sasakiの日記
DiaryINDEX|past|will
| 2009年07月22日(水) |
喫茶店のバイトが終わり、 |
喫茶店のバイトが終わり、ACTに寄ったのは夜の10時過ぎてからだった。 JAZZの専門店。 郁子が札幌に戻ってくると手紙を書いたり、本を読んだり、僕との待ち合わせの時に時間調整に、好きでよく立ち寄る店だった。 僕はジャズに興味がなかったので、彼女が札幌にいるとき以外はほとんど行かない。 薄暗く、天井からスポットライトがテーブルにぽつんぽつんと光を落としている。会話は厳禁で、口を開いてもいいのは注文する時とレコードのリクエストの時だけで、マスターが客を選ぶというたいそうな店だった。それに仮に話そうとしても、喉が潰れるほどの大声張り上げなければ壁のスピーカーから噴水のようにあふれ出るピアノやサックス、ドラムスには太刀打ち出来ず、さしずめ孤独を売るジャズの店。 今夜は一人きりの人種が底をついてるのか客は3人。孤独に拍車がかかっている。それに普段は捩れるようなフリージャズの店なのに、どうした風吹き回しかチック・コリアの”Return To Forever”,宗旨替えでもしたんだろうか? テーブルに置かれたコーヒーとユラユラ煙る煙草、両手を頭の後ろで組、足を前に投げ出してみた。スピーカーから4分音符ヤ16分音符、休符やフェルマータがポロポロ床に転げ落ちるのが見える。 季節の感傷にどっぷりはまり込む。 そろそろ帰ろうかと思っていたときに隣の席の一つ向こうから尻を滑らせるように女がにじり寄ってきた。 「ねえ、煙草一本もらえない?」、大麻の葉をプリントしたTシャツにピチピチのぼろぼろジーンズ、肩から斜交いに革のカバンを提げている。少しいかれたフーテン女。あまり関りたくなかった。チラッと女に顔を向け、黙ったまま煙草を差し出す。 「サンキュ。退屈なレコードだね?今流行ってるみたいだけど、こんなの買う奴の気が知れない。そう思わない?」、店の空気が動く。客はバランスを取り戻そうと体の位置を修正する。コーヒーを落としていたマスターの腕が止まり、白いホーローのポットを持ったまま女の方をじろっと見た。女は気にする風でもなく、煙草を持った指で髪を掻き揚げ、その指をテーブルの灰皿に伸ばし自分のほうへと引き寄せる。 「学校で何度か見かけたことあるよ、ギターかついで歩いてるところ。あたしも一応籍だけはあるんだけど。最近全然行ってないけど。詰まんなくて、何か面白いことある?行ってて?」 僕らが本格的に話し出すのでは?と思ったのだろう、マスターは早速警告を出すためにカウンターから忌々しそうに出てくるところだった。 それを合図に僕はレシートをつかみ帰る決心をつける。 外に出るとタヌキ小路のアーケードはすっかり静まりかえり、駐車料金を惜しむ車が数台違法に止めてある。吐き出す息が白く見える景色になっていた。軽く背伸びをし、襟を立てて歩き出そうとしたときに、登ってきた階段から足音が聞こえてきた。 「もう帰るの?」、さっきの女だった。自分で染めたのだろう、奇妙な色合いのコートに腕を通しながら隣に立つ。 「バスもなくなるから。」 「家、どっち?」、妙になれなれしい。 「白石。平和通の、はずれ。」 「あたし車なんだ。よかったら乗せてってあげるよ。」 「俺、あんた知らないし。」 「いいジャン別に、同じ方向で、身元はあたしが知ってるんだから。とりあえず、おんなじ学校だし。」 「車どこに置いてるの?」、確かにバスよりはいい。 「それ。」 指の先は駐車代を惜しむ車の一台だった。 真っ赤なフェアレディZ。 街灯を浴びて光っていた。 「金持ちのヒッピーか?あんた。」 鍵をコートのポケットから引っ張り出し、車に向かう途中で女は振り返った。 「ねえ、足は確保できたんだからどこか行かない?」 「どこかったって、この時間飲むところしかやってないし。俺酒飲めない。それに金だってないし。」 「だいじょうぶ、あたしは金持ちのヒッピー。心配要らないって。 ポット、行ってみない?誰かいるはずだから。それに紛れ込んじゃえば何とかなるから。もう少しガツンとしたの聞きに行こう?」 僕は本当のところ、酒とロックが嫌いだった。
You can never go home The Moody Blues
sasaki

|