WELLA
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1998年06月17日(水) May Week

前回も触れたが、今週はMay Weekである。なぜか6月にMayなのだが、この期間は期末試験を終えた打ち上げで、どんちゃん騒ぎをするという。卒業式の時期でもある。私たちがケンブリッジについた頃からすでに試験が始まっていたので、相当長い試験期間である。各カレッジはその期間「部外者お断り」にし、学生たちは皆深刻な表情で、原っぱやベンチで本を広げている。週末はさすがに遊ぶらしく、金曜土曜の夜は街に若者があふれるが、それでも朝から図書館にこもって勉強している学生もいる。
それが明けて思い切り羽目を外すのがMay Weekというわけである。学生たちはそれぞれ男性はタキシードに蝶ネクタイ、女性はフォーマルドレスと、思い思いに着飾り、パーティーやコンサート、劇の上映などに明け暮れる。各カレッジには大きな白いテントが張られ、大舞踏会が行われる。外から覗いてみたところ、ドラムセットが運び込まれていたので、ワルツやロンドといった古典的なものではないらしい。
ともかくこの時期、夜遅くまで咆哮するものあり、着飾ったまま朝帰りするものあり、道路は大渋滞となり、いつもの静かな大学の街とはかなり趣が異なる。

ケンブリッジの学生たちは押し並べて地味である。大体がカレッジの中に住んでいるせいか、トレーナーとジーンズに運動靴やサンダルといったいでたちで街中を闊歩している。女子学生はおよそ45%ほどだというが、彼女たちについても同様で、お化粧も濃くなく、ピアスや指輪でアクセントをつけている程度である。
ところがこれがMay Weekに入ったとたんに激変する。背中が大きく開いたドレスや、裾に大胆なスリットの入ったドレスを身に纏い、長い髪は豊かに結い上げ、顔は色もあでやかにメイクアップされている。高価なアクセサリー類は身につけていないが、それを補うあふれる若さで輝かんばかりである。
男子学生についても同様で、ぼさぼさの頭を撫でつけ、タキシードに身を包むとどこから見ても若き英国紳士である。さらに本格的な燕尾服に白蝶タイや、スコットランドの民族衣装のキルト姿の学生もいる。男女比率がおよそ同じなので、歩いているのはカップルが多く、堂々としたエスコートぶりである。ケンブリッジのような大学はもともと良家の子女が多いのだろう。フォーマルウェアを着慣れている様子なのではあるが、着飾ったお互いの姿を写真で撮り合ってはしゃいでいる姿は実に微笑ましい。
昨夜はどこかで仮面舞踏会だったらしく、手に手に仮面を持って集まってくる様子は、やはりおとぎ話の世界である。

ところでこちらの人々は老いも若きもLet it beというか、「そのまんま」というのが多いように思う。電化製品が壊れたらそのまんま、ドアが壊れたらそのまんま。不便だ、などといいながらなんとなくそれで使いつづけてしまう。あの有能な秘書ペニーさんですらそうなのである。電子レンジが壊れたといってはそのまんま、オーブンが壊れたといってはそのまんま、ラジカセはCDプレイヤーが壊れたまんまである。
私が以前ホームステイをしていた家は、冬ドアの隙間から冷たい風が入るからといって、ドアの下の部分や隙間に新聞紙を何重にも細く折ったものを挟んでいた。出入りするたびにそれを外し、いちいちはめ直すのである。それだってもう少しやりようがあるだろうに、と思うのだが、それで済ませられればいいようなのである。なんとなくイギリス的な合理性がそこはかとなく垣間見える。「だってそうなんだもん」というか「構わない」といった感じである。変な見栄がない。
洋服についても同様で細かいことには構わない。たとえば下着の線が見えたり、タンクトップからブラジャーの肩紐が堂々と覗いていたり、もっと暑くなると、遠くからでもすぐそれとわかるノーブラで歩いていたりするのも平気である。考えてみれば下着をつけているのだから、下着の線があって当然だし、タンクトップを着ているからといって、無理に肩紐が見えないような特別な形の下着を着る必要はない。暑くてタンクトップを着るのだから、他に何も着なくてもかまわないわけである。

May Weekのドレスアップではさすがに下着が見えたりすることはないのだが、足元は普通のサンダルだったり、タキシードを着た若者が手に革靴をぶら下げて、運動靴で急ぎ足だったりする。May Week 初日からあいにくの雨降りとなったのだが、フォーマル用のコートの用意がないのか、カーディガンを着ていたり、普段着のコートを無造作に羽織っていたりする。ドレスの裾が雨でぬれても、「だって雨なんだもん」という感じで構わず歩いている。
夜を徹っして遊んでいたのか、朝の比較的早い時間にタキシードの襟元をはだけ、ふらふらとコーラを片手に歩いていたり、ピンクのロングドレスに黒のごつい運動靴をはいて家路を急いでいる姿も見受けられる。

自然に恵まれた環境でおおらかに青春を謳歌している彼らを見るにつけ、ただただ「うらやましい」と思うばかりである。


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