sasakiの日記
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2002年04月01日(月) うすずみ色の空へため息を


 なんだか妙に  惨めな気持ち
 行き交う人は  笑いさざめき
 僕はうなだれる  ただそれだけ
 
 うしろから 僕を 呼ぶ声がする
 振り向くことさえ  今は出来ずに
 僕はうなだれる  ただそれだけ

 こんなに落ち込むのは  どうしたのだろう
 夏から秋への移り雨のせいか

 閉めきった部屋の窓を開け
 馬鹿げた気ふさぎは  流し出そう


 
 「こっちは準備オーケー、いつでもいける。よかったらそっちからキューをくれ。」
 ブースの向こうで高瀬さんがトークバックで話しかける。
 「もう少し待って貰えますか?まだチューニングがしっくりこないんで。」
 さっきから二弦のピッチがどうもきまらない。
 ヘッドホーンを通して聞こえてくる自分のギターの音色はすっかり化粧され、自分の部屋の音はどこにもない。時々指でこする弦の擦過音が誇張されて耳に刺さる。
 ギターマイクが二本、それとヴォーカル用のマイクが一本、右脇にヘッドホン調整卓。唄いやすいようにと灯りが落とされていて、上からがサス一本落ちているだけのスタジオ。
 エンジニアの岩間ちゃんがアルコールでテープレコーダーのヘッドを拭いている。
 録音卓、テープレコーダー、ジャック、防音板、遮蔽扉、テープの山、譜面台、グランドピアノ、舞台、吊られた照明。
 スタジオと録音ブースのいろいろな場所で僅かな灯りでも一つひとつが輝いていた。
 こんなに色んな物が光り輝いていたとは。
 
 どれも光っている。

 音楽の格好いい訳がその時わかった。

 落ち着きの悪かったB弦がようやくあるべき音程でぴたりと止まった。

 「行ってもいいですか?」、マイクに向かって話しかける。
 同時に向こうの二人がこっちを向き、
 「じゃ録るか?どうする?
 リハーサル本番みたいな感じで録ってみるから楽にな?
 タイトル言ってから始めてくれ。」
 本番の空気がヘッドホンに流れ、脳味噌を絞る。
 「風待ち。テイクワン」
 幾分テンポが速いかもしれない。でもそんなに表情に差はないからこのままこのテンポで行こう。
 
 「君は風、テイクスリー」
 あの日、あんなに近くでみた円盤。果たしてホンモノだったんだろうか?
 みんながものすごいスピードで先に行っているのに、僕はスニーカーを買う金さえ持っていなかった。
 そして、誰に向かって腹を立てていたんだろう?

 「オーケー。終了。よかったぞ。
  あのさあ、了解とっておきたいんだけど 、このテープ本部に送ってもいいかなあ。毎月送らなければ行けないんで、新人発掘みたいなもんでさあ。」

 ダビングして貰ったテープを持って僕はまた静内に戻った。
 最後の歌を唄いに。
 
 


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