここで元気にしているよ。また、夜遅くまで話せることがあるんだろうか?愉しい時間だったね?
只今、目黒君、タバコ禁止月間になっております。 もしどこでもいいので、万が一彼が煙草を吸っているところを目撃したならば是非、ご一報下さい。殴ってやりますので。 一応禁煙宣言をしたので、助けてやろうと言う親心みたいなものです。 もし面倒じゃなかったら、僕の代わりに殴っておいて下さい。 後日お返ししますので。
sasaki

|