わしの職場は、面影橋近くである。都会のど真ん中にも関わらず、何十年も住み続けている人が多い。バブル期には地上げなんぞも当然あったろうに、それがどーしたとばかりに長屋のごときぎゅうぎゅう詰めの家並みも当たり前。
　なので、山の手なんだが住民は下町風な性格。わしが毎日前を通る店のご主人、何故か必ず声をかけてくれる。
　別に、わしがその店の常連というわけではない。ごくまれ、２ヶ月に１回程、サンドイッチやおにぎりを買うくらいだ。あ、そうだ、店の前に置いてある自販機が１１０円なんで、比較的ひんぱんに買うけど。店の中からは見えない位置だ……と思うし。通りから見える所に時計がかけてあるんで、朝は必ず見るかな。
　でも、毎夕、親しげに話しかけてくれるほどのことではないだろう。うーむ。もしかして、１０年以上毎日、ほぼ同じ時間に同じように時計見ながら(つまり、店の中に顔向けながら)通っていくもんで、顔を覚えられたかな。買う時は買う時で、結構長時間悩んでたりするもんな。
　しかし、声かけてくれるのは嬉しいが、そういうのに慣れてないもんで、とまどってしまうわし……。いつも生返事ですんません。

新瀬